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こんなに早い「芸能人の追放」は見たことない…フワちゃん暴言投稿が「芸人同士のおふざけ」で済まなかった理由

プレジデントオンライン / 2024年8月7日 17時15分

「ユーキャン新語・流行語大賞」のトップテンに「フワちゃん」が選ばれ、スピーチするフワちゃん=2020年12月1日午後、東京都千代田区 - 写真=共同通信社

タレントのフワちゃんがX(旧ツイッター)で「暴言」を投稿したことで、出演していたラジオ番組やCMが休止や公開中止などの迅速な対応を取った。桜美林大学の西山守准教授は「過去にも芸能人の不適切発言はあったが、ここまで対応が早いのは見たことがない。『芸能人は特別』という特殊事情はもはや通用しなくなっている」という――。

■「オールナイトニッポン」放送中止の衝撃

タレントのフワちゃんがパーソナリティーをつとめるラジオ番組「フワちゃんのオールナイトニッポン0」(ニッポン放送)が放送休止になった。

8月2日にタレントのやす子さんがX(旧Twitter)に「やす子オリンピック 生きてるだけで偉いので皆 優勝でーす」と投稿したのに対し、フワちゃんが4日に「おまえは偉くないので、 死んでくださーい 予選敗退でーす」と投稿したことがきっかけだ。

同日、フワちゃんは投稿を削除して謝罪をしたが、ニッポン放送は翌日5日の放送中止を決定している。

筆者は、これまで多くの炎上案件をウォッチしてきたし、いくつかのケースでは対応策を助言もしてきた。タレントが不祥事で番組を降板になることは多いが、今回のケースは以下の点で少し特殊なように見える。

1.芸能人間(かん)のトラブルがきっかけになっていること
2.ラジオ局が最初に決断を下したこと

これまでであれば、芸能人が同様のことを行っても、放送中止までには至らなかったように思う。

影響はこれに留まらず、Google Japanはフワちゃんが出演するスマートフォン「Google Pixel」のCMをすべて非公開にした。

どうして、このような事態になったのだろうか?

■芸能人同士のいざこざはかつて「エンタメ」だった

今回と類似したケースでは、2019年に元タレントの木下優樹菜さんが起こした“タピオカ事件”がある。これは、木下さんの姉が勤務先のタピオカ店とトラブルになり、木下さんがタピオカ店の店長に“恫喝メール”を送った事件だ。さらに、木下さん自身のInstagramアカウントでもトラブルについて報告、「もうお店には行かなくて大丈夫です」と投稿した。

サイバーいじめの概念
写真=iStock.com/asiandelight
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/asiandelight

この件は大炎上し、木下さんは芸能活動を自粛。最終的には芸能界を引退するに至っている。ただ、本件は、一般人が被害者になっていることに加え、タピオカ店の店長に損害賠償を求めて訴訟を起こされたことも大きく影響している。

芸能人同士の悪口は、これまでは一種のフィクションというか、話題づくり的な扱いをされてきており、問題となることはさほど多くはなかった。

かなり古い話になるが、1999年~2001年にわたって起きた「ミッチー・サッチー騒動」(タレントの浅香光代さんと野村沙知代さんの間で起きた批判合戦)は、格好の「芸能ネタ」となり、メディアが延々と面白おかしく報道していた。当時の状況を振り返ると、隔世の感がある。

■「死んでくださーい」は不適切度合いが桁違い

ジャニー喜多川氏の性加害問題や、宝塚歌劇団のいじめ問題を経て、良くも悪くも「芸能人は特別」という見方は急速に薄れている。

以前であれば、お笑い芸人同士で同様のことが起きたとしても、「お笑いネタ」として消費されてしまっただろう。

時代の変化に加えて、今回のフワちゃんの件は、たとえ冗談だったとしても、「死んでくださーい」と投稿したことが問題視されているのではないかと思う。最近、“ネットいじめ”が社会問題になっており、自殺者も出ている状況だ。

厚生労働省HPより
小・中・高生の自殺者数の推移。近年はSNS上での誹謗中傷が社会問題化している。 - 厚生労働省HPより

筆者が子供のころは、「死ね」という言葉はよく使われていたし、過去にネット掲示板の「2ちゃんねる」でも、そうした投稿はよく見かけていた。しかしながら、現在では、言ってはならない誹謗中傷の言葉となっている。

