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彼氏ができたら必ず干渉してくる…「キレイで勉強もできるのに自己肯定感が低い」 生きづらい女性の親の共通点

プレジデントオンライン / 2024年8月7日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Boogich

毒母という言葉がメディアで取り上げられるようになって久しいが、まだまだ世間では母娘問題の本質的な話はしづらい空気がある。幼少期から肉体的、精神的虐待を受けて育ったノンフィクション作家の菅野久美子氏と、小説や漫画で母娘関係がどのように描かれてきたかを考察した『娘が母を殺すには?』を上梓した書評家の三宅香帆氏が、母娘問題の難しさを語り合う――。

■キレイで勉強もできるのに自己肯定感が低いワケ

【菅野】三宅さんは、母娘の関係が小説や漫画、ドラマ、映画などのフィクションでどのように描かれてきたかを考察する『娘が母を殺すには?』(PLANETS)という本を出されました。どのような動機でこの本を書こうと思われたのでしょうか。

【三宅】母と娘の関係は、昔から漫画や小説、特に女性向けの少女漫画や女性作家の小説などで描かれることが多いテーマでした。ところが、それらが「評論」という俎上(そじょう)に載ることは、ほとんどありませんでした。母娘問題は女性によくありがちなテーマなのに、まだあまり解決策が提示されていないのではないか。そう考えて今回、母と娘に焦点を当てて、時代とともにどのように描かれてきたかを1冊にまとめました。

【菅野】私自身、今までに創作物に描かれてきた母娘問題に関してのまとまった評論を読んだことがなかったので、衝撃的でした。私が書いた『母を捨てる』(プレジデント社)は幼少期から、肉体的、精神的、ネグレクトなどあらゆる虐待を母から受けてきた私が母と決別するまでの一部始終を綴った実録ノンフィクションです。三宅さんが書かれた「評論」とは違った角度になるのですが、割と近い時期に出版された「母娘」本という点は、共通しています。

三宅さんご自身は、お母さんとはどのような関係性だったのでしょうか?

【三宅】私自身は、母との関係は本当に普通で、とくに大きな問題はありませんでした。どちらかというと、友だちなどを見ていてとても気になったことはありました。私がこれまでに見てきたのは、菅野さんが経験されたような虐待というより、もう少しライトなケースです。

例えば家を出て一人暮らしをしても、母親から罵倒とまでは言わないまでも、とても強い批判の言葉がずっとLINEで送られてくる子や、偏差値の高い大学に進学して、見た目もキレイで何でもできるような子が、母親にだけは大きなコンプレックスを持っていたり……。

母親からの否定によって、いまどきの言葉でいうと「自己肯定感」がとても低くなっていたんです。世間では恋愛や仕事などが女性の自己肯定感を損なうと言われますが、母親の問題もかなり大きいのではないかと思いました。

■彼氏ができたら必ず介入してくる母親

【菅野】三宅さんと私は若干年代が違いますが、私の周りでも割とその感覚は共通しています。わかりやすい虐待ではなく、つねに母親の“視線”を感じていて、その干渉に娘がいびつなかたちで愛憎を抱いていたり、人生を支配されていたりする。つまり母のいびつな愛に、足をからみ取られるように、苦しんでいる人がけっこういる。

例えば遠距離にもかかわらず母親に仕事のシフトを送っている友人を、私は数人知っています。母親は娘の都合など何も考えずにそのシフトの合間に頻繁に長時間の電話をかけてきますし、彼氏ができたらそのジャッジなりに、必ず介入してくる。もちろん母のジャッジは絶対です。

そんな母親が本当に多いと感じます。表面上は友だち親子でも、長期スパンで見るとまさに娘の「自己肯定感」を損ない、人生を母色に縛り上げるような関係性なんですよね。

【三宅】外からは「仲のいい母娘」と思われていても、娘本人はかなり複雑なものを抱えているケースも少なくありませんよね。それならLINEをブロックすれば解決するかというと、そんな単純な問題ではない。

