1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

赤ちゃんに「じっと見られる人」「すぐ泣かれる人」の違いは何か…人間の本能に備わる「魅力的な顔」の条件

プレジデントオンライン / 2024年8月11日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/west

人間が「美しい」と感じる顔には、どのような特徴があるのか。ペンシルヴァニア大学認知神経科学センターのアンジャン・チャタジー教授は「美しい顔には、『平均性』『対称性』『性的二型(男女を外見的に区別する特徴)』という3つの要素がある。赤ん坊でさえ、そうでない顔のときよりも長く『平均した』顔に目を向ける」という――。

※本稿は、アンジャン・チャタジー『なぜ人はアートを楽しむように進化したのか』(草思社)の一部を再編集したものです。

■発端は「犯罪者の典型的な容貌」を調べる研究だった

狭量な偏見は別にして、顔の魅力を測定するのに信頼できる方法はあるだろうか。顔の魅力にかかわるパラメーターは3つあるが、いずれも民族の壁を超えた普遍性をもつ。第1のパラメーターは平均性で、第2のパラメーターは対称性である。いずれも男女ともにあてはまる。一方、第3のパラメーターは男女を外見的に区別する特徴、すなわち性的二型だ。

魅力の尺度として平均性が発見されたのは偶然だった。キャサリン・ブラックフォードが白い肌をポジティブと見なすより早く、フランシス・ゴールトンは特定の顔の特徴が特定の性格特性を表すかどうかに関心を抱いた。ゴールトンはダーウィンのいとこで、優秀な統計学者、人類学者、探検家だった。統計的相関性や指紋法を発明したのは彼である。

優生学も唱導し、犯罪者の顔に共通する特徴を見出せないかどうかに関心をもった。「謀殺、故殺、暴力行為を伴う強盗で有罪判決を受けた」多数の犯罪者の顔を1枚の写真乾板の上に重ね、合成された顔から犯罪者の典型的な容貌を明らかにしようとした。ところがゴールトンが見出したのは犯罪の黒幕の顔ではなく、合成の素材とした個々の顔よりも合成された顔のほうが魅力的になるという事実だった。

■「平均した顔=平凡な顔」ではない

ゴールトンは、平均した顔立ちが魅力的であることを発見した。現代の研究方法により、この予期せぬ発見の正しさが証明されている。「平均した」顔は平凡な顔とは違うということをはっきりさせておく必要がある。平均した顔は、鼻の幅や両目の距離といった特徴が統計的に平均されたものとなっている。

かつては平均化実験の妥当性について疑念の声があった。合成した顔は個々の顔の線がぼやけ、若く見えるという点が問題視された。ファッション写真家がしばしば用いるソフトフォーカスのぼかしと同じ効果が生じていたのだ。しかし最近のコンピューター技術により、この方法に伴う問題が回避され、集団の中心的な傾向を表す顔が個々の顔よりも魅力的に感じられることがはっきりした。赤ん坊でさえ、こうした「平均した」顔を見せられると、そうでない顔のときよりも長くその顔に目を向ける。

■一卵性双生児でも顔の「対称性」は違う

顔の魅力の定量的なパラメーターとしてはもう1つ、対称性もある。人類学者のカール・グラマーと生物学者のランディー・ソーンヒルは、顔の幾何学的中心の左右両側にあるさまざまな顔のパーツ間の距離を測ることで顔の対称性を調べた。その結果、この対称性指数は男女の顔の魅力に関する評価と相関することが明らかになった。

これ以降に行われた数々の実験でも、この結果が裏づけられている。一卵性双生児の写真を使って、対称性の効果に焦点を当てるというおもしろい実験も行われた。当然ながら一卵性双生児はそっくりに見えるが、その顔にはじつは微妙な違いがある。遺伝子が完全に同一であっても、環境への曝露は同一ではないのだ。研究者らはまず、双生児の顔を比べて、対称性が高いのはどちらかを判断した。そして対称性が高いほど、魅力的と思われる度合いが高いことが判明した。つまり双生児の顔においては、多くの点で似ているにもかかわらず、対称性が魅力の度合いに影響していた。

性的二型とは、性別によって生じる形態的特徴の違いを指す。すでに見たとおり、平均性と対称性は男女どちらの顔についても魅力の度合いに影響する。一方、男女の魅力のあり方に違いをもたらすものは何なのか。性的二型の形態的特徴をもたらすのは、性ホルモンのエストロゲンとテストステロンだ。エストロゲンが女性的な特徴をもたらすのに対し、テストステロンは男性的な特徴をもたらす。文化を問わず、異性愛者の男性は女性の女性的な特徴に魅力を覚える。

