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「インテル・ショック」でAI市場は阿鼻叫喚…好調の日本株が「過去最悪の大暴落」を引き起こした本当の理由

プレジデントオンライン / 2024年8月9日 8時15分

大幅続落し、終値の下げ幅が4451円28銭となった日経平均株価を示すモニター。米株式相場の大暴落「ブラックマンデー」翌日の下げ幅を超えて史上最大となった=2024年8月5日午後、東京・東新橋 - 写真=共同通信社

■4451円という過去最大の下げ幅を記録

8月初旬、主要国の株式市場は大きく下げた。日経平均株価は、一時4451円安という過去最大の下落幅を記録した。台湾積体電路製造(TSMC)やサムスン電子など半導体関連銘柄の多い台湾、韓国の株式市場も大きく下げた。

株価急落の理由の一つは、米国経済に景気後退の懸念が高まったことだ。失業率が上昇したこともあり、これまで世界経済を牽引してきた米国の先行きに黄色信号が灯り始めた。また、株式市場をリードしてきた、大手IT銘柄の先行きにも不安が出ている。

特に、米インテル株の下落は顕著だ。2日、同社株は前日比26.1%下落した。近年、同社はAI分野で設備投資を実行したが、4~6月期の業績は悪化した。

AI分野の設備投資を積み増す企業は増えたが、それに見合った収益を獲得することが難しそうだ。

■売り圧力は好調だった日本株にも波及

さらに、7月末、予想外に日銀が利上げを実施した。円キャリートレードの巻き戻しで円高が進んだことや、資金調達通貨としての円金利が上昇したことは、投資家にとって重要なマイナス要因だ。

今後、AIなど先端分野で、設備投資の資金捻出に人員を削減する企業は増えるだろう。米国の労働市場は軟化気味に推移し、個人消費の下振れ懸念も増えると予想される。それは、米国および世界経済の成長率低下の要因になりうる。リスク回避に動く投資家は増え、当面、世界的に株式市場の変動性(ボラティリティー)は高まりやすくなるだろう。

7月の後半以降、世界の株式市場の環境は変化した。7月前半まで、日米をはじめ世界的に株価は上昇した。米国の連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、物価の上昇の鈍化から利下げの可能性に言及した。それに伴い米金利は低下した。米国と比較してわが国の株価に相対的な割安感が出ていた。短期目線で日本株を買う海外投資家は増えた。

ところが、7月下旬、米国を中心に株価は調整しはじめた。売り圧力は日本株などにも波及した。一つのきっかけは、4~6月期の米国企業決算だ。決算でAI関連ビジネスの成長を期待する投資家は多かった。主力企業の決算が出始めると、予想を下回る結果に投資家は直面した。

■加熱していた“AI株”が一気に鈍化した

その代表例はマイクロソフトの決算だ。同社は“チャットGPT”を開発したオープンAIなどと連携し、AIのモデル開発や専用チップのデザイン、AIのトレーニングを行うデータセンターの建設など設備投資を積み増した。

AI利用者の急増から、主要投資家は設備投資が短期間の収益の増加に寄与すると期待したが、実際の4~6月期、マイクロソフトの業績拡大を牽引したクラウド(アジュール)部門の売上高は前年同期比29%増、前期の同31%増から鈍化した。

AIによる寄与も小さくなった。グーグルなどの決算からも同じ傾向は示唆された。AI関連の設備投資は増えたが、実際の収益獲得に時間がかかるという慎重な見方は増えた。それは、株価の調整圧力を高めた。

7月末、わが国では予想外に日銀が利上げを実施した。内外の金利差縮小観測で円は買い戻された。円高は国内輸出企業の業績にマイナスで、日本株は売られた。米国の景気先行き不安も高まった。8月2日に発表された7月の失業率は予想を上回った。

思った以上に労働市場は鈍化し、個人消費も下振れるのではないかと身構える投資家は増え、株式などのリスク削減が進んだ。5日、ドル/円の為替レートは1ドル=141円台まで反発し(ドル安・円高)、日経平均株価は前日比12.40%安の3万1458円42銭に下落した。

