武士道に魅せられる「外国人剣士」が増加中…29カ国102人に聞いた「剣道が愛される3つの理由」
プレジデントオンライン / 2024年8月5日 9時15分
■102人の「外国人剣士」にアンケート
2024年7月4日から7日まで、イタリア・ミラノにて第19回世界剣道選手権大会が開催された。
今回は、男子242名、女子203名がエントリー、参加国は61カ国と過去最高だった。日本では、少子化の影響などから剣道人口が減少しているが、世界では増加傾向だ。
今回、ヨーロッパ、アジア、オセアニア、アメリカ大陸、アフリカ大陸など29カ国102名の剣士たちのアンケート回答をもとに、なぜ剣道を始め、続け、どんな魅力を感じているのかをまとめた。
なお、アンケートは自由記述形式。今回の世界大会に出場した選手を中心に回答してもらった。
■『ワンピース』の剣豪ゾロに感化
剣道を始めた理由 第3位:日本のアニメや映画、サムライへの憧れ
剣道を始めた理由として多いのが、日本のアニメや映画、サムライ文化への憧れだ。名前が挙がったのは『るろうに剣心』『BLEACH』『ONE PIECE』など。
日本のサブカルチャーだけではなく、「剣」や「剣道着・防具」への憧れもあるようだ。
日本の映画やアニメをたくさん観ていて、特に剣の戦いがあるものが大好きでした。両親の友人が剣道を始め、とてもかっこよく見えたので、自分も挑戦してみることにしました。(チェコ共和国、20代、四段)
私は剣を使った戦いのファンで、日本文化に特別な感情を持っていました。興味を持ったきっかけは、主にアニメやサムライ映画です。(チリ共和国、30代、五段)
日本のアニメ(『るろうに剣心』や『BLEACH』など)が大好きで、剣道をしていた友人が勧めてくれました。(イギリス、40代、四段)
『ワンピース』をたくさん観て、ゾロに感化されたからです。(オーストリア、10代、一級)
小さい頃からサムライの哲学が大好きで、武道や剣にも魅了されていました。パンデミックの間、人生の中で非常に困難な時期を経験し、幸運なことにコロンビアに剣道の道場があることを発見しました。それが私の人生を変えることとなり、人間として成長する手助けとなりました。(コロンビア、30代、二級)
■父と兄に影響され、柔道家の妹も剣道家に
剣道を始めた理由 第2位:友人や家族の勧め
「始めた理由」として意外に多かったのが「友人や家族の勧め」だ。周囲に剣道経験者がいるということになる。これは各国で剣道普及が進んでいる証にも感じる。
友達が一緒に剣道をしようと勧めてくれた。10代の頃から日本の文化(音楽、文学、アニメ)にずっと興味があったけど、その時は剣道については何も知りませんでした。ありがたいことに、剣道の何かが響いて、もう練習をやめられないくらい好きになりました。(アイルランド、30代、二段)
友達が私を道場に連れて行ってくれて、気に入りました。(メキシコ、30代、三段)
母が6歳の時に私を道場に連れて行ってくれて、それ以来ずっと続けています。(ベルギー、10代、二段)
父と兄が剣道を練習していたので、私も始めました。私は柔道家でしたが、剣道も始めることに決めました。(イタリア、30代、五段)
■「精神的な強さを教えてくれた」
剣道を始めた理由 第1位:武道や剣道、日本文化への関心
回答数が最も多かったのが、「武道への関心」「剣道への関心」だった。「日本文化への関心」は第3位の「アニメや映画への関心」も含まれるかもしれないが、どちらかというと精神性に魅力を感じるという回答だった。
剣道の背後にある哲学と武士道の概念に魅了されています。剣道は私に、物理的な強さを超えたものを見つめるよう、促してくれました。剣道は精神的な強さを教えてくれ、どんな困難があっても人生を前進し続けることを学びました。(フィリピン、40代、三段)
