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「給料を下げさせてほしい」と頭を下げた日があった…スーパー「アキダイ」名物社長を動かした"従業員の一言"

プレジデントオンライン / 2024年8月13日 16時15分

スーパーマーケット・アキダイの秋葉弘道社長 - 撮影=小野さやか

【連載 #私の失敗談 第15回】どんな人にも失敗はある。スーパーマーケット・アキダイ社長の秋葉弘道さんは「店舗拡大を続けて資金繰りが悪化した時期があった。心の中では被害者意識が膨らみ、店の雰囲気も暗くなっていた。そのとき、従業員に言われた一言で、あることに気づかされた」という――。(聞き手・構成=ノンフィクションライター・山田清機)

■「タメ口」で話しかけられる社長

スーパーマーケット・アキダイの社長、秋葉弘道さん(55)は、年間300回近くもマスメディアに登場して生鮮食品の市況や旬の野菜の選び方などを解説する、「日本一有名な八百屋さん」である。

アキダイの本店は東京都練馬区関町にあるが、本店の店頭を訪ねてみると意外な光景を目にすることになった。秋葉さんがレジに入っている2人の女性に向かって、テレビでおなじみのしわがれた声で話しかけた。

「○○○はバーコードで打ってね」

すると、レジの女性が声を揃えた。

「アキさん、何言っているかよく聞こえないんだよ」

タメ口なのである。社長と従業員が対等に会話をしている。

もうひとつ意外なことがあった。

秋葉さんの魅力はなんと言っても圧倒的な商品知識に裏打ちされたコメントの説得力にあるわけだが、愛嬌のある語り口も人気を支えている要素のひとつだ。その秋葉さんが、子どもの頃は大の口下手だったというのである。

「小学校の4年生までは、授業中によく手を挙げて発言していたんです。担任の女の先生が優しい人で、僕が『えーっと、うーんと』なんてつっかえても、『秋葉君が言いたいのはこういうことだよね』って引き取ってくれた。ところが5年生のときに体育会系の男の先生が担任になって、『お前、何言ってるかわかんねぇからもう発言するな』って言われて、クラスのみんなに笑われて……。それがトラウマになっちゃって、人前で話すことができなくなってしまったんです」

■高校に入ってトライしたふたつのこと

中学校時代、もちろん友だちとは会話をしたし、野球部に入ったので「声出し」は毎日のようにやっていた。でも、授業中に手を挙げて発言することができない。いや、できないというよりも逃げていた。

高校に入って、そんな自分をなんとか変えようと秋葉さんがトライしたことがふたつあった。ひとつは生徒会活動である。生徒会の副会長と会長を歴任した。

「生徒会の役員になったはいいんだけど、やっぱりみんなの前で話す時に『うっ、うっ』と詰まってしまって、そのうち頭が真っ白になって、同じことを何度も言っちゃったりね。校内放送なんて、『えーっと、なんだっけ?』って言ってるうちに終了のチャイムがピンポンパンポーンって鳴って、もう、学校じゅう笑いの渦ですよ」

自己変革のために始めたもうひとつのことが、八百屋のバイトだった。客に向かって威勢よく「いらっしゃい、いらっしゃい」と声をかける八百屋の店先に立てば、否が応でも客と会話をせざるを得ない。秋葉さんは、自分で自分を追い込んだのだ。

■1日150箱の桃を売った高校時代

「口下手な自分にプラスになると思って始めたバイトなんですが、僕は『天才桃売り少年』って言われるぐらい、桃を売るのがうまかったんですよ。いわゆるピーチ・ボーイズってやつですかね(笑)」

通常、1日あたり80箱程度しか売れない桃を、秋葉さんは最高で150箱売ったこともあった。なぜそんな離れ業ができたかといえば、大声を出さなかったことに勝因があったというから面白い。

「『桃いかがですかー、甘いですよー』って声を掛けて、お客さんが目の前に来てくれたら、もう大声を出す必要ないじゃないですか。ちゃんと聞こえるんだから。そこで、むしろ声を落として、『お母さん、こっちにめっちゃ甘い桃があるんだけど、箱で買ってくれたらこれと同じ値段にしますよ』って小声でささやくわけ。そうすると、『あなたにだけ特別にサービスしますよ』っていうメッセージになるじゃないですか」

