「サウナで汗をかいて、ビールをぐいっと」は危険な組み合わせ…痛風発作を引き起こす"夏の悪習慣"
プレジデントオンライン / 2024年8月15日 17時15分
■放置すると関節が変形する場合もある
ビールが美味しい季節になりました。宴会の席が多くなるこの時期に、痛風の影を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、春から初夏にかけて発作を起こしやすいとされる痛風についてお話しできればと思います。
痛風は、血中の尿酸値が高いことが原因で、血液中に尿酸の結晶が作られ、その結晶が関節に蓄積して起こる病気です。尿酸が関節に蓄積すると痛風結節や痛風発作を起こしたり、腎臓や尿管に溜まると腎機能の低下や尿管結石症を引き起こしたりします。何らかの症状があるにもかかわらず、尿酸値が高いままの状態を放置すると、再発を繰り返し、重症化していきます。関節の変形に至ることもありますので、健康診断などで血中の尿酸値が高いと指摘を受けた方は特に注意が必要です。
血中の尿酸値が高くなる理由は、尿酸を作り出すプリン体の過剰摂取と、肥満や脱水による尿酸排泄の低下です。生活習慣病すべてに共通することですが、以下の「食事」「飲酒」「運動」の3つに気を付けて、尿酸を体内に溜め込まないようにしましょう。
■うどんよりそば、ツナサンドより卵サンドを選ぶ
「食事」
プリン体を多く含む食べ物や砂糖の多いジュースの取りすぎには注意が必要です。プリン体の多い身近な食品には、鶏レバーやサンマ、エビ、マグロなどがあります。ガイドラインでは、プリン体の摂取量を1日400mgに抑えることが推奨されています。
うどんよりそば、ツナサンドより卵サンド、お寿司はイカよりホタテというように、プリン体が少なめの食事を意識しましょう。プリン体含有量の多い食品は1回の食事で50g程度にして、3食のうち1食でも、海藻類、野菜、大豆製品、卵などプリン体が少なめの食材を中心とした食事を摂ると良いでしょう。また乳製品(ヨーグルトや牛乳、チーズ)には尿酸の排泄を促す作用があると言われています。積極的な摂取をおすすめします(山田成巨「乳酸菌接種が尿酸値へ及ぼす影響」Milk Science Vol.65, No.3 2016)。
飲み物については、「清涼飲料等を多く摂取する食習慣は、痛風の発症リスクを1.4~2.5倍高める」という報告がある一方、「コーヒーをよく飲む習慣等は,痛風の発症リスクを20~60%低減させる」という報告があります(藤村新「痛風・高尿酸血症の病態と治療」日本内科学会雑誌107巻3号)。ジュースや清涼飲料水を飲む習慣がある方は、水分補給を水やお茶に変えるよう意識していただきたいと思います。
■「焼酎だから大丈夫」ではない
「飲酒」
「尿酸値が高いからビールを控えている」というセリフを飲みの席で耳にすることも多いのではないでしょうか。ビールのプリン体は尿酸になりやすく、体内に吸収されやすいと言われていますが、アルコールそのものに尿酸の排出を阻害する作用があります。焼酎だから大丈夫だと思わず、飲み過ぎにはぜひ注意していただきたいと思います。飲酒の際に合わせてお水を飲むなど、飲み過ぎない工夫をされると良いでしょう。
「運動」
過度の運動は発作を引き起こす原因の一つです。ウォーキングや水泳など、脈がやや速くなる程度の適度な運動を心がけましょう。また体を整えると人気のサウナも、尿酸を排泄するという目的ではおすすめできません。多量の汗をかくことで脱水状態になりやすく、サウナ後のアルコールを楽しむことも多いため、痛風を悪化させる可能性があります。
■20代に痛風が増えているというのは本当か
厚生労働省の国民生活基礎調査によると、2022年には痛風患者数は130万人と報告されており、大半は男性です。また痛風と関係の深い尿酸が基準値以上の方は1000万人いると言われています。患者数は増加傾向にあり、1986年から2016年の30年間において、痛風患者数は約4倍に増加し、男性に限ると約5倍にも増えています。年代別の通院者率では、男性では60〜70歳代に多く見られ、女性では70歳代以降に増える傾向が見られます(箱田正行、笠置文膳「我が国における痛風患者数の今後の動向について」Gout and Uric & Nucleic Acids Vol.44 No.1, 2020)。
