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だから2年で200店舗の「スピード出店」ができた…うなぎ専門店「鰻の成瀬」に"飲食店の素人"が押し寄せる理由

プレジデントオンライン / 2024年8月6日 17時15分

2022年9月にオープンした「鰻の成瀬」1号店の横浜店。シンプルな外装で、居抜き物件で十分、低投資で出店できることが魅力。 - 筆者撮影

うなぎ専門店「鰻の成瀬」が2年で200店舗という異例のスピードで全国に出店している。フードサービスジャーナリストの千葉哲幸さんは「鰻の成瀬は参入障壁が高いとされるうなぎ専門店のハードルを徹底的に下げた。そのため、飲食未経験の人からもフランチャイズ加盟希望が殺到し、驚異の出店スピードにつながっている」という――。

■1600円で「うな重」が食べられる

うなぎ専門店チェーンの「鰻の成瀬」が1号店の出店から2年足らずで200店舗を超えるという異例のスピード出店で存在感を高めている。SNS上でも「謎の急成長」と呼ばれて注目を集めている。

「鰻の成瀬」の一番のポイントは相場価格に対して「安い」こと。一般的に5000円、6000円の「うな重」が1600円からで食べられる。出店場所は駅前一等地もあるが、駅から離れた住宅街の中というパターンもある。1号店を横浜にオープンしたのが2022年9月で、フランチャイズ(FC)展開を始めたのはその約半年後。創業してから2年足らずの24年7月上旬には200店舗を超えた(うち直営は10店舗)。

鰻の成瀬の新店情報。8月2日には一気に4店舗がオープンした。
鰻の成瀬の新店情報。8月2日には一気に4店舗がオープンした。(鰻の成瀬HPより)

筆者は同店を展開しているフランチャイズビジネスインキュベーションの代表、山本昌弘氏(40)に取材した。取材のために、これらの店舗をたくさん訪ね歩いて、同店のうな重を食べ続けた。そこで、山本氏が解説をしてくれたことと、筆者の印象を交えて「鰻の成瀬」のことを以下に述べたい。

■「松・竹・梅」だけの割り切ったメニュー構成

筆者が初めて「鰻の成瀬」を訪れたのは4月3日、創業店舗の横浜本店である。横浜駅から徒歩約8分、横浜駅の1駅隣、相鉄線平沼橋駅から6~7分の距離のところにある。マンションが立ち並んだ住宅街で、まわりには商店がほとんどない。

店舗はマンションの1階にある。オープンは11時。11時15分ごろに入店したところ、15席ほどの小さな店内には、1人客が1人、2人客が2組いた。なかなかの繁盛店ではないか。

フードメニューは「うな重」の「松」2600円(税込、以下同)、「竹」2200円、「梅」1600円の3つのみ。ドリンクは瓶ビール、冷酒、ノンアルコールビールのみ。酒のつまみとしての「蒲焼」はない。漬物もない。実に割り切ったメニュー構成である。

■営業時間も会計方法も「店本意」

筆者が「梅」を注文したところ、肉厚の蒲焼が1枚乗ったうな重が10分程度で提供された。飲食店とは従業員の商売っ気たっぷりの愛想が楽しいものだが、この店では対応が淡々としていた。

これが「梅」1600円のうな重。バリっと焼き目がついていて肉はふっくらとしている。
筆者撮影
これが「梅」1600円のうな重。バリっと焼き目がついていて肉はふっくらとしている。 - 筆者撮影
うな重「竹」。このボリュームで2600円(税込み)だ。
プレジデントオンライン編集部撮影
うな重「竹」。このボリュームで2600円(税込み)だ。 - プレジデントオンライン編集部撮影

うなぎは蒸し焼きの関東風。蒲焼は表面にパリッとした焼き目があって肉はふっくらしていた。筆者にとってはこの食味は満足である。

客席について、目の前にある張り紙にはこのような文言が記されていた。

「リーズナブルな価格でのご提供を実現するため、メニューの絞り込みや営業時間の短縮、現金のみでのお会計等、至らない点も多々ございますが、ご理解ご協力のほどをお願い申し上げます」

※注:一部でキャッシュレス決済が可能な店舗もある。

「営業時間の短縮」とあるが、営業時間は11時から14時と17時から20時である。「現金のみでのお会計」にも「鰻の成瀬」なりの理由があって、これらは後述する。このように、商品構成も、営業体制も店本意で割り切った「鰻の成瀬」が、なぜ急ピッチに出店ができるのであろうか。

