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「僕は101歳まで生きたい」86歳養老孟司が2038年に起こる説の天災を日本がどう乗り越えるか見届けたい理由

プレジデントオンライン / 2024年8月22日 7時15分

(第2回から続く)

■楽しく疎開できる「マイ田舎」をつくろう

【名越】養老先生のおっしゃるとおり、日本がいま物質的に豊かだというのは、史上初めてのことかもしれませんね。

お話をうかがっていると、僕らの生活が、いかに「温室状態」なのかに気付かされる。例えば、「南海トラフ地震」のような巨大地震がもし起きたら、2日もすれば、米粒一つない危機的状態が訪れるでしょう。根底的に覆る未来が待っているということですよね。

それにどう対処するかということであれば、世界の見え方を正すというほうが本質的だし、かつ早いのかもしれないと思うんです。

先日、ウイルス学者の宮沢孝幸先生に聞いたんですが、人間も地球という全体性からすれば、ウイルスみたいなもの。つまりウイルスは生体内部でしか増殖しない、生きていけないというけれど、地球の側から見ると人間だって地球の大気圏内でしか生きてゆけないのだから、ウイルスと何ら変わりはないと。

環境が少しでも変わったら、すぐに死んでしまうのですから。そんな脆い恒常性の上で、いがみ合っているのはおかしいんです。

【養老】南海トラフ地震が2038年に起こるという説があるけど、そのときに僕は101歳。危機をどう乗り越えるのかを見届けたい。

関東大震災の後の第二次世界大戦みたいに、日本では大きな天災の後に戦争が起こるんだよ。人が死ぬことに、抵抗がなくなるからじゃないかな。巨大地震の後に、間違った方向に行かないようにしないと。

日本の食料自給率って、約4割じゃないですか。そうすると、皆さんの体の6割は「外国製」ってこと。食料は、もっと自給できるのではないかと。

それに、日本の1年間の植物生産量って、日本人の消費エネルギーの4%にしかならないそうです。ということは、江戸時代のようにバイオマスだけではエネルギーの維持はできない。

【名越】そんなこと、日本人って、意識していませんものね。

【養老】いざというとき、電力はどうするのか、復旧の要員はいるのか、そうした要員の教育はできているのかといったことを、震災に向けてもっと、みんなで真剣に考えてほしい。巨大地震が起こっても、日々の暮らしを維持しなければならないんだから。

実は、日本でもエネルギー危機に備えて、電力を自給自足していこうと、島根県・津和野のように、木材など生物由来の再生可能エネルギーを使った「バイオマス発電」に取り組んでいる地域もあるんですね。

ところが、日本の小規模なバイオマス発電所の発電機は、すべてフィンランド製。日本の電機メーカーは、「儲からない」と言って、バイオマス向け発電機をつくらないそうです。

【名越】世界のリーダーたちは気の毒そうな顔をしながら、日本を見捨てますよ。いまだに消費社会の拝金システムに、怠惰ですがりついているのは日本だけ。

経済の尺度でしか、物事を考えない。だから、マスメディアの報道も偏り、震災について本気で考える重要性が広まらない。でも、最近ではいい震災の解説書が出つつあるし、若い人たちの意識が先に変わってきているから、5年もたてば、震災対策が大きく進んでいる可能性は残っています。

【養老】ところで、名越君は、自分なりの震災対策って、しているんですか。

【名越】実は僕、巨大地震などに備えて、いざというときに住まわせてもらえる「疎開地」を、いくつか見つけたいと思っているんです。もちろん初めから功利的にそう考えたわけではなくて、10年くらい前からその地域の自然や人の気性に触れてしょっちゅう通うようになったということなんですけれど。

例えば、日本海側にも、定宿や行きつけの店があるんですよ。もし南海トラフ地震が起こったら、いくらか土地勘のあるそこに避難させてもらおうかとも思っています。地方に旅行に行ったら、観光地を巡るのもいいんですが、市場や商店街も覗いて、その土地の生活に触れてみるのが楽しいのではないでしょうか。