今から40年ほど前の1980年代に実施された研究では、痛風の発症年齢は30歳代をピークに40歳代、50歳代、20歳代と続く報告がなされ、痛風発症の若年化が懸念された時期がありました。しかしながら同施設で1990年代後半に実施された調査においては、年代別の最多は40歳代となり、次いで30歳代、50歳代の順との結果が得られています。
別施設で行われた2016~2017年の1年間での発症年齢の聞き取り調査においては、痛風発症年齢の平均は41.9±10.8歳、年齢階級別に見ると40歳代が最も多く36.9%、次いで30歳代が33.8%、50歳代が13.1%、20歳代以下が9.8%という結果が報告されており、1990年代後半以降、痛風の若年化は認められなかったと言われています。[大山博司、大山恵子、諸見里仁、藤森新「わが国における痛風発症年齢の最近の傾向」Gout and Uric & Nucleic Acids Vol.44 No.2(2020)]痛風は働き盛りの男性に多い病気と言えるでしょう。
■痛風発作そのものよりも合併症が恐ろしい
痛風発作そのものには生命の危険を心配する必要はありませんが、痛風による合併症にはいくつか注意が必要なものがあります。生活習慣病の原因は痛風の原因とも重なり、尿酸値の高値は生活習慣病の進行ともリンクします。そのため、尿酸値が基準値を超えた状態を無治療で放置すると、痛風だけでなく、高血圧や脂質異常症などの生活習慣病を合併しやすいことが知られています。
生活習慣病は動脈硬化を招き、腎障害、脳・心血管障害へとつながる恐れがあります。例えば、尿酸値が高いと慢性腎臓病の末期にあたる末期腎不全(ESRD)の発症率も高くなるという報告があります。高尿酸血症の多い男性を対象にした調査ですが、1000人当たりのESRD発症数は尿酸値が7.0mg/dL未満だと1.22人に過ぎません。しかし、尿酸値が7.0mg/dL以上の高尿酸血症になると、その発症数は4.64人にまで増加します。[Iseki K et al.“ Significance of hyperuricemia as a risk factor for developing ESRD in a screened cohort” Am J Kidney Dis 44(4): 642–650, 2004]命に関わるさまざまな疾患につながる可能性があることを、しっかりとご理解いただきたいと思います。
■治療と生活習慣でコントロールが可能な疾患
痛風の原因は関節内に溜まった尿酸塩結晶です。血液中の尿酸値が低下しても、すぐに尿酸塩結晶がなくなるわけではありません。尿酸値を正常値の6.0mg/dL以下と良好にコントロールしても、尿酸塩結晶が消失するには3年近くの時間が必要と言われています。また治療薬によって血液中の尿酸濃度が急激に下がると沈着していた尿酸塩結晶が一気に溶け始め、痛風発作が起こったり、治療薬を急にやめることで発作がひどくなったりすることがあります。痛風発作自体は1〜2週間程度で痛みが治りますが、自己判断で治療をやめないようにしてください。医師の指示に従って、生活習慣の改善や尿酸値を下げる薬による治療に継続して取り組みましょう。
痛風は遺伝的な影響も大きいため、根本的治療が難しいこともありますが、適切な治療と生活習慣の改善によって、コントロール可能な疾患です。食事をする時、お酒のおかわりを頼む時、日常生活の中で健康を意識した選択を積み重ねて、健康的な毎日をサポートしましょう。
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産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。
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(産業医 池井 佑丞)
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