■飲食未経験から「鰻の成瀬」ブランドを設立

山本氏は滋賀県の出身。英会話教室に5年間勤務した後、ハウスクリーニングのFC本部に10年間勤務した。ここで学んだことが、今日の「鰻の成瀬」の急成長をもたらしている。

フランチャイズビジネスインキュベーション代表の山本昌弘氏。ハウスクリーニングのFCに10年間勤務して、FCビジネスを習熟した。
筆者撮影
フランチャイズビジネスインキュベーション代表の山本昌弘氏。ハウスクリーニングのFCに10年間勤務して、FCビジネスを習熟した。 - 筆者撮影

山本氏は、このFC本部でスーパーバイザーや、加盟店開発、新たなフランチャイズパッケージを考えたり、法務に関わったり「FCの入口から出口までありとあらゆることを経験した」という。

そこで、FCの本部を後方支援するコンサルティングを行おうと2020年9月にいまの会社を立ち上げた。

「鰻の成瀬」を始めるきっかけは、うなぎ専門店の運営を職人に頼らないオペレーションでできる仕組みを構築していた会社の社長と知り合ったことだ。

同社では中国をはじめとした海外の養鰻業者とつながっていて、現地で一次加工したものを日本に送り、店舗ではそれを仕入れて、職人ではなく機械が調理するというオペレーションができていた。「鰻の成瀬」はその仕組みを活用した形とのこと。

ちなみに、屋号の「成瀬」とは、同社の担当者の名前である。

■煙は出さない、職人のスキルもいらない

うなぎ店は飲食業界では非常に参入障壁の高い業種だと言われている。一般的なうなぎ店は調理の際に煙やにおいが多く発生する「重飲食」に該当し、大家によっては入居を断られることもある。

また本格的なうなぎを提供しようとすると、長い年月をかけて職人の育成が必要となる。

鰻の成瀬ではそうしたハードルを徹底的に下げた。調理のための什器は煙が出ない仕組みになっていて、カフェや喫茶店などと同じ「軽飲食」でも通ることがある。

提供については、一次加工が済んだ状態で届くうなぎを仕込み作業として蒸しておいて、注文が入ったら専用の什器で焼いて提供するだけ。調理は職人の技が不要で、アルバイトでも可能である。

冒頭で紹介した張り紙に書かれた「メニューの絞り込み」や「現金会計のみ」についても、「キャッシュレスなどの仕組みを入れることで、加盟店に煩雑な仕事の負荷を与えないため」(山本氏)という。

こうしたノウハウは一番のポイントに挙げた「うなぎを低価格で提供すること」の秘訣でもある。うなぎ店を始めたいと思う人にとっては、FCとして加盟するメリットが大きい。

■年商1億円の店舗も

1号店は、コロナ禍で経営不振になっていた山本氏の知人の居酒屋を従業員ごと引き継いだ形でオープンした。SNSで「うなぎ専門店を始めた」ことを発信したところ、それに興味を抱いた人が集まってきた。ここからFC展開につながっていった。

ちなみに、横浜店の年商は5000万円程度。「鰻の成瀬」の全体では真ん中くらいの位置にあるという。売上が高いところでは千葉店の「年商1億円超え」という例もある。店の家賃や規模などで異なるが、損益分岐点は月商200万円から250万円あたり。商品の原価率は40~45%、ロイヤリティは固定10万円に売上の4%をプラスした金額となっている。

■急ピッチで出店できて、営業がすぐに安定する秘訣

では、なぜ駅前や飲食店街のような一等地でないところでもやっていけるのか。

まず「うなぎ専門店」に共通する強烈なマグネット力(客を引き寄せる力)が挙げられる。

「この業種はランチタイムに2000円の客単価が取れる。うなぎは日本人の老若男女が大好きな食べ物であるから、目的を持ってうなぎ専門店に行く。そこで価格が業界の水準より安いということであれば、より気軽に食べに行きたいと考える。なので店は一等立地にある必要はなく、居抜きでも十分にやっていける」

営業時間が11時から14時と17時から20時にしている理由はこうだ。

「ランチの営業時間を11時から14時にしているのは、子育て世代の方が働きやすい環境にしているから。この場合、拘束時間は10時から15時ということになる。朝お子さんを学校に送り出して出勤し、店の仕事を終えて家に帰ると、お子さんを迎えることができるというスケジュールが成り立つ」

