「メダルを獲ります」と言えなかった…男子バレー・石川祐希(28)が「金メダル」を公言するようになったワケ
プレジデントオンライン / 2024年9月7日 10時15分
■バレーのためなら何でも犠牲にできる
僕はバレーボールが大好きだ。
だからバレーボールをしているだけで楽しい。
でも、そんな僕でもときには楽しくない、しんどいと感じることもある。
だけど、どれほどうまくいかないことや、苦しいことがあっても、やっぱり僕はバレーボールが好きで、もっともっと、自分が求める世界へと近づいていきたいと思うから、そのためならば時間も物事も犠牲にできる。
2024年7月、いよいよパリオリンピックが開幕する。
男子バレー日本代表としてコートに立つのは12名だ。
この本を書いている時点で、メンバーはまだ決まっていないけれど、誰が選ばれたとしても間違いなく力のある選手がそろっていると、自信をもっていうことができる。
とはいえ日本代表として結果を得られたわけではない。
ネーションズリーグで初めて銅メダルを獲り、オリンピック出場がかかった予選でその切符を手に入れることができただけだ。
その現実を踏まえたうえで、過信しているわけではなく、冷静に海外の選手と日本の選手を見比べたとしても決して見劣りせず、チームとしても力があると自信をもっていえる。
もちろん、高さという点では圧倒的に劣っているが、簡単に負けないチームになっているというのは、実際にプレーをしていても感じている。
そんな日本代表のプレーやバレーボール自体を「面白い」と感じてくれる人たちが増えているのはとても嬉しい。
■日本のバレーは本当に面白い
『ハイキュー‼』に代表されるマンガやアニメの影響もあって、日本だけでなくほかの国の方々からも日本のバレーボールを応援してもらえることは、本当にありがたいことだと思っている。
そして何より、日本代表のなかでプレーしている僕自身が、日本代表のバレーボールは本当に楽しいし、面白いと思っている。
プレーしていても全員が楽しんでいるし、それが見ている人たちにも伝わり、結果にもつながっている。今まではなかなか得られなかった理想に近づいているという実感もある。
選手は1人ひとり目標を立てて取り組んでいるし、その過程を楽しめている。だから「個」も強くなるし、チームとしても強くなれる。
■スポーツは「ただ楽しむ」ものでも「苦しむ」ものでもない
日本代表として世界と戦う今も、いいプレーができたときは嬉しいし、できなかったことがどんどんできるようになる成長の過程を味わえることは、何よりの楽しみだ。
そしてプロである以上、当然、結果も求められる立場で、結果こそが僕たちを評価するものであるということもよく理解している。
バレーボールに限らず、最近はスポーツを「楽しむ」という風潮がとても強い。
それはいいことだけれど、ただ楽しく、遊びの感覚でやっているだけで、結果が得られる簡単な世界ではない。
もちろん、だからといって「勝つためには苦しまなければダメだ」というのも違う。
大切なのは、自分がどんな結果を求めて今がんばっているのか、その結果を得るために、どんな努力をするべきなのかを意識することだ。
なりたい自分、将来をイメージしながら試合や練習をすれば、うまくいかなくて苦しいことも、乗り越えてできるようになり、必ず楽しくなる。
好きなことが仕事になって、毎日毎日、時間とエネルギーを費(つい)やして取り組むことができるのは本当に幸せなことだ。
でも、だからこそ、この幸せな環境に満足することなく、もっともっと目指している頂に向けて登り詰めていきたい。
まだまだ今は、その道の途中だ。
■パリ五輪後の人生設計
夏のパリオリンピックが終われば、12月には29歳になる。
年齢を意識することはそれほどないけれど、周りからは人生設計について聞かれることも多くある。
そのたびに僕はそれなりに答えを返すけれど、正直にいうと先のことはほとんど考えていない。
なぜなら、現役をいかに長く続けられるかということしか、今は頭にないからだ。
選手生活が終わったあと、どんな人生を送るのか、何をするかということは、まったくといってもいいほど考えていないというのが紛れもない本心だ。
それで大丈夫かと思う人もいるかもしれない。でも僕は大丈夫だ。
なぜなら、本気になれば何とかなる、何でもできると思っている人間だからだ。
もちろん、現役選手として試合や練習に向けて準備をするように、何をするにしてもそのための準備は必要だ。
でも今は、まだ見えない。
バレーボール選手を終えたあとの将来に向けての準備よりも、バレーボール選手として成し遂げたいことに向けた準備をするだけで精いっぱいだ。
どこまで現役選手を続けられるのか。35歳になったらどうなるか。さすがに40歳まではやっていないかな、とたまに考えることもあるけれど、先のことはわからない。
毎シーズン、毎日ベストを尽くして、その結果がどこまで続いていくのか。
