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もし地球に隕石が迫ってきたらどうするか…NASAが「人類で初めて成功させた実験」とその結果

プレジデントオンライン / 2024年8月8日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/3000ad

「宇宙人」の存在や地球に迫る隕石はフィクションとは限らない。NASAは小惑星の軌道を衝撃を与えることで変えられるかどうか、という実験を行い、得られたデータを解析した。その結果はどうだったのか。JAXA宇宙教育センター長を務めていた2022年9月、実験前にウェビナーでの詳細の配信を企画した北川智子さんの著書『宇宙はなぜ面白いのか』(ポプラ新書)より、一部を紹介する――。

■太陽のまわりを回る8つの惑星

宇宙の遠い遠い場所には、完全に水に覆われた惑星もあるかもしれないという観測結果が発表されています。

みなさんにはおなじみの「水金地火木土天海」の太陽系は、太陽を中心に図が描かれます。太陽のように自ら光を出す星を恒星、地球のように恒星のまわりを周回する星を惑星と呼びます。惑星たちは、太陽のまわりを(正確には、太陽系の「質量の中心」となるところを)周期的にめぐる、いわゆる公転をしています。

昔、学校で冥王星も惑星のひとつと習ったという覚えのある方もいらっしゃるかと思いますが、2006年に国際天文学連合で惑星の定義が決められ、冥王星は惑星ではなく、準惑星のカテゴリーに入ることになりました。準惑星よりも小さい星は小惑星と呼ばれ、その数は数百万にのぼります。火星と木星の間には、小惑星帯という小さな天体がたくさん回っているゾーンがあります。

■「第2の地球」を探査する

地球が太陽系の中にあるのはご存じの通りですが、太陽系の外にも、太陽のような星を周回する惑星が存在し、それらは太陽系外惑星、あるいは短くして系外惑星と呼ばれています。

系外惑星は、20世紀初頭からその存在は示されていたものの、1992年に、はじめて科学的な観測によって確認されました。2024年6月1日時点では、5741個もの系外惑星が確認されています。

多くの系外惑星があるのならば、どこかに生物がいてもいいのでは? という疑問が出てきます。系外惑星が発見され始めたのは30年ほど前のことですが、地球以外の生命への興味は、古くは紀元前5世紀のギリシャの記録にも残っているほどです。

日本の国立天文台も、ハワイのすばる望遠鏡に観測装置を設け、第二の地球を発見しようと観測を続けています。太陽系外惑星探査プロジェクト室のウェブサイトには「宇宙で私たち人類は特別な存在なのか、それとも、生命が育まれているような第2の地球は存在するか、という問いに答えたい」とあり、2005年に発足して以来、観測を続けています。系外惑星、特に地球に似た星の発見と地球外生命の関連性は強いのです。

■260万人のボランティアが「捜索活動」

それより前には、1984年に立ち上げられたSETIというプログラムがありました。SETIとはSearch for Extraterrestrial Intelligenceの頭文字で、1990年代初頭にその活動がピークを迎えました。電波望遠鏡で、自然には存在しない、宇宙から送られてきたであろう微弱な無線信号を捉えようという試みでした。

しかしアメリカ議会の反対にあい、NASAからの資金提供が急になくなるという事態になりました。そんな中、1999年にカリフォルニアのバークレーでSETI@homeという、ボランティアによる電波望遠鏡のデータ解析が始まりました。

もともとSETIは、地球外知的生命体から発信された電波を探し出そうとしていたわけですが、望遠鏡での観測結果は膨大です。そこで、SETI@homeはデータを小分けしてボランティアに配信し、パソコンのスクリーンセーバーとして、パソコンを使っていない時間に解析を進めてもらうことにしました。

SETI@homeの発足から数カ月で260万人のボランティアが世界中から集まりました。宇宙人からのシグナルを受け取るのは、自分のパソコンかもしれないと、各国から参加者が集まったわけです。

■地球外生命がいるかもしれない惑星

数百万台のパソコンの処理能力を使い、毎秒およそ25兆回の計算ができるのですから、結果として巨大な仮想コンピュータができあがっていたと言えます。2020年の3月末に終了するまで、20年ほどデータの解析が続いたのですが、地球外生命の発見には至りませんでした。