六本木店では外国人のインフルエンサーに協力を仰いで、お客の9割以上が外国人となっている。アジア系のファミリーが多い。
筆者撮影
六本木店では外国人のインフルエンサーに協力を仰いで、お客の9割以上が外国人となっている。アジア系のファミリーが多い。 - 筆者撮影

「ディナーを17時オープンにしたのは、晩御飯をつくるのが面倒だと考えたお母さんがテイクアウトでうなぎを買いにきてくれたらいいな、と考えたから。お店で食べる人は18時ごろからやってきて、20時過ぎにはうなぎを食べたいと思う人はやってこないだろうと」

このように「鰻の成瀬」が急成長できているのは、「うなぎが持つ根強い商品力」「職人不要でオペレーションが簡単」「出店するためのハードルが低い」という要因が挙げられる。

店を急ピッチ出店することができて、すぐに安定した営業状態を保つことができる要因となっている。

■「自分の意思で加盟した」という責任が生まれる

「鰻の成瀬」では加盟店の募集はしていない。ホームページでも「フランチャイズ募集」ということをうたっていない。それでありながら加盟店が増え続けているのはなぜか。

「加盟される方のタイミングは、当社の問い合わせフォームに『鰻の成瀬では加盟店募集を行っていますか』という問い合わせをしてきて、『もし行っているのであれば是非加盟をさせていただきたいのですが』と、完全に仕上がった問い合わせをされる。そこで当社の状況を説明して引きの営業のスタンスで対応している」

「これによって、他責加盟店が発生しなくなる。他責とは、物事・結果の原因や責任が他社にあると思い、振る舞うこと。『鰻の成瀬』の場合は、自分で選択をして加盟したという認識となる。そこで加盟店との間には強い信頼関係ができていく。そして『よいFCがあるよ』と、新しい方を紹介してくださる」

■FC加盟の半数は「飲食未経験」

加盟店になる人は、飲食業の人が約半数を占めるが、言い換えれば、残りの半数は異業種からの参入だ。例えば、青森県のある加盟店は、本業が建設業で、新規事業として「鰻の成瀬」をはじめて、この7月に7店舗の陣容となっている。

売上が好調な加盟店の特徴は、総じて、ロードサイドにあって駐車場が整っている店舗であることだという。日商60万~70万円という店もまれではなくなっている。

すべての加盟店はLINEでつながっている。各店の日商はすべて公開されて情報が共有されている。最大の需要期となる「土用の丑」でも、昨年の「土用の丑」を経験している先輩オーナーがLINE上で新人オーナーにアドバイスを送るなど、それぞれオペレーションの対策を整えたという。

■11月までには300店舗達成を目標

本部と加盟店の関係は実にシンプルである。加盟店が本部から与えられたルールや縛りもほとんどない。それはなぜか。

「本部が加盟店向けにルールをたくさんつくるのは、加盟店の売上が上がらないから。加盟店が儲かっているとルールを細かくつくる必要はありません」

加盟店が店の看板に価値を感じなくなると、加盟を辞めて同じような商売を自分オリジナルで手掛けようとすることはFCビジネスで起こりがちだが、これまで「鰻の成瀬」にはこのような動きが全くない。それは「鰻の成瀬」のようなFCチェーンの仕組みをつくるのが困難で、加盟していることのメリットが大きいということに尽きる。

また、本部ではテレビを始めとして消費者向けのCM発信を活発に行っている。今年の7月20日から8月25日まで開催されるフジテレビ主催の「お台場冒険王」に出店して、消費者にアピールするとともに、テレビ局とのつながりを強くしている。

国内は今年11月ごろまでに300店舗を区切りとし、それ以降は加盟店オーナーサイドの増店を図っていくことを想定している。また、海外では香港での展開が進められているが、このほかの国々での展開にも意欲を示している。

これまでのうなぎ専門店とは、職人が居て、着物姿の女性スタッフが居て、単価が5000円、6000円といった商売のイメージがあったが、「鰻の成瀬」にはこれらとは全く別の世界観がある。「鰻の成瀬」は1600円からうな重を食べることができて客単価は2400円。需要は増え続けている。鰻専門店の世界に多様性をもたらして、消費者にとってこの業界を親しみやすいものにしている。

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千葉 哲幸(ちば・てつゆき)
フードサービスジャーナリスト
1958年生まれ。青森県出身。早稲田大学教育学部卒業。経営専門誌である柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌両方の編集長を歴任。2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

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(フードサービスジャーナリスト 千葉 哲幸)

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