10代の頃からいくつかの武道を試してみましたが、どれも私を満たしてくれませんでした。私には、規律を守り、決して諦めず、物事を感じ取り、集中力を高め、散漫な注意力や記憶力の不足を改善する武道が必要でした。たまたま自分の街で剣道を見つけ、ずっと続けていきたいと思っています。(コロンビア、30代、四段)
剣道の哲学と、目的(人間形成)が大好きです。(ドミニカ共和国、40代、四段)
■オーストリアの小さな町にも剣道クラブ
私はずっと日本文化に魅了されてきました。本物の刀を見たとき、日本の剣術に関わりたいと強く思いました。幸運にも、自分の小さな町にも剣道クラブがあって、登録しました。(オーストリア、20代、一級)
剣道の哲学に興味がありました。異なる属性や年齢の人々と行える、非常に興味深い鍛錬だと思います。(フィンランド、30代、六段)
サブカルチャーを含む日本文化や武道・サムライへの関心などから剣道を始めた人々は、どのようなモチベーションを持って剣道を続けるのだろう。「剣道が好きだから」「楽しいから」という回答も非常に多かったのだが、好きな理由を細かく記載してくれた回答をもとに、「続ける理由と魅力」をご紹介したい。
■年齢を重ねるほどに強くなるのがかっこいい
剣道を続ける理由・魅力 第3位:競技としての魅力、生涯剣道
剣道は「武道」だが、同時にスポーツとしての側面も多分に持つ。試合に出場する若い世代を中心に「競技としての魅力」、そして「生涯剣道」の特性が多く挙げられた。
剣道の特別な特徴は、どんな歳でも続けられることだと思います。他のスポーツだと、いつか引退するのと反対に、剣道の先生方が年々強くなっていくのはとてもかっこいいです。(ドイツ、20代、初段)
歳をとってもできること、礼儀作法が身につくこと、性別や体格で向き不向きが決まらないこと、精神力が鍛えられること、怪我が少ないこと、そしてなにより世界中の色々な人に出会えて、友達がたくさんできることです。(オーストリア、10代、二段)
年を重ねましたが、今の自分の剣道が一番だと思います。もしかしたら動きは遅いかもしれませんが、それでも今のほうが上達しています。(オランダ、40代、六段)
剣道を始める前は、オリンピック競技のフェンシングをしていました。剣道は似ている部分もありながら、違う点もあって面白いと感じます。(イスラエル、20代、初段)
剣道は私の人生、私自身の一部です。毎回稽古に参加するのが楽しいし、前回よりも良くなろうと努力しています。(アイルランド、40代、四段)
■国境を越え、実力者の話を聞きに行く
前の練習よりも上手くなろうと心がけることはどのスポーツにも共通しているが、より精神面にフォーカスしているのが剣道の特徴かもしれない。あるフランス人女性は「好きな言葉は『昨日の我に、今日は勝つべし(「柳生新陰流」の教え)』。私が通う道場に掲げられています」と語った。
剣道を続ける理由・魅力 第2位:国境を越えた友達、コミュニティ
日本にはない、海外剣道独自の特徴として「国際交流」が挙げられる。試合回数も、高段者から学ぶ機会も、海外は日本と比較して格段に少ない。そのため、大陸間の移動が盛んだ。
どこかの国で日本の八段の先生のセミナーが開催される場合は、周辺国から剣士たちが集まる。また、各国主催の試合にも海外剣士たちは熱心に参加する。出稽古も盛んだ。
剣道を16年前に始めてから、私の人生は完全に変わりました。シンガポールや海外でたくさんの友人を作ることができました。(シンガポール、30代、五段)
剣道のない人生は考えられない。友達のほとんどは、剣道を通じて知り合った。時間があるときは稽古しているし、バケーションにも防具を持って剣道イベントに参加している。(アイルランド、30代、二段)
■「世界のどこでもいつでも温かく迎えてもらえる」
剣道のコミュニティが大好きです。世界のどこにいても、いつでも温かく迎えてもらえる。素晴らしいです。(オーストリア、20代)
自分の殻を破り、新しい友人を作り、世界中を旅し、上達していける点。(リトアニア、10代)
