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「本気で引退を考え、死にたいと思った」上沼恵美子が自分の名前の次の検索ワード"死因"を見て大復活したワケ

プレジデントオンライン / 2024年8月19日 10時15分

かみぬま・えみこ●1955年兵庫県生まれ。71年に姉妹漫才コンビ「海原千里・万里」の千里としてデビュー。77年に結婚後、芸能界を引退して専業主婦に。翌年、「上沼恵美子」として復帰。関西を中心にテレビやラジオで活躍。2021年から、YouTube公式チャンネル「上沼恵美子ちゃんねる」をスタート。

■自分を見つめ直すいい機会になった

なんで働いているのか、私もみなさんに聞いてみたいですね。だって、今まで深く考えたことありませんでしたから。だからね、取材のお話をいただいて、私なりによく考えました。

そう意味では、ありがたい時間でした。みなさんもぜひ考えてみてください。なんで働いているのか。自分を見つめ直すいい機会になると思います。少なくとも、私はそうでした。

一所懸命に考えて、わかりました。あぁ、そうかと腑に落ちたというのでしょうか。単刀直入に言えば、仕事をするのは、人生を楽しくするため。それに尽きます。上沼恵美子が上沼恵美子でいられるのは、仕事があるからだってことがよくわかりました。

ちょっと、主人の話してもいいですか。のろけ話ではありませんよ。実は今回、真っ先に浮かんだのが61歳で定年退職した主人のことだったんです。

彼は友達も多いし、多趣味なんで、きっと楽しい老後が待ってるはずやと本人も思っていただろうし、私も彼の性格をよく知っていますから、生き生きとした生活を送るんだろうなと、じっと観察してきたわけです。

それがね、ここにきて息切れしてはります。定年して10年くらいは、まあ楽しそうにやってました。ゴルフだウクレレだ海外旅行だ陶芸だ俳句やなんだかんだと。でもね、私には彼がどんどんしんどくなっているのが見ていてわかりました。ここ最近は、元気がないというか、ちっとも生気がない。定年して16年。主人を見ていて、なるほどなぁって思ったわけです。

何が言いたいのかといえば、趣味はあくまでも趣味。仕事の持っている迫力には到底かなわないってことです。趣味はやってもやらなくても一緒ですよね。仕事はやらないわけにはいきません。責任感がついてまわりますから、そりゃ、覇気もみなぎれば、自然と目つきも違ってきます。責任があるって、実は大事なことです。お金では買えないものですからね。

主人もテレビ局で働いていたときは、それはもう素敵でした。ギラギラというかキラキラというか、真剣に仕事をしていた頃の彼は、というか、彼に限らずのことですけど、仕事をしていることで、生きていることに緊張感が生まれるでしょ、そうすると滲み出るものが違うわけです。

この前、久しぶりに別荘に行ったとき、知らないおじいさんがベランダにいて、注意しようと思って近づいたら、うちの主人でした。はははは。そんな感じです。長いこと仕事をしないと、人は見た目も変わるんですね。主人の元気のない姿を見ていると、やっぱり仕事せなあかんなと思います。

■芸能界でずっと活躍できたワケ

私は仕事があるから、人前に出るでしょ。そうすると、身なりもきちんとするし、緊張感のある毎日を過ごすことになる。だから、私はずっと上沼恵美子でいられるということを、このお話をいただくまではちゃんと気づいてなかった。どちらかといえば「仕事なんていつでも辞めたるわ」って本気で思っていました。だって「私、数字を出しているし、もうやりきった」って思っていましたから。

だからね、仕事を辞めたいと思ったことは、数え切れないほどあるんです。でも、辞めずに結果を出し続けた。自惚(うぬぼ)れが強いのかもしれないですけど、はっきり言えば、負けたくない。だから勝つしかない。ずっとそう思ってやってきました。勝つことが仕事だと思っていたところもありますね。

