管理費+修繕積立金で月10万円の悪夢…このまま古いマンションに住み続けるか買い換えるか判断の最終期限
プレジデントオンライン / 2024年8月9日 8時15分
■築50年以上でも3億円台で取引されている物件も
マンションは築年数が長くなるほど、建物の傷みが目立つようになるのは仕方のないことではある。しかし、定期的に大規模修繕を行って、日常的な維持管理が徹底していれば、老朽化のスピードを抑制、新築時に近い状態を長く維持できるようになる。数は少ないが、そんな例もある。
日本のヴィンテージマンションの代名詞ともいわれる「広尾ガーデンヒルズ」は1987年に全体竣工(しゅんこう)を迎えたが、住棟によっては1983年竣工もあって、築40年以上が経過している。
それでも、計画的に大規模修繕が実施され、維持管理も充実しているので、外観に傷みはほとんどみられず、植栽なども適切に管理され、快適な住環境が維持されている。そのため、分譲時価格より高い価格、2億円、3億円で取引される住戸があり、賃貸化した住戸のなかには、月額賃料が100万円以上の物件も少なくない。
また、三井不動産の最高級ブランドであるパークマンションの先駆けである「三田綱町パークマンション」は1971年の竣工ながら、現在も純白の美しい外観が維持され、分譲時価格を上回る2億円台、3億円台などで取引されている。
■所有者の多くが年金生活の高齢者に
しかし、こうしたヴィンテージ化したマンションは極めて稀なケース。多くは、経過年数とともに、建物、居住者双方の「ふたつの高齢化」が進行して、管理が行き届かず、計画的な修繕も行えず、居住性や資産価値が低下してしまうことなる。
その最大の要因が、所有者、居住者の高齢化にあるのは間違いない。
国土交通省では、5年に1度、全国のマンションを対象に大規模な調査を実施しているが、その最新版である「令和5年度マンション総合調査」によると、図表1にあるように、築40年が経過した1984年以前竣工のマンションでは、世帯主が70歳以上とする割合が55.9%に達している。築30年から40年のマンションでは60歳代以上が69.0%とほぼ7割に達している。
多くの人がリタイアして年金生活に入っているわけだ。むろん、年金生活者でも多くの資産を持ち、ゆとりのある生活を送っている人もいるだろうが、そうでない人も多いのではないだろうか。
■管理費と修繕積立金で月10万円のマンションも
なかには、管理費や修繕積立金の支払いもままならないという人も出てくる。先に紹介したヴィンテージマンションでは月額の管理費が5万円、6万円で、修繕積立金と合わせると月額10万円も珍しくない。比較的リーズナブルな価格帯のマンションであれば、3万円、4万円などのところが多いが、それでは老朽化したマンションを快適な状態にするのは難しく、日常の管理も行き届かない部分が出てくる。
なかには、管理費や修繕積立金を支払えず、延滞する所有者も出てくる。図表2にあるように、1984年以前完成のマンションでは、3カ月以上の滞納がある住戸がある割合は43.5%に達している。なかには、空室になり、所有者の所在が不明になっている住戸もあり、そうなると、管理費や修繕積立金の徴収は簡単ではない。書面での督促からはじまって、対面での督促、それでも支払われない場合には、強制執行などの法的措置などをとることになるが、それには手間ヒマや費用もかかり、徴収は簡単ではない。
対策にはたいへんな手間ヒマがかかり、管理組合、管理会社には大きな負担となる上に、解決できず、放置せざるを得ないケースも少なくない。
■スラム化して近隣に迷惑をかける可能性も
管理費や修繕積立金の延滞や空室が増えると、いよいよ維持管理が難しくなり、計画的な修繕計画の実施も困難になる。
外観の傷みが目立ち、日常的な管理も十分におこなえないようになって、マンションの老朽化が加速することになる。具体的には、各種設備に不具合が発生して、生活しにくくなり、建物が危険な状態になる。結果、退去者が増加して、住む人が減少してスラム化する。そうなると、当然ながら売却しようとしても買い手はつかず、資産価値は下がる一方だ。
もちろん、建て替えなどできないので、ほかに住居を手当できない場合、そのまま住み続けるしかない。仮にほかに住居が見つかっても、所有し続けるしかないので、固定資産税の負担がついて回り、ひいては相続人にも迷惑をかけることになってしまう。
