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やっぱり「日本円の紙くず化」は避けられない…過去最悪の"日本株大暴落"を招いた植田日銀の大誤算

プレジデントオンライン / 2024年8月7日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/primeimages

日本銀行は7月30日、31日の金融政策決定会合で、国債買い入れを減額する計画を発表した。政策金利を0.25%にすることもあわせて発表した。日本経済はこれからどうなるのか。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史さんは「円安は止まり、世界の株価が急落している。国債買い入れを減額する計画を実行に移せば、これ以上の悲惨な結果になるだろう」という――。

■ついに日銀が「利上げ」「国債買い入れ減額」を発表した

7月末の金融政策決定会合で、日銀は短期政策金利を0.25%に引き上げ、国債買い入れ額を現在の月6兆円程度から2026年1~3月に月3兆円程度へと半減させる計画を明らかにした。

7月会合について、市場は、大胆な金融緩和解除が決定されることを予想していた。前回会合後の円急落を受け、日銀の植田和男総裁はその日の記者会見で「国債買いオペの相応の減額を行う」「利上げの可能性もある」と明言していたからだ。

モノやサービスの値動きをみる消費者物価指数(CPI)は2年半以上にわたってプラス2%を超えおり、バブルの気配さえある資産価格を見れば当然の予想である。特に日銀の財務悪化ぶりに気づいていない外国勢がそう予想するのは当然だった。

しかし、他国の中央銀行と大きく異なる日銀にとって、「すべきこと」と「できること」は大きく違う。

正統派金融論では、

・中央銀行たるもの財政ファイナンス(※)は禁じ手中の禁じ手
※政府の歳出を中央銀行が紙幣を刷ることによって賄うこと

・中央銀行は通貨の信用失墜を招く債務超過を防ぐため、価格が大きく上下する金融商品(株や長期債)を買ってはいけない

これらは基本中の基本だ。

これをことごとく大破りしてきた日銀は、その結果として、7月会合で非常に難しい決断の必要に迫られていた。

難しい決断とは何か。

①長期金利が暴騰しないほどの小規模な国債買いオペ減額
②円が暴落しない程度に大幅な国債買いオペ減額
③株価が暴落しない程度の小規模の国債買いオペ減額

という「連立3元1次方程式」の超難問を解かねばならなかったからだ。

■超難問の解を見出したように見えたが…

発表直後の市場の動きを見る限り、日銀は「連立3元1次方程式」の解を見つけ出したかのようだった。円安進行は止まり、国債、株は暴落しなかったからだ。

しかし、会合当日の日本時間夜のFRB(米連邦準備制度理事会)の政策決定会合後に株価は急落した。パウエル議長のコメントや数日間続いたアメリカの経済指標をみて、米株が下落するや日本株はその2倍のスピードで下落を始めた。日本株式の独歩安の感もある。

史上最高値を付けた7月11日の日経平均は4万2224円で年初来27%アップだったのに、原稿を書いている8月5日終値では3万1458円と年初来マイナス6%とわずか1カ月で急落した。

つまり、日銀は③「株価が暴落しない程度の小規模の国債買いオペ減額」をクリアできなかった。多くのマスコミや識者は米株の下落を「米国経済減速の予想のせい」と分析した。が、この分析には私は賛成しかねる。

その理由の一つ目は、日本株の下落の方がはるかに大きく独歩安と言っていいからだ。最近の米国株は弱い経済指標が出ると利下げ期待で上昇していたにも関わらず、今回は逆に反応した。それも非常に大きな下落だったのが2つ目の理由だ。

ゆえに、直近の世界同時株安の原因は、正しくは日銀が流動性の供給を絞る(=国債買いオペの減額)決定をしたことによるものだと言える。

■株価急落、日本株の独歩安の引き金を引いた

今までの株価上昇局面では「世界の株価上昇は日本の流動性供給によるもの」との分析が存在していた。大規模に過剰流動性が供給されていた日本の投資家が世界の金融資産を買い漁っていることが世界株価上昇の理由との分析だった。