■ミッキーの「見た目」は80年間変わり続けている

エストロゲンの作用で生じる形態的特徴は、赤ん坊の顔の特徴と似ている。赤ん坊のように感じられる顔は眼が大きく、眉が薄く、額が広く、頬が丸く、唇がふっくらし、鼻が小さく、顎も小さい。

これらの「愛らしい」特徴は人に好まれる。ウォルト・ディズニーもこの事実を利用した。1928年、ミッキーマウスが映画『蒸気船ウィリー』でアニメーションとしてのデビューを果たした。このときのミッキーは、細長くしなやかな体つきだった。しかし1935年には、アニメーターがミッキーマウスに洋梨型の胴体を与え、眼に瞳孔を加え、鼻を低くした。ミッキーマウスをめぐって興味深いのは、彼がどんどん赤ん坊のようになっていることだ。頭と眼が大きくなり、手足は短くなり、80年間に歳を重ねてもなお、その変化は止まらない。

初期のミッキーマウス(1928年)
写真=WALT DISNEY/Ronald Grant Archive/Mary Evans/共同通信イメージズ
初期のミッキーマウス(1928年) - 写真=WALT DISNEY/Ronald Grant Archive/Mary Evans/共同通信イメージズ

成人男女の顔の写真を加工して、もっと赤ん坊のように見せたり、逆に赤ん坊らしさを弱めたりすることができる。この操作は魅力の度合いに影響するだろうか。男性は、実年齢より若く見えて赤ん坊のような特質を備えた女性をより魅力だと感じる傾向がある。広い額、大きな眼、小さな鼻、ぷっくりした唇、小さな顎をもつ女性を好む。これらの特徴はエストロゲンの豊富な状態と関連し、女性の生殖能力を表す。

ただし男性は、赤ん坊の特徴の1つであるふっくらした頬を成人女性が備えていても魅力を覚えない。むしろ成熟のしるしである突き出た頬骨を好む。どうやら男性は、若さと生殖能力を表す特徴を好むが、そこにいくらかの性的成熟も求めるらしい。

■平均的な顔立ちよりも「特徴の誇張された顔立ち」

女性の特徴の平均性について語る場合、はっきりさせるべき点が1つある。平均した顔は非常に魅力的だが、際立って魅力的というほどではないのだ。平均した顔はしばしば美人コンテストでは優勝できるが、たいていのファッション雑誌の表紙を飾るスーパーモデルの顔とは違う。

心理学者のデイヴィッド・ペレットは、集団全体を合成した女性よりも集団内で上位の容姿をもつ女性たちを合成した女性のほうが魅力的であることを示している。スーパーモデル級の魅力的な女性は、平均的な顔立ちではなく特徴の誇張された顔立ちをしている。平均よりも眼は大きく、顎は細く、口から顎先までの距離が短い。これらは女性の顔を男性の顔から区別する特徴を誇張したものだ。スーパーモデルの顔はしばしば少女に典型的な顔立ちで、ときには10歳にも満たない少女のような顔立ちの場合もある。

異性愛者の女性が男性のどこに魅力を覚えるかとなると、話はさらにややこしい。どの文化でも、魅力を覚える要素を挙げてもらうと、女性は男性ほど身体的な魅力を重視しない。男性ほど視覚的な要素に動かされないのだ。

計算論的神経科学者のオギ・オーガスとサイ・ガダムは愉快な著書『性欲の科学』(坂東智子訳、阪急コミュニケーションズ)において、大量のエビデンスを集めてこの点を明らかにしている。2人の利用するデータは、「何よりも大事で私的な行動の1つである“性的欲求”を再検証するための世界最大の行動実験」で集めたものだ。インターネット検索を分析し、ウェブ上で男性と女性がどんなことを検索しているのかを調べた。仮想世界での欲望については、驚くほど明確な性差が見られる。

■「権力は究極の媚薬だ」

男性は圧倒的にポルノを検索する。動画は視覚的に生々しいが、プロットや感情を喚起する要素はあまり含まれない。対照的に、女性は圧倒的にEロマンスサイトを検索する。Eロマンスサイトとは、ヒーローの男性を中心に展開するロマンスの物語を紹介するサイトだ。男性に対する女性の欲望は、容姿以外にもさまざまなシグナルから形成される。女性は男性よりも地位、権力、富、守り与える力を重要視する。ヘンリー・キッシンジャーは、外見的な美しさで知られる男性ではなかったが、しばしば若く非常に魅力的な女性を連れていた。「権力は究極の媚薬だ」というのが彼の言い分だった。