最悪の場合、空室になった居室に無断で人が入り込んで、犯罪の巣窟になってしまうリスクもある。また、いつ外壁や外部階段の手すりなどが落下するかわからず、近隣に迷惑をかけることにもなりかねない。
外観が損なわれ、景観を損ない、地域のイメージダウンにつながる。
■築30年をメドに買い換えを考えるのも手
そうなってしまうと、対応策をとることがかなり難しくなるので、そうなる前に対応策を考えておくのが安心。それなりの価格帯で売却できるうち売却して、新居に買い換えてしまうわけだ。
そのメドになるのが、築30年ではないだろうか。築40年以上になると、先に触れたように建物、所有者の高齢化が抜き差しならない状態になりかねないので、そうなる前に、実行するのが安全だ。
マンションは、当然ながら築年数が長くなるほど、売却可能な価格が下がってくる。公益財団法人の東日本不動産流通機構の調査によると、首都圏の中古マンションの築年数帯別の成約価格は図表3のようになっている。
首都圏全体では、「~築5年」の築浅物件は8170万円。民間調査機関の不動産経済研究所のデータによると、2023年上半期の首都圏新築マンションの平均価格は7677万円だから、それより高い価格で取引されている。
新築マンションが減少し、エリアによって希少性の高さから、新築マンションの相場より高値で取引されるケースもあるようだ。
それが、築年数を経るごとに、成約価格が低下、「~築20年」では5000万円台に、「~築30年」では4000万円台に下がり、「築30年~」は2439万円になる。築30年以上の築古マンションは、築5年以内の築浅マンションの3分の1以下の価格帯まで下がってしまうわけだ。
■郊外ほど築年数による低下幅が大きくなる可能性
そうなる前、築30年までに売却すれば4000万円台で売れる可能性が高いわけだから、買い換える場合には、資金繰りにかなりゆとりができるのではないだろうか。
この築年数による価格の低下、エリアによって異なっている。ハッキリいえば、価格帯の高いエリアほど築年数による値下がり率が小さく、価格帯が低いエリアのマンションほど値下がり率が大きくなるのだ。
先の図表3にあるように、首都圏で最も価格帯の高い東京都区部は、「~築5年」が1億0541万円で、「築30年~」は3637万円。築浅と築古の格差は2.9倍だが、首都圏で成約価格が一番安い埼玉県ではこの格差が大きくなる。
「~築5年」は5604万円に対して、「築30年」は1306万円だから、格差は4.3倍になる。築年数による値下がりカーブが大きくなるわけだ。
それだけに、価格の安いエリアほど、経過年数が30年になる前に売っておくのが安心ということになる。
■戸建住宅は経過年数による価格低下率が小さい
参考までに、東日本不動産流通機構のデータから中古戸建住宅の築年数帯別の成約価格の変化を図表4にまとめておいた。戸建住宅はマンションに比べて築年数による価格低下カーブがゆるやかで、東京都区部では、「~築5年」より「~築25年」のほうが高かったりする。
これは、当時の分譲戸建住宅の敷地面積、建物面積がいまより広く、かつ都心に近い立地での分譲が多かったため、中古市場の取引価格が高くなっているといった違いがある。しかも、「~築5年」と「築30年~」の格差は1.5倍となっていて、経過年数による価格低下率はそんなに大きくない。戸建住宅は土地がついているため、築年数が長くなっても、土地値で歩留りがかかるといった面があるためだろう。
築年数の長いマンションを売却して、新居に移るときには、経過年数による価格低下がゆるやかな戸建住宅を選択するという手もあるかもしれない。エリアによって、マンションより戸建住宅のほうが安いエリアもあるので、考えてみてはどうだろうか。
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住宅ジャーナリスト
1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に新聞・雑誌・単行本の取材、執筆、講演、セミナー講師など幅広く活動。著書に『2017-2018年度版 住宅ローン相談ハンドブック』『よくわかる不動産業界』など。
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(住宅ジャーナリスト 山下 和之)
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