2024年3月に英国ケンブリッジ大学から、地球外生命体の可能性を示唆するデータが発表されました。半径が地球の2倍ある、73光年も離れたところにある系外惑星に、蒸気、メタン、二酸化炭素を大気に含んでいるものがあるというデータが出たのです。

表面の温度が高ければ、水ではなく蒸気としてしか存在しないのではないか、という指摘もなされてはいます。もちろん、そのような惑星に生命が存在できるかどうかはまた別問題でもあります。でも、水がある惑星には地球外生命がいるかもしれないという、いわゆる宇宙人発見への期待が大きくなっていくのです。

■「隕石の衝突」は珍しいことではない

さて、これまで触れてきていなかった宇宙への眼差しに、隕石衝突への備えというものがあります。

映画や小説などでもなじみがあるかと思いますが、地球に隕石が落ちてくるという、いわば空想の世界に留めておきたい類のものです。しかし実際には、太陽系では隕石の衝突はよく起こっており、一般には「天体衝突」と言われます。

地球や月にはクレーターがありますが、クレーターができた原因のひとつは隕石の衝突だと言われています。天体と天体がぶつかることは頻繁に起こっているのです。現に、恐竜を絶滅に陥れたのも直径10キロメートルを超える大きな隕石の衝突であったという説が有力とされています。

彗星や小惑星など、地球に近づいてくる軌道をもつ天体を総称して「地球近傍(きんぼう)天体(NEO:Near-Earth Object)」と呼んでいます。それらを常に観測しておくことが、隕石衝突を予知することに繫がります。

しかし、もし恐竜を絶滅させるくらいの環境の変化をもたらす隕石が地球に来るとわかったら……事前に、迫ってくる隕石をはねのけたり、何かしらの工夫をして危険を回避できないかという議論に繫がります。

■「宇宙機でわざと小惑星にぶつかってみよう」

NASAは、隕石の軌道を何らかの衝撃で変えるというアイデアを実際に実験しました。「二重小惑星進路変更実験(DART:Double Asteroid Redirection Test)」という難しそうな名前ですが、コアになるアイデアはシンプルです。

小惑星とそのまわりを回るもうひとつの小惑星をターゲットとし、宇宙機がそれらに近づき、まわりを回っているほうの小惑星に意図的にぶつかることで、その衝撃によってどのように軌道が変わるかを観察するというものです。

小惑星の名前はディディモス(Didymos)。まわりを回るほうはディモルフォス(Dimorphos)という名前ですが、初期にはディディムーンとニックネームがついていたように、地球とそれを回る月のような星があったと考えると、覚えやすいかもしれません。

2022年9月、実験の様子はインターネット上でライブ配信されました。ディモルフォスにどんどん近づく宇宙機から刻々とディモルフォスの表面の映像が届きました。

米国フロリダ州のケネディ宇宙センター
写真=iStock.com/LaserLens
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LaserLens

■天体の運動を変えた人類初の実験に

近づいていきながら、こんなふうに隕石が地球にやってきたらと、少し怖い気持ちにもなりつつ、宇宙機が最後の最後までデータを地球に送っていたので、ディモルフォスに飛び込む直前まで、近づく表面の様子がライブでも見えていました。

衝突する場面に立ち会うのは、今考えると、SLIMの着陸を見守った時やH3ロケットの打ち上げを見た時とは正反対なくらい、現実を見守ったのか確かでないような、全く違う種類の感覚が身を覆っていました。

NASAは、この衝突でディモルフォスの公転周期を73秒以上変えることができれば実験は成功だと発表していました。実際には32分ほど縮んだとのこと。人類が初めて天体の運動を衝突により変えた実験となりました。

「二重小惑星進路変更実験(DART)」のイメージ図
「二重小惑星進路変更実験(DART)」のイメージ図(JPL/NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben)

