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フワちゃんの「暴言投稿」はなぜここまで大炎上したのか…筆者が共演した「大物毒舌芸能人」との決定的違い

プレジデントオンライン / 2024年8月6日 20時15分

口臭ケアサプリ・歯磨き粉の新商品発表会に登壇したタレントのフワちゃん=2021年4月14日、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

タレントのフワちゃんがXに投稿した「暴言」がネット上で批判を集めている。神戸学院大学の鈴木洋仁准教授は「背景には、YouTuber出身タレント特有の危うさがある。特にフワちゃんは、無鉄砲なキャラでありながら『実はちゃんとしている』というイメージを持たれているので、余計にダメージが大きいのではないか」という――。

■フワちゃんがSNSに投稿した「暴言」

タレントのフワちゃんが、大炎上している。よくあるXの炎上と思いきや、レギュラーラジオ番組の出演辞退をはじめ、影響が続いている。

そのポスト(投稿)は、8月4日の日曜日の昼下がり(14時43分)のことだった。タレントのやす子が2日前に書いた「やす子オリンピック 生きてるだけで偉いので皆 優勝でーす」とのポストを引用しながら、フワちゃんが「おまえは偉くないので、死んでくださーい 予選敗退でーす」と返したのである。

当該ポストをすぐに削除したフワちゃんは、それから約9時間後の同日23時41分に謝罪する。ただ、その間にInstagramのストーリーを更新し、水着姿の写真を公開していたことも指摘されており、火に油を注いだ。

騒動は収まらず、翌5日月曜日には、深夜(6日午前3時)に放送予定のラジオ番組「フワちゃんのオールナイトニッポン0」の休止が発表され、それについても、フワちゃん自身が、あらためて謝罪した。

当初は、Xアカウントの乗っ取りが疑われるほどだったが、続く謝罪に、その説は消え、ネット上では、フワちゃんへの集中砲火が止まる気配がない。

フワちゃんは、言わずとしれたYouTuber出身であり、大手事務所に所属していない。XやInstagramでの発信は、本人の思うままであり、制限がない。そうした危うさが、今回の大炎上を招いた原因と考えられよう。

YouTuber出身のタレント特有の危うさは、そこに限らない。特にフワちゃんは、出自を活かしたギャップ(萌え)で売ってきたからである。

■本当は「いい子」というイメージ戦略

フワちゃんといえば、「消しゴムマジックで消してやるのさ」というCM(現在は非公開)でのセリフに象徴される「タメぐち」が代名詞である。大物タレントだろうが、学者だろうが、弁護士だろうが、誰かれ構わず、遠慮なく話しかける。言い方だけではない。内容も、件のCMのように、ぞんざいというか、端的に無礼である。

奇抜なファッションも「らしさ」を形づくってきた。スポブラ(スポーツ用ブラジャー)でヘソを出し、下半身はホットパンツ姿で、全身の多くを露出する。髪の毛は、お団子にまとめた上で、パステルカラーのヘアゴムやネックレスで固める。おしゃれなのか、ダサいのか。少なくとも、人前に出る格好として品行方正とは言いがたい。

突拍子もない行動が耳目を集めてきたし、テレビ収録への遅刻も、たびたびネット記事になるなど、非常識な振る舞いを続けてきた。

他方で、フワちゃんは支持されてもきた。タレントのベッキーは、「あの人にマジメを求めてどうするの?」とコメントしたと報じられている。それどころか、「実は敬語が使える」とか、「根はいい子なんです」とも擁護されてきた。フワちゃんが、テレビにとどまらず、世界的企業GoogleのCMでも求められてきた理由がここにある。

YouTuber出身の、常識知らずで、無鉄砲なキャラでありながら、その実は、ちゃんとしている。そのギャップ(萌え)にこそ、視聴者や広告代理店、そして大企業が魅力を感じてきたのではないか。この点は、炎上騒動が、なかなか鎮火されない原因にも通じる。

■「裏切られた」という被害者意識

フワちゃんの裏の顔が見えただけなら、話は単純だっただろう。清純派で売ってきていたのに不倫をしていた、とか、真面目キャラだったのに腹黒かった、といった程度なら、これほどまでのバッシングは受けなかったに違いない。

フワちゃんは、裏アカがある、と公言してきた(現在は凍結中)し、すでに書いたように、「礼儀知らず」を売りにしてきた。同時に、それはメディア向けの仮の姿であり、本当は、ちゃんとしているのではないか。こんな落差のほうを最大のセールスポイントにしてきた。

だから、ネットユーザーをはじめとして、彼女を応援していた人たちも、みんなが、「裏切られた」との被害者意識を強めている。自分たちが、フワちゃんの営業テクニックに騙されていた事実を突きつけられて、怒っているのである。見る側が勝手にイメージを押し付けていたのなら、まだ、フワちゃんに同情の余地があるのだが、ここまでの経緯に鑑みると、かばうのは、なかなか難しい。