ヘンリー・キッシンジャー
ヘンリー・キッシンジャー(写真=David Hume Kennerly/Gerald R. Ford Presidential Library and Museum/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons)

どんな人に魅力を覚えるかという点で、女性は男性より複雑だが、それでも男性のもつ特定の形態的特徴に反応する。テストステロンは、大きく角張った顎、こけた頬、濃い眉をもたらす。女性は一般にこれらを備えた「男性的」な顔を好み、この嗜好は文化を問わず広く見られる。僻地の森林で暮らすクン・サン族でも、がっしりした顎や強靭な体に恵まれた男性のほうが多数の性的パートナーをもつ。

■「あまりにも男性的な顔」は女性から敬遠される

しかし、女性が男性的な特徴に魅力を覚えるのは、あるレベルまでだ。男性の顔があまりにも男性的だと、女性は傲慢さを感じる。がっしりした顎をもつ男性は傲慢だという印象は多くの文化で観察され、事実から隔たってもいないかもしれない。ウエストポイント陸軍士官学校の生徒は、在学中にも勤務を始めてからも、顔立ちが男性的である者のほうが女性的な容貌の同級生よりも軍人としてのヒエラルキーで上位に立てる。

子育てを手伝ってくれる安定したパートナーを求める女性には、あまりにも傲慢な男性は長期的なパートナーとして最善の選択ではないかもしれない。そのような男性は、人間関係や家族に関心を寄せないかもしれない。そのため、女性は男性的な特徴にいくらかの女性的な要素を併せもつ顔を好む。男性的な顔にやや女性的な要素が加わると傲慢さがやわらぎ、そのような顔の男性は温かく、気持ちのうえで頼りになり、人間関係を大事にする人物であるように感じられる。

女性が男性に魅力を覚える要素をめぐって興味深い微妙な特性として、月経周期によって好みが変わるという点もある。この変化は「排卵シフト仮説」と呼ばれ、人間における魅力研究で得られた確固たる発見の1つとなっている。若い女性は短期のパートナーと長期のパートナーのどちらを求めているかによって、異なるタイプの男性に魅力を覚える。

■魅力は「コンテクスト」によって変化する

短期のパートナーを考えている場合、女性は男性的な外見の男性を求める。この傾向は、排卵の直前で妊娠する可能性が最も高い時期になると特に強まる。これに対し、長期のパートナーに関する好みには、月経周期による変動は生じない。短期のパートナーへの好みが排卵に伴って変動することの意味については、魅力に関する好みを動かす進化上の理由について詳しく論じるときに改めて触れたい。

顔の美しさに関する知見をまとめるなら、子どもも成人も、文化を問わず、同じ評価パラメーターに対して同じように反応する。男性でも女性でも子どもでも、平均的で対称的な顔におそらく魅力を覚える。男性と女性で異なる特徴も、その違いが強調されたときに魅力的に感じられる。

アンジャン・チャタジー『なぜ人はアートを楽しむように進化したのか』(草思社)
アンジャン・チャタジー『なぜ人はアートを楽しむように進化したのか』(草思社)

人を見るコンテクストによって、その人に感じる魅力の度合いが変わる。のちほど見るが、コンテクストは快感に強く影響する。女性にとって、男性が魅力的に感じられるかどうかに影響するコンテクストは、権力や地位かもしれない。女性が男性の形態的特徴に目を向ける場合、一時的な情事の相手を求めているのか、それとも人生をともに歩む相手を探しているのかがコンテクストを形成するかもしれない。女性が排卵期に近いかどうかによっても、コンテクストは変化する。

われわれが人に魅力を覚える場合、その人の体についても考える。たいていの文化では、露出した顔ほど頻繁に裸体を見る機会はない。しかし顔の魅力にまつわる原理に生物学や進化のかかわる基盤があるのなら、『なぜ人はアートを楽しむように進化したのか』(草思社)でのちほど見るとおり、同様の原理が人の体に魅力を与えるパラメーターにもあてはまることが期待できる。

----------

アンジャン・チャタジー(アンジャン・チャタジー)
ペンシルヴァニア大学認知神経科学センター教授
神経科学、心理学、神経美学、脳科学を専門に研究している。2002年、米国神経学会よりノーマン・ゲシュウィンド賞(行動・認知神経学部門)を受賞。

----------

(ペンシルヴァニア大学認知神経科学センター教授 アンジャン・チャタジー)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください