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費用は「1個660円のボール」だけ…野球離れの子供たちも「これなら遊べる」とハマる"野球の新種目"の名前

プレジデントオンライン / 2024年8月9日 16時15分

ベースボール5はゴムボールを素手で打ち、塁を狙っていく。基本的なやり方は野球と同じだが、テニスボールほどのサイズを狙って打つのが難しく、競技の醍醐味でもある。 - 筆者撮影

野球を原型として考案された球技「ベースボール5」が世界各国で広がっている。26年ダカール・ユース五輪の種目に追加され、将来の五輪種目入りを目指す。用具は専用のゴムボールのみで、素手で打つのが特徴だ。なぜ野球をしない国でも広がっているのか。スポーツライターの内田勝治さんが取材した――。

■大谷選手の「野球しようぜ!」に応えられない日本

日本国内の野球離れは加速の一途を辿っている。野球普及振興活動状況調査によると、競技統括団体に登録している選手数は、2010年から2022年にかけて、161.7万人から101.7万人まで減少した。もちろん少子化の影響もあるが、これまで野球人口を下支えしてきた学童野球が29.6万人から17.0万人と10万人以上減少したことが大きく影響している。

野球を取り巻く環境は年々厳しくなっている。以前なら巨人戦を中心に毎試合のようにテレビ放送されていたプロ野球も、今では地上波で中継されること自体が珍しい。球技を禁止している公園や敷地も多くなり、野球に触れる機会は極端に少なくなった。

昨年末には大谷翔平選手(ロサンゼルス・ドジャース)がグラブを日本国内の全小学校約2万校に各3個ずつ、計6万個を寄付。「野球しようぜ!」と子どもたちに呼びかけたが、そもそもボールがないので、校長室に飾ったままになっている学校も多いと聞く。

近年の物価高も野球を始める上で大きな足枷となっている。グラブは硬式用と軟式用で価格に差はあるが、2万~3万円から、オーダー品となれば6万~7万円をゆうに超える。キャッチャーミットやファーストミットなど、必要であればポジションによって買い直さなければならない。

■ユース五輪種目に採用された「ベースボール5」とは

さらにバットや、練習用、試合用ユニホーム上下、帽子やベルト、アンダーストッキングにソックス、スパイク、アップシューズ……。使用する用具は、挙げればキリがなく、一式を揃(そろ)えるだけでも十数万円の出費は覚悟しなければならない。

公立中学では、教師の働き方改革の一環として、休日の部活指導を民間スポーツ団体などに委ねる「地域移行」がスタート。これまでの部活動から習い事になるため、活動には少なくない参加費がかかってくる。経済的理由で野球を諦めざるを得ないケースも今後増えるだろう。

ベースボール5は、そんな子どもたちの救世主になり得る可能性を秘めている。

元々はキューバで親しまれている手打ち野球が発祥で、2017年、世界野球ソフトボール連盟(WBSC)によって、野球、ソフトボール振興の一環としてスタートした。80カ国以上の国や地域で急速に広がりを見せ、2022年のダカール・ユース五輪の種目に追加されることが決定(新型コロナウイルスの影響で2026年に延期)。将来的には五輪種目採用を視野に、活動の幅を広げている。

■打つのは素手、道具はゴムボールだけ

今年4月に都内でベースボール5のチーム「Spirit Bonds(スピリット ボンズ)」を立ち上げた宮之原健(たける)さん(31)が、その魅力を語る。

今年4月に誕生したベースボール5のチーム「Spirit Bonds(スピリット ボンズ)」を立ち上げた宮之原健さん(31、右)
筆者撮影
今年4月に誕生したベースボール5のチーム「Spirit Bonds(スピリット ボンズ)」を立ち上げた宮之原健さん(右) - 筆者撮影

「ベースボール5は、ボール一つで自分を表現することができます。やればやるほど、難しさを感じますけど、楽しいですし、このスポーツなら、いろんな方と笑顔になれる時間を作ることができます。

野球、ソフトボールとは差別化を図っていて、リーズナブルに始めることができるのも特徴で、ボール、半袖、短パン、シューズ、ベースを作るための養生テープがあれば十分です。半袖や短パンは持っている子どもたちも多いので、しいてかかるとすれば、水代くらいでしょうか(笑)」

ベースボール5は、基本的なルールは野球やソフトボールと同じだが、大きく異なるのは、専用のゴムボールさえあればできる点だ。投手はおらず、守備、攻撃ともに素手で行うため、高額なバットやグラブを用意する必要がなく、初期投資はグッと抑えられる。

男女混合の1チーム5人、5イニング制で試合時間も15~20分とスピーディー。野球の内野より一回り小さい18メートル四方のフィールドが確保できれば、屋内外を問わず、気軽にプレーできる。