それが正しいのなら(私は正しいと思っている)、日銀が流動性の供給を絞る(=国債買いオペの減額)決定で、その逆回転が始まると予想し、「人より早く株から逃げよう」と考える人が多く出るのも当然だ。「流動性が減少すれば、バブルは弾ける」。これはプロの投資家にとっては当たり前の発想だし、実際、過去のバブル破裂の主因でもある。

2021年5月のロイター通信の記事に「クロスボーダー・キャピタルの見積もりでは昨年3月以降、主要中銀と政府は約27兆ドルと、世界全体の総生産(GDP)の3割強に相当する資金を市場に注ぎ込んできた。これに伴って世界の株価は85%上昇し、新型コロナウイルスのパンデミックで痛めつけられた景気は回復しインフレ期待も高まっている」という記述がある。

世界最大の過剰流動性供給主である日銀が方向転換をするのであれば、世界株、特に日本株の下落を予想する機関や個人投資家が現れるのも当然のことと言える。

史上最大の下げ幅となる4451円28銭安で終了した日経平均株価の終値を示すモニター=2024年8月5日午後、東京都中央区
写真=時事通信フォト
史上最大の下げ幅となる4451円28銭安で終了した日経平均株価の終値を示すモニター=2024年8月5日午後、東京都中央区 - 写真=時事通信フォト

■日銀が「国債買い入れの減額」を実施したらどうなるのか

先述の通り、8月5日の日経平均株価は3万1458円で取引を終えた。これは前週末比4451円安(12.4%安)であり、下落率は1087年10月20日(ブラックマンデーの翌日)の14.9%に次ぐ過去2番目(下落幅では過去最大)である。

しかし、今後の動きは、現段階では分からない。この数日間の急落が「売られすぎ」として戻す可能性もある。戻す可能性がある理由は、日銀の流動性回収はまだ計画段階であり、実行されてはいないからだ。実行されなければ(日本以外の国の)株価下落は当面この程度で収まる可能性もある。

今後の日本株、ひいては世界株の動向は、日銀が実際に流動性回収計画(=国債買いオペの減額)を計画から実行段階に移すか否かであろう。この話題が、今後しばらく世界の株式市場の話題の中心になる可能性は大いにある。

では実際に、日銀が流動性回収計画(=国債買いオペの減額)を実行に移したらどうなるのだろうか。この数日間の動きを見ると、私はリーマンショックよりはるかに大きなショックが起きる可能性は大だと考えている。

今後、流動性回収計画(=国債買いオペの減額)の実行予定日まで、買い戻しがあるたびに、ショックを予見する世界の投資家は、買いポジションを減らしていくと想像される。それがプロというものだ。

■金利上昇・株価急落で、日銀は「債務超過」に陥る

世界中の株価が下落を開始すれば世界の中央銀行はあわてる。しかし、今まで政策金利を引き上げてきた中銀は、引き締めてきた金融政策を再び緩和気味に傾ければなんとか対処可能だ。

しかし日銀は違う。緩和に戻すといっても、量に関しては、まだ計画の発表段階でしかなく、金利に関しても政策金利がたった0.25%と「シミ程度」しかない。再び金融政策を緩める余地はほぼない。

更なる大問題は、中央銀行の持続性に問題が生じることだ。株価の下落は日本最大の株主である日銀に巨大な債務超過を発生させる。そうなれば、その発行する通貨も信用を失墜し、円は紙くずとなってしまう。

G20のなかで、金融政策目的で株を保有している中銀は日銀以外ない。正統派金融論は「債務超過事態に陥ることを避けるために中央銀行たるもの価格がボラタイルなものを保有してはいけない」と教えているとは前述したとおりだが、その基本のキを日銀だけは守っていなかったのだ。ゆえに株価の下落は日本では中央銀行の持続可能性に、クエッションマークがつく超重大事項なのだ。

日銀通り
写真=iStock.com/gyro
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gyro

