世界のベストセラーマネー本を読んだ最終結論「AIやプロに対抗して非力な個人投資家が買うべき銘柄はこれ」
プレジデントオンライン / 2024年8月20日 17時15分
■数十万円の運用に悩むのはバカげている
書店に行けば、表紙に「儲かる」「億万長者になれる」と書かれたマネー本が溢れています。でも本を読んだくらいで本当に儲かるなら、世の中は億万長者で溢れているはずですよね。
どれほど賢い人でも、私たちはみな、「自分が世界の中心だ」と無意識に思っています。脳の仕組みとして、自分を中心に置かなければ世界を理解できないので、やむを得ないのですが、「特別な自分には、特別なことが起きて当たり前だ」という認知の歪みが、詐欺に引っかかる原因です。
「儲かる」という話はいっさい信じないというのが、金融リテラシーの第一歩です。100万円の資金を10%で運用して、10万円の利益を上げられる人は多くありません。でも、詐欺師に騙されて100万円を失うのは一瞬です。
だったら、どうすればお金持ちになれるのか。「一生懸命働いて、節約する」と書いてある本は信用できます。金融資本を金融市場に投資して運用するためには、そもそも運用するだけの資産がなければなりません。そのためには、人的資本を労働市場に投資して得た収入と、生活費などの支出の差額である純利益を増やすしかありません。
超円安によって日本はどんどん貧乏になっていると言われますが、それでもGDPは世界第4位で、大卒正社員が定年まで働いて得る生涯収入は3億〜4億円です。この将来価値は、会社がつぶれたり、病気で働けなくなるリスクを割り引かなければなりませんが、それでも22歳で大学を卒業したばかりの若者が、潜在的には1億円以上の人的資本を持っていることは間違いありません。
このとき、手元にある10万円や20万円の貯金をどうやって運用するのかに頭を悩ませるのは、バカげています。真剣に考えるべきは、1億円の人的資本をどうやって運用し、さらに増やしていくのかのはずです。
学生時代から毎月1万円を積み立て投資するのは立派なことでしょう。でも、こういう言い方をすると顰蹙を買うかもしれませんが、40歳から毎月10万円の積み立て投資を始めた、大きな人的資本を持つ人に、たちまち追い越されてしまいます。
人生100年時代になって、60歳で仕事を辞めると、100歳までに40年もあります。そう考えれば、これからは70代まで好きな仕事を続け、80歳まで資産を運用するのが常識になっていくでしょう。40歳から投資を始めても、80歳まで40年ありますから、投資期間としては十分です。であれば、40歳までに「稼げる自分」になり、生涯現役で(できれば生涯共働きで)働くのが、もっとも経済合理的な人生設計になります。なによりも、投資は損をするリスクがありますが、働けば確実に利益を得られるのですから。
トマス・J・スタンリーとウィリアム・D・ダンコの『となりの億万長者』(早川書房)は、富裕層研究の第一人者がアメリカのお金持ちを徹底的に取材し、富を築いた秘密を明らかにしたロングセラーです。2人が発見したのは、お金持ちは六本木ヒルズのような億ションではなく、庶民的な町で質素に暮らしていることでした。なぜなら、お金を使うと、お金は減ってしまうから。時代が変わっても、これが「お金持ちになる」ための永遠の真理です。
■AI、高頻度取引…個人投資家の生きる道は
金融リテラシーを上げたいのなら、ファイナンス理論を勉強するのが王道です。株式市場はデータが公開されていますから、1950年代から数学の天才たちによって徹底的に研究され、多くのノーベル経済学賞受賞者を出し、70年代には理論として完成しました。株式市場の情報は瞬時にすべて公開され(効率的市場仮説)、株価の値動きが正規分布することを前提とするならば、新しく付け加えるものはなにもありません。――その後、市場は複雑系のべき分布で、効率的市場仮説はつねに成立するわけではないとされるようになりましたが、ファイナンス理論が金融リテラシーの基礎であることは変わりません。
ファイナンス理論が素晴らしいのは、個人でも金融市場でその正しさを確認できることです。私が投資にはまったのは20年以上も前のことですが、海外の金融機関に口座を開いて新興国の株式や債券を購入してみただけでなく、シカゴの先物市場でS&P500の先物やオプションなどのデリバティブ取引までやってみました。
その結果をひとことでいうなら、「やっぱりファイナンス理論は正しかった」になります。
ファイナンス理論の歴史をわかりやすく、かつ面白く解説する名著が、ピーター・L・バーンスタインの『証券投資の思想革命』(東洋経済新報社)です。1952年から73年までのわずか21年間に、さまざまな理論が登場し、それまで勘で行われていた投資に革命的な変化が起きたことを、大河ドラマのように描いていて飽きさせません。同じ著者の『リスク』(日本経済新聞出版)と『アルファを求める男たち』(東洋経済新報社)を合わせて読めば、それだけで十分でしょう。
次におすすめするのは、エドワード・O・ソープの『天才数学者、ラスベガスとウォール街を制す』(ダイヤモンド社)。著者は数学者ですが、ブラックジャックでカジノに勝つ方法を数学的に証明し、それを本に書いてベストセラーになりました。このカード・カウンティングを使って、MIT(マサチューセッツ工科大学)の学生がブラックジャッククラブを結成し、アメリカ中のカジノを荒らしまわって莫大なお金を稼いだのは有名な話で、映画化もされています。
ソープはその後、ラスベガスではなくウォール街、つまり金融市場のほうが巨大なカジノであることに気づきます。そして、転換社債の価格の歪みから利益を得るヘッジファンドをつくり、巨額の富を手にしました。まさに、ラスベガスとウォール街を攻略した「最強のハッカー」です。
金融市場はあまりにも巨大なので、「効率的市場仮説」は完全には成立せず、さまざまなところに小さなバグが生まれます。誰よりも早くそのバグに気づけば、裁定取引によって、ノーリスクで富を生み出すことができます。
