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「鬼滅」でも「進撃の巨人」でも「ハガレン」でもない…海外のアニメファンが歴代1位に選んだ「非ジャンプ作品」

プレジデントオンライン / 2024年8月12日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/brunocoelhopt

日本のアニメは海外でどのように見られているのか。エンタメ社会学者の中山淳雄さんは「日本と同じく異世界を舞台にしたファンタジーRPG作品が人気だ。その背景には、社会ルールの複雑化と未来への期待の無さがある」という――。

■なぜ世界中で「ファンタジーRPGアニメ」が人気なのか

世界中にいるアニメファン約2000万人が集う「My Anime List」は、アニメ好きのためのWikipediaのような存在だ。

3カ月ごとに60~70本放送される新作アニメのページが新設され、Members(アニメをリストインしている人)、Score(アニメ評価)、Popularity(Members数の歴代ランキング)、Ranked(Scoreの歴代ランキング)の4つがトップに表示される。当然海外のアニメファンのためのサイトであり、すべて英語。

ここはエンタメを研究する私のような立場の人間にとって宝の山だ。6~7割が10~20代の若者世代、5~6割が欧米ユーザー、あとはアジア・南米などで日本人はほんの1%未満、という純粋な「日本人以外のアニメファン」サイトだ。

ネットフリックスや海外における最大級のアニメ配信サイト・クランチロールによって世界中に配信されたアニメをどう受け止めているかのリアリティが、ここにある。

2023年冬(10~12月期)は「ファンタジーRPG祭り」と言い換えてもよいシーズンだろう。

トップ20作品のうちで13作が、いわゆるファンタジーRPGという中世欧州的な世界観のなかで冒険者がモンスターを打倒する、RPGゲームの登場人物のようになる物語だった。

■「異世界転生」が好まれた時代背景

約40年前の『ドラゴンクエスト』、30年前の『ロードス島戦記』、20年前の『ファイナルファンタジーⅦ』……。もはや日本人の基礎教養ともいえる「西洋ファンタジーRPG」というジャンルは、長きにわたり語られ、また練りこみ続けられてきた。

この10年で、ライトノベル『ソードアート・オンライン』を皮切りにゲームの世界観の中に入り込む物語が百花繚乱となり、また現代の知見をそのまま異世界に持ち込む“異世界転生”モノが大量に産まれた。

甲冑
写真=iStock.com/iantfoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/iantfoto

転生した世界で自分だけがスマートフォンを使えたり、ゲームのロジックや特殊効果を見てハックしていくような物語は、“現実逃避”や“子供じみた妄想”のように語られることが多い。だがそれは「コツコツとした努力が報われる」というゲーム世界の平等性や成長物語を、新しい世代が渇望した結果のように私は感じる。

「友情・努力・勝利」の“週刊少年ジャンプの三原則”が通用していた1980年代は社会においてもそれが受容されている連動感があった。だが、2010年代は社会のルールの複雑化と未来への期待の無さが、より人々を「ルールある世界」へ誘っている。

その異世界ブームの成熟とともに、ファンタジーRPG物語がメタな視点で強いメッセージを放つようになった。

例えば、ラノベ発のアニメ作品『ゴブリンスレイヤー』という作品がある。

本作のキャラクターは主人公含めてすべてに名前が存在しない。「勇者一行(女性)」も派手な活躍を見せるが脇役に過ぎない。主人公は、下級モンスター・ゴブリンのみを狩る“ゴブリンスレイヤー”の通称をもつ青年なのだが、名前も素顔すら明かされていない一介の冒険者という設定だ。

■RPG×ヒラ社員

彼は自分の姉や家族をゴブリンに殺された恨みを忘れず、「最弱だが組織的に動いて厄介な敵になりえる」ゴブリンだけを倒し続ける。ドラゴンや魔王にはまるで興味なく、ただ村を襲われないようにと偏執的にゴブリンだけを倒し続ける、まるでRPG界のサラリーマン平社員を描いたような異色の作品だ。

また“復讐系”という現実の代理戦争のような作品も増えた。こちらもラノベ発のアニメ『盾の勇者の成り上がり』の主人公は、忌み嫌われていた守りの能力しかない“盾”の能力を獲得している。槍・剣・弓と贔屓される他の3人の主人公をしり目に王様・王女から不等に扱われことから、彼らに復讐を兼ねながらRPG世界に受容されていく物語だ。

2012年の本作以降、異世界転生の派生形として復讐系が大きく花開く。このフォーマットは、近年、悪役になって王道ヒロインの偽善を暴いていく“悪役令嬢系”という人気ジャンルにつながっていく。

ファンタジーRPGを一つの大喜利素材として、“こんな視点で主人公になったら?”と現代アートのように視点やポジションを変えながらさまざまに描きなおした2010年代の小説作品が、2020年代に入ってアニメの形で広く浸透する一般ジャンルになってきている。

■4万ものアニメの頂点に立った作品

前回の記事では『鬼滅の刃 柱稽古編』の最終話が、米国の映像レビューサイトIMDbで最高評価を得たことを伝えた。

一方、本連載のデータ提供元であるMALには過去に放送された約4万作のアニメのレビューが収納されている。そこではScore8.74の『鬼滅の刃 遊郭編』でも48位に過ぎない。

上位には、『呪術廻戦2期』(8.81、33位)や『CLANNAD』(8.93、17位)、『銀魂ファイナル』(9.04、6位)、『進撃の巨人3期』(9.05、4位)、『鋼の錬金術師』(9.09、2位)と歴代の秀作として高い評価を得た作品が並んでいる。