ただ、手放しには喜べません。このように公転周期が大きく変わったということは、実験前の予測を驚くほど上回る事態です。人類が予測できることには限界があるということを再認識する機会にもなりました。

■人類が手をとり合って議論すべき問題

隕石が地球にぶつかるような場面を回避することは「プラネタリー・ディフェンス(地球防衛)」のひとつですから、このような事態には入念な備えが必要です。天体衝突は起こるものなので、その時が来る前に実験をしたり、事前に現実的で最善の方法を議論しておいたり、そのために必要な協力体制を作っておかなくてはなりません。

宇宙での天体衝突に地球がかかわってくる場合は、地球に住む私たちがどのように協力するかをある程度決めておくことが要になりますから、隕石を観察する天文関係者、メカニズムを考える科学者や実験のための宇宙機を作るエンジニアだけが考える問題ではありません。

本書では国際的な宇宙法の整備が必要だという点に触れていますが、プラネタリー・ディフェンスも、人類が手を取り合ってその賛否も含めて指針を話し合う時に来ていることは間違いありません。

■はやぶさ2の「新たな旅」がスタート

プラネタリー・ディフェンスは、サンプルリターンを成し遂げたJAXAのはやぶさ2とNASAのオサイリス・レックスが臨む、次のミッションの目的としても掲げられています。

はやぶさ2は、サンプルが入ったカプセルを地球に届けた後、探査機の状態が良好であると判断され、2つの小惑星を目指し、新たな旅をスタートさせました。「拡張ミッション」とされる新たなミッションの愛称は、「はやぶさ2#(シャープ/SHARP:Small Hazardous Asteroid Reconnaissance Probe)」で、別の小惑星を探索することを目的の一つにしています。

どんな小惑星が選ばれたのでしょう。地球に衝突すると大きな被害を引き起こす可能性のある数十メートル級の小惑星です。万が一、そのようなサイズの小惑星が地球に飛んできた時に備えて、似た性質を持つ小惑星を探査し、科学的知見を広げておくことにしたのです。

■2029年に接近してくる小惑星も調査へ

オサイリス・レックスも、小惑星べヌーからのサンプルを地球に届けた後、探査機に余力があると判断され、次なるミッションとしてオサイリス・エイペックス(OSIRIS-APEX)が発表されました。小惑星アポフィスの探査をします。

北川智子『宇宙はなぜ面白いのか』(ポプラ新書)
北川智子『宇宙はなぜ面白いのか』(ポプラ新書)

この小惑星は、2029年に地球に接近すると予測されています。地球に衝突はしないものの、この小惑星をターゲットにすることで、プラネタリー・ディフェンスの知見を広げる好機と捉えたのです。

地球に近づくアポフィスは、地球の重力圏に入り、スウィング・バイのように、地球の近くを通ることで、その方向が変わる見込みです。アポフィスの上空を周回しながら、その時に起こる変化を観測し、表面の砂や小石を調べる計画です。

今後、地球にダメージを与えかねない小惑星が接近してきたらどうするのか。プラネタリー・ディフェンスの方策を練るための科学的な調査が始まっています。

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北川 智子(きたがわ・ともこ)
ライター(宇宙・数学・歴史)
福岡県出身。カナダのブリティッシュコロンビア大学で数学と生命科学を学び、プリンストン大学で歴史学の博士号を取得。ハーバード大学で歴史を教えた後、ケンブリッジ大学ウォルフソンカレッジ、カリフォルニア大学バークレー校、ドイツのマックス・プランク数学研究所、オックスフォード大学ペンブルックカレッジと数学研究所で数学史の研究を進め、南アフリカのプレトリア大学にも赴任。2022年にJAXA宇宙教育センター長に就任し、国際的な場で地球規模の課題に立ち向かうことのできる人材を育むことを目標として活動。2024年よりJAXA東京事務所にて勤務。著書に『ハーバード白熱日本史教室』『ケンブリッジ数学史探偵』など。『The Secret Lives of Numbers』(共著)はペンギン・ランダムハウス社から刊行され、13カ国語への翻訳が決まっている。

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(ライター(宇宙・数学・歴史) 北川 智子)

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