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怪談とホラーは似ているようでまったく違う…5000以上の怪異体験を集めた作家が語る「怪談の大事な役割」

プレジデントオンライン / 2024年8月18日 13時15分

川奈まり子さん - 撮影=プレジデントオンライン編集部

怪談の人気が高まっている。なぜ人は「怖い話」にひかれるのか。怪談師としても活躍する作家の川奈まり子さんに、ノンフィクションライターの山川徹さんが聞いた――。

■なぜいま「怪談ブーム」が起きているのか

――怪談を語るYouTubeチャンネルの動画総再生数が1億回以上のコンビがいたり、全国各地でイベントやライブが行われているなど、最近、怪談がブームになっていると言われています。

個人的には、怪談関係の出演依頼が爆発的に増えたことから最近の「怪談ブーム」を実感しています。

きっかけはコロナ禍だったと思います。コロナ禍では、ライブなどのリアルイベントが開催しにくくなりました。その代わりに勃興したのが、配信イベントや配信番組です。

怪談はひとりでも配信できるし、視聴者もひとりで楽しめる。YouTubeやTikTokなどのSNSと非常に相性がよく、コロナ禍のライフスタイルにもマッチしていました。

怖い話が好き、あるいは不思議な体験をしたという人はどんな時代にも必ずいます。

そんな人たちがみんな、SNSの普及によって怪談にアクセスしやすくなったのです。

その結果、怪談にかかわるコンテンツを配信したり視聴したりする人が10代、20代の若者にも増えて、幅広い年齢層のファンを獲得し、怪談シーンが盛り上がりました。

私が人前で怪談を語りはじめたのは、10年ほど前のこと。

当時の怪談シーンには10代で怪談を語る人はまずいませんでしたし、そもそもプロの怪談師も数えるほどで……。怪談の集まりといえば、怪談愛好家の主催者が貸し会議室や居酒屋などを借りて、数人から多くても20~30人で行う怪談会が大半でした。

100人以上を集客できる怪談会は珍しく、ましてや500人以上が入れる会場が満席になるイベントとなると、稲川淳二さんの「怪談ナイト」くらいのものだったでしょう。

■「素人に毛が生えた怪談」の魅力

実はその頃の怪談イベントは主催者や怪談師だけではなく、参加者をふくめてみんなで車座になって怪談を語り合うような、素朴な集まりがほとんどだったんです。

それが、いまや500席以上の大ホールで怪談イベントを行い、しかもそのチケットが即日完売するほどの怪談師も1人や2人ではありません。

怪談の裾野が広がっていくなかで、大きく変わったなと感じるのは、ファンや視聴者の方々が怪談を話芸のひとつとして捉えるようになったこと。

これまで怪談は話芸としては認められていなかったんですよ。

そもそも“素人に毛が生えた怪談”が怪談会の魅力のひとつでもありました。

不思議な体験をしたり、知り合いに怖い話を聞いたりしたことがない人はいないはずです。話そうと思えば、誰もが怪談を話せるわけでしょう。

だから、噺家さんの落語や、講談師さんの講談のように確立された話芸ではなく、話芸未満のカジュアルトークで、素人に毛が生えた程度の物好きが怖い話をする――それが一般の方がイメージする怪談でした。

けれども、コロナ禍に怪談を語る人が一気に増えて、切磋琢磨するなかで、怪談が話芸として磨かれていった。コンテンツの数が増えるのと比例して、怪談師の話芸も、怪談のクオリティも上がっていった。こうした流れが、いまの怪談ブームを支えているのです。

■「時短」の時代に相性がいい

――令和の怪談ブームにはどんな特徴があるのでしょう。

たとえば、1990年代にも怪談が流行しました。『学校の怪談』が映画やアニメになってヒットしたり、小説家の中山市朗さんたちの『新耳袋』など、不思議な体験をした人に話を聞いて書いた「実話怪談」が注目されたりしました。

ろうそく
写真=iStock.com/BBuilder
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BBuilder

しかし90年代には、怪談は、都市伝説や超常現象などとともにオカルトブームのジャンルのひとつに過ぎませんでした。70年代のオカルトブームでも同様で、ブームの中心はノストラダムスの大予言やスプーン曲げで、怪談ではなかった。

しかし令和のブームでは、オカルトではなく、怪談そのものに注目が集まっています。

とくに若い人にウケている。その理由は、コンテンツが短いこと。

講談や落語は、そもそも使う言葉や話の筋が難しい上に、長いと感じる若い世代が増えたようなのです。

一方で怪談は普段使いのカジュアルな言葉で話しますし、舞台もほとんどの場合が現代で親しみやすい。何よりも短い。

最近は怪談のコンテストがたくさん開催されるようになったのですが、次第に短く話す技術が求められてきて、ついに3分で1本の怪談を語るという規定のコンテストが登場しました。ツカミとオチをつけて3分間で話すのは難しいことですが、10分以内、5分以内の怪談はもはやスタンダードです。1分怪談というものまであります。

そうした“短いエンタメ”という点も、令和の怪談が流行る背景にはあるのではないでしょうか。

■怪談とホラーの違い

――怪談には「ウソ」「思い違い」「作り話」というイメージを持つ人も多いかと思います。そもそも怪談とはなんなのでしょうか。ホラーと怪談は違うのですか?

