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年収180万円の飲食業界ではもう働けない…タイで年収1億5000万円を稼ぐ「博多ラーメン屋店主」の大きな夢

プレジデントオンライン / 2024年8月20日 10時15分

ウインズジャパンホールディングスが今年7月にオープンした「幸ちゃんラーメン」のバンコク店 - 筆者撮影

福岡県を中心にとんこつラーメンを展開する「博多一幸舎」は7月、プロデュース店では初となる海外店舗をタイにオープンした。店長の内川智貴さんは月給15万円だった日本の飲食店を辞め、海外に飛び出したという。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんがバンコクに飛び、直撃した――。

■「もう海外で働くしかないと思って」

福岡出身の内川智貴は35歳。タイに来て6年目だ。4年前、バンコクに博多の料理を主とする居酒屋を出し、その後、焼肉、カラオケ、タイ料理、美容院と次々に新店をオープン。今では9店舗を経営している。年商約7億円、年収は1億5000万円だという。

最も新しい店が今年の7月にオープンしたとんこつラーメンを出す「幸ちゃんラーメン」のバンコク店。幸ちゃんラーメンは博多一幸舎グループがプロデュースするマイルドとんこつのチェーンである。

(7月10日記事〈なぜ福岡で「豚骨ラーメン離れ」が起きているのか…「ニオイがしないラーメン」を開発した博多一幸舎創業者の決断〉参照)

内川は福岡の高校を出た後、バンクーバーへ。ワーキングホリデーの制度を利用して現地の日本料理店で働いたら、1カ月で80万円の報酬をもらった。

内川は「びっくりですよ」と語った。

「日本に戻ってから飲食店に勤めたら、1カ月で15万円でした。それからはもう海外で働くしかないと思って、アメリカへ行ったり、中国で働いたり。お店の立ち上げばかりをやっていました」

タイにやってくる前はボストンにいた。知人から頼まれラーメン店をオープンさせたのである。タイに来たのは、他人の店ではなく自分の店を持とうと思ったからだ。

焼肉、カラオケ、美容院経営などで年商約7億円を売り上げる内川さん。東京よりも距離が近い福岡を訪れるタイ人が多いことから、バンコクでは博多料理店が増えているという
筆者撮影
焼肉、カラオケ、美容院経営などで年商約7億円を売り上げる内川さん。東京よりも距離が近い福岡を訪れるタイ人が多いことから、バンコクでは博多料理店が増えているという - 筆者撮影

■なぜタイで日本料理が増えているのか

「タイでは日本食のレストラン、特に居酒屋、ラーメンがブームだと聞いたからです。それで店を開いたのですが、すぐにコロナ禍になってしまい、大変でした。今はコロナを乗り越えたところです。タイではまた新店が数多くできています。

幸ちゃんラーメンは開店して1カ月ちょっとですけれど、今のところはお客さんに支持されてます。なんといってもタイには日本人がたくさん住んでます。まずその人たちがやってくる。それから日本食が好きなタイ人、そして、日本人観光客が主なお客さんです。あとは、この勢いをどうやって継続させていくかですね」

外務省の調べによれば2023年10月時点で、タイに暮らす日本人の数は7万2308人。ただし、現地の大使館に在留届を出していない人間もいるから実数ではおよそ10万人とも言われている。また、タイへ行く日本人渡航者の数は2023年が80万人だった。

そして、日本食が好きなタイ人の数は上記よりさらに多いと推測できる。なぜなら、日本に来るタイ人観光客は2023年で約100万人。今年はさらに増える見込みだ。多くのタイ人は日本各地を旅行して、さまざまな日本料理を食べている。タイで日本料理店が続々オープンしているのは日本へ行ったことのあるタイ人の数が増え続けているからだ。

■「ハリガネ」を注文する通? の人も

内川はこう言っていた。

「うちの店(幸ちゃんラーメン)では日本と同じように麺の茹で方を4段階でオーダーできます。『やわ、普通、カタ、バリカタ』の4段階です。『普通』で頼むタイ人が多いのですけれど、なかには『ハリガネ』とか『コナオトシ(粉落とし)』とオーダーする若いタイ人もいるんです。ハリガネとか言うのは『オレは福岡に行って、本場のとんこつラーメンを食べたことがあるんだぞ』というアピールでしょう」

タイにおける日本料理店の増加は数字にもあらわれている。

タイ国内で日本料理を提供する店の数は5751店。前年度(2022年)から8.0%の増加だ。日本料理のジャンルは懐石料理から寿司、うなぎ、てんぷら、居酒屋、ラーメンなどほぼすべての料理店がある。そのなかで、特に増えているのがラーメン、すき焼きしゃぶしゃぶ、居酒屋、焼肉の専門店だ。(Jetro「2023年度 タイ国日本食レストラン調査・店舗数調査」)

数が増えているから各店舗の競争は激しくなっている。それでも内川は幸ちゃんラーメンを開いた。それは日本で同チェーンを展開している博多一幸舎グループの社長、吉村幸助をよく知っていたこと、そして、彼自身が、おいしいとんこつラーメンを毎日のように食べたいと思ったからだ。

