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ガソリンスタンドが半減したのはEVのせいではない…日本企業に共通する「少ない、安い、いない」の三重苦

プレジデントオンライン / 2024年8月8日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

ソリンスタンドが減り続けている。経営コンサルタントの石原尚幸さんは「ガソリンスタンド業界はほかの業界より早く需要減、価格競争、後継者難という3つの問題に直面した。現在、生き残っている店舗から日本企業が学べることは多い」という――。

■ガソリンスタンドがどんどん姿を消している

ガソリンスタンド(以下、GS)減少傾向が止まりません。ピーク時は6万カ所を超えていたGSは2022年度末現在2万7963カ所と、30年で半減しました。近所のGSが突然閉店してしまった……という体験を多くの人がしているのではないでしょうか?

【図表】全国の給油所数&セルフSS数(内数)
筆者作成
出所:経済産業省/石油情報センター - 筆者作成

実は、この「GS減少傾向」には日本企業が抱える問題点が凝縮されています。裏を返せば、GS減少傾向の要因がわかれば、日本企業が抱える問題点がわかり、かつ、この問題を解決するためのヒントも得ることができます。

そこで、石油業界出身で、長年GS特約店の経営コンサルティングを行っている筆者が、「GS減少傾向」の背景を解き明かし、停滞する日本企業が再浮上するための処方箋を提示します。

■都心部では若者の「クルマ離れ」が深刻

GS減少傾向は次の3つの要因で説明ができます。

1.人口減少と技術転換に伴う需要の減少
2.価格競争によるマージンの低下
3.人材難
1.人口減少と技術転換に伴う需要の減少

ガソリンの需要は2005年をピークに減少を続けています。この背景には、人口の減少と技術転換があります。日本の総人口は既に減少傾向にあり、高齢化も進んでいます。現状維持を続けてきた自動車の保有台数も減少しつつあり、カーシェアの普及も相まって、都心部では若者のクルマ離れが顕著です。

さらに、技術の進歩によりハイブリッドに代表される高燃費車の普及が需要減少に拍車を掛けました。近年では、電気自動車(EV)の普及が加速していますが、それでも国内におけるEV販売台数は国内販売台数(約420万台)の2%程度のため、一部メディアで騒がれるほど、需要へのインパクトは現段階ではありません。

しかし、政府は2050年までにカーボンニュートラルを達成するために、EVの普及を推進しています。これにより、ガソリンの需要の減少は今後も進むと予測されます。

■“子どもの小遣い”レベルの低利益ビジネスに

2.価格競争によるマージンの低下

価格競争が激化していることも要因になっています。ガソリンは汎用品であること、(当然ですが)味見できないこと、この2つの要因が重なることで差別化が困難な商品です。これに先に述べた需要減少が重なったことで、限られた需要の奪い合いが起こり、消費者にとってわかりやすい「価格」が差別化ポイントとなってきました。

事実、隣のGSより1円/リットル安く売るだけで販売量は飛躍的に伸びます。この事実に基づき、2000年台初めには外資系石油会社を中心に「他店より安く売る」という方針が出され、業界全体を巻き込んだ価格戦争へと発展していきました。

この結果、GS側のマージン(1リットル当たりの利益)は10円/リットル以下となり、満タンで給油してもらっても“子供の小遣い“程度の利益しか残らない、低収益ビジネスへと転落していきました。

ガソリンスタンドの価格掲示板
写真=iStock.com/Tom-Kichi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tom-Kichi

■「募集すれど誰も来ず」で閉店するしかない

3.人材難

さらに、人材難も大きな要因です。まずは経営者。多くのガソリンスタンド特約店は家族経営であり、後継者がいない場合、事業を継続することが難しくなります。

上記1、2で見てきたように、GSを取り巻く環境は決して楽なものではなく、安易な気持ちで事業を継承できる事業ではありません。事業を受け渡す側からすれば、後継者に自分と同じ苦労をさせたくないとの気持ちがあり、事業をもらう側としても、将来性が見えづらい事業をもらっても、その事業を成長発展させていくだけの器量が自分にあるかを考え、躊躇する後継者も多くいます。

さらには、整備士の減少とGSの職場環境へのマイナスイメージ(外で働く、その割には報酬が少ない等)から、現場スタッフの人材難が顕在化しています。以前は募集すれば集まった中途採用も、ここ数年は「募集すれど誰も来ず」といったGSもあります。結果、事業としては存続の可能性がありながらも、経営者不在、スタッフ不足で閉店に追い込まれている店舗も散見されます。

以上3点がGS減少問題の要因です。

整理すれば、需要減、価格競争、人材難、いわば「三重苦」です。1997年トヨタハイブリッド車販売開始、1998年セルフスタンドの解禁を号砲に、2000年代初頭から現在まで、GS業界はこの三重苦にどの業界よりもいち早く直面してきました。

6万カ所あったGSは3万カ所を切りましたが、逆を言えば、残りの半分は生き残った強くたくましいGSです。この三重苦を乗り越えたGSの共通点はどこにあったのでしょうか?