2024年3月末の日経平均株終値は4万0369円。国債10年物金利は0.732%だったが、

・株の評価益は 37.2兆円
・保有国債評価損は (9.4兆円)
・留保 13兆円

したがって日銀は約41兆円の純資産だった。円が今まで大暴落していないのも理解できる。

■日銀の債務超過は「日本円の紙くず化」を招く

ところで私の計算によれば長期金利は0.1%上昇するごとに2.9兆円の評価損が増える、株価は日経平均1000円下落するごとに1.6兆円評価益が減る。

だとすると執筆時(8月5日)の日経平均終値が3万1458円。長期金利15時時点で0.75%なので

・株の評価益 23兆円
・保有国債評価損 (10兆円)
・内部留保 13兆円

したがって純資産は26.0兆円。純資産は今年3月末の41兆円から26.0兆円と急落したと推定される。

長期金利は7月の利上げ前の3月末レベルまで下落したのでこれ以上の金利低下(=評価損の縮小)は考えにくい、今後長期金利が7月の利上げ前の水準1,1%まで戻ると仮定すると、株が今日のような下落を2回分すなわち約8000円弱の下落で内部留保まで吐き出して債務超過に陥る。しかも政策金利の0.25%への上げで支払い金利増加による損の垂れ流しまで始まる。

株価の下落がリーマンショック並みとなりスタグフレーション(不況下のインフレ状態)で株価下落で長期金利上昇ともなれば、日銀はとんでもない債務超過に陥る。日銀も円も即ドボンだ。

「持ってはいけないはずの株の評価益」に頼って債務超過を逃れえている中央銀行などぶざまなこと甚だしい。それが世界に知れ渡るだけで日銀の信用(=円の信用)は失墜する可能性もある。

見出しに踊る「金利上昇」の文字
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

■「国債買い入れの減額」はやっても地獄、やらなくても地獄

7月31日以降の世界の株価、特に日本株の下落を見て、植田総裁は肝を冷やしたことだろう。流動性回収の計画だけでこれだけの株価下落を招いたのだから。

もし本当に流動性の回収を始めたら、株価はどれだけ下落するか? との恐怖感を味わったと思われる。

この株価急落を経ても、果たして植田総裁は、「日銀と円のドボン=紙くず化」のリスクを背負ってでも流動性回収計画(=国債買いオペの減額)を実行に移せるだろうか?

かといって、国債買いオペの減額計画を白紙に戻したら、「日銀のインフレ対応能力は皆無」であると世界中にしらしめ、円安が急速に進行(円暴落)することになるだろう。

「国債買いオペ減額」は実行されることのない空手形と言うことになるが、世界は過剰流動性回収による世界株式の大暴落からは逃れられることになる。

計画を実行に移せるかどうか。日銀にとって9月の金融政策決定会合は、7月会合以上の難題に直面すると言っていい。

■マスコミのミスリード…いまも金融緩和状態は続いている

これまで日銀があたかも金融緩和をやめたように報じられているが、実際は異なる。

日銀はこれまで通り、毎月6兆円の国債購入を継続すると年間72兆円となる。2024年に満期が来る保有国債は67.1兆円(※注)だから、このままだと年間5兆円、保有国債が増える(=市中に更にお金をばらまく=緩和の強化)。

7月会合で日銀は「四半期ごと国債購入額を月額4000億円減額する」と発表したが、最初の四半期が終了して初めて「緩和強化」をやめたことになる。それまでは引き締めでもなんでもない。

クルマの運転に例えるとこうだ。運転手が加速をやめて、最高速度で走り続けている(ブレーキを踏まず)ということだ。少なくとも、あと数カ月はお金を日ごとにまき続ける(=クルマでいえば加速を続ける)、量的緩和の強化が続くのだ。他国がばらまいたお金を一所懸命回収しているのと反対の行動を、日銀は続けるわけだ。

マスコミ各社は、日銀が今年3月の決定会合を機に金融政策を転換したかのように書くが、とんでもない。上記の具体例を出すまでもなく、賢明な読者はよくおわかりいただけるはずだ。

