「ロナウドはどこの国の選手?」とクイズが流れる…海外からの「怪しい不在着信」に掛け直してはいけない理由
プレジデントオンライン / 2024年8月5日 9時15分
※本稿は、三上洋『深掘り! IT時事ニュース 読み方・基本が面白いほどよくわかる本』(技術評論社)の一部を再編集したものです。
■「覚えのない海外からの不在着信」に潜む罠
あなたのスマホに知らない海外の電話番号から着信が来たことがあるでしょうか?
この着信は「国際ワン切り詐欺」と呼ばれるもので、過去に繰り返し発生しています。ワン切りとは電話を1回(ワンコール)だけ鳴らして切る、もしくは一瞬だけ電話をかけてすぐに切る行為のこと。携帯電話の通話料金が高い時代に使われていた方法ですが、それが国際電話経由で行われています。
今までの事件をまとめたのが図表1で、古くは2007年頃のガラケーの時代から発生しています。
![【図表1】過去の国際ワン切り詐欺事件](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/a/1200wm/img_1a18ab8864eef373e6f96a0ec01560e7577107.jpg)
国際電話にかけさせる詐欺は1990年代後半から存在しており、このときはインターネットのダイヤルアップ接続(電話経由でインターネットに接続するしくみ)のプログラムを書き換え、海外に接続させる不正プログラムでした。
■災害を悪用した「国際ワン切り詐欺」
国際ワン切り詐欺が大きな話題となったのは2017年6月のことで、芸能人にも着信があったことでテレビでも取り上げられました。間違って折り返してしまい、数万円の国際電話料金を支払うことになったという被害者インタビューも、テレビで流れました。
もっとも悪質だったのは、2019年9月の台風災害があったときの着信です。9月5日に関東・東北に上陸し大きな被害を出した台風15号と前後して、西アフリカのモーリタニアから多数の着信があったのです。
折り返すと日本語の自動音声で「あなたの家族と友人が待っています。会話したければこのまま待機してください」と流れて待機させるものでした。災害のタイミングを狙って、長時間の国際電話をかけさせる悪質な手口です。
後述しますが、LINEメッセージを使った当選詐欺と組み合わせた手口もあります。このように、国際ワン切り詐欺は古くからある詐欺で、手を変え品を変え繰り返し発生しています。
■掛け直すと「クイズ」が始まることも
国際ワン切り詐欺の概要をまとめたのが図表2です。海外からの着信はワン切り(呼び出し音が1回のみで切れる)、もしくは呼び出し音が鳴らずに着信履歴だけが残る、極端に短いものが主流です。
![【図表2】海外からの着信「国際ワン切り詐欺」](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/2/1200wm/img_12e91e4f049f0561b34b40ff4435e2c3481693.jpg)
もし間違って折り返した場合、多くの場合は自動音声のメッセージが流れます。英語など他の言語のこともありますが、最近は日本語の音声もあります。前述した2019年9月の台風上陸での着信もそうでしたし、2021年1月の事件では自動音声で日本語のクイズが流れました。
クイズは女性の日本語自動音声で「五つのクイズに答えてください。まずは最初のクイズです。ロナウドはどこの国の選手でしょうか? 1:ブラジル 2:ポルトガル」というものでした。クイズのたびに回答時間としてBGMが流れて30秒ほど待つ必要があります。通話時間を長引かせるためのしかけでしょう。
発信元の国はアフリカやオセアニアなどの小さな国が多くなっています。ガイアナ、中央アフリカ、ギニア、モーリタニア、パプアニューギニアなどからの発信です。日本とはあまり関わりのない国が多く、過去に植民地だったところが多い印象です。
ちなみに間違って折り返すと、その後に何度もワン切り着信が続くことがあります。着信があった電話番号をリスト化して、その番号を狙っていると思われます。
■接続料のキックバックを狙っている
犯行グループの目的は、国際電話料金の一部である「接続料」のキックバックを狙ったものだと推測しています。筆者がインタビューした国際電話契約に詳しい関係者によれば「現地の国際電話会社が料金の一部を契約者(この場合は犯行グループ)にキックバックするしくみが存在している」とのこと。
お金の流れをまとめたのが図表3です。
![【図表3】国際ワン切り詐欺の手口想像図](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/d/1200wm/img_8d5c79c400a11fd02ae9117150524cfd423026.jpg)
