「いつでも相談して」よりも満足度がグッと高まる…「部下との1on1」で頭のいい上司がやっている"四段話法"
プレジデントオンライン / 2024年8月14日 10時15分
■失注した部下のために1on1をセッティングしたら…
営業職3年目のAさんは、最近ミスが多く、成果を上げられていません。先日も、顧客への提案活動が遅かったために、受注が期待されていた仕事をフットワークが良い他社に取られてしまいました。
落ち込んでいるAさんが同じミスをしないように、上司のBさんは、Aさんに1on1を提案しました。
失注に対して叱責を受けるのではないかと、最初は少し緊張した様子だったAさんも、Bさんが優しく話を聞いているうちに表情がほぐれ、悩みを話し始めました。顧客への提案が遅れたのは、先方のニーズにマッチする提案をしようと、いろいろと調査して提案書を書いているうちに時間がたってしまったからだと。そして、もっと早くから提案書作成を進めるべきだったと反省しているとのことです。
Aさんの話に対してBさんはいろいろとアドバイスをし、Aさんも笑顔で「わかりました。ありがとうございます」と言いました。
Aさんから前向きなコメントが聞けたBさんは、「何かあったら、いつでも相談して」と会話を終え、「個別に話をして良かった」と安心したのです。
■なぜ「いつでも相談して」は無意味なのか
けれど、その後AさんからBさんに1on1が依頼されることは、ありませんでした。そして、Bさんがアドバイスしたことも活かされず、他の顧客へのAさんの対応の遅さに気付いた社員からアラートが上がってきたのです。
「何かあったら、いつでも相談して」と言っただけに、こちらから再度1on1を提案すると相手を追い込むことになる気がして、Aさんのモチベーションに配慮してどのように指導すべきか、Bさんは考えています。
実は、「いつでも相談して」と優しく部下に寄り添う上司の言葉は、多くの場合、残念ながら効果がありません。
1on1を終えた時の晴れやかなAさんを見たからこそ、「これできっとAさんの営業成績も上がるはず」とBさんは安心したのに?
親身に相談に乗る「いつでも相談して」という上司のセリフが、なぜ効果がないのか、部下が頻繁に直面する困りごと別に見ていきましょう。
■上司に相談できない部下の「3つの悩み」
1)何を相談すればいいのかわからない(問い自体が立てられない)
上司が、「わからないことや悩みがあれば、何でも話してくれればいい」と思っていても、部下からすると、上司に相談するからには、さすがに「何でも」というわけにはいきません。
上司と話したことでわかった気になったとしても、改めて自分一人で考えるとまた悩んでしまうという部下は、珍しくありません。
上司と話している時に、本当の意味で問題を理解できていないからそうなるのですが、「自分が何につまずいているのかわからない」「何が問題なのかわからない」、つまり「何がわからないのかわからない」という状態なのです。
問題の解像度が低いために、上司の時間を取ってもらったところで、そもそも効果的な相談ができそうにもないと、部下は考えます。
「相談したいことをもっとはっきりさせてから、相談しよう」と思っているうちに時間がたってしまい、さらに相談しにくくなってしまうのです。
■責任感が強い部下ほど陥りがちな思考回路
2)どこまで正直に悩みを伝えていいのかわからない(問いの解き方がわからない)
責任感が強い部下ほど、「自分の役割は自分で果たさなくては」と考えます。
その結果、「できる限り自分でなんとかしよう」と仕事や問題を抱え込んでしまいます。
何を解決すべきなのかはわかっている(問い自体は立てられる)のですが、解決方法で行き詰まってしまう(問の解き方がわからない)状態です。
上司からすると「『何かあったら相談して』と言っているのだから、部下から問題解決方法について壁打ちを気軽に依頼してくれればいい」のですが、それは、能力的にも立場的にも状況を俯瞰して見られる上司だからこそ言えることです。
部下は「自分なりの答えや仮説が出来てからでないと、上司に頼るべきではない」と思ってしまいがちです。
