貫禄41歳の二宮和也には目もくれない…夏ドラで小学生に一番人気の主演は「Snow Man」目黒蓮と天才7歳子役
プレジデントオンライン / 2024年8月8日 10時15分
夏ドラマが始まって1カ月が経過し、各ドラマの成否が見えてきた。ネット上では「苦戦」「不調」「爆死」と酷評される作品もあるが、その多くは、視聴率の中の「世帯」や「個人」での判断だ。年齢を細かく区切った「特定層別」で見ると、むしろ人気があり、見逃しサービスで多く視聴され、ビジネスとして合格点をとっているものもある。
ドラマ視聴の中心層となることが多い中高年層だけでなく、この特定層の視聴率(当初1カ月平均)で主要ドラマ14作品を再評価してみると、意外なことがわかった。
■テレビを見る時間が長い「中高年」の視聴率は全体を映していない
ドラマが高視聴率を獲得できるかどうかは「中高年」の動向がその鍵を握るケースが多い。テレビをリアルタイム視聴する人は、50歳以上が6割ほどを占め、このボリューム層の数字が「世帯」や「個人」の視聴率を左右するからだ。
ここ1カ月での「個人全体」(全年代)のベスト7は下記のドラマだった。
1位 TBS「ブラックペアン シーズン2」(日曜21時)
2位 フジテレビ「海のはじまり」(月曜21時)
3位 TBS「西園寺さんは家事をしない」(火曜22時)
4位 テレビ朝日「科捜研の女 season24」(水曜21時)
5位 フジ「新宿野戦病院」(水曜22時)
6位 テレ朝「スカイキャッスル」(木曜21時)
7位 日本テレビ「GO HOME」(土曜21時)
(13位)フジ「ビリオン×スクール」(金曜21時)
では、「個人全体」以外で細かく見るとどうか。例えば、「65歳以上」の視聴率だ。
彼らがよく見るベスト5の作品のうち3本までは「個人全体」でもベスト5に入り、残り2本も7位までに滑り込んだ。1日のテレビ視聴時間が若者より数倍長く、個人全体に大きな影響を及ぼしていることがわかる。
●「ブラックペアン シーズン2」
「65歳以上」の人が夏ドラマで最も好んだのは「個人全体」1位でもある二宮和也主演のTBS「ブラックペアン シーズン2」だ。同2位である人気グループ「Snow Man」の目黒蓮が主演のフジテレビ「海のはじまり」の1.6倍以上となった。しかも、同作品は「コア層」「Z世代」「F1」(女性20~34歳)「女子中高生」など、多くの層でもぶっちぎりのトップだった。
![日曜劇場「ブラックペアン シーズン2」(TBSテレビ)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/3/1200wm/img_a3744471bfa4db153ba5f6dd547f1a38238676.jpg)
ところが、この「ブラックペアン」は「小学生」(男・女)ではいずれも3位に後退し、「小学生の親世代」でも頂点を逃している。どうやら小学生のテレビ視聴は、他の世代、特に「65歳以上」と極端に異なるようだ。つまり、視聴率の傾向を示す報道(=中高年の動向が大きく反映される数字)には落とし穴があることがわかる。
■小学生の視聴率
●「海のはじまり」
実は小学生でトップは親子の愛を描く「海のはじまり」だ。
![ドラマ「海のはじまり」(フジテレビ系、毎週月曜21:00~)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/6/1200wm/img_568b3879bd098dbf2148a5e49acccba9353066.jpg)
「ブラックペアン」の約1.5倍という超人気ぶり。目黒蓮や有村架純の人気もあるのだろうが、やはり魅力は目黒の娘・海を演ずる7歳になったばかりの泉谷星奈(いずたに・らな)だろう。この作品は同局の2022年のヒットドラマ「silent」と同じ脚本家、演出家、プロデューサーであることが注目されているが、やはり本当に小学1年生なのかと思うような演技力。SNSでも称賛するつぶやきにあふれている。
「らなちゃんの演技うますぎ」
「表情がとても素敵」
「瞳はなにかこう不思議な力でもあるんすかね」
同世代の「小学生」と同時に、「小学生の親」も視聴率1位となった。親子一緒にはまっている家庭が少なくないようだ。
■「中高年」と「小中高生」とで乖離
●「科捜研の女 season24」
「中高年」と「小中高生」で順位が大きく変わるドラマは他にもある。
沢口靖子が主演のテレビ朝日「科捜研の女 season24」は「65歳以上」で2位、「個人全体」でも4位といい線をいっている。ところが、10代以下の「女子中高生」ではブービー、「小学生」では女子8位・男子10位と大きく後退した。「個人全体」の数字が大きい分だけ、未成年層に足を引っ張られた形だ。
●「西園寺さんは家事をしない」
「科捜研の女」と逆のパターンが、TBS「西園寺さんは家事をしない」。
松本若菜演ずるバリバリ働く独身女性が、男性アイドルグループ「SixTONES」の松村北斗演ずるシングルファーザーと次第に心を通わせるハートフル・ラブコメディだ。
「65歳以上」では7位とぱっとしないが、「コア層」「Z世代」「F1」などでは3位で、「女子中高生」や「小学生」では2位に浮上。しかも「小学生」では「ブラックペアン」を追い抜いてしまっている。
●「ビリオン×スクール」
より極端なのが、フジ「ビリオン×スクール」だ。
「Hey! Say! JUMP」の山田涼介演ずる財閥系グループのCEOが身分を隠して高校教師となり、生徒と共に成長する物語だ。「65歳以上」では最下位で「個人全体」もブービーとなり、ネット記事では「大爆死」などと揶揄されている。
