サングラスをかけないと脳も身体もヨボヨボになる…医師が解説する「紫外線→認知症」の意外なリスク
プレジデントオンライン / 2024年8月9日 11時15分
■こんなサングラスは絶対に買ってはいけない
――紫外線の目へ影響について教えてください。
目から入る紫外線は軽視されがちですが、実は深刻な影響を及ぼすことがあります。
例えば、野外で活動する人に多いのは「翼状片(よくじょうへん)」という疾患です。白目と黒目の間、特に鼻側に多いですが、三角形の形をした赤い充血の塊のようなものが結膜にできてしまうものです。白目(結膜)が濁ったように見えます。
角膜の中央付近まで侵入すると乱視が悪化し、視力の低下につながります。眼鏡では矯正することが難しいので、手術によって切除する必要があります。
――翼状片にはどんな治療が必要になるのでしょうか。
外科的な処置が必要です。ただ、手術で取った後も再発することがありますので、まずはしっかり予防することが大切です。
つばの大きい帽子を被ったり、UVカット機能のあるサングラスや眼鏡をしたりするのが有効です。外で活動する場合は、紫外線が一番強い午前10時~午後2時を外した時間帯にするといった工夫が必要です。
最近は、サングラスでも「UV効果のない色付きの眼鏡」も売られていますが、これが目にとっては一番危ない。視界が暗くなるので瞳孔が開いてしまい、紫外線が目の奥の網膜へ到達することによって、余計に目に与える影響が大きくなります。UVカット機能のものを使用することが大切です。
■紫外線→白内障→認知症
この対策は夏だけでなく、一年中必要です。紫外線を浴び続けていると、体内の活性酸素が障害を起こし、紫外線角膜炎になったり、水晶体がダメージを受けて白内障の原因になったりすることもあります。言うまでもなく、白内障が進行すると視力が低下し、眼鏡でも矯正できなくなります。
白内障の進行とともに、認知症のリスクも高まると言われています。脳に送られる外からの情報の8割以上は目からの視覚情報です。白内障になれば必然的に脳に送られる情報の質が低下します。その結果、脳が活性化されず、認知症の発症率を上げると言われています。
■日焼け止めを塗るだけではダメ
また、「光老化」という言葉があるように、皮膚の老化の8割は加齢による自然老化ではなく紫外線によるものです。最近では、目から入る紫外線も皮膚の老化につながることがわかってきました。目から入った紫外線が脳に伝わることによって、体内でメラニン色素を増やしてしまうことが動物実験で証明されています。肌のケアだけでなく目のケアも同時に行う必要があります。
日焼け止めを塗るだけでは、日焼けやシミを完全には予防できない。あとは、紫外線の反射(照り返し)にも注意する必要があります。スキー場などでの、いわゆる「雪目」が有名ですが、反射によって急激に紫外線を浴びることで角膜炎を起こすこともあります。
例えば「くもりだから大丈夫」と紫外線対策をしない人もいますが、雲の隙間から晴れ間がのぞくと、紫外線が雲に反射して紫外線量がかえって増えることもあります。また、新雪なら80%、コンクリートやアスファルトは10%、水面では10~20%程度、紫外線が反射します。反射が強い場所では特に対策が必要ですね。
■幼少期からサングラスは使ったほうがいい
――部活動など野外で活動する子どもも注意が必要かと思いますが、学校側がサングラスを許可しない例もあると聞きます。
本来は保護すべきかと考えます。最近は目から入った紫外線が脳を疲れさせることもわかってきています。
紫外線が目から入ると、脳内で疲労物質である活性酸素が大量に分泌される。その活性酸素によって脳の神経細胞が酸化ストレスを受けることによって自律神経が乱れ、身体全身が疲労を感じるようになります。
また、子どものころから紫外線を浴び続けてきた人は、白内障の発症が早くなるともいわれています。白内障は進行すると失明にもつながる怖い病気ですので、子どもだからといって甘く見ず対策することが大切だと思います。
■市販の目薬を使うときに注意すべきこと
――先生は著書『眼科医は市販の目薬をささない』などで、市販の目薬を使用する際の注意点について啓発されています。
眼科で出す目薬は封を開けたら1カ月で廃棄を勧めるものが多い。それに比べると、市販薬のほうが3カ月など保存期間は長い。それは、その分防腐剤が多く入っていることを意味します。
防腐剤の中でもベンザルコニウムは強力な反面、角膜障害(=角膜のキズ)を起こすといった報告もされています。
また、アレルギーを起こすリスクもあります。
目の周りの皮膚が防腐剤や基材成分に触れることで接触性眼瞼(がんけん)皮膚炎を起こす可能性があるのです。
まぶたの炎症により、発赤、腫れ、かぶれといった症状が出てきます。痒みのために、擦ったりすることで症状が悪化して、異物感や充血などの症状や涙が止まらないといった症状なども出ることがあります。
以前診察した、眼瞼皮膚炎をおこした患者さんは、「目の具合が悪いから」と自己判断でその目薬を使い続け、悪化させてしまったようです。防腐剤フリーの目薬に変更したところすぐに症状が改善しました。
また、短時間で白目(結膜)の充血を取れることを謳った市販の目薬もあります。こうした製品には血管収縮剤(塩酸ナファゾリン、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸フェニレフリンなど)が入っていることが多いです。