そして、答えが出せないうちに、状況がどんどん変わり、さらに窮地に追い込まれてしまいます。そこで力尽きて「自分には無理だ」と考え、転職もしくは精神的にダウンしてしまう可能性もあります。
3)相談したいけれど上司の忙しさに気後れする
予定表を部下が見られるようにしておられる上司も多いと思いますが、まるでテトリスのように、朝から夕方まで埋まっている上司の予定表を見て、部下はこう思います。
「こんなに忙しい上司に、自分のためにさらに1on1をお願いするのは申し訳ない」
上司が「相談してくれれば、時間は作るよ」と思っていても、部下は気後れするのです。
■寄り添うべきは「人」ではなく「仕事のプロセス」
今ほど状況変化が質的にもスピード的にも大きくなかった時代には、上司と部下が時間をかけて信頼関係をつくることができました。また、上司や先輩の仕事を見ながら、部下が少しずつ成長することが可能でした。
けれど、今は違います。
転職が当たり前で、ライフイベント等で長期休暇を取る機会も増え、同じ人とずっと同じ仕事を続けられる(関係資本で戦える)状況だとは限りません。そして、仕事の内容や進め方も、昔の成功法則が今も使えるとは限らないうえに、短期間で成果が求められることも少なくありません。
つまり、「上司の姿を見て学び、時間をかけて成長する」余裕が、以前ほどない状態なのです。
筆者が従事するコンサルティング業務では、多くの場合、プロジェクト単位で仕事が進みます。
クライアントもプロジェクト体制も、プロジェクトごとに変わり、「初めまして」の人と仕事をすることが珍しくありません。また、仕事の内容が初めてのテーマであることも普通です。
このように「初めて」ばかりの状況でも、プロジェクト開始直後から成果を出してクライアントに価値を感じてもらわなければ、仕事が成り立たない世界です。
コンサルティング会社でどのように部下をマネジメントしているかを参考に、上司としてAさんは1on1で何をすべきだったかを整理します。
■1on1で部下の満足度を高める「四段話法」
1)部下と一緒に「問題」の解像度を上げる
正しい問題解決は、問題を正しくとらえることから始まります。
部下が自覚している問題が、取り組むべき問題だとは限りません。
仮に「わかりやすい資料が作れないこと」が部下の悩みだとしましょう。部下の言葉をそのまま受け取って、資料の効果的な作成方法についてアドバイスをします。けれど、問題の原因が、本当は「作成方法」ではなく「資料を読む関係者への根回し」(合意形成)の問題だとしたらどうでしょう? 例えば、関係者に事前に方向性を承認してもらい、提案の方向性にOKをもらっておけば、資料を出した時点でひっくり返ることはありません。
このような場合、上司が部下に資料作成についてアドバイスしても、問題は解決しないでしょう。
問題解決は、問題を正しくとらえることができれば、半分成功したようなものです。
成果を出せていない部下ほど、そもそも「何を悩むべきか」が間違っていることが多いのです。だから、部下の言葉をそのまま鵜呑みにせず、部下の話を聞きながら、本当の問題は何かを明らかにする必要があります。
ただし、部下から悩みを聞いて、瞬時に問題の解像度を上げることは難しいかもしれません。そのため、普段から部下の仕事を観察して、何が問題なのか上司としてあらかじめ仮説を持っておくことが大切です。
■次回の1on1もその場で設定しておく
2)問題解決のためにすべきことを具体的に合意する
解決すべき問題が合意できたら、それを解決するためにすべきアクションを具体的に確認します。
「アクションを具体的に」というのが非常に重要で、悩んでいる部下はアクションを自力で考えられない可能性があるので、部下任せにせず会話の中で確認します。
なお、「具体的」とは、そのアクションをとったかとらなかったかが、明確に判断できるレベルです。具体的になっていないアクションは一意的な評価ができず、人によって評価がばらつく危険性があります。
そのような状態では、問題解決が進んでいるのかどうか正確に判断できません。その結果、「がんばっているのに、成果が出ない(もしくは成果が出ているのかどうかもわからない)」という状態になってしまいます。
3)アクションの期限を決める
アクションには、期限が必要です。