ところが「女子中高生」では5位、「小学生」では4位にランクインしている。若者が投稿したと思しきSNSでは、評価する声が少なくない。
「勉強になると思って見始めたけど普通にクソおもろい」
「学園ヒーロー先生でなにげにいいドラマ」
「イケメンの宝庫で毎回見てて癒される」
中高年と未成年で極端に評価が分かれるパターンもあるのだ。
■各層をボリュームで比較
順位でなく各ドラマをボリュームで比較してみよう。
![【図表】4ドラマの層別視聴率比較](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/b/1200wm/img_0b16eeae14058fddd6f992f8e919bad0382608.jpg)
●小学生が好むドラマ
まず「ブラックペアン」はボリューム層の中高年で荒稼ぎしているために「個人全体」が断トツなことがわかる。若年層でも首位を独走し、理想的なドラマとなっている。
ところが、死角は「小学生」だ。
「ブラックペアン」は、子供たちに断トツ人気の「海の始まり」の7割に届かない。「西園寺さんは家事をしない」にも後塵を拝した。このため「小学生の親」たちでも並ばれてしまった。
さらに「小学生」で興味深いのは、学園ものの「ビリオン×スクール」だ。
「65歳以上」では「ブラックペアン」の4分の1倍ほどだったのに、「小学生」では肉薄した。実は同ドラマは「中高生」でも健闘しており、一部のネット記事のいう「苦戦」「爆死」は当たらない。
実はフジの無料VOD再生数(7月)は、民放史上初の月間1億回超を果たした。「海のはじまり」「ビリオン×スクール」の貢献度はかなり大きいはずだ。数字を出せば、「海のはじまり」が2873万再生をはじめ、4ドラマ合計での5621万回に及んだ。「ビリオン×スクール」もネット上ではよく見られたのである。
確かに「65歳以上」では“爆死”だったが、未成年をターゲットとしたためにビジネスとして一定の役割を果たしていたということになるだろう。
■中高生でも異変
●中高生に支持される
「小学生」の他、「中高生」でも珍しい現象が起こっていた。
松下奈緒が主演のテレ朝「スカイキャッスル」は高級住宅街「スカイキャッスル」に住む受験生の子供を持つ複数のセレブ家庭の衝突などを描くストーリー。韓国人気ドラマの日本版だ。
![木曜ドラマ「スカイキャッスル」(テレビ朝日)オフィシャルサイトより](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/9/1200wm/img_19a7930410fce34584526d9605c5c563442845.jpg)
「65歳以上」で4位、「個人全体」で6位と健闘した一方で、「コア層」では9位、「F1」では10位といまひとつの結果だった。
ところが、さらに年齢の低い「中高生」では珍しい状況となった。この世代の「女子」では13位でトップ「ブラックペアン」の5分の1ほどに低迷。ところが「男子」では一躍2位に躍り出た。そして「小中高生の親」たちも注目するドラマとなったのである。
「何のために勉強させるの(中略)子育てとは何かを考えさせられます」
「自分も似たような環境で育ってきた」
「ひとごととは思えない部分が多い」
受験への異常な執着や愛息への過剰な期待。どうやら母と息子の関係という意味で、身につまされる思いで注視した「男子中高生」が少なくなかったようだ。その一方で「女子中高生」はそうでもなく、むしろ「西園寺さんは家事をしない」で2位という実態が興味深い。この見られ方の違いが、今も日本の親子関係に残る一側面なのかも知れない。
ちなみにフジの4ドラマだけでなく、「スカイキャッスル」も最初の3日間で見逃し配信の再生数が126万回と大記録となった。これらの現実はどう受け止めるべきだろうか。
どうやらドラマ番組を正しく評価するには、「65歳以上」に左右される「個人全体」などの視聴率だけでは不十分なようだ。
「ビリオン×スクール」や「スカイキャッスル」のように、全体としてそれほどでなくても、ある特定の層に強烈に見られるドラマは、ネット上で新たなビジネスにつながる可能性を持つ。これまでマスを追ってきたドラマは、特定の一部を引き込むことで成功する新たな時代へと突入したようだ。
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次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト
愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中、業務は大別して3つ。1つはコンサル業務:テレビ局・ネット企業・調査会社等への助言や情報提供など。2つ目はセミナー業務:次世代のメディア状況に関し、テレビ局・代理店・ネット企業・政治家・官僚・調査会社などのキーマンによるプレゼンと議論の場を提供。3つ目は執筆と講演:業界紙・ネット記事などへの寄稿と、各種講演業務。
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(次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト 鈴木 祐司)
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