3位は姫路城、2位は松山城、1位は…歴史評論家が選ぶ「2024年の夏に訪れるべき日本のお城ランキング」
プレジデントオンライン / 2024年8月10日 12時20分
■今年の夏に訪れてみたい7つの城
夏休みこそ城をめぐろう、と考える人は多い。親子連れで城めぐりをするにも、いちばん時間が取りやすい時期だと思うが、問題がないわけではない。
第一に暑い。とくに今年の猛暑は城めぐりにはきつく、広大な城域をくまなく歩きまわろうとすると、それだけでバテてしまう。第二に、夏は草木が繁茂して石垣などがよく見えないことが多い。生い茂った木が邪魔で建造物を写真に収めにくいこともある。
第三に、山城などでは危険がともなうこともある。蚊に刺されるくらいならともかく、スズメバチやマムシに襲われる危険性もあり、クマが出たらシャレにならない。
そんなことも考慮したうえで、今年の夏に訪れてみたい城を7つ選んでみた。
第7位は安土城(滋賀県近江八幡市)。言わずと知れた、織田信長が天下を見据えて築いた城である。城郭全体を覆うように石垣が築かれ、その石垣上に5重の天主という高層建築がそびえた。そんな城は安土城以前にはなかった。
標高198メートルの安土山は、夏場には登りやすいとはいえない。だが、南正面から登る大手道は発掘調査の結果、山上に向かって直線的に180メートルも続いていたことが確認され、現在、石垣や石段が往時の姿に整備されている。開放的なので、夏場でも比較的登りやすい。この直線的な坂道の先に、天主がそびえて見えるように計算されていた。
■新幹線の駅前にある名城
大手道を登ると、黒金門跡から先にはいまも壮麗な石垣が残っている。そして、山上の天主台に建てられた5重で、内部は地上6階地下1階だった天主は、金箔瓦が葺かれ、4重目が朱色、5重目は金色に塗られ、内部は金碧極彩色に仕上げられていた。
昨年から20年計画の「令和の大調査」がはじまり、すでに天主台を人為的に崩したような跡が見つかっている。滋賀県によれば、織田家から政権を奪取した豊臣家が安土城を廃城にしたことを示すために、意図的に行った「破城」の可能性があるという。今後、安土城の謎が大きく解明する可能性もある。
いま訪れておくと、解明が進んだときに、どこの場所のなにを指しているのか、イメージが湧きやすいという利点もある。
第6位には福山城(広島県福山市)を挙げたい。この城が築かれたのは、すでに一国一城令や武家諸法度で築城が制限されていた元和8年(1622)だが、徳川家康の従兄弟にあたる水野勝成は、西国の大名を牽制するという重要な任務を負い、近世城郭としては事実上最後の大規模な築城が許された。
それだけに5重5階の天守のほか、7棟の三重櫓、16棟の二重櫓が建ち並び、10万石の大名の城なのに、30万石の大名の城のような威容を誇った。戦前まで残り、天守の完成形といわれた合理的な構造の天守は、昭和20年(1945)8月8日の空襲で焼失し、昭和41年(1966)に鉄筋コンクリートで再建された。だが、残念ながら、焼失前の姿とかなり違ってしまっていた。
しかし、令和4年(2022)の築城400年に向けた改修工事で、防備が手薄な北側の壁面に張られていた、日本の城郭で唯一だった鉄板も再現され、戦前の雄姿に近くなった。伏見城から移築されて現存する伏見櫓と筋鉄御門も重要だ。とくに前者は古風で格調高く、豊臣秀吉の時代を思わせる。
新幹線の駅前にあり、酷暑のなか訪れるには交通の便はこれ以上望めない。
■来年の大河ドラマの予習に
第5位は白河小峰城(福島県白河市)。盛岡城(岩手県盛岡市)、会津若松城(福島県会津若松市)と並んで「東北の石造りの三名城」とされるが、なかでも白河小峰城の二段重ねの石垣は軍艦のようで壮観だ。
また、本丸には天守の代用だった三重御櫓が木造で復元されている。戊辰戦争の激しい戦いの舞台にもなったこの城の建造物は、明治維新の時期にみな失われたが、三重御櫓は複数の絵図のほか文献資料や発掘調査の結果をもとに、平成3年(1991)に伝統工法による木造で蘇った。天守など城郭建造物を木造で復元するブームの呼び水になった建築である。
もう一つ、この城にいま注目すべきなのは、老中首座として寛政の改革を主導した松平定信の居城だったから。定信は来年のNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の重要人物。その城を「予習」しておくのも悪くない。
第4位には名古屋城(名古屋市中区)を挙げておく。天守の木造復元は大幅に遅れているが、平成30年(2018)に復元工事が完了した本丸御殿を鑑賞するだけでも、十分に価値がある。炎天下を避けて屋内で鑑賞できるのも、この夏向きだ。
昭和20年(1945)5月に焼夷弾を落とされ、天守とともに焼失した本丸御殿は、「近世城郭御殿の最高傑作」と呼ばれていた。訪れればその理由はわかる。将軍が上洛の途中で宿泊する特別な施設で、とりわけ3代将軍徳川家光のために増築された上洛殿は、贅が尽くされ最高の格式を誇る。