■インテルは「1万5000人のリストラ」を発表

インテルの決算内容も、投資家の先行き不安を高める要因になった。2024年4~6月期、同社の業績はかなり厳しかった。売上高は前年同期比1%減の128億3300万ドル(1ドル=146円換算で1兆8736円)、最終損益は16億1000万ドル(約2350億円)の赤字だった。

7~9月期(第3四半期)の売り上げ見通しは市場予想を下回った。配当の支払いも停止する。同社は従業員の15%に当たる1万5000人のリストラも発表し、2025年に100億ドル(1兆4600億円)のコストを削減する計画だ。

同社の主力事業は総倒れの状態にある。PC向けの中央演算装置(CPU)などクライアント・コンピューティング・グループ(CCG)、データセンターと人工知能(DCAI)、ネットワーク・エッジ(NEX)の業績は悪化した。過去5四半期、インテルのファウンドリー事業の営業損益も赤字だ。

■「AI事業の現実」が大きなショックを与えた

同社の決算と大規模なリストラ発表で、AI事業の現実を理解した投資家は増えただろう。近年、インテルのゲルシンガーCEOはTSMCとの連携を強化した。チップレット生産方式など、AI向けの演算処理などを行う半導体の生産体制確立にも取り組んだ。いずれもAIブームに乗るための戦略だった。

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写真=iStock.com/MF3d
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MF3d

しかし、4~6月期の決算は想定以上に悪かった。収益力の停滞に失望する投資家は急増した。8月2日のニューヨーク市場で一時、インテルの株価は前日の引け値から30%近く下落する場面もあった。インテル決算は市場に衝撃を与えたといえる。

主要な投資家は、AIの収益化には設備投資の積み増しが必要であり、その収益化に時間がかかることを改めて理解しただろう。8月上旬、画像処理半導体(GPU)で世界の9割近いシェアを持つ、エヌビディアの最先端チップの供給が遅れるとの報道もあった。

IT先端企業にとっても、価格が急騰したAIチップを購入し続けることは難しいとの見方も浮上した。期待先行で株価が上昇しただけに、調整スピードが急速であることを再認識した投資家は多い。

■注目はリストラが増加する米国景気の行方

今後、安定したAIチップの供給、電力消費問題の解決、そして、AIの性能向上と安全性の確立など、企業は追加の設備投資を実施する必要がある。

今回のインテル決算を見ると、追加の投資がすぐに収益増加につながるとは考えづらい。投資家は、収益が伸び悩む、あるいは赤字事業を抱える企業の株を買いづらい。AI分野などでの成長戦略に投資家の納得を得るため、企業経営者にとってコスト削減の重要性は高まるだろう。

今後の注目点は米国景気の展開だ。基本的に、米国の景気は急激な落ち込みは回避できるだろうが、徐々に減速する恐れは高まるだろう。インテルのように、大規模にリストラを行って、収益性向上を目指す企業も増えるはずだ。

リストラの増加は米国の労働市場の緩みにつながるだろう。採用意欲の低下とともに、賃金の上昇ペースは鈍ると予想される。それに伴い、個人消費の減少懸念は高まりやすくなる。

■今後、一段と株価が下がる展開もあり得る

そうした変化が鮮明化すると、人手不足に対応するために賃金を積み増した飲食や宿泊などサービス業界にも、採用の凍結や人員削減の機運は波及する恐れがある。AI業界の成長期待が先行したものの、AI分野でリストラが増え米国の労働市場全体として軟化傾向が顕著になる展開が予想される。

株価は、基本的にGDP成長率と連動する。個人消費の減少によって米国のGDP成長率の低下懸念が高まると、ナスダック総合指数をはじめ米国株式市場の調整圧力も高まるかもしれない。

8月上旬時点で、ナスダック100インデックスの株価収益率(PER、予想ベース)は約28倍とかなり高い。設備投資が増える一方でAI企業の収益化に時間がかかるとの見方から、GAFAMなど先端企業の業績予想を切り下げるアナリストも増えそうだ。リストラなどをきっかけに米国経済の後退の不安が高まると、今後、一段の株価下落の可能性は否定できないだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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