「イヤホン」と「ヘッドホン」のどちらを選ぶべきか…医師が警告する「音疲れ」のリスク、耳の老化を早める悪習慣
プレジデントオンライン / 2024年8月16日 16時15分
※本稿は、木村至信『1万人の耳の悩みを解決した医師が教える 耳鳴りと難聴のリセット法』(アスコム)の一部を抜粋・編集したものです。
■「耳だって疲れている」ことを知ってほしい
目を酷使していると「目が疲れた」という実感があるでしょう。「疲れ目」という言葉もありますよね。けれども、耳を酷使していると「耳が疲れる」ということを、多くの人は知りません。「疲れ耳」という言葉は使いません。
ですが、目のように閉じることができない耳だからこそ、「耳だって疲れる」。耳の疲れは「聞こえ方」に大きく影響します。耳の老化を早め、耳鳴りの原因にもなります。
もしかしたら「耳を酷使している」という自覚はないかもしれません。けれども、リモート会議に参加するために、あるいは音楽を聴くために、イヤホンを長時間着けっぱなしにしている人は、耳を疲れさせています。
しょっちゅうカラオケに行く人の耳も疲れています。どうか、耳が疲れ過ぎないようにいたわってあげてください。耳が疲れていると、若い人でも耳が遠くなったり、耳鳴りに悩まされたりする危険があります。
■音にさらされ続けると「疲れ耳」になる
絶えず大きな音の中で生活していると、耳は疲れます。大音量の音はもちろんですが、軽い音楽でもずっと聞いていれば疲れます。
音楽を大音量で流している店や工事現場に勤めていたりすると、長時間大きな音にさらされることになります。
こういう状態を「騒音曝露(そうおんばくろ)」といい、耳には大きな負担をかけます。不快に感じるような汚い音でも、音量が小さければ問題ありません。逆に、どんなにきれいな音でも、音量が大きければ、耳にとっては騒音です。
実は、同じ家に難聴の人がいると、家族が騒音曝露になることがあります。難聴の人との会話では必然的に声が大きくなり、一緒に見ているテレビの音も大きくなります。そういう中でずっと暮らしていると、長年の蓄積で「騒音曝露」になるのです。
■3つの習慣で「音疲れ」から逃げる
実は、私は歌手として音楽業界にも身を置いています。録音スタジオにいると、本当に身体も神経も「音」で疲れます。
音楽業界ではみんな経験していることで、これを「音疲れ」と呼んでいます。ラジオのDJやライブハウスの従業員など、仕事で音と日常的につきあっているプロは、自分の耳を上手に休ませています。
ヘッドホンを着けていて、疲れで聴力がおかしくなっているなと気づいたら、片側だけ外すなどしています。音疲れする環境にいる人は、自衛することが必要なのです。
「疲れ耳」にならないように、気をつけてほしいことは基本的に次の3つです。
・酷使した耳は、きちんとリセットする
・耳をビックリさせない
まず、騒音の中に身を置いている人は、できる限り自衛しましょう。音にさらされる環境から離れてください。
■危ないのは閉鎖空間
たとえばコンサートに行くときには、「コンサート用の耳栓(ライブ用耳栓)」をおすすめします。コンサートにも、静かなクラシック音楽から激しいロックまでいろいろありますが、激しいタイプは音の大きさレベルが違うので、騒音曝露としては大きいほうです。カラオケでも、この耳栓をしてほしいと思います。
サッカーや野球などの試合でも大きな音や声が聞こえますが、野外なら音が逃げるので、あまり心配しなくていいでしょう。
危ないのは閉鎖空間で、耳全体を音が覆ってしまうような環境です。ですから、長時間、音が抜けていかないコンサートやカラオケなどでは、スピーカーから離れて座るなど、身を置く位置にも気をつけてください。
また、仕事中にラジオや音楽をBGMにするのもやめたほうがいいでしょう。「聞く」という神経を使っていることになるからです。
といっても、「ちょうどいい雑音」として流している程度なら大丈夫です。静寂だと逆に気が散ってしまう人もいて、雑音の中のほうが集中できることもあります。雑音は逆に人間の神経を集中させるので、仕事に神経が行っているなら、問題はありません。
■耳の疲れは、そのつどリセット
耳の神経は消耗品です。使えば使うほど、神経は消耗します。酷使した耳は、休ませてリセットさせてください。
たとえば、リモート会議のあと、すぐにヘッドホンで音楽を聴くのはやめて、いったん耳の神経を休ませましょう。あるいは、2時間クラシック音楽を聴いたり、2時間ドラマを見たりしたら、少し静寂に身を置く時間を必ず持ってください。そういう、ちょっとしたことで、耳の疲労度はまったく違ってきます。
特に夕方以降の耳の神経は疲れているので、寝る前などに音の大きな音楽を聴くのはあまりおすすめしません。逆に、無音のホッとした時間を堪能してください。
なお、耳を疲弊させるのは「騒音」ですが、耳が疲れる原因には「血流不足」もあります。血流が大事なのは、疲れた細胞をリセットする栄養素を血液が運んでくれるからですが、血流が悪いと聞こえの神経細胞がリセットされずに疲弊していきます。
夜、お風呂でゆっくり耳を温めたり耳マッサージをしたりするのは、疲れた耳を休ませる効果もあります。
■耳をビックリさせない
朝、音楽を聴くとき、大音量はNGです。耳の神経がビックリするからです。耳にも準備運動が必要なのです。
