92歳父の死後に60代弟2人が「家を売れ」…老父と同居の68歳長女が知らなかった有利な相続ができた“裏技”
プレジデントオンライン / 2024年8月25日 10時15分
(前編より続く)
■父親が娘に迷惑をかけない“裏技”があった
このケースでは、自筆証書にせよ公正証書にせよ遺言書が残されていない。こうした場合で相続人が複数人いれば、全員で分割協議を行って財産の分け方を決める。ただし、意見の相違でトラブルが生じることが想定されるため、民法では「法定相続分」として遺産の分割の目安を定めている。このケースでは姉と弟2人なので3分の1ずつだ。
「弟さんたちが主張する、土地と建物を売却して得たお金を分割する『換価分割』されることが、実際の相続の現場では多いです。お姉さんが土地と建物を相続して、弟さんたちに現金で差額分を渡す『代償分割』もあります。しかし、土地と建物の価値が3000万円だとしたら、お姉さんに2000万円の手持ちのお金がないと、その選択肢は消えます」(水品先生)
相続人全員が登記する「共有分割」もあるが、相続人の1人が将来に売却を希望しても、全員の同意が必要になるというデメリットが。ちなみに今年4月から不動産の「相続登記」が義務付けられ、相続したことを知ったときから3年以内に登記しないと、10万円以下の過料が課せられるので要注意だ。
また、土地や建物を「現物分割」する方法もある。このケースでは土地を3分の1ずつ、建物では父親の2分の1の遺産分をやはり3分の1ずつ、つまり6分の1ずつを3人で相続する。
「ただし、土地の価値が目減りする可能性も。持ち分の土地は狭くなり、極小住宅が1軒しか建てられないようだと、処分しようとした際に買い叩かれます」と水品先生は注意を促す。
水品先生は、「父親が娘に迷惑をかけない“裏技”があったのです」と囁(ささや)く。それは、娘を受取人にした終身保険に入っておくこと。保険金は相続財産から除外される。受け取った保険金から弟たちに代償金を支払えば、娘はそのまま住めたのだ。ただし、保険金の額が著しく公平性を欠いた場合等は相続財産へ持ち戻しになるので注意だ。
結局、換価分割することになった。娘は残った分骨の願いを達成するため、二村さんの助言で供養経費の一部として30万円を長男に渡すことで、了承を得ることができたそうだ。
■使用権者と所有者の双方の了解が必要になる
「お墓を買う」とよく言うが、あくまでもお墓の「使用権」を入手することなのである。お墓の所有権は寺院や霊園の敷地の所有者、具体的には宗教法人や公益法人、自治体が持っている。永代使用料のほかに毎年の管理費の支払いが滞ると、使用権が消滅する恐れがあるので注意が必要だ。
「通常、被相続人が祭祀継承者を指定します。しかし、その指定がない場合、慣習に従って祖先祭祀を主宰すべき者が継承し、その慣習が不明なときには家庭裁判所が継承者を判断します。このケースの場合、長男が祭祀継承者になるという、その家代々の慣習に自ずと従う形になっていて、全員が黙認してきたのでしょう」(二村さん)
お墓へ埋葬や納骨するに当たっては、お墓の使用権者と所有者の双方の了解が必要になるそうだ。このケースでは、まず使用権者の長男が拒否しているので、妹は諦めざるをえない。仮に長男が認めても、所有者である寺院が妹の宗教的な相違や続柄を理由に拒否したら、やはり諦めなくてはならない。
「今では、お墓を建てずに仏壇型や位牌(いはい)型などさまざまなタイプの納骨堂を選択するケースも増えています。一代限りの使用期限で継承を目的としておらず、いずれは他の遺骨と一緒に合葬されます。そのほか、樹木葬や海洋散骨といった自然葬もあり、ご自身の気持ちが落ち着く埋葬方法を選ぶことを、妹さんにお勧めしました」(同)
実は、二村さんの妻は3姉妹の長女で、義理の父親は誰がお墓を守ってくれるのか心配していた。そこで手を挙げた次女が祭祀継承者に指名され、分割協議による等分相続の後、長女と三女が33万3333円ずつ次女に渡し、次女も同額を出して銀行口座を開設。そのお金を「供養基金」とネーミングし、次女がお墓参りの花代や交通費として使っている。後々、供養費で揉めないための予防策として参考にしたい。
なお、祖先祭祀で使われる仏壇や仏具、位牌といった「祭祀財産」は相続税課税の対象にならない。「被相続人が生前に仏壇や仏具を購入しておけば、相続財産の現金を減らすことができ、相続税の節税効果が期待できます」と水品先生はアドバイスする。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月16日号)の一部を再編集したものです。
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日本葬祭アカデミー教務研究室代表
1953年生まれ。葬祭実務に18年間従事し、2千数百件の事例を経験。1996年にメモリアルビジネスコンサルタントとして独立。日本葬祭アカデミー教務研究室を主宰。2006年に東京観光専門学校に日本初となる「葬祭学科」を設立する。行政や葬祭業界主宰のセミナーでの講演のほか、『60歳からのエンディングノート入門』(東京堂出版)などの著作も多数。最新刊に『葬祭サービスの教科書』(キクロス出版)。東洋大学国際観光学部非常勤講師など。
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オリオン税理士法人代表
税理士、行政書士、CFP。相続手続きを幅広く手がける。監修書に『すぐにわかる葬儀前の手続き、後の手続き』(大泉書店)。
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(日本葬祭アカデミー教務研究室代表 二村 祐輔、オリオン税理士法人代表 水品 靖芳 文=伊藤博之)
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