八百屋の世界では、特定の商品を強気で仕入れることを「勝負する」と言う。秋葉さんは桃で勝負することを通して、口下手を克服したというより、相手の心理を読みながら会話する術を身につけたというべきだろうか。

アルバイトでは「完売したときの達成感」が嬉しかったという
撮影=小野さやか
アルバイトでは「完売したときの達成感」が嬉しかったという - 撮影=小野さやか

■電気会社を1年余りで退職し八百屋の道へ

数学が得意だった秋葉さんはトップクラスの成績で高校を卒業すると、実家の近くにあった一部上場の電気会社に就職を決めている。両親はとても喜んでくれたが、入社からわずか1年余りで退職してしまったという。なぜか?

「とてもいい会社でね、同期の仲間とはいまでも付き合いがあるんですが、敷かれたレールの上を走っている気がして、俺、このままでいいのかなって……。八百屋でバイトをしていた時は暑いとか寒いとか感じたし、品物自体に季節感があったし、目の前でお客さんが喜んでくれたりね。なんか、そっちの方が僕には合ってる気がしたんですよ」

電気会社をあっさりと辞め、バイトをしていた八百屋に舞い戻った秋葉さんは、今度は正社員として雇用され、市場での仕入れから値付けまで、八百屋に関する仕事のすべてを猛烈な勢いで吸収していった。やはり、八百屋は天職だったのだ。

やがて、自著『いつか小さくても自分の店を持つことが夢だった』(扶桑社)のタイトル通り、自ら八百屋を経営したいと考えるようになるのだが――開店までの奮闘ぶりは同書に譲るとして――「話し方」という意味で興味深いのが、市場の卸売業者の売り子との会話である。雇われていたときと自分の店を持った後では、話し方がまったく変わってしまったというのである。

■「いまのアキちゃんに負ける理由なんて、何もないんだよ」

「僕が勤めていた八百屋はかなり売る店だったので、目上の売り子さんに対しても『いくらに負けるなら、買ってやるからさー』という態度だったんです。20そこそこのクソガキが、思い切り上から目線だったわけです」

ところが23歳で念願の自分の店を構えたとたん、仕入れが怖くなってしまった。

たとえばミニトマトは、通常、1ケースに24パック入っている。かつてなら平気で10ケースぐらい買って、「こんだけ買うんだから負けろよなー」などと横柄な口を利いていたわけだが、開業当初のアキダイは客の入りが極端に悪く、たったの1ケース・24パックを売り切る自信がなかった。

秋葉さんはなじみの売り子さんにこう切り出した。

「×××円に負けてよ」

すると、相手は予想もしなかった言葉を返してきた。

「アキちゃんさ、いまのアキちゃんに負ける理由なんて、何もないんだよ」

秋葉さんは冷や水をぶっかけられた気分だった。

秋葉さんは、以前の自分がいかにおごり高ぶっていたか、そしていまの自分がいかにちっぽけな存在であるかを思い知らされた。

■青果市場の「悩み」と「もがき」

やっちゃ場(青果市場)ではさまざまな業界用語や隠語が流通しているが、代表的なのが「悩み」と「もがき」。一種類の商品が一時に大量に入荷してしまい、卸売業者が処理に困っている状態を「悩み」と言い、反対に、品薄で小売業者が品物の取り合いをしている状態を「もがき」と言う。青果の世界は天候の影響を受けるから入荷量の変動が大きく、「悩み」と「もがき」が頻繁に発生する。

「たとえばハウスバーモントカレーは、全国どこに行ってもハウスバーモントカレーですよね。供給は安定していて、品質はすべて同じ。じゃあ、どうして小売店によって値段が違うのかといったら、大手はバイイングパワーがあるから、いっぺんに大量に仕入れて値段を下げることができる。でも、キャベツは毎日入荷量が変わるし、味も鮮度も全部違うから、ハウスバーモントカレーのようにはいかないわけです」