【菅野】「だったら切ればいい」と簡単に言う人もいますが、そういう問題ではないですよね。母娘関係は、白か黒かではない。

■母娘問題は日常会話ではまだまだ話せない

【三宅】家を出て物理的に離れたり、亡くなったりしてからも母親に縛られてしまう娘がとても多いと思います。特に幼少期に壮絶な体験をしている人ほど母親に影響を受け、母親がいる人生に縛られてしまう。それを「呪い」と表現する人もいます。

幼少期に壮絶な体験をした人の中には、菅野さんの書かれた『母を捨てる』のような本を読むことで、大人になってからでも母に縛られた人生を捨てられると、勇気をもらえる人も多いのではないでしょうか。母親の呪縛から抜け出すことがいちばん難しいので、「抜け出せた」という成功例を知るだけでも全然違うはずです。

まだいまでも「お母さんを捨てていい」と言ってくれる人は周りに少ないと思うので、本などでそういう価値観に出合うしか逃れる方法はないのかもしれません。

【菅野】確かに周りに理解を求めるのは難しいかもしれませんね。毒親・毒母に関するエッセイなどはたくさん世に出てきつつも、普通の日常会話レベルでは話せないというのが世間の一般的な空気だと思うんです。

私自身「母を捨て」ているのですが、それにタブー感や後ろめたさがあるのは、やっぱりこういう空気に敏感だからなんですよね。特定のコミュニティ以外では、例え愚痴レベルではあっても、「親と仲が悪い」とか遠回しに人に話すだけでも、やっぱりヒヤヒヤします。

【三宅】これまでも問題としてはあったのに、語られづらかったんですよね。「母と娘の逃れ難さ」については多くの人が言うのですが、私はむしろこれからは、大人になる過程で「難しいけれど母は捨てられる」と言っていくことのほうが大事なのではないかと思っています。

書評家・作家の三宅 香帆氏(左)とノンフィクション作家の菅野 久美子氏(右)
書評家・作家の三宅 香帆氏(左)とノンフィクション作家の菅野 久美子氏(右)

■親の老後の面倒は他人に任せてもいい

【菅野】「友だち親子」のような母娘関係が“表面上”は増えているとはいえ、実際には現実問題として母との関係にに苦しめられている人も少なくないです。特に私自身は、まさにこれから親の介護などが待っている世代です。これをどうすればいいのか。

私のような毒親に苦しんできた子どもたちに対して具体的な解決策がまだまだ足りないと感じていたので、私は親の介護と看取りを外注する「家族代行サービス」の普及にも関わったのですが、思いのほか反響があって驚きました。瞬く間にメディアに取り上げられて、テレビなどの取材が続々きています。

40代になると親の介護が間近に迫ってくるので、こういうサービスを必要としている人たちが少なくないのだと思います。『母を捨てる』を読んでいただくことで、何かしら困っている人の救いになってもらえればいいなと思います。

【三宅】家族代行サービスの存在を初めて知ったときは、「こんなサービスがあるのか」と思いました。

『娘が母を殺すには?』にも書いたのですが、私は家族や親みたいなものが絶対視されすぎていることが問題ではないかと思っています。実際、親を唯一無二のように感じている人は少なくありませんし、実際は親以外からも大きな影響を受けているはずなのに、幼少期に育てられたという点で親の影響がとても大きくなってしまっています。

「年を重ねた親をどうするのか」という介護も含めたケアの問題はこれからどんどん増えていくでしょうから、家族代行サービスのようなものがあることで救われる人はたくさんいるはずです。

【菅野】私はノンフィクション作家ということもあり、孤独死のリアルなの現場を取材していて、そこでも日々感じるのですが、現実としてこれまでもあった日本のさまざまな問題や歪(ひず)みが、この時代に一気に表面化したのではと思わざるをえないんですよね。歪みや地盤沈下に耐えきれない社会になってきているのかもしれません。

【三宅】やはり家族の役割が大きすぎるんでしょうね。例えば病気で入院しても家族以外のお見舞いが認められていない場合があります。家族以外が想定されてないというのが、そもそも制度としておかしいと思います。