高校時代、日本に留学した時に部活で剣道を始めました。仲間と剣道するのが楽しいから続けています。(ドイツ、20代、初段)
筆者は5年ほどオランダに在住し、ヨーロッパ剣道に関わってきたが、ヨーロッパ最大の試合「欧州剣道選手権大会」には約40カ国が参加。そのほとんどが英語を話し、試合が終わると、お互い挨拶し握手やハグを交わす。
あるベルギー剣士の話によると、数十年前まではこんなに英語を話し交流する光景はなかったそうだ。ソーシャルメディアの発達などにより、人々がつながり、交流が深まっていったという。
■「忍耐力と意志の強さを息子に見せたい」
剣道を続ける理由・魅力 第1位:自己鍛錬・成長のため
剣道を続ける理由として最も多かったのが「自己鍛錬・成長のため」だった。10代や20代など、若い世代からもこの回答は多く寄せられた。
自分の魂にとって重要だと感じます。精神面を深めることができる。(イタリア、20代、二段)
剣道が私を身体的にも精神的にも強化し、挑戦させてくれる点が好きです。友人たちと一緒に稽古をすることも本当に楽しんでいます。(オーストリア、10代)
私はいくつになっても、剣道の稽古をやめることはないと思います。これが私が剣道を愛する理由です。どれだけ達成しても、常に学ぶことがあります。剣道を通じて世界を広く見ることができ、多くの友人を作り、さまざまな先生から学ぶことができました。(フィリピン、40代、三段)
剣道は絶え間ない挑戦。私にとってかけがえのないものです。剣道を通して息子に忍耐力と意志の強さを見本として見せたいと思います。(オランダ、30代、四段)
身体的にも精神的にも成長するためです。剣道での学びを私生活に簡単に活かすことができます。例えば、ストレスや困難な状況でも冷静で落ち着いた心を保つことが挙げられます。(アイルランド、40代、初段)
■日本人が海外の剣道から学べること
オランダ人からの回答で「剣道を通して息子に忍耐力と意志の強さを見本として見せたいと思います」とあったのが印象的だった。オランダ人は、どちらかというと自由な発想や子どもの意志の尊重に比重を置いているように感じる。誰かに強制された「我慢」ではなく、自分自身のために「耐え忍ぶこと」「精神面を鍛えること」は、他国から見ても価値があるものなのではないだろうか。
毎年2月に、フランスで大きな剣道大会がある。フランスの周辺国だけではなく、日本の大学生も参加する。その大会に参加した学生が「卒業したらもう剣道をやめようと思ったが、海外剣士の純粋な心や剣道を楽しむ姿を見て、もう一度剣道に向き合ってみようと思った」と語った。その学生はずっと強豪校で剣道を続けてきた選手だった。
今回のアンケートの回答結果を読むと、剣道への愛情やコミュニティへの強い帰属意識、そして自己鍛錬や自己向上への真摯な姿勢が見てとれた。なぜ武道を学ぶのか?なぜ、剣道をするのか? その問いに、海外剣士たちは真剣に向き合っているように感じる。
日本を飛び出して、世界に広まりつつあるKENDO。競技的な面白さだけではなく、日本文化としての魅力も大きく、世界の人々に受け入れられている。いま一度、日本人もその魅力について認識し、向き合っていく時ではないだろうか。
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ライター
明治大学卒業後、IT企業や楽天株式会社を経て独立。Webサイト構築やマーケティング業務に従事。2017年からはオランダに移住しオランダ企業や海外剣道、日本の武道ツーリズム取材などを開始。剣道歴25年、五段。
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(ライター 佐藤 まり子)
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