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実家の"ごみ屋敷化"はここから始まる…帰省のときに必ず目を光らせたい家の中の意外な場所【2024夏のイチオシ】

プレジデントオンライン / 2024年8月10日 7時15分

名古屋市で「ごみ屋敷」化していた建物について、名古屋地方裁判所が強制執行によるごみの撤去を行った。2018年7月3日撮影 - 写真=朝日新聞社/時事通信フォト

2022年~23年にプレジデントオンラインで配信した人気記事から、この夏に読み直したい「2024夏のイチオシ」をお届けします――。(初公開日:2023年12月18日)
家の中にも外にもごみがあふれる「ごみ屋敷」はなぜ生まれてしまうのか。産業医で精神科医の井上智介さんは「ごみ屋敷に代表される、ものをため込んで捨てられない、生活環境が悪化しても無頓着になるといった、いわゆる『ディオゲネス症候群』の人は、一人暮らしの高齢者に多い。誰でもなる可能性があるので、『うちの親はきれい好きだから』と油断しないほうがいい」という――。

■ごみ屋敷化や動物の多頭飼い「ディオゲネス症候群」

ものが片づけられず、ごみを捨てずにため込んで、家を「ごみ屋敷」にしてしまう一人暮らしの高齢者がテレビなどで取り上げられることがあります。

ものが捨てられない、身の回りのことができず生活環境が荒れてしまう、面倒がみられないほどに多くの犬や猫などを飼い、家の中が汚れたり臭くなってもかまわなくなってしまう。これらは「ディオゲネス症候群」と呼ばれています。「老年期隠遁症候群」や「ごみ屋敷症候群」と呼ぶこともあります。

ディオゲネス症候群の特徴は、大きく3つあります。

①セルフネグレクト

1点目が、セルフネグレクト、つまり、自分自身のことを構わなくなる、自分が快適な状態を保つことを放棄してしまうことです。身の回りの衛生状態をキープしようとしなくなり、長期間入浴せず、全く着替えなくなります。また、食事に関しても栄養管理に無頓着になり、虫歯やケガなども放置するようになります。

②ものをためこみ、生活環境が劣悪になる

ものを片づけたりしなくなり、ごみを捨てたりもしなくなります。新聞や郵便物が山のように積んであったり、賞味期限切れの腐った食べ物が、冷蔵庫だけでなく、そこらじゅうに置きっぱなしになったりします。また、明らかにごみと思われる空き瓶や空き箱などの、不要品もため込んでしまい、生活空間を埋め尽くしていきます。

動物の多頭飼育も該当します。面倒をみきれないほどの犬や猫などの動物を飼い、その糞尿が放置されていて、生活環境がさらに劣悪になる場合もあります。

③自覚症状の欠如

誰が見ても衛生状態や健康状態が深刻な状態になっていても、本人は特に問題意識を持ちません。

ごみをため込めば、見た目が悪いだけでなく、異臭もしますし、火事のリスクもでてきます。道路や隣家にまでごみが侵食することもありますし、周囲の人には大変な迷惑がかかります。多頭飼育の場合も同様です。しかし、どれだけ近隣から苦情が来たりしても、本人は「迷惑をかけている」という自覚がありません。

■どんどんエスカレートしてしまう

「ディオゲネス症候群」は、最初は周囲が気付かない程度から始まり、どんどんエスカレートしていきます。例えば、苦手な掃除が手薄になるところから始まります。掃除の中でも、「机の片づけは得意だけど、水回りの掃除は苦手」など、人によって得手不得手がありますが、その不得手なところから、やらなくなっていきます。

そうこうしているうちに、得意だったはずの部分の掃除や整理整頓もやらなくなっていきます。散らかったり、汚れたりしていても、生活はできてしまうので、どんどん片付けや掃除をしなくなる。そこから自分に対する興味・関心を失ってセルフネグレクトの状態になっていきます。そうなるといよいよ、ごみ屋敷化が進んでしまいます。