■「結婚はそのうちでいいか(笑)」
そもそも僕は今、バレーボール以外のことに興味がなく、バレーボール以外のことが考えられないから、無理に考える必要はないと思っている。
同世代には、結婚して、子どもにも恵まれている仲間もいる。
幸せそうな生活を見ていると、素直に「いいな」と思うし、自分も結婚したいな、と思うことはあるけれど、今は現実的ではない。
タイミングがきたら結婚もすると思うが、何より1人でできるものではなく、そう思える相手に出会えて、タイミングが合って、初めて成り立つものだと思う。
僕が「このタイミングで結婚する」と決められるものではないので、「まあ、そのうちでいいか」というのが正直な気持ちだ(笑)。
何より自分の生活を見返すと、完全にバレーボール優先であるのは否めず、睡眠や食事、休息時間もすべて自分のペースで、すべてバレーボールにつながっている。
僕自身、生活のリズムを簡単に変えられるタイプではないので、誰かと生活することになってそこが変わってしまうとどうなるんだろうと思ってしまうし、そもそもバレーボールのシーズンが始まれば、チームメイトや関係者以外、ほとんど人と会う機会もない生活で、自分から積極的に会いに行こうとも思っていない。
もちろんオフシーズンは、友達と会ってリラックスした時間を過ごすこともあるけれど、結婚となればまた別の話。時間、タイミング、相手がいて成立するものだ。
結婚もしていないし、する予定もないのに偉そうなことを語っているけど(笑)、僕は今、選手として本当に充実した、成長できる時期を迎えていると実感している。
だからそのことだけにフォーカスしていきたい。
そして、1人の選手として自分を高めていくことはもちろん、バレーボールの将来を考えて、子どもたちや若い人たちのためにできることを行って、残して、つないでいきたい。
■28歳、まだまだ伸びしろはある
もちろん、選手として抱く目標をつかみにいく。
日本の方々だけでなく、世界中の人たちの記憶に残る選手になることも僕の目標だ。
どれだけトライできるかはわからない。でも、今の身体の感覚としては、24歳、25歳ぐらいだと感じているので、まだまだ伸びしろはあると思っている。
先は長いし、自分がどんなパフォーマンスをして、どんな結果を残せるかということを、誰よりも自分自身が楽しみにしている。
イタリアでプレーするプロ選手としては、セリエAやチャンピオンズリーグで優勝してMVPを獲ること。
そして、日本代表選手としては、パリオリンピックで金メダルを獲ること。
それが今の僕にとって現時点の最大の目標、最大の頂だ。
日本代表に選出されてから、さまざまな国際大会に出るたびに、「メダル」を期待されていることを実感してきた。
だけど僕は、実際に狙える位置にいないときは、「メダルが獲れるようにがんばります」と言ったことはあっても、「獲ります」とは言えなかった。
でも今は違う。オリンピックでメダルを獲れる位置にいると実際に思っているので、そこにトライしたいし、それだけの覚悟がある。
2023年の東京でのオリンピック予選以上に、オリンピックの本番は何が起こるかわからない。
グループリーグの予選で負けることだってあるかもしれない。
何事もやってみなければわからない。
それでも僕は自信をもってこう言える。
メダルを獲るために、本気で挑みます、と。
だから、あとはやるだけだ。
覚悟をもって、すべてをぶつける。
必ず「できる」。
誰よりも信じている、自分を。
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バレーボール選手
1995年12月11日、愛知県岡崎市生まれ。姉の影響で小学校4年生の時にバレーボールを始める。高校時代は、エースとして活躍し史上初の2年連続高校三冠(インターハイ・国体・春高バレー)を達成。中央大学進学後から当時史上最年少で全日本代表入りを果たす。さらに、日本の大学生として初めて世界三大リーグであるイタリア・セリエAでプレーし、大学卒業後は、プロとしてイタリア・セリエAのクラブに所属。プロ3シーズン目には所属チームのミラノでカップ戦優勝を果たし、自身初のタイトル獲得を経験する。2023–2024シーズンは、プレーオフでミラノ史上最高順位となる3位を獲得。2024年5月、さらなる飛躍を目指し、世界的な強豪チームのペルージャへ移籍した。日本代表としては、2021年からキャプテンとしてチームを牽引。2023年のネーションズリーグでは国際大会46年ぶりとなるメダル獲得。同年のワールドカップ兼オリンピック予選では、グループ2位の成績を収め、16年ぶりに自力でパリオリンピック出場権を摑んだ。
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(バレーボール選手 石川 祐希)
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