気づいたときには老化で耳は遠くなっている…難聴の専門家が勧める「耳の寿命」を伸ばす最強の食材リスト
プレジデントオンライン / 2024年8月17日 10時15分
※本稿は、木村至信『1万人の耳の悩みを解決した医師が教える 耳鳴りと難聴のリセット法』(アスコム)の一部を抜粋・編集したものです。
■人生100年時代、誰でも必ず「難聴」になる
歳を重ねれば、身体のあちこちが老化します。日本人の平均寿命は世界でもトップクラスを誇ります。しかし、介護なしに暮らせる期間(いわゆる「健康寿命」)は、平均寿命よりも10年ぐらい短いというデータがあります。
「100歳まで生きる」のと「100歳まで健康でいる」のは違うのです。
身体と同じように、耳も必ず老化します。歳を重ねれば、誰でもだんだん聞こえなくなってきます。これが「加齢性難聴」です。
私たちのDNAには、「何歳まで生きるか」「目や鼻や耳などの知覚がいつまでしっかりしているか」、すべてあらかじめ書き込まれています。もちろん「耳の寿命」も書き込まれています。
耳の老化そのものは防ぐことはできず、長生きすればするほど耳の老化も進みます。ですから、ほうっておけば誰でもいつかは加齢性難聴になります。
■耳は少しずつ悪くなっていく
「音が聞こえにくい」「言葉が聞き取りにくい」、あるいは「まったく聞こえない」という症状を、「難聴」と呼びます。私が日々、難聴の人を診察していて実感するのは、「いつ頃からどう悪くなったのか」を自覚していない患者さんがとても多いということです。
診察室では、最初の問診で、次のような会話がよく交わされます。
【患者さん】「う~ん、10年前ぐらいだったでしょうか」
【私】「10年ぐらい前?」
【患者さん】「いや、もっと前ですね。たぶん20年か30年ぐらい前……」
なんてざっくりした時間感覚でしょう。でも、難聴の患者さんにはこういうことが珍しくありません。みなさん、ちゃんと覚えていないのです。それは、その難聴が加齢によるものだからです。
難聴はだいたい50代以降から始まり、本格的な症状に悩まされるのは60代以降です。難聴が50代に始まっているのに、耳鼻科に来るのは60代の半ばぐらいになってからの人がほとんどです。これはとても残念なことです。
■難聴は大きく分けると3種類ある
難聴とは「聴覚障害」のひとつで、音を聞いたり区別したりする能力が落ちた状態です。音が「外耳→中耳→内耳」というルートで脳に伝えられるとき、どこかに問題が起きると、難聴が発症します。難聴は、その原因(どこで問題が起きたか、何の問題なのか)によって、次の3種類に分けられます。
・耳の機能が落ちて起こる「伝音(デンオン)性難聴」
・この両方の要素で起こる「混合性難聴」
「感音」「伝音」と見慣れない言葉でややこしいので、この本では「カンオン」「デンオン」と親しみやすいカタカナで書くようにします。
◇デンオン性難聴
音は聞こえているのに、言葉がクリアに聞き取れない難聴は「デンオン性」です。ザックリは聞こえるのですが、細かい子音が聞き取れずに、「ミカン」と言われたのに「イカン」に聞こえたりします。
デンオン性難聴は、主に「鼓膜の動き」が悪いことで起きます(まれに耳小骨離断などもあります)。音は聞こえているので、音を感受する「聞こえの神経」の細胞(聴覚神経細胞)は生きています。
◇カンオン性難聴
カンオン性難聴は、聞こえの「神経」そのものの問題で起こります。聞こえ方がストンと低下するのは、カンオン性難聴です。音がとびとびに聞こえたりします。
カンオン性難聴は、脳の問題に近いともいえます。耳の奥にある「内耳」や、さらにその先での障害で、音を感じる「神経」に問題が起こっている状態です。
神経というのは、要は電気のコードのようなものだと思ってください。途中で断線していれば、どんなに頑張ってコンセントを差し込んでも電気がつかないように、神経が障害されていると音は届きません。
■ほとんどの「加齢性難聴」は2種類のミックスタイプ
デンオン性とカンオン性の2つが混合した難聴は、「混合性難聴」と呼ばれます。そして加齢による難聴のほとんどが、「混合性難聴」です。つまり、「デンオン性」と「カンオン性」が混じっているタイプです。どちらかひとつしかない人は、ほとんどいません。
ここが大切なポイントですが、デンオン性の難聴は改善できます。言い換えるとカンオン性の難聴は回復しにくいのですが、たいていの人が混合性の難聴なので、デンオン性による問題を改善できれば難聴をある程度まで治せるということです。
あなたにデンオン性難聴があるかどうかは、最終的には耳鼻科で検査を受けなければ判明しませんが、自分でも見当がつく判断基準があります。
□こもったように聞こえる
□音は聞こえるがビビッドでなく、言葉の輪郭がはっきりしない
(「そうなんだよ」が「おうなんだよ」と聞こえるなど)
□慢性鼻炎がある
□喘息がある
チェックリストの中に「喘息がある」という項目があることを不思議に思った人もいるかもしれません。実際、喘息の人はデンオン性難聴になりやすいのです。それは、喘息だと好酸球性副鼻腔炎、好酸球性中耳炎、特にお子さんは滲出性中耳炎になりやすく、それらの病気がデンオン性難聴の原因になるからです。チェックリストでひとつでも当てはまるようであれば、「デンオン性難聴」を疑っていいでしょう。
■「耳の疲労」が耳の寿命を縮める
「聞こえの神経」の細胞は主に「疲労」によって非常に劣化します。つまり、耳を酷使していると、耳の寿命は縮まります。早いうちに加齢性難聴を発症すれば、耳の不自由な後半生を生きることになります。逆に、ちゃんとセルフケアをすれば、その発症を遅らせることも、発症した加齢性難聴をUターンさせることもできます。
