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筋トレで力を振り絞るよりずっと効果的…脳神経が活発化し、寝たきりも防げる1回10秒の簡単ストレッチ

プレジデントオンライン / 2024年8月22日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/xavierarnau

■運動神経を維持すれば健康長寿に役立つ

あなたはフラフラせずに30秒間、片足で立つことができるだろうか?

50歳を超えると片足立ちができなくなる人が多いという。原因は筋肉の減少というよりも、体が硬くなること。実際にやってみるとわかるが、片足立ちは足だけで立とうとするより、みぞおちから下を動かすようなイメージで、足をぐっと持ち上げるほうがバランスが取りやすい。腰まわりが硬くなると、この足を持ち上げること自体が難しくなるのだ。

「片足で立てない人は運動能力も低下しているはず。投げる、走るなど、スポーツは片足の連続です」

と、アスリートから80代の高齢者まで幅広くサポートしてきたトレーナーの鈴木亮司氏は説明する。

「運動が不得手で片足立ちをするのが怖い人は、腰をくるくる回せるかどうかで確認してもかまいません。片足立ちや腰回しがスムーズにできない人は体が硬い黄信号。猫背や腰痛などの症状もあるなら、それは体の機能が低下していることの現れです」

では、どのようなトレーニングをすると若々しい体を維持できるのか。体の衰えを感じたとき、筋トレに励む人もいるだろう。もちろんそれも間違いではないのだが、血管や関節への負荷が大きくなる。鈴木氏はかつて厳しい筋トレで体を壊した。

「以前は格闘家でしたのでバーベルを持ち上げるなど、常時体に力を入れる練習をし、体のどこかがすぐ壊れる状態でした。ついには眼窩底骨折(眼球周囲の骨折)まで起こしてしまい……。筋トレの代わりにさまざまな軽い体操を始めたのです。すると、体の動きが良くなりました。スポーツで失敗したときに『力が入りすぎた』とよく言いますよね。運動神経の良さは、力を入れて頑張るのではなく、上手に力を抜くことだと実感しました」

現代の日本人は力を抜いた動作を「サボる」と捉えがちだ。肩の力を抜いて楽しむような運動習慣がないため、「力を抜いて動作することが苦手な人が多い」と鈴木氏が指摘する。

「従来のトレーニングの多くが『力を振り絞る』『気合を入れる』といった緊張を要求するものでした。そのため日本人は力んで頑張ることがトレーニングだと信じきっている。しかし、本当の力を発揮するときには力んではダメなのです」

鈴木氏は体の深部の筋肉「大腰筋」の力を重視する。

「“体幹”は頭部と手足を除くすべてを指すことが多いのですが、大腰筋は上半身と下半身をつなぐ唯一の筋肉。足を動かす大本のエンジンです。ところが大人になると体を動かす機会が減って、大腰筋の衰えが始まる。歩くのが遅くなったり、姿勢が悪くなる、バランス力が低下するなどの症状が現れ、寝たきりの原因になることも研究でわかっています。反対に大腰筋を使うことで腰痛や肩こりが治り、寝たきりになりにくくなるのです」

東京大学と島津製作所の共同研究で、大腰筋を含む体の深部の筋肉を動かすと、脳神経が活性化することも報告されている。鈴木氏が2つの体操を紹介してくれた(図表1)。

【図表】上半身と下半身をつなぐ「大腰筋」を鍛えて寝たきりを防ぐ!
【図表1】

「筋肉は放っておくと縮み、伸びなくなっていきますが、この2つのポーズで縮こまりやすい胸とおなかの筋肉が広がり、背中の緊張がゆるみ、大腰筋の機能も高まります。ゆるめた後は鍛える方法もあるのですが、ひとまずこの基本の2つで大腰筋を使えるようになると、体全体が柔らかく動くようになり、どんな運動をするときも手足の力に頼らず、効率的な良い動きができるようになるのです」

スポーツなんかできなくてもいいと思う人もいるかもしれない。ところがいわゆる“運動神経”を維持したほうが、健康長寿に役立つのだ。動かない生活を続けると運動機能が衰え、脳内神経伝達物質も分泌されにくくなり、目標に向かって突き進む意欲が低下する。そして一層動かないという悪循環に陥る。今号の大特集は「どうせ死ぬのになぜ生きるのか」ということだが、もしそれが堂々巡りや悲観的思考からくるものなら、脳が絶好調で働いていないサインだろう。体を動かして脳が活性化すれば、「どうせ生きるのであれば、楽しいほうがいい」という思考にシフトしやすいはずだ。

■年を取るほど実年齢と見た目に個人差が出る

あきはばら駅クリニックの大和田潔医師も「脳と運動神経には密接な関係がある」と説明する。

「多くの人が考える“反射神経的な運動神経の良さ”は脳を活性化させることで高まりますし、逆にレクリエーション程度でも体を動かせば、脳が活性化します。一方で出不精な人は運動神経が衰えるでしょう。反射神経とは刺激に対する単なる反応ではなく、脳の的確な指令や、それに応答する筋肉の力強さ、関節の滑らかさなど言葉にできないほど複雑な働きから成り立っているのです。特別な運動でなくても、日常生活の中で布団の上げ下ろし、買い物、料理を作るなどでいいので、こまめに体を動かすことが反射神経の維持に欠かせません」

年とともに、小脳が司るバランス機能や関節の柔軟性が低下しやすく、脳と神経の伝達スピードも遅くなる。だがいろいろなことに興味を持って活動的であれば、その老化のスピードをゆるやかにできるという。

「年を取るほど実年齢と、生物学的年齢に個人差が現れます。20歳同士では変わらなくても、40歳、50歳と年齢を重ねるごとに見た目や中身の健康状態の個人差が開いてくるということ。ですから運動神経の側面では、できる限り関節の可動域を保ち、力を入れるときは収縮し、力を抜くときは伸びるような筋肉の柔軟性も維持できるといいですね」(大和田医師)

また年を取るほど「すべてが下り坂」ではない。大和田医師によると「年を取ると速度は落ちるが、脳の複雑性が増すため、確かな判断をしやすくなる」という。鈴木氏も「何かを続けられる持久力は体力がある若い人が有利だが、体を動かすのは体力ではなく技術」と説明する。

「ですから体の一部分を鍛えるのではなく、脳と神経、筋肉を包括的にトレーニングすることが大切です。それは頑張って達成することではなく、力を抜く訓練で可能になります。腕立て伏せができなかった70代も、腕だけでなく胴体と連動して動かせるような体操の繰り返しで、簡単にできるようになりました」

こわばった体をゆるめ、脳、神経、筋肉の連動を意識しよう。オリンピックが開催されたが、選手たちの華やかな活躍を脳裏に焼き付け、やってみたい動作に挑戦してみるのもいい。まずは鈴木氏が提案するポーズを参考に、肩の力を抜いてから。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月16日号)の一部を再編集したものです。

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笹井 恵里子(ささい・えりこ)
ジャーナリスト
1978年生まれ。本名・梨本恵里子。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)など。新著に、『野良猫たちの命をつなぐ 獣医モコ先生の決意』(金の星社)と『老けない最強食』(文春新書)がある。ニッポン放送「ドクターズボイス 根拠ある健康医療情報に迫る」でパーソナリティを務める。 過去放送分は、番組HPより聴取可能。

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(ジャーナリスト 笹井 恵里子)

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