■「油外収益」を獲得できた店が生き残った

筆者は「既存顧客と既存商品を生かした新規事業の創造」にあると見ています。

石油メーカーはガソリンのスペックでの差別化を試みた時期もありますが、当然失敗しています。GS側ではガソリンの差別化は早々にあきらめ、ガソリン以外の商品の販売に力を注いできました。

具体的には、オイル、バッテリー、タイヤ等の整備商品から、洗車、コーティング、車検、中古車販売、さらには新車販売、レンタカーまで取扱い商品を拡大しています(業界では油以外の収益という意味からこれら商品群を「油外収益」と呼びます)。

油外収益を上げていくためには、カーディーラーや整備工場との競争となるため、高いスキルと営業力が求められます。これらのスキルを兼ね備えることができたGSは事業を成長発展させてきましたが、この競争についていけなかったGSは残念ながらガソリンの低マージン化の波をもろに受けてしまい、徹底を余儀なくされました。

現在でもこの流れは続いており、油外収益を上げられるか否かでGSの存続は決まっています。新規事業の創造は言うは易く行うは難し。たくさんの失敗を見てきました。その中で成功した新規事業は、図表2の2軸から生まれています。

【図表】既存顧客と既存商品を生かした新規事業の創造
筆者提供

縦軸に商品(上が新商品、下が既存商品)、横軸に顧客(左が既存顧客、右が新規顧客)を取ります。この時に、

①既存顧客に既存商品を売る が既存事業、

②既存顧客に新商品を売る
③既存商品を新規顧客に売る
④新商品を新規顧客に売る が新規事業となります。

■GSでパンやたこ焼きを売っても失敗する

メディアで取り上げられやすいのは④。新商品を新規顧客に売る真新しく見えますから。ですが、かなりの確率でこの事業は失敗します。GSでは、パン屋、パスタ屋、たこ焼き屋、コンビニを新規事業として立ち上げましたが、すべて失敗に終わりました。

ノウハウのない新しい商品を自社に導入するだけでも大変なのに、並行して新しい顧客を見つけてこなければならず、そのためにはコストもかかります。結果、成功するまで時間と資金を投入し続けられなかったことが失敗の原因です。

それでは、どうすれば成功確率を高められるか。

それは、②既存顧客に新商品を売ることから始めることです。ビジネスで最もコストがかかるのが新規顧客の開拓です。そのコストを使う前に、目の前にいるお客さんが困っていそうなこと、欲しがっているものを見つけ、提供してあげることが最も成功確率の高い新規事業です。

これは地味ですが強力です。マクドナルドで「ポテトいかがですか」と言うのと同じです。GSではガソリン給油客に、洗車、コーティング、車検、買い替え時の中高車販売を提案し、事業化に成功しています。

■女性に選ばれる店づくりで新規顧客を開拓

②が成功した段階で、③へ移行します。既存顧客に新たな商品の導入が成功した後、このビジネスモデルを新たな顧客へ横展開していくことで、収益源を増やすことが可能となっていきます。

GSの場合、2つの横展開を図っています。1つは物理的な横展開、新規出店です。新規出店を行うことで、同じビジネスモデルを新たなエリアの顧客へ広げられます。また、もう1つは客層の横展開。既存のGSは来店客が男性中心でしたが、女性ドライバーの増加に対応すべき、女性にも受け入れられる店づくりやサービスを行った結果、客層の拡大にも成功しています。

また、新たな事業を行っていくことで、人材難の解決の糸口も見出せます。斜陽産業の中で沈みゆく業界とみられていることが人材難の大きな要因でした。そのため新しい事業にチャレンジし、そして成功を収めることで、企業の魅力を高め、新しい人材を確保することもできるようになってきました。

以上、「既存顧客と既存商品を生かした新規事業の創造」を行ったことで、需要減、価格競争、人材難の問題をクリアし、生き残ってきたのが現存するGSたちです。

■「生き残ったガソリンスタンド」から学べること

GSが直面してきた「三重苦」は今後の多くの業界が直面する問題です。日本の人口減少と顧客の高齢化は、多くの業界で消費者需要を減少させています。そして、その限られたパイの中で顧客を奪い合うことで、熾烈な価格競争を繰り広げてきました。コロナ禍前までのデフレは価格競争の顚末(てんまつ)と言えます。

さらには、経営者の高齢化も進み、2023年時点の社長の平均年齢は60.5歳(帝国データバンク2024/4/12記事より)と、ついに60歳を超えました。そして、後継者不足であると回答した企業は実に65%(出典:2020年、株式会社帝国データバンク、「全国企業『後継者不在率』動向調査」)、3分の2の会社で後継者がいないのが実態です。

需要減、価格競争、後継者難、この3つの問題を解消しない限り、日本企業が今の踊り場状態を脱し、再浮上することは困難です。

GS業界ではほかの業界よりいち早くこの3つの問題に直面し、トライアル&エラーを繰り返し、この問題を乗り越えてきました。ここで挙げた「既存顧客と既存商品を生かした新規事業の創造」の着眼点を参考に、自分の業界、自社では何ができるのかを考えてみてください。

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石原 尚幸(いしはら・なおゆき)
経営コンサルタント、プレジデンツビジョン社長
1973年、愛知県生まれ。上智大学経済学部経営学科卒業後、出光興産に入社。2008年、34歳の時に独立起業。2012年法人化し、プレジデンツビジョンを設立。経営者・士業、120社のコミュニティ「五つ星★メンバーシップ」を主宰。「東洋経済ONLINE」、『月刊ガソリンスタンド』などメディア出演多数。著書に『社長! お金は「ここだけ」押さえれば会社は潰れない 2枚のシートで利益とキャッシュを確実に残す!』(ダイヤモンド社)、『父が子に伝える 13歳からのお金に一生困らないたった3つの考え方』(三笠書房)がある。

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(経営コンサルタント、プレジデンツビジョン社長 石原 尚幸)

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