しかも、フワちゃんが、やり玉に挙げたポストは、「地雷」としか言いようのないものだったのである。

■オリンピックが盛り上がる中で…

やす子のポストは、非常に時宜にかなったものだった。金メダルの期待を背負いながら惜しくも敗れた選手たちへの誹謗中傷が社会問題となる中で、あえて能天気とも思えるポストを投じる。暴言を浴びせる側も浴びてしまっている側も、どちらも非難せず、ギスギスした空気をやわらげよう。そんな社会貢献とすら言えるようなポストだった。

メダルラッシュに沸く五輪、そして、罵詈雑言に皆が心を痛めるなかでなされたのが、やす子の心温まるポストだった。二重にも三重にも「正しい」対象に、フワちゃんは牙を向く。フワちゃんの悪意は、軽い気持ちでなされた冗談や揶揄ではない、心の底からの、筋金入りのものだったのではないか。そう疑わせるに十分だったために、言い訳の余地がない。

それどころか、五輪に盛り上がる中で、「予選敗退」はNGワード以外の何ものでもない。五輪選手ばかりか、出場できなかった多くの人たちにとって、「予選敗退」は、人生を否定するほどのインパクトを持つ。

もう、フワちゃんのポストは、いつものキャラゆえに軽率に発したとは受け取られない。それこそ炎上が収まらない要因と言えよう。

フワちゃんの他にも、「タメぐち」を看板に掲げてきたタレントは多い。その筆頭にマツコ・デラックスが挙げられるだろう。では、なぜマツコは、炎上しないのか。

■マツコ・デラックスが炎上しない理由

私自身、「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)にゲスト出演したときに、マツコから「元号の研究だけで生活できるの?」と言われた。口ぶりはフラットではあるものの、その質問は、おざなりではなく、誰に対してもリスペクトを欠いていなかった。それどころか、マツコは、収録の前後にはスタジオの出入り口に立って、出演者全員にお辞儀をしていた。

だからといって、マツコは、そのギャップを売りになど決してしてこなかった。「実は、ちゃんとしている」というキャラ設定をしてこなかったのではないか。あくまでも、テレビの中では、マツコ・デラックスを演じ続け、その裏側に何があるのか、本音では何を考えているのか、などと憶測させてこなかった。

社会学者の太田省一氏が鋭く指摘するように、「あらゆるかたちでマツコは、恥ずかしい姿も含めて『生き様』をさらけ出すこと、すなわち『ドキュメント自虐』を目指す()」から、「いい子」も「礼儀正しい」も、まったく見せてこなかったのである。

マツコ・デラックス(写真=TTTNIS/CC-Zero/Wikimedia Commons)

■「YouTuber出身タレント」の危うさ

ここにマツコが炎上しない秘訣があり、逆にフワちゃんが大炎上を止められない元凶がある。加えて、「謝れば済む」と、フワちゃん本人は甘く見ていたのだろう。その自覚(のなさ)が、ネットユーザーがかねて抱いていた憎しみや違和感に、火をつけてしまったのではないだろうか。

これは、YouTuber出身タレントの抱える危うさにほかならない。味方だと信じていたユーザーこそが最大の敵に、一瞬にして立場を変える。いや、立場を変えさせてしまうぐらい、タレントとしての地位が不安定なのである。テレビ業界のコンプライアンス重視の傾向が、よくも悪くも強まるばかりのなかで、フワちゃんのように、無理のあるキャラづくりを求められるからである。

正直に言えば、フワちゃんを袋叩きにする状況が続くのは意外だし、褒められる内容ではないとはいえ、ここまで火炙りになるほどとは思えない。もちろん、リンチを肯定するわけにはいかない。けれども、ネットから生まれたスターは、その苦しみを飲み込まなければならないほど、危うい。そう考えるしかないのかもしれない。

※太田省一『マツコの何が“デラックス”か?』朝日新聞出版、2018年、207ページ

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鈴木 洋仁(すずき・ひろひと)
神戸学院大学現代社会学部 准教授
1980年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(社会情報学)。京都大学総合人間学部卒業後、関西テレビ放送、ドワンゴ、国際交流基金、東京大学等を経て現職。専門は、歴史社会学。著書に『「元号」と戦後日本』(青土社)、『「平成」論』(青弓社)、『「三代目」スタディーズ 世代と系図から読む近代日本』(青弓社)など。共著(分担執筆)として、『運動としての大衆文化:協働・ファン・文化工作』(大塚英志編、水声社)、『「明治日本と革命中国」の思想史 近代東アジアにおける「知」とナショナリズムの相互還流』(楊際開、伊東貴之編著、ミネルヴァ書房)などがある。

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(神戸学院大学現代社会学部 准教授 鈴木 洋仁)

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