中学生のとき、父親にお笑いの世界に入れられて、舞台に上がったあの日から半世紀以上、この世界で生きています。最初の仕事は梅田のもともとがストリップ劇場だったくたびれた寄席小屋でした。小さくて汚い楽屋に年上の芸人さんたちと一緒になるでしょ、幼い中学生には地獄です。そのときからです、勝たなあかんって思ったのは。売れないことには、ここから抜け出せないわけです。がむしゃらでした。

ありがたいことに、ガーッて人気が出まして、漫才界の白雪姫なんて言われたりした絶頂期に一度は仕事を辞めてますからね、私。22歳のときです。それがさっき話に出た主人との結婚です。覇気があって、かっこよかったんですけどねぇ、かつての主人は。あぁ、仕事しないと、あきませんわ。今日の話は、ここに尽きますね。

それで、結婚してすぐに長男を出産して、1年で復帰しました。あの頃、舞台に出るのが億劫だったり、プレッシャーがきついなぁって感じたりもしていたんですよ。でも、やっぱり仕事がしたかったんですね。

目に見える結果を出すということが好きだったんですよ。チケットが何分で完売したとか、視聴率がなんぼだったとか、聞くのが楽しいわけです。

ずっと勝ってきたってことは、私にとってはイコール仕事をしてきたってことになるわけです。レギュラー番組がスタートする。39歳で紅白歌合戦の司会をやらせていただく、しかも2年連続で。冠の番組も始まる。有頂天になりますよね。

私ね、復帰してからは事務所には所属しないで個人でやっていました。連絡先の電話番号は自宅の番号だったんです。マネジャーもいなくて、電話がかかってくると「はい、上沼です」って私が出るわけです。声色を変えて事務員のふりをして、「少々、お待ちください」とか言ったりしてね。おかしいでしょ。それでも仕事がどんどん舞い込んできた。自分で仕事をとって、自分で仕事を仕切って、出る番組、出る番組で視聴率をとるわけです。

【図表】上沼恵美子さんの軌跡

■会ったこともない人たちに叩かれるようになった

でもね、それはすべてテレビがよかった頃の話。ネットの時代に入って、会ったこともない人たちに叩かれるようになりました。私のことをハラスメントだって言うわけです。週刊誌も事実をきちんと伝えてくれたらいいですけど、そうじゃない。なんだかんだで、四半世紀やってきた番組を降板することになりましたからね。落ち込みました。関西テレビの看板番組だったんですよ。それがきちんとした話し合いもなく、あっさりと切られたわけです。

4年前でしたか。とにかく腹が立ちましたね。関西テレビからいただいたトロフィーやらなんやら家でがんがん叩き割りました。年間視聴率ナンバーワンの盾とか真っ二つです。

そのときに思ったんです。あぁ、私は負けたんだなと。さすがに、ガクッときました。時代に私の芸風が合わないんやなって。そもそも、私の生き方と時代が合わなくなってきているんだってつくづく思ったわけです。同じ時期に愛犬も亡くなって、どん底ですわ。14歳からよう働いたな、あんたもよう頑張った、もうええんやないかって、自分で自分を慰める人生あきらめモードに突入です。あのときは本気で引退を考えましたね。

死にたいとも思いました。死にたくても、人間、そう簡単に死ねるもんやないんですよね。でも、ネットを見ると、なぜか死んでるんです、私。上沼恵美子の死因って検索すると、出てくるわけです。えっ、私の死因、なんやろうって見ましたけどね(笑)。

でも、死にたいっていうのは失礼な話やって、ハッと気づいたんです。最近ね、若いときから一緒に仕事をしてきた先輩や仲間がどんどん天国へと旅立っていくんです。悲しいことです。私が長いことNHKで出演させてもらっていた「バラエティー生活笑百科」のメンバーの訃報も続いてね。笑福亭仁鶴さん、今くるよさん、キダ・タローさん……。