どうすればそんなことができるかを取材したのが、グレゴリー・ザッカーマンの『最も賢い億万長者』(ダイヤモンド社)です。「ルネサンス・テクノロジーズ」は数学者のジム・サイモンズが、天才数学者を集めてつくったヘッジファンドで、市場のデータを独自にプログラミングしたAI(人工知能)に解析させ、市場の歪みを瞬時に見つけて収益化しています。その結果、「32年間平均66%の収益率、運用収益は10兆7000億円超、個人の推定資産は2兆5000億円」という大富豪になりました。
マイケル・ルイスの『フラッシュ・ボーイズ』(文春文庫)は、証券取引所のサーバーと光ファイバーで接続し、0.001秒早く取引情報を察知して、そのバグを収益化するHFT(高頻度取引)業者の実態を描いています。いまやウォール街では、HFT業者が有名大学で数学や物理学の修士・博士号を取得した若者たちを集めて、莫大な富を生み出しているのです。
これらの本を読むと、「超絶AIや高頻度取引に対抗して、個人投資家にいったいなにができるのか?」という疑問にぶつかります。そしてこれには、唯一の正解があります。それが、世界株インデックスファンドへの長期の積み立てです。
これについてはこれまであちこちで書いてきたので繰り返しませんが、非力な個人投資家の最大の武器は、時間(市場の長期的な成長)を味方につけることです。「最強のハッカー」であるエドワード・O・ソープも「個人投資家はインデックスファンドを買っておくのがいちばん」とアドバイスしていることも付け加えておきましょう。
■お金は際限なく増えるが1日は24時間しかない
私が資産運用に興味を持ったのは30代半ばで、当時勤めていた出版社を辞めようかと考えていたときのことです。会社を辞めてしまえば、給料を払ってくれる人がいなくることにはじめて気づいて、お金の管理を含めて、自分の人生を自分で「設計」しなければならないと考えるようになりました。
そのときは、金融市場の仕組みについてまったく知らなかったので、いろんな本を読み、株や債券、デリバティブ取引をやってみて、理論を検証しました。
本を読むときには、常にインプットとアウトプットを意識しています。両者のバランスがとれていないと、内容を脳にうまく定着させることができません。
たとえば、インプットをせずにアウトプットばかりしている人がいます。そんな人が書いたものは、内容が空っぽだなと感じることが多くあります。反対に、編集者時代には、ものすごい量の本を読んでいても、アウトプットが苦手な人にも会いました。世の中にはアウトプット過剰か、インプット過剰の人が多いのです。そうではなく、インプットしたものを上手にアウトプットして回転させることで、読書のコスパを上げられます。
資産運用でいうなら、本で勉強しただけで、実際にやってみなければ意味がありません。かといって、生半可な知識でハイリスクな取引をすれば、大やけどをするだけでしょう。
私の場合、新聞を読んで面白かったことはX(旧Twitter)に上げています。過去の投稿を検索すれば出典がわかるし、フォロワーからの反響で、「こういうことに興味があるんだ」とマーケティング効果も得られます。
私は物書きになってから、人的資本を一つのことに集中するという戦略をとっています。テレビ出演や講演をしていないこともあり、海外旅行を除けば、私の日常は、原稿を書いているか、本を読んでいるかのどちらかです。土日を含めて毎日、これを繰り返して飽きないのだから、この仕事が好きなんだと思います。
私の競争戦略の前提は、「世の中には自分より賢い人が無数にいる」です。でもこの人たちは、大学の教員だったり、官僚やエリートビジネスマンだったりして、ものすごく忙しい。それに対して私は、好きなことに時間資源のすべてを投じることができます。自分より2倍賢いライバルに勝とうと思ったら、3倍の時間資源を投じればいいのです。
三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)がベストセラーになりましたが、みんなもっと本を読みたいと思っていて、時間資源に制約があることを身に染みて感じているのでしょう。
個人資産30兆円のイーロン・マスクを見てもわかるように、お金は際限なく増えていきますが、どんな大富豪でも1日は24時間しかありません。「タイパ」が流行語になりましたが、動画や映画は1.5倍速なら見られるかもしれませんが、4倍速では理解できないでしょう。
基本的な仕事がAIで代替できるようになれば、それがどんな分野であれ、特別な知識や技術を持ったスペシャリストしか生き残れない未来がやってくるでしょう。そのときもっとも効果的なのは、漫然といろんなことに手を出すのではなく、有限の時間資源を好きなこと、得意なことに集中的に投資することです。読書もそのような視点から考えれば、人的資本を大きくすることができるのではないでしょうか。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月30日号)の一部を再編集したものです。
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作家
2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎文庫)、『言ってはいけない』(新潮新書)、『バカと無知』(新潮新書)、『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)など著書多数。
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(作家 橘 玲 構成=向山 勇 撮影(書籍)=市来朋久)
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