■青果だからこそ大手に対抗できる余地がある

アキダイの店舗数は現在9店舗(テナントも含む)。年商は約40億円。スーパーとしては決して大きなチェーンではないのだが、扱う商品が青果だからこそ、大手に対抗できる余地があると秋葉さんは言う。そして、ここでも重要になるのが、話し方、話術なのである。

たとえば、市場にピーマンが大量に入荷してきたとしよう。卸売業者としては早く売り切ってしまいたい。青果は短時間で傷んでしまうからだ。しかし、ピーマンばっかり大量に買ってくれる小売店など存在しない。つまり「悩み」の状態である。

「悩み」を抱えた売り子が秋葉さんに声をかけてくる。

「アキさん、ピーマンやってよ」

やってよとは、たくさん引き取ってほしいという意味だ。

ここで、雇われていた時代の秋葉さんなら、「×××円に負けるなら、やってやるよ」と言うところだろう。

「もちろん、こちらとしては『いくらに負けるの?』って値段を聞きたいですよね。でも、それを先に聞いてはいけないんです。他の市場の値段をこちらから先に持ち出すのもタブーです。向こうの方が安くしてくれるから向こうで買うよなんて言ったら、売り子は気分が悪いでしょう。仕入れで大切なのは、値段の交渉ではなくて、あくまでも人間関係なんです」

高校時代の得意科目は数学だった
撮影=小野さやか
高校時代の得意科目は数学だった - 撮影=小野さやか

■売り子に対して「恩を売る」

では、どのように会話を運ぶのか?

「どこもピーマンで悩んでるっていうからさ、あんたのところも大変だろうと思って、他を全部断ってきたんだよ」
「ありがとうございます。他はいくらで出すって言ってましたか?」
「いいよいいよ、値段なんて。ところで何ケースあるの?」
「××ケースです」
「そりゃあ多いな。全部は無理だけど、うちがある程度数をやるから、値段頑張ってよ」
「わかりました。他はいくらって言ってました?」
「600円とか言ってたね」
「じゃあ、600円でいいですか? ありがとうございます」

他の市場の値段などチェックしていなくても、会話をうまくリードすることによって、秋葉さんは思い通りの値段で思い通りの分量仕入れてしまう。そればかりか、売り子に対してしっかりと恩を売るのだ。

なぜこんなことができるかといえば、前提が2つある。まず、大手のスーパーと違って市場で仕入れの量と値段を即決できること(大手は本部の許可がないと仕入れの内容を変更できない)、もうひとつは大量に仕入れた商品を売り切ってしまうノウハウをアキダイが持っていることである。

■小規模店ならではの商売のやり方

「普通のスーパーは、『悩み』の時にものすごく安く仕入れることができたとしても、チマチマと儲けを乗せようとするから、結果的に売れ残りを出してしまうんです。でもうちは、安く仕入れたものは安く出して売り切ってしまう。それで翌日また市場に行って、『ピーマン、おかわりー』って、前日と同じ値段で仕入れちゃうわけ。これが、小規模店ならではの商売のやり方なんですよ」

秋葉さんは、入荷量の変動という青果特有の特徴と、小規模店ならではの機動力を生かしながら商売をしている。そこに、八百屋の醍醐味がある。

「安く買って、恩も売る」と言うと、アコギな商売をしているように思えるが、秋葉さんは、生産者を守るために品物を売り切らねばならないという市場関係者の使命感も深く理解している。だから、「悩み」の時こそなるべくたくさん買おうとするのだ。決して、相手の足元を見て買い叩いているわけではない。

同時に、アキダイの「売り切ってしまうパワー」も、値段だけに依拠しているわけではない。秋葉さんはどんなに安くても、味の悪いものは仕入れない。客は経験的にそれを知っているから、大量に仕入れても売り切ってしまうことができるのだ。

■市場で好かれるのは「困った時に助けてくれる人」

「もう、人を育てる年齢になっちゃったから、市場の売り子には『悩みの友だち、もがきの他人はやめような』って、いつも言っているんです。そうすると、『そうですよね。もがきのときはアキさんに優先的に回しますから』って言ってくれる。市場で好かれるのはたくさんお金を使う人じゃなくて、困った時に助けてくれる人なんですよ」