私たちがスマホなどで海外に電話をかけた場合、日本の携帯電話会社に国際電話料金を支払います。携帯電話会社は、その料金の一部を「接続料」として現地の国際電話会社に支払っています。つまり、電話を受ける現地の国際電話会社側にも料金が入っているのです。
ポイントはこの現地の国際電話会社です。国際電話会社が接続料の一部を契約者(犯行グループ)にキックバックするしくみがあると思われます。前述の関係者によれば「料金の一部をキックバックする契約があり、それを仲介する国際ブローカーが存在している。犯行グループはその契約でお金を稼いでいる」と答えています。これは「着信インセンティブ契約」と呼ばれるもので、一部の国の国際電話会社にあると思われる契約です。
この話が本当だという保証はありませんが、国際ワン切り詐欺の多くが折り返し通話を引き伸ばそうとしていることから、その通りだと考えていいでしょう。
犯行グループが稼げるお金は、国際電話料金の一部の接続料のさらに一部のキックバックであり、ごくわずかな金額です。しかし自動音声と自動発信の単純なしかけですから、自動化は簡単にできるでしょう。自動システムでチャリンチャリンと小銭を稼ぐしくみだと考えられます。
■LINEを使った「当選おめでとう」詐欺
国際ワン切り詐欺と他の詐欺を組み合わせたパターンもあります。2021年1月に起きたファストフードのキャンペーンを騙る事件です(図表4)。
![【図表4】LINEメッセージから国際電話詐欺へ誘導するパターン](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/5/1200wm/img_c53ffd325d2de1d4bfecf5c06dc66f02523053.jpg)
このときはLINEの友人からキャンペーンメッセージが転送されてきて、クリックすると偽サイトへジャンプ。偽サイトでは「当選おめでとう」と表示され、景品を受け取るには以下に電話をかけてくださいと表示され、携帯電話会社のアイコンが並んでいました。
携帯電話会社ごとにかける相手の国は異なっており、筆者が実験したNTTドコモではチュニジアでした。取材のために電話をかけてみたところ、前述の日本語自動音声によるクイズが流れてきました。チュニジアあての通話料金は30秒あたり199円ですからかなり高額です。クイズにまともに答えると2000円以上になると思われます。
この手口ではLINEを利用したものでしたが、WhatsApp(ワッツアップ)を使ったまったく同じしかけも見つかっています。
WhatsAppは英語圏で一般的なメッセンジャーアプリです。犯行グループは、日本だけではなく英語圏の国も狙う国際的なグループと考えていいでしょう。
■折り返さない・無視するのが鉄則
国際ワン切り詐欺は繰り返し起きており、携帯電話会社はそのたびに注意喚起を出しています。携帯電話会社側で対策をしてほしいものですが、国際電話自体を止めることはできず、また詐欺かどうかも判断が難しいため、シャットアウトは困難でしょう。
![三上洋『深掘り! IT時事ニュース 読み方・基本が面白いほどよくわかる本』(技術評論社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/9/1200wm/img_f90e0373612c1c05ba2297990c17f615270029.jpg)
この国際ワン切り詐欺は、日本での摘発例はありません。国際捜査が必要ですが、被害額があまり大きくないためか海外でも摘発された例はあまりないようです。そのため今後も同様の被害が出る可能性があります。
対策は単純で、ワン切りには一切折り返さないこと。友人がいる国であっても掛けてきた番号に折り返してはいけません。
合わせて知識のない人向けには、国際電話への発信を停止する方法があります。各携帯電話会社で設定できるもので、国際電話をかけることができないようにすることが可能です。
高齢の両親や祖父母の被害を防ぐために、国際電話を停止したほうが無難かもしれません。
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ITジャーナリスト
ITセキュリティやスマートフォン業界に精通するITジャーナリスト。守備範囲はウイルスからネット炎上まで多岐にわたる。
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(ITジャーナリスト 三上 洋)
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