子どもがいたら、セミナーとか、キャンプとかに行って、地域の人たちと交流する。田舎がない人も、「マイ田舎」を、ぜひ自分でつくるべきというのが、僕の持論です。

単に疎開先を確保するのではなく、それ自体が楽しくて、豊かなことなんですよ。いざというとき、僕たちを救ってくれるのは、田舎しかないと信じています。

【養老】「田舎に疎開」っていうと、僕は、第二次大戦を思い出すけど、震災に備えた疎開地なんだね。

【名越】マイ田舎って、遠くだけにつくらなくてもいいんですよ。自分が住んでいる街を愛して、地元で馴染みの店や友人知人ができるのも、大切なことでしょうね。

例えば、僕の場合、東京だったら、自宅から徒歩30分の所に、3〜4年通い続けている小料理屋があるんです。女将はたぶんいろいろな経験もあって、日頃から災害の備えもしているらしく、「東京で震災に遭ったら、ここに逃げておいで。ご飯だったらあるから」と僕に真顔で言ってくださるんです。もし日本が壊滅したら、助けてくれるのは、半径1キロの人間関係だけだと考えています。

【養老】遠くや近くに、自分の田舎を持つのは、とてもいいことだと思うよ。

でも、どうせ田舎に行くなら、地理的な田舎ではなく、「精神的な田舎」がいい。実は最近、地方の子どものほうが、都会の子どもよりも肥満傾向という文部科学省の統計結果があるんです。

都道府県別の肥満傾向児出現率トップ10

地方の子どもの「脳が都会化」して、周りの自然に親しまないで、コンビニばかり行って偏食しているのが要因の一つかもしれません。地方の人がよく、「こんな田舎で、何もなくてすみません」って言うのも、脳が都会化している証拠。田舎の価値を、住んでいる人たちがわかっていない。

■私たちはどのように死ぬべきか

【名越】人間には、意外と生き抜く力がみなぎっているというお話が先ほどありました。

【養老】人間、そう簡単には死なないんだから、みんなやりたいことを思い切りやって、後はポックリと逝くのが、僕はいいと思うね。

【名越】こんなことをうかがうのは恐縮ですが、養老先生は、ご遺体を「こうしてほしい」といった、ご希望はお持ちでしょうか。例えば、樹木葬がいいとか、散骨してほしいとか。

【養老】そんなの、ないよ。死んだ後のことなんて、どうなっているかわからないもの。僕は医学部の教員だったから、死んだら「献体」をするのが普通なんだけれど、いまの解剖実習って、ご遺体に困っていないんですよ。だから、自分の体は、残った人たちで好きにしてくれといった感じだね。

【名越】僕は「田舎の墓仕舞いをどうしよう」なんて考えていまして。そういった後始末って悩んでいる人も多い気がするのですが、養老先生は、どんな最期を迎えるのがいいとお考えですか。

【養老】田舎や自然の中で迎えるのがいいのでは。そうした環境で暮らせば、自分の心がほどけて、周りに広がっていく。そんな感覚になれば、「土に返る」ということを、素直に受け入れられるようになるんじゃないかな。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月16日号)の一部を再編集したものです。

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養老 孟司(ようろう・たけし)
解剖学者、東京大学名誉教授
1937年、神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学名誉教授。医学博士。解剖学者。東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。95年、東京大学医学部教授を退官後は、北里大学教授、大正大学客員教授を歴任。京都国際マンガミュージアム名誉館長。89年、『からだの見方』(筑摩書房)でサントリー学芸賞を受賞。著書に、毎日出版文化賞特別賞を受賞し、447万部のベストセラーとなった『バカの壁』(新潮新書)のほか、『唯脳論』(青土社・ちくま学芸文庫)、『超バカの壁』『「自分」の壁』『遺言。』(以上、新潮新書)、伊集院光との共著『世間とズレちゃうのはしょうがない』(PHP研究所)、『子どもが心配』(PHP研究所)、『こう考えると、うまくいく。~脳化社会の歩き方~』(扶桑社)など多数。

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名越 康文(なごし・やすふみ)
精神科医
1960年生まれ。近畿大学医学部卒業。専門は思春期精神医学、精神療法。『どうせ死ぬのになぜ生きるのか 晴れやかな日々を送るための仏教心理学講義』など著書多数。

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(解剖学者、東京大学名誉教授 養老 孟司、精神科医 名越 康文)

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