※今年3月7日の参議院財政金融委員会で、私の質問に財務省の正木日銀局長は「日本銀行が保有する国債のうち、2024年中の償還予定額は67.1兆円でございます。このうち、10年利付国債は28.2兆円でございます」と答弁している。

■日銀は「流動性回収計画」を本当に実行できるのか

繰り返しになるが、7月末の金融政策決定会合で日銀が決めた「流動性回収(=国債買いオペの減額)」は計画にすぎず、実行したわけではない。前述の通り、直近の株価急落の動きを見ただけでも、実行は難しいと思う。

そうでなくとも私は、7月会合前から「国債買いオペ減額」が発表されても、それは計画倒れの「空手形」に終わるだろうと主張してきた。

日銀は1カ月間かけて集めた市場参加者の意見を参考に「国債買いオペ減額」の計画を決定したようだが、そんなものは何の役に立たない。

日銀がもし「毎月1兆円の買いオペを減額すれば、どのくらいまで長期金利は上昇すると思いますか?」と聞いてきたので、マーケット参加者は「1.5%くらいだと思います」と答えたとしよう。この「1.5%くらいだと思います」との回答は「1.5%くらいだと思いますから、皆さん買ってくださいね。皆さんが買ってくれて暴落が止まったら、私も買いに入ります」という意味でしかない。

国債価格暴落が始まり、すでに保有している保有国債の評価損が毎日急拡大していく中で新規購入ができるサラリーマントレーダーや銀行員などいやしない。

「財務省は民間に国債買い余力がある」というが、8月5日の日経新聞「国債村、消えたプレーヤー」には「『財務当局は大量の預金を抱える国内銀行がその空白を埋める』と切望する」とある。しかし余力があっても、今と同じ値段で買うわけがない。まさにその通りなのだ。

日銀
写真=iStock.com/Osamu Takeishi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Osamu Takeishi

■日銀が買わない国債を、誰が引き受けるのか

年によって違うが、この10年以上にわたって年間供給の6割~9割近くを購入してきた最大の需要者が撤退を始めたら、いかなるマーケットでも価格は暴落する。金利で言えば暴騰するのだ。私は10%程度の長期金利上昇では到底終わらないと思っている。

また財務省は海外の日本国債の買い手を探すプロジェクトを開始するというが、世界ダントツで財務状態の悪い国の発行する国債でありながら超低金利なのだ。しかもその超低金利を支えていた日銀が購入から撤退を開始するという。

そんな国債など誰も買わないのは明白だ。もちろん数十%まで長期金利が上昇すれば買い手は現れるだろうが、それでは日銀も日本の財政も破綻する。

最大需要者の撤退で価格が暴落することに関しては国債村の人間が先を争って我先に逃げ出した1989年12月の資金運用部ショックで市場は十二分に経験している。

当時の国債の最大購入者であった資金運用部(年間発行国債額の19%を購入していた)が購入中止を発表したとたん、0.6%だった長期金利は2.6%まで急騰した。大慌てした大蔵省は購入を再開した。それと同じだ。歴史は繰り返す。

私が、「国債買いオペ減額計画」は一度実行しても、金利暴騰に大慌てして、再度買いオペ額を元に戻すだろうと思っている。その意味で「空手形」なのだ。日銀は世界に醜態をさらし、インフレに対する武器ももう何も残っていないことを強く世界に印象付ける。

その方針変更自体が円の大暴落の契機になるかもしれない。直近では急激な円高で相場はパニック状態になっているが、日銀が抱えている問題は、これまでも、これからも、何も変わっていないのだ。

一万円札
写真=iStock.com/itasun
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/itasun

■日銀の「流動性回収計画」は見掛け倒しである

ところで、7月31日の「国債買いオペ額を2026年1~3月に月間3兆円程度へと半減させる」との決定は「国債購入額半額」との言葉で、日銀がものすごい勢いでお金を回収するかの印象を市場に与えた。

