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「健康被害を受けた人たちは確実に救済されるのか」小林製薬"紅麹サプリ問題"で露呈した残念な企業体質

プレジデントオンライン / 2024年8月5日 16時15分

「紅こうじ」サプリを巡る問題で、記者会見する小林製薬の小林章浩社長(奥から2人目)=3月、大阪市 - 写真=共同通信社

■会長と社長の辞任を決めたものの…

紅麹サプリメントによる健康被害問題で、小林製薬の対応に対する批判が収まらない。同社は、「事実検証委員会」の調査報告を受けて7月23日に「取締役会の総括」を公表、小林一雅会長(84)と小林章浩社長(53)の辞任を決めた。

これで一応の幕引きを図ろうとしたのは明らかだったが、7月26日には厚生労働省から「小林製薬株式会社からの報告に係る不備について」という文書が出された。同社の紅麹を使った食品などを製造・販売していた企業などに自主点検を求め、それを厚労省に報告していたが、製造だけを行って一般向けに販売していない会社を報告対象から除外していた、というものだった。

また同日、小林製薬がホームページで公表した「コーポレートガバナンス報告書」で、辞任した小林一雅前会長が就任した「特別顧問」の報酬が月額200万円で任期が3年であることが“発覚”。テレビなどがそれを一斉に報じた。通常の顧問は月額50万円でその4倍を支払うという話に、「本気なのか……引責辞任した人が『報酬毎月200万円』の新役職 紅麹問題の小林製薬 補償、反省は大丈夫?」(東京新聞)といった批判の声が上った。

■死亡者数を「隠していた」印象を与えた

問題発覚時点から、小林製薬の対応は後手に回ってきた。

小林章浩社長が記者会見を開いて健康被害を公表したのは3月22日。ところが、紅麹サプリの摂取者に腎疾患の症状が出ていることを同社が最初に把握したのは1月15日だったことも明らかになった。原因究明に時間がかかったというのが理由だが、健康被害を防ぐという意味では、即時に公表すべきだったろう。

記者会見4日後の26日には厚労省が、サプリ摂取との因果関係が疑われる死亡例が新たに1人増え、2人になったと発表。入院した人は106人に上ることも判明した。これを受けて29日にも小林社長氏が記者会見をし、同日時点で摂取後に死亡した疑いがある人は5人としていた。

その後は小林製薬は記者会見を開かないまま、次々に問題が発覚していく。5人としていた死亡者が6月に入ると新たに76人もいることが判明、その後100人を超えたのだ。もちろん全てにおいて因果関係がはっきりしたわけではないとはいえ、その数を「隠していた」という印象を世間に与えた。

■現場の報告が届かないか握りつぶされる「社風」

結局、この後手後手の対応は、小林製薬という会社の企業体質なのだということが明らかになってきた。

7月23日に公表した「事実検証委員会」の報告書でも、聞き取り調査の結果、紅麹を培養するタンクの内側に青カビが付着していたと品質管理の担当者に伝えたところ、青カビはある程度混じることがあると告げられたという証言があったという。結局、紅麹サプリによる健康被害は製造工場で発生した青カビが原因だったと見られているが、現場から報告が上がっても、それがきちんと経営層に届いていないか、途中で握りつぶされるのが「社風」だったということなのだろう。

たくさんのオレンジのメガホンに混じる目立つ青い色のメガホン
写真=iStock.com/Eoneren
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Eoneren

取締役会の総括では、「組織的に隠蔽しようとする意図や行為は確認されなかった」とした一方で、健康食品の安全性に対する意識が不十分だったとし、健康食品の摂取による健康被害発生時における行政報告や製品回収の判断基準が曖昧にしか定められておらず、実際に本件事案が発生した後、行政報告を行うのは「因果関係が明確な場合に限る」との安全管理部における従前からの解釈基準を採用していたとしている。あたかも消費者庁の基準が曖昧だったから報告しなかったと言わんばかりの総括に、武見敬三厚労相は「完全に自分勝手な解釈。ガバナンスの問題だ」と強く批判していた。