いつまでに誰が何をするのかが決まっていなければ、ずるずると後回しになってしまうかもしれません。
4)次に話すスケジュールを決める
アクションの期限を決めると同時に、次にいつ改めて会話するか、その時にはどのような話をするかも、最後に決めます。
次の1on1のスケジュールを決めておけば、アクションの後回しも、忙しくて会話できなかったということも回避できます。
■「引っ張ってくれる上司」は求められていない
時代によって、求められるマネジメントスタイルは変化します。もちろん上司一人一人にも個性があり、その人らしいリーダーシップはありますが、状況に応じて動き方を変化させることは、管理職にとって大切な役割です。
かつては「正解を知っていて、部下を引っ張ってくれる頼りがいのある上司」が、優秀な上司像だったかもしれません。けれど状況変化が激しく、仕事も複雑化している今は、上司が常に「答えを知っている人」でいることは難しいでしょう。
また、価値観も多様化しているため、上司の仕事の仕方や考え方を部下が目指せる・目指したいとは限りません。
今求められているリーダーシップとは、部下の仕事に伴走する伴走者スタイルです。
考えるべき問いを設定し、部下と共に問いの解き方と進め方を考え・実行支援する人です。
「私が問題の答えを知っているから教えてあげる」ではなく、「私は問題を解くプロセスはわかっているから、あなたが悩んでいる問題の解き方を一緒に考えよう」という立ち位置です。
■部下Aさんに足りなかったのは「調査の時間」ではなく…
冒頭の上司Bさんの場合、Aさんが「顧客のニーズにマッチする提案をするように調査に時間をかけていた」と言っても、それをそのまま受け取ってアドバイスせず、より深く問題の本質を検討すればよかったのです。
「提案の段階になってからニーズを調査しているということは、普段から顧客と十分に会話してニーズを把握できていないのではないか」という仮説を、もしBさんが持っていれば、「本質的な問題はAさんの資料作成力ではなく、顧客との関係性づくりだ」と気づけたかもしれません。
「自分の課題認識はズレていた」とAさんが気づき、本当の問題が何かAさんとBさんの認識が揃(そろ)ったら、次に打ち手を合意します。顧客との関係性づくりのために、普段からAさんは何ができるか、それはいつまでにするのかを考えます。そして最後に、その打ち手を実行した結果をAさんから上司Bさんに報告するために、○月○日○時に、次回の1on1を実施しましょう、というところまで合意できればよかったのです。
■令和の“理想の上司”は時間と精神の余裕が必要
正解で部下を引っ張るスタイルと、部下の仕事に伴走するスタイルでは、難しさが異なります。そして、後者のほうが、往々にして上司に負荷がかかるため、上司に時間的・精神的余裕が必要です。
そのためには、上司が自分の仕事の棚卸をして、徹底的に仕事のムダを無くし、余裕をつくらなくてはなりませんし、どのような問題にも対応するためのベースとしての論理的思考や問題解決力も大切です。
プロフェッショナルとしての成長に終わりはありません。上司が常に新しいことに挑戦し学び続けること、つまり継続的なリスキル・アップスキルが必要な時代になっていると言えます。
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InterMedia代表
大学での教職、人材育成サービス会社、外資系コンサルティングファームを経て、組織人事コンサルティングのInterMedia合同会社を創業。企業の組織変革・組織設計・人材育成・評価制度・チェンジマネジメント・HRテクノロジー導入等の実績多数。組織と人のパフォーマンス最大化がミッション。80年超の歴史を持つ会員数4万人で世界最大級の人材開発コミュニティであるAssociation for Talent DevelopmentのMember Network Japan代表理事も兼務。 Linkedin
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(InterMedia代表 野原 裕美)
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