怪談はなんでもありのエンタメなんです。怪談の“怪”は、「あやしい」を意味します。

あやしい話なら、すべて怪談と言っていいと私は考えています。

「実話怪談」と呼ばれる実際に体験した話や体験者から聞いた話だけではなく、創作した話も怪談として成立しますし、怖い必要もありません。

また、話のなかで、怪異現象や不思議な体験の原因が明かされなくてもいい。

実際、実話怪談には、オチがなくて、よくわからない話も多い。体験者本人が、なぜ、そんな不思議な経験をしたのかわかっていない場合も少なくないので。

曖昧で、不思議で、あやしい。そんなところも怪談の魅力です。

対してホラーの場合、最低限の条件は恐怖なのでは? 怖くなければ、ホラーとは言えません。また恐怖の原因がはっきりしている場合が多いのもホラーの特徴です。

■体験者の共通点

――これまで5000以上の怪異体験を収集したとうかがいました。体験者の共通点を教えてください。

私の場合は、SNSを通して「不思議な体験談を教えてください」と呼びかけて応募してくれた人から聞き取りをしています。私のSNSを見る人のほとんどが怪談好きなので、不可思議な体験を、怪異やお化けと結びつけやすいという共通点があるかもしれません。

昨年上梓した四谷怪談のルーツや解釈と共に「お岩さん」関連の怪談を所収した『眠れなくなる怪談沼 実話四谷怪談』の出版イベントのときに、来てくれたお客さんの中に「この本を読んだら、ものもらいになって目が腫れた」とおっしゃる人がいました。

ものもらいと、目が潰れてしまった四谷怪談のお岩様を関連付けたのでしょう。

実際には、因果関係があるのかどうかはわかりませんし、作家として責任も持てません。

でも、偶然で片付けたくない気持ちは、同じ怪談好きとしてわかるんですよ。

川奈まり子さん
撮影=プレジデントオンライン編集部

私は怪談を手がける前に、AVに出演したり、官能小説を書いたりしていた時期がありましたし、離婚も経験しています。そして再婚して子育てもしました。学歴も高くない。

そのせいか、夜職や性風俗業で苦労された方や、挫折の多い人生を歩まれた方、とくに女性にとっては話しやすく感じられるようです。

あくまでも私の実感ですが、怪異体験を経験した方には、虐待やいじめを受けた過去を持っていたり、家庭に問題があって周囲から孤立したりと厳しい環境で生きてきた人が多い気がします。

対話しているうちに身の上相談のようになっている場合も珍しくありません。

■歴史や土地の記憶が入り込んでくる

人は、現実の苦しみから逃避するために空想したり、妄想したりすることもあります。

体験者さんのお話を傾聴していると、ときには、ご自身の精神状態を正常に保つために存在しない友だちや家族をつくったのかなと思うような話もあります。

客観的に見れば妄想や空想と片付けられてしまう話なのかもしれませんが、体験談は、その人にとっての事実です。

だから私は、体験者の話を空想や妄想と決めつけずに「主観的な事実」として話を聞かせてもらうことにしています。

それが、怪談作家としての私の役割なのではないかとすら考えているんですよ。

基本的に体験者は市井の方たちで、日常では親身になって話に耳を傾けてくれる人も少ないでしょう。私は傾聴して、彼らの人生の断片を怪談として形に残したい。

どこで生まれて、どんな家庭で育ち、趣味は何で、いまはどんな仕事をして、何に悩んでいるのか……。

一見、怪談に関係がない雑談が、怪談の奥行きを深めてくれる場合が多々あります。

また、土地やその方の祖先の歴史が個人の不思議な体験と結びつくことも……。そういう時間的な広がりのある話とであうと、怪談を収集する醍醐味を覚えますね。

■私が聞いた八王子の怪現象

たとえば、私の地元でもある東京・八王子には、稲川淳二の怪談「首なし地蔵」によって有名な心霊スポットになった道了堂跡という場所があります。

少年時代、放課後、道了堂跡をひとりぼっちでうろうろしていた。すると、藪のなかからニュッと長い腕が出てきて腕をつかんだ。氷のように冷たい感触から、それが人間の腕でないことはすぐにわかった――。

