医者のいうことを信じず、自由気ままに暮らすほうがいい…医師・和田秀樹が提唱する「極上の死に方」
プレジデントオンライン / 2024年8月15日 15時15分
※本稿は、和田秀樹『どうせ死ぬんだから』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■私がたどりついた死生観「人間、死んでから」
私の死生観にもっとも影響を与えたのは、大ベストセラー『「甘え」の構造』の著者である精神科医の土居健郎(たけお)先生です。
アメリカに留学していた30代のはじめ頃、私は現地で精神分析を受けていました。
当時、日本で主流だった患者の無意識を探る精神分析とは違い、患者の心を支えるその精神分析は心地良く、「共感の心理学」であるコフート心理学を学ぶようになりました。
日本に帰ってからも、メンタルヘルスのために精神分析的なカウンセリングを受けることにしました。
その際、土居先生の「甘え」理論が、コフートの考えともっとも近いと感じて手紙を書いたら、治療を引き受けてくださいました。
精神分析の理論にとらわれず、ざっくばらんに悩みを聞いていただきましたが、あるとき、自分の本がなかなか売れない、知名度がなかなか上がらないという愚痴をこぼしたら、こうおっしゃったのです。
「人間、死んでからだよ」
当時、まだ30代だった私は、その言葉を聞いてもピンときませんでしたが、死というものを考えるようになってから、その意味がわかるようになりました。
いまの知名度や売れ行きにあくせくするよりも、死んでから、みんながどう評価してくれるかのほうが大事であり、いま世間の評価に迎合する必要はないということだろう、と。
■「老年医療や専門分化医療の批判」はどう評価されるか
土居先生は肩書を得ることや権力闘争には無頓着でした。
それは目先の世俗的な成功よりも、死んでから自分自身や自分の理論がどう評価されるかということのほうがよほど大事だと考えておられたからだと思います。
2009年に土居先生は89歳で亡くなられ、その名も『「甘え」の構造』も残りました。しかし、私には死んでからも残るような著書はまだない。
ただ、私が老年医療や専門分化医療の批判を始めてから30年近く経っていますが、いまだに状況がほとんど変わっていませんから、先々評価される可能性があるかもしれないし、いま急に本が売れだしたのはその前兆かもしれないと期待を寄せてはいるのですが。
映画も撮り続けるつもりですけれど、一作ぐらいは死んだ後も見てもらえるものが撮れないかと夢見ています。
■私の理想の死に方、死に場所、看取られ方
簡単に言うと、私は死ぬということを前提に生きているわけです。私が、おいしいものを食べたいとかワインを飲みたいとか、世に残る本や映画をつくりたいとか、そういう欲望に忠実に生きているのは、結局、死ぬときに後悔したくないからです。
だから、好きなものを食べて好きなことをやり尽くして、めいっぱい生きて、家で寝ていたら知らぬ間に死んでいた、というのが私の理想の死に方です。
できる限り自宅で過ごしたいですが、体が動かなくなってきたら施設に入るかもしれません。私は現在一人暮らしですから、施設に入る前にいわゆる「孤独死」する可能性もあります。
けれども、そもそも死ぬ瞬間は誰でも一人です。一人で死ぬのは可哀想だとか悲惨だとかいう発想は、メディアによる刷り込みだと思います。
私の場合は、一人で静かに死にたい。多くの人に看取られて同情されながら死ぬのは煩わしいので、最期は一人がいいです。
日本では多くの人に看取られて死ぬのが幸せという考えがありますが、欧米では家族で看取るということはあまり重視しません。
死期が近づいている末期がんの患者などの場合は、友人が一人ずつ見舞いに訪れて、ゆっくりと話すのが欧米のスタイルだそうです。私もそっちのスタイルがいいなと思っています。
■「死後の世界」はあなたが決める
私の高校時代の同級生に、中田考(こう)さんというイスラム学者がいるのですが、彼は死後の世界を信じているから、世俗をまったく超越していて、生への執着がまるでない。
だから医者にかかったこともないし、毎日イスラム教の戒律に従った生活をしています。
私は信心深い人間ではないし、死後の世界も信じていませんから、よくわかりませんが、そのほうが生きるのは楽かもしれません。
ほかにも、死んだらあの世で愛しい人に再会できるとか、大好きな家族に会えるのが楽しみだとか言って、死ぬこと自体をそんなに恐れていない知り合いもいます。そう思えたら、死ぬのも楽だろうなあと思います。
「人間、死んでから」と言いましたが、死んだ後に自分自身がどうなるのか、どこへ行くのかという意味での死後と、死んだ後に自分がまわりからどう思われるかという意味での死後、そのどちらを意識するかは、人それぞれだと思います。
ただ不毛なのは、死ぬことをあまりにも不安に思うことです。
■適度な死の意識のしかた
死を意識したほうが、「生」を楽しもうという気にはなれます。しかし、死をあまりにも意識しすぎると、不安が募ってきて、「生」の邪魔になることがあります。
たとえば、高齢になって再婚したいと思っていても、子どもたちに反対されてしかたなくあきらめるというのは、死に際を彼らに看取ってもらいたいと思い詰めるからでしょう。
ただ私は、適度な死の意識のしかたがあると思っています。
それは、自分の心と体の声をしっかり聞いて、10年後に生きていられるかどうかわからないから、やっぱり旅行に行こうとか、これだけはやっておこうとか、そういうふうに考えると、死ぬまでの生活をより濃厚に楽しめる。
「極上の死に方」とは、つまるところ、死ぬ間際まで「極上の生き方」を追い求めるということ。人生の幕が下りるまで、自分らしく生きぬくということです。死ぬ瞬間までは生きているのですから。
死はいつ訪れるかわかりません。長年、多くの高齢者を見てきた経験から言うと、生きている間に思いっきり楽しんで、「生」を充実させておいたほうがいい。それだけは間違いはありません。
■死ぬときに後悔しない生き方の心得10
最後に、人生の幕を閉じるとき後悔しないために、「ごくじようのしにかた」を頭文字にしてちょっとしたポイントをまとめてみました。
そっと心のなかで唱えて、今日を精いっぱい元気に楽しく生きてくださるとうれしいです。
く 苦しいことやわずらわしいことは、できるだけやらない
じ 自由気ままに暮らす。我慢すると心身ともに老化が加速する
よ 要介護になったら残された機能と介護保険をフルに使い、人生を楽しむ
う うかつに医者のいうことを信じない。治療も薬も選ぶのは自分
の 脳と体を使い続けて、認知症と足腰が弱るのを防ぐ
し 死を恐れれば恐れるほど、人生の幸福度は下がる
に 人間関係が豊かなほど老いは遠のく。人づき合いが億劫になったらボケる
か 体が動かないとき、意欲が出ないときは「なんとかなるさ」とつぶやく
た 楽しいことだけを考えて、とことん遊ぶ。どうせ死ぬんだから
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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