■社外取締役が十分に機能したとはいえない

総括では、取締役会や社外取締役に報告されていなかったとしたが、まさにこれはガバナンスの問題だ。創業家の会長社長が絶対的な力を握っている中で、マイナス情報を耳に入れることができないムードがあったのではないか。

だが、マイナス情報がトップや取締役の耳に入らないとしたら、ガバナンスが効くはずなどない。この問題が起きる前の同社の取締役会構成は7人で、社外取締役4人と過半数を占める。社内の3人のうち2人が創業家の会長と社長だから、残る1人はまったく会長社長の言いなりだったと想像できる。本来ならここで4人の社外取締役が監視監督機能を担うはずだが、創業家の意向で選ばれた人たちなのか、今回、社外取締役が十分に機能したとはいえない。

社外取締役は一橋大学名誉教授の伊藤邦雄氏や、イー・ウーマンの創業者の佐々木かをり氏など著名人を揃えている。伊藤氏はコーポレート・ガバナンスの第一人者と言われてきた人物だが、小林製薬や健康食品産業に詳しいわけではない。佐々木氏なども他に複数の社外取締役を務めていて多忙極まりない人たちだ。紅麹サプリ問題が3月に公表、大問題となった以降も、社外取締役が主導して真相解明や危機管理に当たったようにはまったく見えない。

■東芝などでも指摘されてきた体制の問題

取締役会の過半数を社外取締役が占める体制は一見、ガバナンスのお手本のように見えるが、絶対的な権力者である創業家出身者の常勤取締役が会長、社長を占めている中で、業務に明るくない社外取締役が具体的な事業内容に口出しできる可能性は低く、結果的に会長、社長の独裁を助長する形になるのは、東芝などの例でも指摘されてきたことだ。

さらに、世間を唖然とさせた月額報酬200万円の特別顧問就任や、小林前社長を取締役として残留させることを決めたのは、社外取締役が過半数を握る取締役会の議決だったはずだ。この議案に反対したと公表している社外取締役はいないし、この体制が問題だとして辞任した人もいない。つまり、ガバナンスが効かなかった最大の責任者である会長、社長を取締役会から更迭することも社外取締役はできなかったどころか、特別顧問就任におそらく揃って賛成したのだろう。

驚くべきことに、会長社長の辞任を決めて発表したにもかかわらず、小林製薬はその日、記者会見を開いていない。メディアの前で頭を下げるのが嫌なのか、あるいはメディアに突っ込んで質問されることに答える自信がないのか。

■不祥事への対応が会社自体の存続を左右する

これでは到底、幕引きとはならないだろう。2023年に問題になったビッグモーター問題では、創業家が退場するだけにとどまらず、結局は会社を身売りせざるを得なくなった。ジャニーズ事務所も、創業一族の社長が会見に現れなかったことが批判を浴び、結局、会社が解体されることになった。不祥事が起きること自体はある意味仕方がない面もある。だが、その後のメディア対応や、外部に対する説明責任をどう果たすか、その姿勢が極めて重要になる。その対応を誤ると、会社自体の存続が危ぶまれる事態に陥るということである。

ジャーナリストたちからインタビューを受ける女性
写真=iStock.com/AleksandarGeorgiev
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AleksandarGeorgiev

小林製薬がこれまでの対応を十分に反省して、説明責任を果たそうとしているようには見えない。社長には創業家ではない山根聡専務が昇格したが、創業家以外の唯一の社内出身の取締役として、今回の対応で最も責任を問われるべきひとりであることは間違いない。まして、前会長が特別顧問として残り、前社長が取締役会のメンバーにいる中で、今までの社風を否定することなどあり得ないだろう。今後、小林製薬のガバナンスがどうなっていくのか。危機は乗り越えられるのか。健康被害を受けた人たちは確実に救済されるのか。杜撰な管理体制が根付いていた現場の作り直しは進むのかなど、問題はまだまだ山積している。

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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。

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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)

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