「死を前にして何に後悔する?」余命を告げられた患者の10の切実な吐露から健常者が学べること
プレジデントオンライン / 2024年8月21日 8時15分
■死を前に後悔せぬよう今から実行すること
私は緩和ケア医として、これまで約3000人の患者さんの最期と向き合ってきました。人というのはわりと楽観的で、これまでの日常がずっと続くと何となく思っています。しかし医療の現場にいると、必ずしもそうではないことを日々痛感します。
人はいつ死ぬかわかりません。もし近い将来に急に重い病気を告げられ、余命の話になったら、自分は何に後悔するだろうか。それを元気なうちに考え行動に移すことが、生き方のささやかな修正になり、後悔のない人生の完結につながると感じています。
ある末期がん患者さんは、笑みを浮かべつつ、こう言いました。「私はもう2周目です」
その方は根治しないと言われた時点で自分のやりたいことをリスト化し、実行。私と会ったときには、それが2周目に入っていたというのです。前の病院で余命3カ月と宣告されたという彼の表情は、とても穏やかでした。
■他人に優しい人は最期に自らを救う
人は重い病気を患うと、人生の意味を考えだします。他人を蹴落として勝負に勝ち、成功を手に入れた人でも、決して勝利できないのが死です。
死を前にして、自らの人生を省みるのはごく自然な行為といえるでしょう。死を前にするとしばしば価値判断が変わります。中には「他人に優しくしなかったから、その罰が当たって病気になった」と思い込み、病床で後悔の念にさいなまれる人もいました。
他人に心から優しくできる人は、自分を許す心の広さもあって、死を前にしても後悔が少ないのかもしれません。
人への優しさが足りないと思う人は、優しさを意識して生きていくといいかもしれません。
「私には優しさが足りなかった」
そのように後悔の言葉を吐露した男性がいました。その戸田さんは、治療に携わる私たちに向けて、こう続けたのです。「先生たちが、他人のために一生懸命になれるのが、すごいよ」
そう言って窓の外を見た戸田さんの目の端には、光るものがありました。「成功するために、たくさんの人を犠牲にもした。私にかかわった人は、幸せではなかったろう。人を蹴落としもした。すべては自分のためだった」「けれども、私たちは戸田さんと会えて、不幸せではありませんよ」
そう言うと、戸田さんはこちらに向き直りました。真剣な表情でした。「それは……今は心持ちが変わったから、先生たちの印象も違うんだと思うんです。昔の自分はひどかった」「なるほど。でも気がついたんならいいんじゃないでしょうか。人に優しくしたいと思ったのなら、よかったんじゃないでしょうか」
■自分がやったことを省みるだけでも幸せ
戸田さんは私たちスタッフに、いつも礼を言い、「励ましをもらっている」と声をかけてくれました。一人ひとりの名前を覚えて、細やかに気を使ってくれていたのです。「いや、人に優しくするのだって、自分が得になるからだよ! 他人のためじゃない」
私はその言葉が、戸田さんの本心ではないと感じました。「そうなんですか」「そうですよ。ひどい奴なんだ」「けれども、私は戸田さんと会えてよかったと思います。戸田さんは優しい人ですから。皆、そう言っています」
また窓の外のほうを向いた戸田さんの肩が、小刻みに震えていました。「気がついただけ、幸せです。一生気がつかずに亡くなる人だっているのですから」
私は背中にそっと声をかけました。
戸田さんは最期、微笑みを浮かべて旅立たれました。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月16日号)の一部を再編集したものです。
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緩和医療医
1976年、茨城県生まれ。岐阜大学医学部卒業。2010年より東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンターに勤務。同センター長を経て、日本初の早期からの緩和ケア外来に特化した診療所「早期緩和ケア大津秀一クリニック」院長。著書に『死ぬときに後悔すること25』(致知出版社)、『「幸せな人生」に必要なたった一つの言葉』(青春出版社)、『死ぬまでに決断しておきたいこと20』(KADOKAWA)ほか多数。
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(緩和医療医 大津 秀一 構成=本誌編集部)
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