■戦前の姿に近づいた名古屋城天守
旧本丸御殿を飾っていた襖絵や天井板絵は、空襲の直前に取り外されていて戦火を逃れた。また、取り外せない障壁画なども、多数の写真が残されていた。復元された御殿は、それらをもとに精密に復元模写された障壁画で飾られている。部屋ごとにテーマを変えて描き分けられたこれら絵画や装飾を楽しむだけでも満足できる。
また、昭和34年(1959)に外観復元された天守は、耐震性が不足しており中に入れないままだが、先ごろ最上階の窓ガラスの一部が白いパネルで覆われた。戦後の天守は眺望を確保するために、戦前の2倍の大きさの窓ガラスが付けられていたが、これで焼失前の姿に近づいた。ちょうど今夏からその姿を眺められるのである。
どんなに暑くても、やはり世界遺産の姫路城(兵庫県姫路市)は外せない。第3位に入れたい。大天守をはじめ8棟が国宝に、74棟が重要文化財に指定されている姫路城。石垣とその上に建てられた白亜の櫓や門、塀が重層的に折り重なり、その頂に3棟の小天守に囲まれた大天守がそびえる景観が、唯一無二の圧倒的な美しさをたたえている。
とくに古風な装飾がほどこされた菱の門から内側の内郭を歩くと、美しさの理由を解明できる。現在の姫路城は、慶長5年(1600)の関ヶ原合戦後に池田輝政が整備したものだが、その前には羽柴秀吉が築いた城があった。
■ゴンドラで登って極上のかき氷を
姫路城の石垣には、自然石を加工せずに積んだ野面積も随所に見られるが、それらの多くは羽柴時代に積まれた。つまり、輝政は羽柴時代の、積み方が未熟な石垣を基礎に縄張りし、整備したのである。
歩くとわかるが、地形に合わせて積まれた未熟な石垣を活かしているため、曲輪や通路が入り組んで配置され、結果的に攻撃しにくい構造になった。また、入り組んだ石垣上に配置された建造物の多くは左右が非対称で、それらが複雑に折り重なり、独特の美しさが生じた。そのことを意識しながら鑑賞すると、味わいも深くなる。
第2位は松山城(愛媛県松山市)。7月12日に土砂崩れが発生し、1カ月程度は入城できないといわれたが、安全が確認できて、7月31日に20日ぶりに営業が再開された。標高132メートルの山頂に本丸があるが、ゴンドラかリフトで登れるので、猛暑でも登城するのに苦はない。
そこには重要文化財21棟のほか、主として伝統工法による木造で復元された建造物群を加えると51棟が建ち並び、江戸時代に近い景観が広がる。風通しがいい本丸、および現存する3重の天守の最上階からは、瀬戸内海の景色も眺められる。
また、本丸内の売店と食堂を兼ねた「城山荘」は、食事にせよ甘味にせよ、城郭内としては破格の味わい。個人的には、ここで食べられる「伊予柑かき氷」を超えるかき氷は、日本中探してもないと信じている。
松山城には、近くの道後温泉に浸かるという御褒美もある。とくに明治時代に建てられた道後温泉本館は、大規模な保存修理工事が7月に終わって営業が再開されたばかりで、タイミングがいい。
■第1位は日本最古の国宝の城
松本城(長野県松本市)も、「松本の奥座敷」といわれる浅間温泉が控えており、城めぐりと一緒に温泉を楽しめる立地にある。また、周囲には安曇野や蓼科といった避暑地も多く、夏に訪れるにはうってつけといえる。そこで第1位としたい。
現存する12の天守のうち5重のものは、この松本城と姫路城だけで、白亜の姫路城と対照的な漆黒の容姿には、独特のシックな美しさがある。また「漆黒」とは単なるたとえではなく、外壁の下見板には実際、黒漆が塗られている。
松本城天守はとくに南西から内堀越しに望むと、大天守が左に渡櫓と乾小天守を、右に辰巳櫓と月見櫓を従え、絶妙に均整がとれたシルエットが美しい。それは翼を広げた鳥のようで、松本城から遠望できる北アルプスや美ヶ原の稜線を思わせる。
平城なので、酷暑のなか山や丘を登ることなく鑑賞できるのも、この夏向きである。避暑を兼ねて国宝の天守を鑑賞できるとは、ぜいたくではないだろうか。
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歴史評論家、音楽評論家
神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。日本中世史、近世史が中心だが守備範囲は広い。著書に 『カラー版 東京で見つける江戸』(平凡社新書)。ヨーロッパの音楽、美術、建築にも精通し、オペラをはじめとするクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』、『魅惑のオペラ歌手50 歌声のカタログ』(ともにアルテスパブリッシング)など。
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(歴史評論家、音楽評論家 香原 斗志)
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