■元日大三高副主将として全国制覇を経験

「チームを作る上での初期投資は、1ダース8000円のボールを2ダース買って、1万6000円ほどかかりましたが、野球の硬式球と違って、切れたり傷がついたりすることはないので、使おうと思えば半年は大丈夫です。あとは年会費を一人1万円、月にして800円ちょっと頂いているので、その中から施設料を払ったり、今後はボールを買ったりします」

宮之原さんは、華やかな球歴を辿ってきた元野球選手だ。高校野球界の名門・日大三(西東京)で副主将を務め、2011年夏の甲子園は背番号16の控え外野手として全国制覇を経験した。

2011年、日大三高(西東京)副主将として夏の甲子園優勝を経験した
2011年、日大三高(西東京)副主将として夏の甲子園優勝を経験した。大学野球を経て独立リーグ入りしたが、入団当初は用具の工面にかなり苦労したと語る

その後、東京学芸大を経て、2016年に独立リーグの福島ホープスに入団。2018年に武蔵ヒートベアーズ(現埼玉武蔵ヒートベアーズ)に移り、4番、主将、選手会長の重責を担いながら、3年連続打率3割をマークしたこともある。2021年も主力としてチームの地区初優勝に貢献したのを花道に、現役を引退した。

「球団からはありがたいことに、残ってほしいとずっと言っていただきました。ただ、ずっとNPBの選手として、憧れだった松井秀喜さんのように東京ドームで本塁打を打ちたいという思いがあって、当時、28歳という年齢を考えた時に、色々悩んだ上で、ユニホームを脱ぐ決断をしました」

■月給10万円で「両親に頭を下げた」ことも

独立リーグでトップ選手となってからは個人スポンサーもつき、無償で用具を提供される機会も多くなったが、入団当初は金銭面でかなりの自己負担をしいられた。

木製バットはリーグから一定額の補助があり、4、5本は購入できるが、練習試合を含めて80~90試合を戦い抜くには心許なく、足りない分は当然自腹を切ることになる。給料が支給されるのはシーズンの半年間のみで、月給は手取りで約10万円ほど。「恥ずかしい話ですが、両親に頭を下げたこともあります」と明かす。

野球はお金がかかるということを身をもって体感して競技を離れた後、ベースボール5公認インストラクターを務める六角彩子さんが代表を務める「5STARs」に加入。「第3の野球型競技」に出合い、驚いたのは金銭面での負担の違いだ。

「全然違いますよね。野球はバットが1本2万円、グラブは6万~7万、サングラスも2万ぐらいはするし、シューズや手袋もこだわったら高いじゃないですか。それだけでも軽く10万円は超えます。ベースボール5はボール1球が700円弱、半袖、短パンで4000~5000円、シューズ7000~8000円。あと私は、4000円の膝パッドを使っていますが、それを入れても野球の10分の1ぐらいで収まっちゃいますよね」

■お金がなくてスポーツができない子を減らすために

宮之原さんはベースボール5を始めてから1年足らずで初の世界大会である「WBSC Baseball5 ワールドカップ2022」に日本代表として出場。準優勝を達成し、個人としてはソーシャルMVP「High5 Award」を受賞した。今は都内の小学校で教職員として勤務しながら、Spirit Bondsで自身のプレーに磨きをかけるとともに、ユース世代の育成、普及活動にも力を入れている。

「日本でも世界でもベースボール5を普及していく活動をして、その中で同じダイヤモンド型スポーツの野球やソフトボールも一緒に盛り上げていきたいと思っています。そのためにも、ユース世代を盛り上げて、もちろん、そのまま競技を続けてくれたらハッピーですけど、野球、ソフトボール、サッカー、バスケットボール、何でもいいので、運動を通して豊かな人生へとつなげてもらえたらという一心でやっています。」

誰もが気軽に始められるベースボール5を通じて、野球を含むスポーツ界全体が活性化すれば、こんなにもうれしいことはない。ベースボール5の発展、そして野球界への恩返しのため、宮之原さんは今日も全力で腕を振る。

現在開催中の夏季五輪パリ大会で、野球は開催種目から除外された
筆者撮影
現在開催中の夏季五輪パリ大会で、野球は開催種目から除外された。広大な球場を必要としないベースボール5のほうが、競技人口が広がっていく可能性はある - 筆者撮影

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内田 勝治(うちだ・かつはる)
スポーツライター
1979年9月10日、福岡県生まれ。東筑高校で96年夏の甲子園出場。立教大学では00年秋の東京六大学野球リーグ打撃ランク3位。スポーツニッポン新聞社ではプロ野球担当記者(横浜、西武など)や整理記者を務めたのち独立。株式会社ウィンヒットを設立し、執筆業やスポーツビジネス全般を行う。

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(スポーツライター 内田 勝治)

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