わかってはいても、命って限りがあるんですよ。生きているんやから、ちゃんとせなあかんって思い直すようになって、1年くらい前から目が覚めたといいますか、足元をしっかり見て歩いていこうと再出発です。関西テレビへの恨みつらみを晴らさずにおくものかって気になっています。はははは。

■趣味と仕事では「ビールの味」が全然違う

結局、私が歩き出すってことは仕事をするってことなんです。働くことの尊さなんて、これっぽっちも感じないで生きてきて、挫折といいますか、負けを知ったことで、仕事に立ち戻ったってのが、また不思議なものです。

仕事って、臓器でいうたら心臓ですよ。心臓が動くから手も足も口も動くし、頭も回転する。料理でいうたら調味料。調味料がなければ、味も素っ気もない料理になるわけです。仕事をしなければ、人生が面白味のないものになるってことです。

ちょっと前からYouTubeを始めたでしょ。これも私の中ではもちろん仕事であって、つまりは勝ち負けです。息子がね、オカンちょっとやってみようかって言うんで、ほなやろかって始めたんですけど、私の性格によう合ってました。観た人の数字がはっきり出るやないですか。ありがたいことに、勝ち負けがわかりやすい(笑)。

テレビ時代の申し子みたいに言われているけど、ネット時代でも勝ったるわって気になって、ものすごい数字を叩き出したことで、やったーって。せやねん、これが仕事やねんって思いましたね。

数字が出るってことは、あんたは間違ってないっていう一つの指標でもあるわけです。それはもう、そんなん聞いたらビールがうまい。ささいなことですけど、人生を楽しくしてくれるわけです。プハーッてビールを呑んで、あぁ、生きてるなぁってなる。

私は、趣味でパステル画を描くんですけど、描き終えた後のビールの味と仕事の後のビールの味って、全然違うんです。だって、趣味の果てには、仕事を超える感動がないことを知ってますからね。趣味はどこまでいっても趣味。仕事は何だかんだ言っても仕事です。その代わり、趣味で失敗してもたいしたことないですけど、仕事で失敗したらえらい落ち込みます。ヒリヒリした何かがないと、本当の意味で、人生は楽しくならないんでしょうね。

上沼恵美子さん

■テレビが終わっても仕事はいくらでもある

最近、よう聞かれるのは「テレビってもう終わったんですか」ってこと。答えにくいですけどね。私は本当にいい時代にテレビに出させてもらいましたからね。最近のテレビがおもろないって嘆いているタレントさんもいるでしょ。私、こう思うんです。あんたはテレビに出たいんか、仕事がしたいんかって。仕事がしたいんやったら、道はいっぱいありますよって。私がYouTubeをやったように、タレントとしてできることはあるわけですよ。たとえテレビが終わっても、あんたが終わらなければそれでいい話やもんね。

結局、私の中で仕事は人生を楽しくするためのものではあるけれど、勝たないと楽しくならないから、大変ですわ。でも人生で一番、長続きするのが仕事なわけで、一日の中でも長い時間を費やすのが仕事。なぜ働くのかと問われたら、生きるためでもありますけど、日々の暮らしの満足感に直結するってことですからね。

だから主人を見て、時々思うんですよ。働くってことは、生きていく中で重要な意味があるんだなと。

そもそも、なぜ仕事をするのか迷ったらあかんのとちゃいますか。なんも考えずにやれるのが本当の意味で幸せな仕事かもしれませんよね。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月16日号)の一部を再編集したものです。

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上沼 恵美子(かみぬま・えみこ)
タレント
1955年兵庫県生まれ。71年に姉妹漫才コンビ「海原千里・万里」の千里としてデビュー。77年に結婚後、芸能界を引退して専業主婦に。翌年、「上沼恵美子」として復帰。関西を中心にテレビやラジオで活躍。2021年から、YouTube公式チャンネル「上沼恵美子ちゃんねる」をスタート。

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(タレント 上沼 恵美子 構成=山本富士夫 撮影=倉科直弘)

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