こうして秋葉さんは、市場と持ちつ持たれつの信頼関係を維持することによって、店舗と従業員を守っているわけだが、過去に2度、痛恨の失敗をしたことがあるという。

特に1度目の失敗は、「話し方」が招いた禍いだったと言えなくもない。

■「あの土地は、絶対にうちが買う」

1回目の失敗は、現在、本店が建っている土地に絡む話である。

かつてのアキダイ本店は現在の本店から少し離れた位置にあり、現在、本店と関連施設が建っている土地は、当時、袋詰め作業をする倉庫、駐車場、段ボールなどのゴミの集積場所として借りていた土地だった。その土地が、ある時、競売にかけられることになった。

「その土地が使えなくなったらうちは商売ができなくなってしまうので、買うしかありませんでした。だって倉庫がなくなったら、スーパーは終わりでしょう。だから、おそらくこれ以上払う人はいないだろうという金額で入札したんです。ところが、ある競売専門の業者がその上を行く金額でバーンと落としてしまったんですよ。会社のみんなにどう説明したらいいのかわからなくて、その日はなかなか会社に戻れませんでした」

会社が終わってしまう。秋葉さんは茫然自失の状態だったが、なぜこんな事態を招いてしまったのかと考えていて、ひとつ、思い当たるフシがあった。

「あの土地は、絶対にうちが買う」

こう、あちらこちらで公言していたのだ。競売専門の業者はこの情報をつかんだ上で、秋葉さんよりも高い金額で落札したのだ。

案の定、落札してから1カ月も経たないうちに、秋葉さんの元へ業者がやってきた。

「この値段でこのおいしさ」とお客に喜ばれることを大切にしているという
撮影=小野さやか
「この値段でこのおいしさ」とお客に喜ばれることを大切にしているという - 撮影=小野さやか

■本当の願いを口にしてはいけない

「あの土地は地域に密着した商売をなさっているアキダイさんが使った方がいいと思うんですよね、なんて言うんだけど、彼らは落札した値段に1000万円上乗せした金額を言ってきたんです。アキダイにはどうしてもあの土地が必要だということを知っていたから、1000万ぐらい乗せても売れると踏んだのでしょう。たった1カ月で、1000万稼ごうというわけです」

結局、秋葉さんは銀行から大きな借金をしてその土地を購入することになったが、業者は秋葉さんと銀行の信用関係も事前に調査して、銀行が秋葉さんに融資をするだろうという確証を得た上で、話を持ちかけていたことも後でわかった。

「あれは自分の中で、ものすごい失敗でしたね。本当の願いとか本当に欲しいものは、軽々しく口に出さないで、自分の心の中で育んでおくべきなんだということを思い知りました。当時、僕の頭の中では、この土地を買ったらここに新しい店舗を建てて、ここを倉庫にして……という夢が膨らんでいたので、それをあちらこちらでしゃべってしまったんですよ」

なんとか土地を購入することができ、日曜朝市などの新機軸を打ち出すことで資金繰りもなんとかなった。しかしこの後、秋葉さんはもっと大切なものを失う危機を自ら招いてしまうことになる。

■「男のロマン」が招いた危機

秋葉さんがアキダイを開業したのは1992年のことである。倒産の危機は何度かあったというが、最大の危機を招き寄せたのは――誤解を恐れずに言えば――秋葉さんが抱えていた「男のロマン」だった。

「3店舗目を出して名刺を作った時、奥さんの両親にその名刺を見せたんですよ。そうしたら、『3つのお店の社長なんてすごいねー、立派だねー』って言ってくれて、それがものすごく嬉しかったんですよ。つまり僕は、お金儲けがしたかったわけじゃなくて、自分がいったいどこまで行けるのか挑戦したかった。そういう男のロマンを大切にしたいと思っていたわけです。だから、自転車操業でしたけれど、次の店舗、次の店舗って、店舗展開をしていったわけです」

店舗を拡大すればそれだけ利益も大きくなると秋葉さんは考えていたが、予想に反して、資金繰りはむしろ悪化していった。店舗が増えれば社員も増やさなくてはならない。給与の支払いばかりでなく、社員ひとりひとりの社会保険料の支払いが、想像以上に重かった。