いずれもこの20年ほどの収集できる範囲で海外ファンから高レビューを引き出した傑作ぞろいだ。

今シーズン、MALの4万もの作品の中で最高位1位のレビューをとった作品が生まれた。『葬送のフリーレン』である。83万人のMembers、681のレビューコメントのなかで最も高い9.34ものScoreをつけ、堂々1位となった(原稿執筆時)。

MALでのレビューより
MALでのレビューより

2020年から「週刊少年サンデー」にて、山田鐘人原作、アベツカサ作画というチームで連載が開始。2021年にマンガ大賞、手塚治虫文化賞、2023年に小学館漫画賞、2024年には講談社漫画賞と受賞づくしで、日本でも高い評価を受け続けてきた。そんな作品が、2023年冬に初めてアニメ化された。

TVアニメ『葬送のフリーレン』
画像=プレスリリースより

集英社や講談社ではなく、小学館による作品だったが、「次の鬼滅の刃を作る」と強い意気込みでアニメ製作委員会が結成され、大ヒット。現在、世界中で主人公のエルフ(妖精)であるフリーレンのコスプレブームが沸いている。

■「バトル」「成長」「魔王」の要素が少ない

本作はまさにファンタジーRPG作品において、画期的な価値転換を図った作品といえる。RPGの世界から、「バトル」と「成長」そして「魔王」を端折った物語なのだ。

3000年は生きるとされるエルフの魔術師・フリーレンは、勇者ヒンメル一行に加わり魔王を倒した。しかし、その10年間は彼女にとって一瞬の「一期一会」に過ぎない。

年老いた勇者ヒンメルは第1話、同じパーティーだった僧侶ハイターは第2話で死亡する。フリーレンは、勇者たちと出会う前の1000年以上、人間に囚われることなかった。だから、彼女の人生においては「数カ月」に過ぎない彼らとの冒険の思い出を淡々とやりすごそうとする。

だがタイトル「葬送」が示すように、フリーレンは、勇者一行の冒険を振り返りながら、去っていってしまった者たちの言葉を思い出し、人生とは何かを追求し内省し続ける。これが本作品の概要である。

だから、どれほどの強大な敵(ドラゴンなど)が現れても数コマの闘いの描写の後、「今回は激しい戦いだった」のモノローグ一つで終わらせてしまう。

一見すると、「明確な目的はない旅」は、フリーレン自身の考え方や行動を少しずつ変えていく。人間に無関心だったはずが、若い魔術師・フェルンを弟子にとり、若い戦士・シュタルクとともに3人で旅をするようになる。

■ジャンプ的王道アニメとは180度違う

「勇者ヒンメルならこうしただろう」と旅先で困った村人の人助けをし、若い2人の気持ちや変化を配慮して師としての行動を見せるなど、冷淡なはずのフリーレンが徐々に人の心を獲得していく。

人は誰もが傷つき、失い、死んでいく。むしろ英雄の勇者や大魔法使いにとってすら、「人々の記憶に残らない」ということが最も不幸なことなのだ、ということをフリーレンは教わり、徐々に“人間らしさ”を獲得していく――。

本作は「友情、努力、勝利」の物語ではない。そんなわかりやすい目標とはかけ離れ、一見「意識低い系」冒険者の主人公たちが、ゴールなき出会い・対話・内省を繰り返す。

中世欧州ファンタジーの世界観を借景しながら、成熟した人間社会が振り返る“人間性の回復冒険物語”というのが本作品の主軸にあるように思える。

これまでの王道アニメとは180度違うRPG作品は海外ユーザーにもしっかりと受け止められた。

■異世界作品の黄金時代

「一瞬一瞬で過ぎ行く名もなき登場人物との接触そのものがフリーレンが長すぎる人生で感じている“時間”であり、我々がそれを追体験できる形式で描いているからこそ傑作になった」

「目的、意味、自身の最後。この人生における質問に向き合った作品」

「これほど愛すべき女性キャラクターが丁寧に書き込まれた作品は珍しい(男性優位のバトルRPGの世界で)」

「マッドハウスだからこそ描けた作品、エピソード4でフリーレンの先生が出てくるシーンは短いがマジでエモい」

といった絶賛コメントが並ぶ。

今シーズンで当初期待値から急激にMembersを増やしたアニメ作品は『フリーレン』(9万人→54万人)、中世中国ファンタジー『薬屋のひとりごと』(8万人→24万人。こちらもScore8.9で、Rank22位と超高評価作品)、そして『シャングリラ・フロンティア』(3万人→16万人)である。

2020年代は、2010年代に量産された異世界転生作品アニメ化の黄金時代であり、今後もマス化・一般化が進むことだろう。

筆者作成
2023年冬アニメTOP20のメンバー数増加数(MALよりデータ抽出) - 筆者作成

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中山 淳雄(なかやま・あつお)
エンタメ社会学者、Re entertainment社長
1980年栃木県生まれ。東京大学大学院修了(社会学専攻)。カナダのMcGill大学MBA修了。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイトトーマツコンサルティングを経て、バンダイナムコスタジオでカナダ、マレーシアにてゲーム開発会社・アート会社を新規設立。2016年からブシロードインターナショナル社長としてシンガポールに駐在。2021年7月にエンタメの経済圏創出と再現性を追求する株式会社Re entertainmentを設立し、大学での研究と経営コンサルティングを行っている。著書に『エンタの巨匠』『推しエコノミー』『オタク経済圏創世記』(すべて日経BP)など。

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(エンタメ社会学者、Re entertainment社長 中山 淳雄)

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