おかげで円安進行に歯止めがかかり円高が進んだ。しかしながら、その一方で日本を筆頭に世界中の株式市場を震撼させた。株式市場の反応を予想し得なかった日銀は円安防止のために意図的に誤解を招こうとしたのかもしれない。

しかし、重要なのは、日銀の「国債保有額がどれだけ減るか」であり、「毎月の購入額を半減させること」ではない。中央銀行の国債保有額は、ほぼばらまいたお金の量と一致するから保有額が重要なのだ。

日銀が打ち出した悠長な方法(満期待ち・国債買い入れ額の減額)では到底達成できない。保有額があまりに膨大だからだ。今までお金を供給するためにしていたオペレ-ション(=国債買いオペ)と真逆のオペレーション、すなわち国債売りオペを行わなければならない。その上、年間供給の6割~9割近くを購入してきた最大の需要者である日銀が売りに回ったら混乱の極みだ。国債価格は大暴落(金利は大暴騰)してしまう。できるはずがない。

毎月の購入額の3兆円の半減では、日銀の国債保有額(=お金のバラマキ)は2年間でたったの7~8%しか減らないのだ。ジャブジャブジャブにばらまいたお金がジャブジャブになるだけの話だ。それでは円安が止まらない。だから日銀は、わざと誤解を招く表現にしたと邪推してしまう。誤解だけでは長期的円安進行に歯止めはかからない。

他国の中銀はQTでお金の回収が終わりに近づいている。一方、日本だけはジャブジャブの状態。金利を更には上げられない上に2年後もお金ジャブジャブなのだから円安が止まるわけがない。

■正常化には長い年月を要する

インフレ鎮圧には、ばらまいたお金の回収、すなわち日銀の保有国債額の減少が不可欠だ。1980年のボルカーショックで当時のFRB議長ボルカー氏が、悪性インフレ鎮圧のために金利操作の替わりに「どれほどのお金を回収するか」を政策目標にしたことからも明らかだ。サタデイ・ナイト・スペシャルと呼ばれる。

国債保有額を異次元緩和前の状態(=正常状態)に戻せるか否かで日銀がインフレに対処できるか否かを決定する。この点に関しては私の敬愛する元日銀理事・山本謙三さんが7月3日に配信した論考が非常に参考になる。

山本さんは日銀の正常化には以下の通りの年数を要すると指摘している。

(1)今後の買い入れ額をゼロで固定する=当面2年間の買い入れ額も月額ゼロ(償還額月5.9兆円)。
⇒正常化の完了に約10年

(2)今後の残高圧縮額を月3兆円に固定する=当面2年間の買い入れ額は月2.9兆円程度(買い入れ額2.9兆円マイナス償還額5.9兆円)
⇒正常化の完了に約13年

(3)今後の残高圧縮額を月1.5兆円に固定する=当面2年間の買い入れ額は月4.4兆円程度(買い入れ額4.4兆円マイナス償還額5.9兆円)
⇒正常化の完了に約26年

正常化が完成するまではお金ジャブジャブ状態だ。お金を回収してインフレを制御できないということだ。それができないのなら、日銀はもう中央銀行の体(テイ)をなしていない。

■マスコミは「利上げ」だと大騒ぎしているが…

7月会合で日銀は短期政策金利を0.25%へと引き上げたが、0.15%程度の引き上げなど豆鉄砲にすぎない。世界で利上げというのは0.25%か0.5%上げることである。0.15%の上げなど世界では利上げとは言わない。変更なし、と表現するのが正しい。

ちなみに「3月に政策金利を0.2%上げた」とマスコミは騒いでいるが、これはリンゴとオレンジを比べているに過ぎない。完全なミスリードだ。

3月の政策決定会合前の政策金利とは、日銀当座預金のごく一部にかかっていたペナルティー金利を指す。一方で現在の政策金利は、無担保コールオーバーナイト金利のこと。後者(現在)の定義では、3月会合前後を比べれば政策金利は0.003%というシミ程度しか上昇していない。

