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「好きな人」にお金を騙し取られたらどうするか…弁護士が指南する「泣き寝入りしないための2つの方法」

プレジデントオンライン / 2024年8月29日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/GF days

恋愛感情を利用されてお金を騙されてしまった場合、被害者はどうすればいいのか。アトム法律事務所の松井浩一郎弁護士は「民事と刑事の2つのアプローチが用意されている。しかし、いずれの措置をとったとしても加害者に支払い能力がなければ、最終的に金銭を回収することは難しい」という――。

■恋愛感情がときに命を奪う事態に…

少し無理をしてでも、好きな人のためならば――。そんな軽はずみな気持ちをもってした行動が、時として大きな事件へと発展する。

恋愛感情を抱き、多額の金銭を相手に貢いでしまうことによるトラブルが後を絶たない。その中でも比較的記憶に新しいのは、男性心理を手玉に取り、複数の男性から多額の財産を詐取したとして話題となった「頂き女子りりちゃん」の事件であろう。

詐欺行為を「頂き行為」などと称し、その巧妙な手口をマニュアル化して販売したことで、連鎖的に被害を受けた男性が複数存在する。

2024年5月には、西新宿のタワーマンションにおいて刺殺事件が発生してしまったが、この件も、加害者である51歳男性が25歳の被害女性に対して1000万円近くの財産を貢いだにもかかわらず、その後関係を切られてしまったことが、犯行動機の一部になったとのことである。事案や結果は異なるにせよ、いずれも男女間の恋愛感情に基づくトラブルだ。

■「詐欺罪」の成立要件とは

岡野武志、アトム法律事務所『おとな六法』(クロスメディア・パブリッシング)
岡野武志、アトム法律事務所『おとな六法』(クロスメディア・パブリッシング)

どんな理由があったとしても、他人の生命・身体に対して危害を加えるということは、絶対にあってはいけない。西新宿タワマン刺殺事件については、その動機が如何なるものであれ、加害者には厳罰を望むところである。

他方で、「頂き女子りりちゃん」の事案でも問題になったように、男性が詐欺の被害者であることが明らかなケースにおいては、被害者としての正当な権利行使が認められる必要がある。

そもそも、前提として整理すべきは、いかなる場合に詐欺罪が成立するのかという点である。刑法246条1項は、「人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する」と定める。すなわち、詐欺罪は、人を欺く行為(欺罔行為)により、その人が錯誤に陥り、その錯誤に基づく財産の交付がなされることで成立する犯罪である。

■「お金を返してほしい」は実現するか

たとえば、「頂き女子りりちゃん」は、「親と縁を切るために手切金として800万円を支払わなければならない」などと被害男性に伝え、被害男性は、それが真実でないにもかかわらず、真実であると思い込んだことで(錯誤に陥っている)、多額の金銭を交付することになったわけであり、これは立派な詐欺罪として処罰対象となる。

「頂き女子りりちゃん」のケースでは、懲役9年・罰金800万円という非常に重い判決が下り、これを不服として控訴中であるが、被害者としては、加害者の刑事罰はさておき、実際に詐取された金銭の返還を求めたいという気持ちを持つであろう。

このような場合、男性としては、今まで貢いだ金銭を全額取り戻したいところであるが、どのような手段が考えられるのか。ここでの選択肢は、大きく①民事上のアプローチと②刑事上のアプローチに分けられる。

自力救済が禁止されている日本においては、たとえば、暴力や脅迫を手段として財物を取り返すということはできない。これをやれば、被害者という立場から一転、加害者という立場になってしまう。そのため、適法な手段による解決策を選択する必要がある。

■まずは内容書面を送って相手の反応を見る

まず、①民事上のアプローチとはどのようなものか。詐欺行為は、不法行為(民法709条)に該当すると考えられるため、相手方の不法行為に基づく損害賠償請求が可能となる。また、加害者が正当な理由に基づかないのに利益を得たとして、不当利得(民法703条)による損害賠償請求という方法も考えられる。

いずれの法的構成であっても、いきなり訴訟提起という手段を踏むのは、一般的にハードルが高いであろうと思われるから、まずは相手方に内容証明などの公的書面を送る方法が考えられる。この書面には、通常、被害を受けた内容と金額を記載し、「14日以内に応じない場合は、法的措置を検討します。」などの文言をつけることが多い。

これで相手方が素直に応じてくれれば、当事者間で穏便に解決できる。穏便に解決できれば、深刻な刑事事件に発展する可能性も低くなり、社会的にも望ましい結果であろう。

■裁判で勝てば賠償金、一方で出費も

しかし、当事者間での早期解決ができない場合は、次なる手段として、訴訟提起に移行することが考えられる。訴えを提起するには、原告となる当事者もしくはその訴訟代理人(弁護士)が裁判所に訴状を提出することになり、必要な法的手続を経る必要がある。

訴訟が提起された後は、当事者間で主張・反論を繰り返し、最終的には、裁判所が判断をすることになる。ここで、詐欺行為が認められれば、裁判所から相手方に賠償命令が下される。相手方に現金がない場合は、差押えなどの手続によって、現金化できるものが強制執行の対象となる。

これら一連の手続を的確に行なうためには、一度弁護士に相談をするのがよい。ただし、正式に弁護士に依頼する場合、勝訴した場合でも着手金や報酬金、実費などの弁護士費用がかかるので、それも含めて相談してみたほうがいいだろう。

裁判所の看板
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

■被害金を回収することは困難と知っておくべき

次に、②刑事上のアプローチとはどのようなものか。

まず、詐欺の被害に遭った旨を警察に相談することになる。具体的な被害事実が明確で、証拠が揃っていれば、被害届を提出して、警察が捜査を開始してくれる。警察が捜査を開始したとすれば、加害者が見つかるのを待つことになる。

「頂き女子りりちゃん」の事件のように、被害額が高額に及べば、深刻な刑事事件として捜査が進む。詐欺罪は、その法的刑に罰金刑がないことからしても、重罪と考えられている。そのため、被疑者として捜査対象になった者は、刑事罰を免れるために、積極的に被害賠償を打診する場合が実務では多い。

もちろん資力がある場合の話ではあるが、資力がない場合であっても、借金をしたり、分割払いという形をとったりするなど、刑事事件上の示談を締結するという選択肢も考えられるところである。これで被害弁償が法的拘束力を伴った形で約束されるので、財産を全く取り返すことができないよりはマシであろう。

仮に男女の関係からの詐欺被害に遭ってしまった場合、法律上は、以上述べたような民事と刑事のアプローチが用意されている。しかし、いずれの措置をとったとしても、財産を詐取した加害者に支払能力がなければ、最終的に金銭を回収することは難しいと思われる。

結局のところ泣き寝入りをすることになってしまうことが多いからこそ、いくら恋愛感情とはいえ、お金を相手に渡すときはさまざまなリスクがあることを考えてから実行すべきである。

とはいえ、被害者としての正当な権利行使を実行するとなった場合は、民事と刑事のアプローチを検討して、弁護士に一度相談するのが確実かと思われる。

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松井 浩一郎(まつい・こういちろう)
弁護士
アトム法律事務所所属。ニューヨーク大学卒業、東京大学法科大学院修了。弁護士としての活動のほか、事務所の“広報”として、TVやWebなどのメディアに出演し、さまざまな事件・事故について解説を行なっている。

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(弁護士 松井 浩一郎)

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