介護についても同様です。家族が絶対視されていて、「他人がやるものではない」という風潮があります。そうなると、やはり家族への負担が大きくなりますし、とりわけ娘には大きな期待がかけられてしまうと思います。

三宅香帆氏(左)と菅野久美子氏(右)。

■母の呪縛から逃れるために必要なのは「自分の欲望」

【菅野】母娘問題に悩んでいる人には、そうなってしまう前に逃れる方法を見つけてほしいですね。

【三宅】私は、母の呪縛から逃れるには、自分の「欲望」を見つけるのが大事だと考えています。母娘関係に縛られる娘は、自分の世界を母の規範で固定してしまいがちです。社会はさまざまな規範に満ちているのに、母の規範だけを絶対視してしまう。その世界から抜け出すためには、母の規範を相対化し、自分の欲望を優先させることが大切なのではないでしょうか。

その一方で、欲望を見つける「きっかけ」のようなものがいま、どんどん狭まっている気がしていて、そこをどうしたらいいのかという答えが、私自身まだ見つけられていません。

いまはいろいろなものにお金がかかる時代になってしまって、「やりたいこと」や「好きなこと」が少しぜいたく品のように思われているところがありますし、経済的な理由から実家を出て自立するというハードルも上がっていると感じています。

三宅香帆『娘が母を殺すには?』(PLANETS)
三宅香帆『娘が母を殺すには?』(PLANETS)

【菅野】確かに、いまはつながりをつくろうと思ったら何かとお金が必要ですもんね。私はいわゆる「就職氷河期世代」なのですが、同世代ではブラック企業などで傷ついて実家に戻ってしまうケースもよくあります。

先日対談した精神科医の斎藤環先生は、昔なら女性が家にひきこもっても家事手伝いとされていたが、いまではそれがひきこもりとして顕在化してきている、とおっしゃっていました。「理由があって仕方なく実家にいるけれど、母親と離れられなくて苦しい」という状況に置かれた女性も少なくないはずです。

■現代の親子関係に見る“いびつさ”

【三宅】もちろん、何の問題もなく実家にいられる人ならいいのですが、「親子は仲がいいもの」という価値観が広まってしまって、「そうではない自分はどうしたらいいんだろう」と悩む人も増えているのではないでしょうか。「毒親」や「親ガチャ」のような言葉が流行っている一方で、実態としては親子が仲よくなりつつあるというのは、結構いびつなのではないかと思います。

菅野久美子『母を捨てる』(プレジデント社)
菅野久美子『母を捨てる』(プレジデント社)

【菅野】いまの時代、私が母から受けたような苛烈な肉体的虐待というよりは、外からは見えづらい「過干渉型」も多くなっている気がします。そうなると親の愛情を感じつつも、「やっぱりちょっと苦しい」という気持ちがせめぎ合っているというような人が増えているのかもしれませんね。

【三宅】「教育虐待」という言葉も最近使われるようになりましたが、もっと広まったほうがいい言葉だと思います。親からすれば、「子どもがいい大学に行くためにお金をかけて教育を受けさせている」ということなのかもしれませんが、親の経済状況や家庭環境ともつながっていて、とても複雑な問題だと感じています。

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三宅 香帆(みやけ・かほ)
書評家・文筆家
1994年生まれ。高知県出身。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。著書に『人生を狂わす名著50』(ライツ社)、『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』(サンクチュアリ出版)、『副作用あります⁉ 人生おたすけ処方本』(幻冬舎)などがある。

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菅野 久美子(かんの・くみこ)
ノンフィクション作家
1982年、宮崎県生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒。出版社で編集者を経てフリーライターに。著書に、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)、『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)、『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)などがある。また、東洋経済オンラインや現代ビジネスなどのweb媒体で、生きづらさや男女の性に関する記事を多数執筆している。

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(書評家・文筆家 三宅 香帆、ノンフィクション作家 菅野 久美子 構成=岩佐陸生)

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