ディオゲネス症候群のメカニズムは、まだはっきりとわかっているわけではありません。しかし、認知症などの精神疾患との関わりや、孤独感や孤立感との関わりが指摘されています。

■認知症などの精神疾患が引き金に

認知症などで判断力や実行力が弱くなると、ものを捨てるかしまっておくか、ごみをどのように捨てるか、などが判断できなくなったりするために、ものをため込んだり、身の回りのことができなくなったりすることがあります。実際、ディオゲネス症候群の人は、認知症の人が非常に多いです。

掃除したり、家の中のごみをまとめて決められた日時にごみ置き場に運ぶのは、かなりの体力が必要です。また、自治体のルールに沿って分別するのも、判断力が求められるので簡単なことではありません。このため「もういいや」とあきらめて、ごみが捨てられずにたまってしまいやすくなります。

また、うつ病や統合失調症などの疾患で、外との関わりが持てなくなったり、外に出られなくなったりして、ディオゲネス症候群につながる可能性もあります。

■孤立感や孤独感も大きな要因に

2つ目の要因として挙げられるのが、孤立感や孤独感です。

たとえば、もともと対人関係を築くのが苦手な人が、会社を退職したり、パートナーが亡くなったりして、社会とのつながりが切れ、孤立して孤独感を抱えるようになると、それが引き金になる可能性があります。

孤立すると、「周りからどう見られているか」に意識が向かなくなり、セルフネグレクトにもつながりやすくなります。加えて、孤独感を埋めるように、ごみをため込んだり、動物の多頭飼育をしたりすることがあるのです。

こうした、対人関係を築くのが苦手な人の中には、過去に虐待やいじめ、ハラスメントなどを受けて、人に対する不信感を抱えていることも多く、その場合は、離れて住む家族や福祉・医療従事者などが支援しようとしても、猜疑心や敵意を持ってしまうために、受け入れることができません。それで状況がどんどん悪くなってしまいます。

屋外に無造作に置かれた家庭ごみ
写真=iStock.com/oluolu3
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oluolu3

■「一人暮らしの高齢者」はリスクが高い

精神疾患、中でも特に認知症と、孤立感や孤独感といった要因を考えると「一人暮らしの高齢者」は、ディオゲネス症候群のリスクが非常に高いといえます。実際に、ごみ屋敷や動物の多頭飼いが問題化する人の多くは、一人暮らしの高齢者です。

一人暮らしの高齢者は、ただでさえ、家をきれいに保ったり、身の回りをきれいにしておくことのハードルが高くなるものです。掃除をしたりごみを捨てたりするのに必要な体力が衰えていきますし、孤立すると、助けを求めることも難しくなります。

女性のほうが、高齢による体力の衰えは顕著になりますが、男性のほうが、仕事以外のつながりが少なく孤立化しやすい傾向があるため、男女ともにリスクはあるといえます。また、いくら若い時にきれい好きであっても、まったく関係なく、体力の衰えや孤立化の進行などに伴って身だしなみに構わなくなったり、部屋を片付けなくなってごみをためるようになったりするので、誰でもなる可能性があると考えておいた方がよいでしょう。

■実家ではココを確認

「ディオゲネス症候群」が進行すると、治療は一筋縄ではいかなくなります。だからこそ、重要なのは早期発見、早期対応になります。

「あれ?」と思った瞬間から手を打つことが重要です。ぜひ年末年始の帰省で、親御さんや実家の様子をチェックしてほしいです。本人の体の状況と、家の中の様子の、両方をしっかり確認するようにしてください。

①体力が落ちていないか

体力が衰えると、身だしなみを整えたり家の中を清潔に保ったりするのがおっくうになってしまいます。ですから、身体面の変化には、しっかり気を配ってほしいと思います。

例えば、今までは手すりを使わずに階段を上っていたのに、手すりを使うようになった。歩くスピードが遅くなった。立ったり座ったりがつらそうになった。こうした兆候があった場合は、掃除機を軽いものに買い替える、片付けがしやすいように部屋のレイアウトを変更する、場合によっては狭くて段差のない部屋への住み替えを考えることなどを検討した方がいいかもしれません。ご近所に、ごみ出しのサポートをお願いしてもよいでしょう。