旧ジャニーズタレントのSNSアカウントの開設が解禁され、タレントがSNSで情報発信するようになったが、WEST.の中間淳太さん、生田斗真さん、Kis-My-Ft2の千賀健永さんなどが炎上騒ぎを起こしている。しかし、それによって芸能活動が制限されるところまでには至っていない。

同じのSNSの投稿でも、今回のフワちゃんとは“不適切度”が異なっている。

■「お嬢」発言のナイナイ岡村は降板にならなかった

今回の件では、ラジオ局が最初に決断を下したことも珍しい。

通常であれば、降板の判断は下記の順番で行われることが多い。

1.広告(特にマスメディア)
2.テレビ番組
3.ラジオ番組
4.インターネット

この順番は、リスク回避志向の高い順番でもある。ジャニーズ事務所の性加害問題の際も、まずはタレントを広告に起用している企業が契約終了を発表し、続いてテレビ出演がなくなり……といった順番で、メディアからタレントが消えていった。

ラジオ番組は“失言”に関しては比較的寛容だ。

2020年にお笑いコンビ「ナインティナイン」の岡村隆史さんが「オールナイトニッポン」で、「コロナが終息したら絶対面白いことあるんですよ。美人さんがお嬢(風俗嬢)やります。短時間でお金を稼がないと苦しいですから」と発言し、「女性蔑視」と批判を浴びた。岡村さんは謝罪を行ったが、番組の降板までは至らなかった。

2023年にはミュージシャンの山下達郎さんが、「山下達郎の楽天カード サンデー・ソングブック」(TOKYO FM系)で、音楽プロデューサー松尾潔氏が旧ジャニーズ事務所を批判したことで所属事務所との契約が終了になった件で、ジャニー喜多川氏への尊敬の念を表明した。この発言も批判を浴びたが、やはりパーソナリティーを降板するには至っていない。

■寛容なラジオ局が「即休止」を決断した理由

ラジオ番組はリスナーも限定されるし、リスナーの多くはパーソナリティーのファンであるから、批判は浴びても実質的なダメージは少ない傾向がある。

特に、「オールナイトニッポン」は、深夜放送であるし、開始当初から若者向けの“攻めた内容”を特徴としてきた番組だ。

にもかかわらず、今回に限ってフワちゃんの番組が放送中止になったのはなぜだろうか? 理由は明確ではないが、ラジオ番組はビジネスとして小規模であるがゆえに、意思決定者の判断に左右されやすい傾向がある。そのことが影響している可能性が考えられる。

■芸能人からの擁護があまり聞こえてこない

フワちゃんは、遅刻癖があることや、傲慢な態度を取りがちなことは、メディアで度々報道されてきた。芸能人のメディア報道は時に大袈裟に描かれ、実態と乖離することも多いのだが、フワちゃんに関しては実態と近かった可能性もある。

メディア業界の中でもラジオ業界は特に人間関係が濃密だと言われている。キーパーソンの逆鱗に触れると、容易に切られてしまいかねない。フワちゃんがどうであったのか、内実はよくわからないが、SNSの投稿のみが問題だっただけではなく、リアルな素行も影響している可能性は十分考えられる。

タレントが不祥事を起こして、メディアや広告から降板になると、賛否両論の意見が巻き起こる。しかしながら、今回に関しては、芸能人やメディア関係者からも、視聴者からもフワちゃんを擁護する意見はあまり聞こえてこない。

■「芸能人は特別」はもはや通用しない

SNS全盛の時代であるからこそ、現実社会でもうまくやらないと、SNSでの炎上や不適切投稿が問題視されて足をすくわれてしまう――という側面もある。

内実がどうであったかはさておき、ニッポン放送がこのたび放送中止を決定して“けじめを付けた”ことは、妥当な判断ではあったと思う。

「フワちゃんはこういうキャラクターだから」「芸能人は特別だから」「ラジオ番組だから/深夜放送だから大丈夫だろう」といった、“特殊事情”を盾に言い逃れをすることはもはや難しくなっているようだ。

SNSは良くも悪くも、“フラットなメディア”で、その影響は伝統的なメディアにも及んできていることを肝に銘じておく必要がある。

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西山 守(にしやま・まもる)
マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
1971年、鳥取県生まれ。大手広告会社に19年勤務。その後、マーケティングコンサルタントとして独立。2021年4月より桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授に就任。「東洋経済オンラインアワード2023」ニューウェーブ賞受賞。テレビ出演、メディア取材多数。著書に単著『話題を生み出す「しくみ」のつくり方』(宣伝会議)、共著『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(彩流社)などがある。

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(マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授 西山 守)

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