「ご存じないと思うけど、社会保険料の支払いが遅れるとものすごく大変なんです。金利がすごいの。もちろん遅らせる方が悪いんだけど、支払いがきつくてきつくて……」

■ある女性従業員の言葉の衝撃

いよいよ資金繰りが逼迫してくると、秋葉さんの表情は日々険しくなっていき、店の雰囲気も暗くなっていった。

「売り場に立っても、明日の支払いを考えたらテンション低くなっちゃうし、実際、なじみの業者だって、支払いが遅れた瞬間にドン! と机を叩いて『いったいいつ払ってくれるんですか!』ってなる。向こうもこっちも必死ですよ。そういう状況に追い込まれたら、従業員がニコニコ笑ってる姿が、ヘラヘラしているように見えてきちゃったんです。自分たちは給料をもらうだけで支払いなんて関係ないからヘラヘラしていられるんだろう、ヘラヘラしてるヒマがあったら一品でも売れよって、心の中でどんどん被害者意識が膨らんでいったんです」

そんなある日、ある女性従業員の言葉に秋葉さんはハッとさせられる。

「彼女は創業の時からうちでバイトをしてくれていたんだけど、『前は、すごく楽しそうなお店だな、こんなお店で働きたいなとお客さんに思われていたと思うけど、いまは、大変そうだなって思われてるんだろうな』と言ったんです。ああ、僕は店舗の拡大ばっかり考えて、創業のとき、自分がどんなお店を作りたいと思っていたかを忘れていたんだって気づかされたんです」

■「給料を下げさせてほしい」と頭を下げた

その日以来、秋葉さんは従業員の前でため息をつくことをやめた。そして店頭に立つ時は社長ではなく、ひとりのスタッフであることを肝に銘じることにした。冒頭、従業員が秋葉さんに「タメ口」をきいていると書いたが、あながち的外れではなかったようだ。

しかし、社長が態度を変えただけで資金繰りが改善するわけではない。どうにもこうにも支払いが困難になってしまったとき、秋葉さんは社員全員に集まってもらうと、「給料を下げさせてほしい」と頭を下げた。

すると、想定外の答えが返ってきた。

「アキさんひとりにそんな辛い思いをさせてしまって、すみませんでした。みんなで乗り越えていきましょうよ。これからもよろしくお願いします」

■なぜロピアの傘下に入ったのか

2023年3月、アキダイは大手スーパー・ロピアの傘下に入った。

中小のスーパーマーケットは、人手不足、人件費の高騰、電気代の高騰、後継者の不在などの理由で経営が難しいところが多く、大手によるM&Aが盛んに行われている。

秋葉さんは所有するアキダイの株をすべてロピアに譲渡したが、引き続きアキダイの経営に当たってほしいと髙木勇輔代表から伝えられたという。

老婆心ながら、そんなうまい話があるのだろうか。

「ロピアの髙木代表と(M&Aの)話をしたとき、たぶんのんでくれないだろうなという条件をすべて言ったんですよ。これまで支えてくれたお客さん、従業員、パートさん、テナントの肉屋さんとサヨナラするのは嫌だし、若い社員を引き抜かれるのも嫌、社員を転勤させるのも嫌ですと。そうしたら髙木さんは『アキダイはいままで通りアキダイのままでいいし、むしろロピアの若い社員をアキダイで勉強させてほしい』と言うんです。実際、すべて僕の言った通りにしてくれているから、ロピアの傘下に入ったからといって何も変わっていない。従業員の将来を考えても、最良の選択をしたと思っています」

ロピアの売り上げは、アキダイの約100倍。秋葉さんは、「八百屋は季節やお客さんの反応を直に感じられる仕事だから好きだ」という。その野性的で瑞々しい感性が、巨大な組織の中でこれからどのように生かされていくのだろうか。

アキダイ本店には、ロピアの生鮮部門の社員も研修にやってくる
撮影=小野さやか
アキダイ本店には、ロピアの生鮮部門の社員も研修にやってくる - 撮影=小野さやか

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山田 清機(やまだ・せいき)
ノンフィクションライター
1963年、富山県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(朝日文庫)、『東京湾岸畸人伝』『寿町のひとびと』(ともに朝日新聞出版)などがある。

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(ノンフィクションライター 山田 清機)

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