■だから私は市販の目薬を買わない
このようなあくまで見た目だけ充血をとるといった目薬は、病気そのものをよくしているわけではありません。充血の原因が元々なんなのかわからないまま、こうした目薬でごまかしてしまうと、症状がまったく改善されないどころか、結果的に悪化してしまうケースもあります。
目に違和感や異物感があれば、自分で原因を決めつけずに眼科を受診してほしいですね。
――かすみ目など軽度のトラブルなら眼科に行かず、市販の目薬で済ませてしまう方は多いかと思います。
身体の他の部分と比べ、目の異常は「見えているから大丈夫」と軽くとらえてしまいがちです。片目に異常があっても、もう片目でカバーできてしまうので、トラブルに気づかないまま状態を悪化させてしまう人もいます。
「視界がぼやけているな」と思っても、緑内障(視神経の障害)で視野が欠けているのか、白内障(水晶体の濁り)が出てきているのか、加齢黄斑変性(網膜の中心部・黄斑の障害)なのか、目の表面に傷ができてしまったのか、さまざまな原因があります。いずれも、放置すれば失明に至ることもある怖い病気です。
特に緑内障は、眼圧が正常でも症状が進んでしまうケースもあるので見過ごされがちです。40歳を過ぎたら、特段自覚症状がなくとも一度眼科を訪ねることをお勧めします。
■医者が使っている目薬
――先生はどんな目薬を使っているのでしょうか。
私は市販の目薬はほとんど使ったことがないです。海外に行く前で眼科を受診できないなど、よほどの理由がない限りは買いません。
理由は先に挙げたとおりです。また、市販のものには、メントールが入って「スッキリ感」を謳った商品もありますが、それが癖になってしまうのも怖いな、と思います。
もし私が市販の目薬を買うとしたら、防腐剤フリーの目薬もしくは涙の成分に近い、ドライアイ用の人工涙液ですね。そういうシンプルなものしか使いません。
最近は健康意識の高まりで、こうした商品もドラッグストアでの販売が増えてきました。
目薬を期限内に使い切れないことはよくあることだと思います。ただ、古い目薬の中では、雑菌が繁殖していることが多く、使用することで結膜炎など感染症の原因になってしまいます。市販のものでも病院で処方されたものでも、期間内に使い切ってください。
――XなどのSNSでは、塩や番茶を原料にした「手作り目薬」がバズっています。
雑菌を自ら目に注ぎ込んでいるようなもので、論外としか言えません。角膜は約0.5ミリと皮膚よりも薄く、菌に感染すると、角膜が傷ついたり、最悪の場合、感染症が起こり穴が開き(穿孔(せんこう))、失明する危険性もあります。
■シャワーで目を洗って両目を失明
当然ことですが、目薬はかなり管理された状況で作られたもので、それしか目にいれるべきではない。一部の方はいまだ誤解されていますが、水道水すら危ない。
過去に診察した患者さんで目を毎日シャワーで洗っている方がいました。その習慣のせいで目に雑菌が入ってしまい、それが目の中で繁殖。強い炎症が出る「感染性眼内炎」を起こしてしまった。手術をしましたが、片目を失明してしまいました。たかが水道水とはいえ、気をつけなければなりません。
この方は、最終的に、交感性眼炎といって、不幸にも両目ともに失明してしまいました。彼の毎日の習慣が目をシャワーで洗うということで、10年続けていたそうです。
昔の学校ではプールに入ったあとで「水で目を洗え」と指導されていましたが、今となっては、目に良くない、危険な行為と考えられ、現在は、中止されています。痛いのに無理をして洗うことにより、角膜障害を起こしかねません。
厚生労働省のグループの報告からも、眼を洗うことは推奨されていません。角膜の安全を考慮すると、洗眼ではなく、人工涙液による点眼が好ましいとされています。
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大阪大学特任教授、医学博士
医療法人社団康梓会SAWAKO CLINIC x YS 院長/Y’s サイエンスクリニック広尾統括院長、大阪大学大学院医学系研究科未来医療学寄附講座 特任准教授、近畿大学医学部奈良病院皮膚科非常勤医師。内科医、皮膚科医、眼科医、日本抗加齢医学会専門医。日本再生医療学会認定医。同志社大学アンチエイジングリサーチセンター講師、森ノ宮医療大学保健医療学部准教授、(財)ルイ・パストゥール医学研究センター基礎研究部アンチエイジング医科学研究室室長などを歴任。主な著者に『オトナ女子の「美肌」づくり百科』(ぴあ)、『つまり、結局何をしたら免疫力って上がるの?』(アントレックス)、『最新医学で証明された最高の食事術』(講談社)など。
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フリーライター
時事通信社記者、宣伝会議「広報会議」編集部(編集兼ライター)、朝日新聞出版AERA編集部を経てフリーに。 AERA、CHANTOWEB、文春オンライン、東洋経済オンラインなどで執筆。2児の母。
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(大阪大学特任教授、医学博士 日比野 佐和子、フリーライター 市岡 ひかり インタビュー、構成=ライター・市岡ひかり)
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