②押し入れやベランダも忘れずに確認する

掃除には得手不得手がありますが、明らかに散らかっていたら要注意です。定期的に掃除できているか、ごみがたまっていないかについても、気にしておきましょう。

また、居間や寝室など、普段いる場所はきれいでも、どこかにごみをため込み始めている可能性はあります。押し入れ、ベランダ、裏庭、物置きなども、忘れずに確認してみてください。ごみを捨てに行くのがおっくうになり、ベランダにごみを置くようになるところからごみ屋敷化が始まることもあります。

■まずは地域包括支援センターに連絡を

少しでも異変に気づいたら、親が住む地域の「地域包括支援センター」に連絡してください。

地域包括支援センターは、自治体が設置する施設で、ケアマネジャー、社会福祉士、保健師など介護、医療、福祉のプロがいて、高齢者に関するさまざまな悩みを相談できます。相談すると、必要に応じてケアマネジャーなどの担当者が家に来て本人の状況を確認し、どうしたらいいかアドバイスしてくれます。「高齢者が一人暮らしをしていて足腰が弱っているので見守ってほしい」「どんな方法で見守ることができるか教えてほしい」といった相談もできますし、認知症に関する相談にも乗ってくれます。

すぐに介護や医療の介入が必要ではないと判断された場合でも、担当者が定期的に様子を確認し、何かあれば子どもに連絡をくれるようになります。特に、親と離れて生活している場合は、ぜひつながっておきたい窓口です。

■治療には時間がかかる

ディオゲネス症候群の治療は非常に困難です。特徴の一つに挙げたとおり、本人には自覚症状がないので、一筋縄ではいきません。精神科や心療内科にも連れて行こうとしても、本人は抵抗するでしょう。セルフネグレクトにより、病気やケガをそのままにしている可能性も高いので、そこから「健康診断に行こう」「皮膚科で傷を診てもらおう」といった話をして、まずは医療とつながるきっかけをつくるのも手です。

いずれにせよ、まずは本人と信頼関係を築くところから始める必要があります。「不潔だから何とかしなさい」「周りに迷惑がかかるからやめて」など、現状を批判したりすると、余計に抵抗するばかりです。

時間をかけ、おだやかに雑談ができるような関係性をつくり、「この人の話なら聞いてみよう」と思ってもらうことが必要です。そこから、「もし火事になって、あなたがいなくなったらつらいから」「あなたが病気になったりケガをしたりするのが心配だから片付けましょう」など、「あなたのことが心配だから言っていますよ」という切り口で話をしていきます。

■条例や相談窓口がある自治体も

いったん進行すると、家族だけでは手に負えなくなります。抱え込まず、ぜひ早いうちから行政などに相談し、専門家の意見を聞いて対応してください。たとえば、京都市、大阪市、神戸市、横浜市、名古屋市などにはごみ屋敷に関する条例があり、相談窓口を設けている自治体もあります。

いったんごみ屋敷化してしまうと、物理的に家をきれいにするのは大変な労力がかかりますし、それよりもまず、片付けさせてもらえるよう本人を説得するのも大変です。V字回復は困難です。結局は、時間をかけて本人を説得しながら何とかごみの処分を行い、いずれは本人に合う施設に入所してもらうというケースがほとんどです。

まだまだディオゲネス症候群については知られているとは言い難く、多くの人が、まさか自分の親の家がごみ屋敷になったり、犬や猫をめんどうが見切れないほどたくさん飼って家が荒れてしまったりとは、想像できないのではないかと思います。でも、高齢者の一人暮らしでは、誰にでも起きる可能性があります。「どうせうちの親には関係ない」と気付くのが遅れ、進行してしまうという状態は、防いでほしいと思います。

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井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医
産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。

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(産業医・精神科医 井上 智介 構成=池田純子)

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