そんな怪異体験を聞かせてくれた男性がいました。

私は、不思議に思いました。そもそもなぜ、あんな寂しい場所にひとりでいたのか。

気になって聞いてみたところ、こんなことがわかりました。

彼は、昭和50年前後の八王子が新興住宅地として開発されだした時期に、都心から引っ越してきた。しかし地元の子どもたちに馴染めず放課後はいつもひとりで過ごしていた。

ただ親には心配をかけたくなくて、いつも「友だちと遊んでいた」と話していたんです。

こういう思い出話を汲むことで、単に心霊スポットで不思議な体験をしたというだけの話ではなくなります。昭和中後期の社会情勢や郊外の宅地開発、引っ越したばかりで仲間に入れない少年の複雑な心情が、怪談の背景に投影されるのです。

実体験には、当然、当事者がいます。そして土地には、歴史があり、人の暮らしや情念と無関係ではありません。

例として真っ先に思い起こすのが東日本大震災の被災地です。かの地では、ご遺族が犠牲になったご家族の霊と再会したという不思議な話が少なくありません。

■けっして「怪しい」「怖い」だけではない

拙著『僧の怪談』で取り上げた石巻市にある石巻大日尊は、津波によって本殿や母屋が家財道具や仏具もろとも流失しました。住職は被災直後から、地元の檀家さんたちがお参りできるように、と流された仏具を一生懸命に探し求めました。

ほどなくして数珠や鐘楼、仏像などほとんどの法具が奇跡的に見つかって、法務が再開できるようになった。なのに、なぜか住職と妻と跡取り息子の守り本尊である3体の仏像だけが、どうしても見つからない。そのことを地元の人たちは「守り本尊がご住職たちの身代わりになってくれたんだ」と受け止めるようになったそうです。

怪談は、当事者の方々にとって大切な物語にもなりえるのだなと実感した一件です。

川奈まり子『怪談屋怪談』(笠間書院)
川奈まり子『怪談屋怪談』(笠間書院)

戦争にまつわる怪談もそう。

第二次世界大戦を経験したのは、私の祖父母世代です。当事者の方々は高齢になり、ほぼ、お亡くなりになっていますが、父や母の世代が、その話を一種の怪談として記憶していることがあります。

招集された夫が妻の夢枕に立った。のちにその瞬間に夫が戦死していたと知る、なんていう話は本当に多い。

戦争の怪談で語られるのは、戦死した夫や息子、空襲などで亡くなってしまった家族など大切な思い出や記憶でもあります。

ご遺族や関係者の思いが深いからこそ、怪談として長年語り継いできたのでしょう。

■だから私は怪談を語り続ける

戦争が終わってから、今年で79年になります。

生々しい体験が歳月の経過とともに歴史となり、戦争にまつわる怪談の性質が少し変わってきたように感じます。次の話も、非常によく語られる戦争怪談の類型です。

原爆の爆心地近くの公園で、大学生グループが飲み会を開いていた。夜が更けてあたりが真っ暗になると引きずるような足音が近づいてくる。何かと思って懐中電灯で照らしてみると焼けただれた人の顔が浮かび上がった。驚いた大学生たちは這々の体で逃げ出した。

しかし、その翌朝、彼らは原爆の悲惨さに思い至り、自分たちの不謹慎を反省して、再び公園に行き、原爆の犠牲者を悼んで手を合わせる――。

かつては夫や息子への悲しみや愛おしさを記憶するための怪談が、歳月を経て教訓を伝える話になったと言えばいいでしょうか。

そう考えていくと怪談はただ人を怖がらせるだけの話芸や文芸でも、妄想や空想でもありません。怪談には、歴史に記録されなかった個々人の悲しみや怒りなどの感情を伝え、癒やす役割もあり、災禍の教訓を後世に伝える装置にもなりうる。

それが、私にとっての怪談の魅力なのです。

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川奈 まり子(かわな・まりこ)
作家
東京都八王子市出身。丹念な取材に基づいたルポルタージュ的手法の実話怪談で人気を博す。これまで取材した怪異体験談は5000件以上。近年は怪談の語り手としてもイベント・動画配信サイトなどで活躍している。『怪談屋怪談』『眠れなくなる怪談沼 実話四谷怪談』『東京をんな語り』『八王子怪談』『家怪』など著書多数。

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山川 徹(やまかわ・とおる)
ノンフィクションライター
1977年、山形県生まれ。東北学院大学法学部法律学科卒業後、國學院大学二部文学部史学科に編入。大学在学中からフリーライターとして活動。著書に『カルピスをつくった男 三島海雲』(小学館)、『それでも彼女は生きていく 3・11をきっかけにAV女優となった7人の女の子』(双葉社)などがある。『国境を越えたスクラム ラグビー日本代表になった外国人選手たち』(中央公論新社)で第30回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。Twitter:@toru52521

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(作家 川奈 まり子、ノンフィクションライター 山川 徹 インタビュー・構成=ノンフィクションライター、山川徹)

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