ついでに、目覚まし時計の話もしておきます。難聴になると、目覚まし時計の音も聞こえなくなるので、朝、起きられなくなります。だからといって大音量の目覚まし時計を購入する必要はありません。実は「爆音で起きる」というのは人間にとっては不快なことで、睡眠の質を下げるといわれています。
今は「光目覚まし時計」という、起床時刻の少し前からライトが少しずつ光り、起床時刻に明るい光で顔を照らして起こしてくれる時計があります。音の目覚まし時計と併用するのもいいでしょう。音+振動式もいいと思います。
■「イヤホン」か「ヘッドホン」かで耳の未来が決まる
最近は、多くの人が家の中でも外でも使っているのがイヤホンやヘッドホンです。とても便利ですが、長時間ずっと使うことは「疲れ耳」の原因になります。
特に流行の「ワイヤレスイヤホン」や「ゲーミングイヤホン」は耳のかなり奥まで入るだけでなく、耳を密封して空気を通さないので、あまりよくないのです。
どうしてもイヤホンが必要なら、耳に入れるゴムの部分が柔らかく、外耳道を傷つけないものを選んでください。ただし、ゴムアレルギーのある人は、素材を確認して使ってください。
また、音量を下げて使えるノイズキャンセリングイヤホンのほうが比較的、安心です。逆に、ハイレゾ対応イヤホンは避けてください。
できればイヤホンではなく、ヘッドホンを使ってください。密閉性でないタイプが望ましいです。耳を塞がない「骨伝導ヘッドホン」や「ネックスピーカー」もいいでしょう。大谷翔平選手が使っていることで話題になったノイズキャンセリングのヘッドホンなら言うことはないでしょう。
イヤホンを使うときには、音の大きさに気をつけてください。何より、1回1時間以内と決めて、耳を休ませることが大切です。
■イヤホンが耳の「空ぶかし」をしている
人の身体を、自動車にたとえてみましょう。車のエンジンは、人間ならどこに当たると思いますか。あなたはおそらく「心臓」だと答えるでしょう。もちろん、それは正しい。でも私は、つねづね「人を動かすエンジンは耳」だと言っています。
音が聞こえることで、人は何かの行動を起こします。応答したり、外へ出ていったり、動いたりします。つまり、「聞こえてくる音」が、人を突き動かす原動力になるのです。
あなたが顔の両横に搭載しているエンジンである耳は、とても精巧なつくりで、とてもよくできています。それでも時間とともにだんだん傷んでくることは避けられません。車のエンジンもそうですよね。
車にダメージを与えるのは「空ぶかし」です。もちろん空ぶかしをしたからといって、すぐに車が壊れるわけではありません。ですが、毎日のように空ぶかしをしていたら、エンジンの寿命は短くなります。実はあなたの耳も、気づかないうちに「空ぶかし」のようなことをしているのかもしれません。
たとえば「イヤホン」です。耳に入れるタイプのイヤホンでないと音楽を聴いている気がしないという人も多いのですが、そうやって音楽を聴いていることが、まさに空ぶかしです。身体のエンジンが傷み、やがて「騒音性の難聴」になってしまいます。耳の神経が摩耗するからです。
車のエンジンと同じように、身体のエンジンもメンテナンスが必要です。といっても、頑張って何かしなければいけないわけではありません。車の「空ぶかし」のようなことをせず、適切に動かしていればいいだけです。
■肌をケアするように耳もいたわってほしい
どんな人でも、歳をとれば必ず耳も老化します。DNAに書き込まれた難聴に向かって、人間の細胞のエイジングは必ず進んでいき、ほうっておけば誰でも難聴になります。
若い頃のスキンケアを怠ると肌の老化も早くなってしまいますよね。まだ難聴になっていないうちに耳のセルフケアを始めれば、難聴の予防になり、発症を遅らせることができます。
「聞く」「話す」に直結する耳は、「コミュニケーションの要(かなめ)」だといっていいでしょう。ためしに1時間くらい、耳を塞いで過ごしてみてください。楽しくないはずです。
テレビを見ても音声が聞こえないし、話しかけられてもわからないから適当に返事をします。すると会話が広がらないので、相手は話しかけてこなくなります。難聴は、たとえ程度が軽くても、コミュニケーションに影響してしまうものなのです。
「まだ若いからピンとこない」
「耳が遠くなったら、対策します」
「将来は補聴器ももっとよくなるだろうし、その時はその時」
と思っている人も、耳が疲れ過ぎないようにいたわってあげてください。
耳は「自分を突き動かす身体のエンジン」だと思って、日々耳を大切にしていただきたいと思います。
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耳鼻咽喉科医
医学博士、耳鼻咽喉科、頭頚部外科。専門は音声学・癌・難聴遺伝子。信州大学病院に勤務後、難聴遺伝子、遺伝子解析研究のスペシャリストとして厚生省で研究に携わり、米国ネブラスカ州国立リサーチ病院に留学、研究を続ける。大学病院での高度医療、癌センターでのオペ研修など医療のトップレベルで15年以上勤務。横浜市大医学部にて医学博士を取得。現在、横浜市内のクリニックで地域密着の診療に従事。著書に『1万人の耳の悩みを解決した医師が教える 耳鳴りと難聴のリセット法』(アスコム)がある。
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(耳鼻咽喉科医 木村 至信)
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