たとえば、日常生活でも次のようなことに気をつけるだけで、耳が疲れ切ってしまうのをかなり防ぐことができます。
2.イヤホンは1回1時間以内。音量は必ず下げる
3.イヤホンのノイズキャンセリング機能はOKだが、長時間使うのはNG
4.工場や工事現場などでは、できるだけ耳栓をする
5.カラオケ、コンサートでは、ライブ用の耳栓を活用
■ビタミンB12で内耳の血流を促す
さて、疲れた耳をケアする食生活での工夫を紹介していきます。ほぼすべての耳鼻科医が難聴に処方する「メチコバール」という薬があります。この薬の有効成分は、ビタミンB12です。
ビタミンB12は、内耳の機能を改善します。さらに、細胞の発育や機能を正常に保ちます。特に血液を作るのに欠かせません。神経の働きにも重要です。ビタミンB12が不足すると、末梢神経の働きが悪くなり、耳鳴りや難聴が起きやすくなります。
ですから医師は、耳鳴り、難聴、めまいなどで神経障害が疑われる場合にも処方します。昔からある薬で、すぐに大きな効き目があるとはいえませんが、副作用の心配はありません。
「ビタミンB12」は栄養素ですから、食品でも摂ることができます。特にシジミやアサリなどの貝類に多く、サンマやイワシなどの青魚、牛・豚・鶏肉のレバー、卵やチーズにもたくさん含まれています。海苔にも少し含まれています。
■ビタミンB1と亜鉛も耳にいい栄養素
ビタミンB12に限らず、ビタミンB群は耳のために積極的に摂りたい栄養素です。「ビタミンB1」もまた、末梢神経や中枢神経の働きをよくする働きがあるので、積極的に摂ってください。ビタミンB1は、豚肉、大豆、ゴマ、玄米、鰻などにたくさん含まれています。
「亜鉛」は内耳の蝸牛(かぎゅう)にたくさん含まれている栄養素なので、不足させてはいけません。蝸牛は音の信号を電気信号に変換するところです。亜鉛を多く含む食品は、牡蠣、カタクチイワシ、牛肉、豚のレバーやワカメなどです。ちなみに、体内の亜鉛値が少なくなると味覚障害が起きます。
なお、栄養素ではありませんが、血液の循環を滞らせないために「水分」はしっかり補給してください。
■耳鳴りやめまいには、舞茸、バナナ、炭酸水がおすすめ
耳鳴りやめまいに効果が期待できる食べ物も挙げておきましょう。
耳鳴りで処方される「ストミン」という薬は、ニコチン酸アミド(ビタミンB3やナイアシンとも呼ばれます)とパパベリン(平滑筋に作用して血管を拡張します)の配合剤です。食材なら、舞茸やバナナにビタミンB3はたくさん入っています。3時のおやつにはバナナがおすすめです。
耳からくる回転性めまいで処方される「ベタヒスチンメシル」という薬は、食材でいえばベーキングパウダーや炭酸水のようなものと思っていいでしょう。めまいが起きそうな日は、ランチに炭酸水と蒸しパンがおすすめです。
デンオン性難聴を改善するには「血行をよくすること」がポイントです。つまり、血管・血液によくない食べ物は、耳にもよくない食べ物だということです。糖分・塩分・油分はどれも身体に必要ですが、多過ぎると血管に障害を与え、血流を悪くします。
食べ物に含まれる栄養素はすべて、血液を通して全身の細胞に届けられます。耳の細胞も同じですから、血液を通して、よい栄養を自分の体に与えるようにしてください。暴飲暴食は、耳も傷めることになります。
耳のマッサージを勧めた患者さんから、「お酒を飲むと耳が赤くなるんですが、それって耳の血行がよくなるということですよね? お酒は耳にいいってことですよね?」と聞かれたことがあります。残念ながら、勘違いです。耳の中の粘膜はアルコールで腫れるので、逆効果です。
■あきらめがちな耳の衰えこそセルフケアが必要
身体のあちこちで老化は進みますが、どれも徐々に衰えるので、私たちは不便に慣れていきます。とはいえ、たいていの人は、目が衰えれば眼科を訪れて白内障の手術を受けたりします。ところが耳が衰えても、耳鼻科を訪れて相談する人が少ないのです。目も耳も大切な感覚器なのに、なぜでしょう。
徐々に衰え、徐々に不便になっていくことに「なんとなく気づいている」人は、「なんとなく慣れてしまう」ものです。実際の生活の質がかなり落ちているのに、「高齢なんだから、こんなものだ」とあきらめているのです。
目のように角膜移植や白内障手術のような劇的な治療法が耳にはないことも大きな要因です。「人工内耳」という人工臓器を付ける手術はありますが、課題もあって白内障手術のように普及していません。劇的な治療法がないからこそ、早い段階での耳のセルフケアが必要なのです。
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耳鼻咽喉科医
医学博士、耳鼻咽喉科、頭頚部外科。専門は音声学・癌・難聴遺伝子。信州大学病院に勤務後、難聴遺伝子、遺伝子解析研究のスペシャリストとして厚生省で研究に携わり、米国ネブラスカ州国立リサーチ病院に留学、研究を続ける。大学病院での高度医療、癌センターでのオペ研修など医療のトップレベルで15年以上勤務。横浜市大医学部にて医学博士を取得。現在、横浜市内のクリニックで地域密着の診療に従事。著書に『1万人の耳の悩みを解決した医師が教える 耳鳴りと難聴のリセット法』(アスコム)がある。
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(耳鼻咽喉科医 木村 至信)
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