リンゴとオレンジを比べれば0.2%上昇したかもしれないが、リンゴとリンゴで比べれば0.003%しか金利は上昇していない。3月会合で利上げなどしていないのだから、7月会合の0.25%への利上げは「最初の利上げ」ということになる。更なる利上げとはおこがましい。

■日銀の「追加利上げ」は困難である

もう一つ、日銀は「追加利上げ」をできるのか、についても述べておきたい。

今年3月7日の参議院財政金融委員会で、財務省の正木日銀局長は私の質問に「付利金利が0.5%に上がったときに2.5兆円の支払い金利となる」と答弁された。超過準備額500兆円×0.5%という計算だろう。

FRBのように年間の利息収入が27兆円もある中央銀行なら話は別だが、日銀のnet金利収支は令和5年度、2.1兆円、令和4年度1.5兆円、令和3年度1.2兆円しかない。ここで現在0.25%の日銀当座預金金利を0.5%まで引き上げ2.5兆円の支払い金利増となれば「損の垂れ流し」となる。米国のように政策金利を5.25%とか5.5%まで引き上げたら気の遠くなるような損の垂れ流し(負の通貨発行益)となる。

たしかに令和5年度の税引き前当期剰余金はプラスだが、為替評価益(1.3兆円)や本来保有してはいけないはずの株式ETFの運用益(1.2兆円)など特殊要因が多い。このような収益に頼って損の垂れ流しを回避している中銀など、他国から信用されるとは思えない。このような状況で日銀に利上げはできるのだろうか? 日銀の信用は保てるのだろうか? という話となる。

■「円安が止まった」と喜んではいけない

ドル円相場は、日米金利差だけどうこうなるものではない。デイトレーダーやプログラム売買みたいな発想で為替予想をする次元ではもはやないのだ。パブロフの犬ではないのだから、頭を使わなければならない時だ。

今後、注目するべきものは、①ばらまかれたお金の回収度合(他国との比較)と、②いつ日銀が債務超過に陥るか、の2点に尽きる。

これらを考えると円の将来を楽観することは全くできない。

たくさんの100ドル紙幣
写真=iStock.com/JuSun
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JuSun

私のXのフォロワーが、私が参議院予算委員会の公聴会で日銀OGの河村小百合氏(日本総合研究所主席研究員)と議論をするYouTube動画を見つけてくださった。5年前のやりとりだが、当時はほとんどの方に理解されていなかったし、「そんなことになるわけない」と思われた方が大勢いらっしゃったと思う。しかし、今となっては私の指摘をご理解いただける方がずいぶん増えたのではないかと思っている。

この動画を見ても、いまだに日銀には問題ないや、と思われるのなら、あまりに脳天気だと思わずに得ない。是非視聴をお勧めする。

これまで述べたように、日銀は7月会合を無難に乗り切ったかのように見えた。しかし待っていたのは世界同時株安であり、日本株の独歩安だった。日銀が生み出したひずみが、世界の株式市場の動きに反映され、日本株の急落に至らしめたのだと私は思う。

日銀と円、そして財政の持続性が、今の日本における最大の問題である。植田総裁は金融政策決定会合のたびに、こうした難題と向き合わなければならない。短期的にドル円が円高に振れようとも、相変わらず円の紙くず化は近いと私は思っている。日銀の財務の健全性は日ごとに悪化しているからだ。

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藤巻 健史(ふじまき・たけし)
フジマキ・ジャパン代表取締役
1950年東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。80年に行費留学にてMBAを取得(米ノースウエスタン大学大学院・ケロッグスクール)。85年米モルガン銀行入行。当時、東京市場唯一の外銀日本人支店長に就任。2000年に同行退行後。1999年より2012年まで一橋大学経済学部で、02年より09年まで早稲田大学大学院商学研究科で非常勤講師。日本金融学会所属。現在(株)フジマキ・ジャパン代表取締役。東洋学園大学理事。2013年から19年までは参議院議員を務めた。2020年11月、旭日中受賞受章。

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(フジマキ・ジャパン代表取締役 藤巻 健史)

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