介護しなかった弟の妻が94歳母にコソコソ遺言書を書かせ財産を“横領”…粉骨砕身の71歳姉が泣き寝入りの訳
プレジデントオンライン / 2024年8月25日 9時15分
■仏壇や墓石の継承で戸惑う人が増えている
最近、見聞きすることが多くなった「終活疲れ」という言葉。息子が「エンディングノート、書き終わった?」とせっついてきたかと思えば、娘は娘で「こんな納骨堂が近くにできたそうなの。素敵じゃない」と言ってくる。サポートのつもりだと理解しているものの、「おまえたち、私が死ぬのを期待しているんじゃないか」と、疑心暗鬼になる人も。次第にモヤモヤした気持ちが払拭できなくなって、精神的に衰弱してしまうケースもある。
「子供に迷惑をかけたくないというのが、終活に取り組む最大の動機だったはず。しかし、細かいことにまで気を揉んだり、周囲の情報に振り回されたりして、終活に対する意欲が萎えてしまうようですね」
こう語るのは、葬祭実務に18年間従事してきた、日本葬祭アカデミー教務研究室の二村祐輔さんである。
「財産の相続など死後に想定される揉め事を避ける手立てなどをあらかじめ決めて、生前に意思表明しておくほかは、子供たちに委ねてしまえばいいと考えるようになりました。終活の対象が全部で『10』あるとしたら、親の希望や要望は2割くらい。後の8割は子供に委ねましょう」
実は、細かい記入項目の多いエンディングノートの生みの親は二村さんだ。20年前に著作物として世に出し、著作権を放棄してから徐々に普及してきた。その二村さんが、終活に対する考えを変えたのは、子に対する「迷惑」の状況が変わってきたから。
「20年ほど前まで、葬儀費用は平均で300万円近くもしました。それが今では100万円以下です。また一昔前まで、葬儀は隣近所や町内会の世話役さんらの力を借りて、料理を作ったり、祭壇の準備をしたり、他者の手を煩わせるなど大きな労力がかかっていました。でも、今は葬儀会社にお金を払えば、全てやってもらえます。さらに、宗教を問わず入れる公営や民営の墓地が増えて、お墓や寺院との付き合いで子供が悩むことは少なくなりました」
一方、二村さんが最近とくに懸念することがある。お金や不動産などのほかに子供が相続する、仏壇や墓石などの「祭祀(さいし)財産」の継承だ。核家族化と平均寿命の伸長で人の死と向き合う機会が失われ、祭祀に関する経験や知識を得るきっかけがなくなり、イザというときに戸惑う人が増えているのだ。
「遺産相続の際に、祭祀のことで揉めるケースが少なくないのが実態です」と二村さんは指摘する。では、具体的にどのようなトラブルがあって、どう対応したらいいのか。二村さんと一緒に、相続や遺言書作成に詳しい税理士の水品靖芳先生にも助言してもらおう。
■成年後見人より融通がきく家族信託がおすすめ
このケースでの最大の争点は、自筆証書遺言の有効性だ。圧力をかけ無理矢理書かせたような場合であると、本人の意思が反映されているわけではなく、無効と見なされる。「しかし、裁判で争った際に、実際に脅迫や圧力があったことを立証するのは困難です。また、認知症気味だったとしても、遺言書作成時の医師の診断書等もなく、民法で定められた遺言書の要件を満たしていれば、有効と認定されてしまうでしょう」と水品先生は指摘する。
では、報われない状況にならないように姉はどうするべきだったのか。実際に相談を受けた二村さんは、「生前、自筆証書遺言の存在がわかった段階で、お母さんに介護での寄与分を反映した『公正証書遺言』を作ってもらうべきでした。同時に、お姉さんを受託者にした『家族信託』を組み、介護にかかる費用を信託財産から充当する契約を結んで、その契約内容を公正証書に認めておけばよかったです」と話す。
公正証書遺言は、公証役場に赴いて、被相続人が口頭で自分が希望する遺言の内容を伝え、公証人に記述してもらう遺言書のこと。費用と手間がかかるものの、公証人によって遺言者である母親の意思が確認でき、自筆証書遺言でありがちな書類の不備も防げる。
老親が認知症になったとき、家庭裁判所が選任した「成年後見人」に、不動産や預貯金などの財産を管理したり、介護や医療に必要なお金の支払いをしたりしてもらう制度もある。「しかし、身上監護と財産管理を任されているのであって、成年後見人は財産を現状維持するのが大原則です。お金が必要で財産を処分しようとしたら、家庭裁判所にお伺いを立てる必要があります。一方、『こうした場合には自宅を売却できる』など、託された財産の扱いを信託契約に盛り込んだ家族信託であれば、融通が利きます」と水品先生は言う。
結局、このケースでは残された自筆証書遺言の内容に沿って相続がされた。相続分が遺留分を下回ったため、姉は「遺留分侵害額請求」を行ったのだが、依然として不満が残った。「ご長男としての自負があったのでしょう。祭祀の主宰は弟さんが担うことになりました。それなら、お墓の維持管理費や法要の費用などを弟さんが負担するわけで、その分だけ手にした遺産が相殺されます。それで一矢(いっし)を報いたことにして、気持ちの切り替えをお姉さんに提案しました」と二村さんは振り返る。
(後編へ続く)
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月16日号)の一部を再編集したものです。
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日本葬祭アカデミー教務研究室代表
1953年生まれ。葬祭実務に18年間従事し、2千数百件の事例を経験。1996年にメモリアルビジネスコンサルタントとして独立。日本葬祭アカデミー教務研究室を主宰。2006年に東京観光専門学校に日本初となる「葬祭学科」を設立する。行政や葬祭業界主宰のセミナーでの講演のほか、『60歳からのエンディングノート入門』(東京堂出版)などの著作も多数。最新刊に『葬祭サービスの教科書』(キクロス出版)。東洋大学国際観光学部非常勤講師など。
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オリオン税理士法人代表
税理士、行政書士、CFP。相続手続きを幅広く手がける。監修書に『すぐにわかる葬儀前の手続き、後の手続き』(大泉書店)。
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(日本葬祭アカデミー教務研究室代表 二村 祐輔、オリオン税理士法人代表 水品 靖芳 文=伊藤博之)
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