これさえ守れば株式が紙くずになる心配なし…"バフェット流"投資家が必ず見る「財務諸表のある項目」
プレジデントオンライン / 2024年8月9日 16時15分
※本稿は、しん『電子版 謎のトレーダー「しん」の〈株〉バリュー投資法』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■どういう基準で「割安」と判断するのか
バリュー投資は会社の本当の価値よりも低い株価の銘柄をみつけて、それに投資をするという投資方法です。会社の価値をはかる方法はいろいろあります。よく使われる株式指標のPBR(株価純資産比率)も、会社の価値から株価が割安かどうかをみる指標です。
バリュー投資の父ベンジャミン・グレアムは、流動資産から負債を差し引いた会社の解散価値が、時価総額の3分の2以下の銘柄を買うという基準を設けて投資をしています。つまり、会社の解散価値と株価を比べて割安かどうかを判断しているわけです。
また収益面からは、きちんと利益を出している低PER(株価収益率)の株を見つけていこうとグレアムは考えました。それも、できるだけ当時のアメリカの長期国債の平均的な利回りである、5.5%の利回りを大きく上回るものを見つけようとしました。PERでいえば10倍以下ですね。
前回記事(「伝説の投資家バフェットもこれで大金持ちになった…誰でも実践できる“バリュー投資”の基本の『き』」)で説明したとおり、PERが10倍以下の会社を選ぶということは、収益に対する「安全域」を確保するということです。株式益回りにすると、10%以上ある会社を選ぶということです。
バリュー投資を始めた時、私はこれらルールを「買い」の基準の1つとして、ポートフォリオを組み替えました。
■株主資本利率で「倒産しにくい会社」を見極める
株式投資をしたことがない人が必ずいう言葉が、「株を買った会社が倒産したら株式は単なる紙クズになってしまう」ということでしょう。上場会社が倒産するというのはそれほど多くはありませんし、財務諸表をきちんとみて投資をしていれば、倒産するような会社の株を買うこともないでしょう。
実は、私も倒産してしまうような会社の株を買ってしまうのがこわいので、財務諸表から安全性の高い会社をみつけようとしています。そのときの指標にするのが株主資本比率で、自己資本比率ともいいます。
企業の賃借対照表(バランスシート、B/S)の借方(左側)には資産、貸方(右側)には負債と資本が記されています。負債は他人資本ともいい、期限が来れば必ず返さなければなりません。これに対して、資本(資本金、資本準備金、利益準備金及びその他剰余金の合計)は、株式市場から直接調達した資金と会社が活動した結果蓄えられた利益なので、返済する必要のないお金です。株主資本は「自己資本」あるいは「純資産」と呼ばれることもあります。
株主資本比率は、株主資本を総資本(他人資本+株主資本)で割ったもので、すべての資本のなかで返済する必要のない資本がどれくらいあるのか、その比率をみるものです。したがって、株主資本比率が高いということは、返済する必要のない安定した資本で事業を行っているわけなので、財務体質はよいということができます。
一方、株主資本比率が低いということは、返済期限のある負債の比率が高いということになります。支払利息などのコストがかかるだけでなく、銀行がその企業に貸しているお金を引き上げるようなことになれば、借り換えなどをしなければなりませんし、それができない場合は会社が行き詰まってしまうこともあります。
このように、株主資本比率の水準が高いか低いかをみれば、その会社の財務の安全性がある程度判断できます。また、一般的には収益性が高い会社ほど株主資本比率が高く、収益性の低い会社ほど株主資本比率が低いという傾向があるといわれています。
私は、原則として株主資本比率60%以上を銘柄選びの1つの目安にしています。ただ、株主資本比率だけで決めるわけではないので、さまざまな項目をチェックしたうえで50%を超えていれば、その銘柄を買うことはあります。
■会社の規模にも着目を
株主資本比率が60%以上ならばどんな会社でもいいのかというと、実はここにもう1つの条件を設けています。自己資本比率が60%以上の会社というと、借金があったとしても非常に少ないか、ほとんど無借金で経営ができている会社といっていいでしょう。
ですから、こうした会社は倒産する可能性はきわめて低いといえます。しかし、それなら株主資本比率が60%以上ある会社ならどんな会社でもいいかというと、私はそうは考えていません。
会社にはある程度の規模がないと、経済環境やその業種の好不調によって大きな影響を受けることがあります。好不調の波をモロに受けると、収益が不安定になり、短期間のうちに借金があれよあれよと増えて、株主資本比率が急激に下がっていくということもあります。
そうなると、倒産の不安も出てこないともかぎりません。そのリスクを避けるため、私はある程度の規模会社を選ぶことにしています。
私の基準は「時価総額30億円以上の会社」です。これは私の基準であって、人によっては時価総額は50億円以上とか、100億円以上じゃないと手を出さないという人もいるでしょうね。しかし、自分なりの基準を作ることは大切なことです。
■値上がり益だけでなく配当もある程度狙う
株式投資には株価の値上がり益(キャピタルゲイン)を狙うやり方と、預金金利よりも有利であれば配当を狙うやり方があると、一般的にはいわれています。どちらかというと、キャピタルゲインを狙う投資方法はわりあいに短期で売買を繰り返し、配当金を狙う投資方法は長期に保有するといわれます。
バリュー投資も、第一義的にはキャピタルゲインを狙うわけですが、長期間保有することになった場合、配当利回りがよければパフォーマンス(運用利回り)に貢献してくれます。
そのため、その間のキャピタルゲインだけでなく、配当に関しても基準を設けています。配当の利回りは1株の取得価額に対して配当金がいくらかということで計算します。1株500円で買った株の配当金が6円だったとしたら、配当の利回りは6円÷500円×100で1.2%となります。
グレアムは長期国債の3分の2以上の配当利回りを、基準の1つだといっています。現在のアメリカの長期国債(10年もの)の利回りは4%ほどなので、グレアム基準でいけば配当利回りは2.6%以上なければなりません。
日本の場合は国債の利回りが低いという事情があります。日本の10年もの長期国債の利回りは1%程度なので、これをグレアム基準に合わせると配当利回りは0.66%以上ということになります。この数字では低いので、私は独自に2%以上という数字を基準にしています。
これまで、日本の会社は業績に関係なく配当してきましたが、最近では業績に連動して配当を増やしたり減らしたりすることが多くなってきました。そこで、「大幅な減収がなく、配当金が引き下げられる恐れの少ない会社」であるかどうかもチェックするようにしています。
■自社株消却を過去に行っている会社はポイントが高い
私が機械的に銘柄を選ぶときの基準に「自社株買いをして、それを消却している会社」というのがあります。自社株消却をすると、投資家にはいったいどのようないいことがあるのでしょうか。わかりやすく例を挙げて説明してみましょう。
ここにABC製作所という会社があります。この会社の株価は1600円で、1株あたり200円の利益をだしていたとします。そのときに、この会社の時価総額は80億円でした。つまり、80億円あればこの会社を丸ごと買えるのです。
ところが、この会社はキャッシュだけで80億円持っていました。ABC製作所は手持ちのキャッシュ80億円の半分にあたる、40億円を使って自社株消却を行ったとします。この会社の発行済み株式数がいくらあるかはおいておくとして、今ある発行済み株式数の半分はなくなってしまうのですから、これまで1株利益は200円だったのが、2倍の400円になります。株主にとっては1株の利益が2倍になり、さらに1株あたりの現金は変化しないので、株主価値が高まることになります。
■余裕資金で株主価値を高めるアクション
魔法のようですが、割安に評価されている会社が積極的に自社株消却をすると株主価値は高まります。自社株が割安なときに積極的に自社株消却を行う経営陣は、少なくとも資本の効率的な使い方をよく知っているといっていいでしょう。
株主価値を高めるには、これまでの事業をさらに伸ばして1株利益を上げていくというやり方のほかにも、新規事業を行ったり、ほかの会社を買収したりして利益を上げていくなど、いろいろな方法があります。
伸び盛りの会社の場合は事業を拡張するために資金が必要になりますから、利益をまず事業につぎ込んでいくため、手持ち資金はそれほど多くはないかもしれません。
ところが、当面事業拡張の予定がなくて、手持ち資金が積み上がっている割安な会社の場合は、株主価値を高めるには自社株消却が一番いいと、私は思っています。余裕資金を使うだけで株主価値が高まるわけで、投資家にとってはうれしいことです。ですから、私は自社株消却をする会社は高く評価します。
■消却した株数ではなく比率で判断する
ここで注意したいことがあります。A社の発行済み株式総数は1億株で、B社の発行済み株式総数は1000万株だとします。両社とも100万株の自社株消却をしました。どちらがより評価されるでしょうか。
自社株消却した株式数は同じですが、A社の場合は1億株のうちの100万株なので、比率にすると1%です。ところがB社は、1000万株のうちの100万株ですから、自社株消却した割合は10%になります。
同じ株式数を消却することによって、A社の株主は約1%だけ株主価値が上昇したが、B社の株主は約11%も株主価値が上昇したということになります。この場合は、B社の経営者のほうが、少なくともA社よりは、株主のほうを向いて経営しているといってもいいでしょう。したがって、B社のほうがA社よりも評価できます。
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愛知県在住。サラリーマンとして大手自動車系子会社に勤務するかたわら、年収アップを目指し、株式投資を始める。ウォーレン・バフェットの株式投資方を研究。バフェットの師匠であるベンジャミン・グレアムとウォーレン・バフェットの両方の手法をとりいれた投資(バリュー投資)を実践する。
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(バリュー投資家 しん)
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