バンコク店の「豚骨ラーメン(190バーツ)」。福岡ではおなじみの青ねぎときくらげはトッピングで追加できる。円換算で一杯855円と日本よりも少し高い価格設定になっている
筆者撮影
バンコク店の「豚骨ラーメン(190バーツ)」。福岡ではおなじみの青ねぎときくらげはトッピングで追加できる。円換算で一杯855円と日本よりも少し高い価格設定になっている - 筆者撮影

■とんこつ離れの日本と違ってタイでは人気

「吉村さんは中学校(福岡市立柏原中学校)の先輩で、福岡に帰ったら時々、会っていたんです。吉村さんから『バンコクで店を出さないか』と言われたので、やることにしました。それと、僕自身、とんこつラーメンが好きだからやりたいと。居酒屋も焼肉もカラオケも自分が好きだから始めたんです。ただし、美容院は違います。スタッフがやりたいというので、やることにしました。

今、バンコクには350店のラーメン店があるらしい。そのうちの4割くらいがとんこつラーメンじゃないかな。タイ人はとんこつラーメンが好きなんだと思います。たとえば、バンコクには味噌ラーメンの専門店ってないんですよ。ラーメン店のメニューのひとつに味噌ラーメンはあるけれど、専門店は聞いたことがない」

店内の様子。味だけでなく、内装も日本の店舗と大きく変わらない
筆者撮影
店内の様子。味だけでなく、内装も日本の店舗と大きく変わらない - 筆者撮影

日本料理のレストランが続々とオープンしている理由はもうひとつあると内川は言った。

「バンコクのような都市にはラオス、ミャンマーから出稼ぎに来ている人が多い。僕は9店舗やっていますが、各店舗にいる日本人はひとりだけであとはラオスとミャンマーの人たち、そしてタイ人です。

今、日本で、とんこつラーメンの店を出そうと思っても人は集まりません。ところが、タイでは人が集まります。実際、幸ちゃんラーメンのキッチンでラーメンやチャーハンを作ってるのは全員、ミャンマー人です。教えたら、すぐに調理ができますし、みんな熱心です」

■ラーメン、餃子、小チャーハンで2000円程度

わたしは幸ちゃんラーメンで食事した。

とんこつラーメン(190バーツ)、博多一口餃子(5個 90バーツ)、チャーハン小(130バーツ)を頼み、ラーメンのトッピングとして、青ねぎ、きくらげ(両方で60バーツ)を追加した。日本円にすると2115円(1バーツ=4.5円で計算)だった。

値段は日本と同じくらいだろう。青ねぎときくらげをトッピングしたのはタイ人が好きだというからだ。きくらげは中華料理でよく使われているから、なじみのある食材なのだろう。すべてを残さず食べた。ラーメンも餃子もチャーハンも日本の幸ちゃんラーメンと同じ味だった。

「幸ちゃんラーメン」のオープン前には吉村幸助社長を招き、料理のチェックを重ねたという
筆者撮影
「幸ちゃんラーメン」のオープン前には吉村幸助社長を招き、料理のチェックを重ねたという - 筆者撮影

内川は言った。

「本物志向です。日本とまったく同じにするため、開店前には福岡から吉村社長に来てもらいました。吉村社長が何度も試食して、『OK』と言った水準になってます。スープも毎日、店で炊いてますから福岡と同じ。麺は生の麺を打ってくれる製麺屋さんがバンコクにあるので、そこから仕入れています。スープも麺も日本と同じクオリティじゃないとこちらでは通用しません」

■一杯3000円でも本場の味なら売れる

ひとつ違いがあるとすればスープの温度だろう。日本のラーメン店ではどこでも熱々のスープが当たり前だ。だが、バンコク店のスープはテーブルに着いてすぐに飲める温度だった。ただし、ぬるいと感じるわけではない。

タイ人は熱々のスープが苦手だという。そこで、キッチンの人間が忖度して熱々にしていないのかもしれない。

内川は「タイの人たちが好きな味は辛いものと甘いもの」と言った。辛いもの好きということはわかるが、実は「甘いものに目がない」らしい。それも「極端に甘い」のが好きとのことだ。

「タイのケーキはバタークリームなんですけれど、それが死ぬほど甘い。日本人には無理です」(内川)

内川は「日本食を出すなら本物でなければダメ」とも言った。

「タイの人は何度も日本に行っています。もはや、『なんちゃって日本料理』じゃ満足しないんですよ。ラーメンを本場と同じにしているのはタイ人の要求水準が高いから。

ただ、値段は高くしていません。うちでは他のとんこつラーメン店よりも値段を抑えめにして、福岡と同じくらいにしています。けれど、バンコクのとんこつラーメンは一杯、1300円はしますよ。一杯2000円の店はざらにありますし、3000円という店もある。うちは安いほうだと思います。

タイ人がオーナーのとんこつラーメン店もたくさんありますけれど、やっぱり日本人の作るラーメンが人気ですね。本物でなければダメ。材料を福岡と同じにする努力が必要です」

店内のメニュー表。「替玉」もあった
筆者撮影
店内のメニュー表。「替玉」もあった - 筆者撮影

■いつかバンコクで「山笠」をやりたい

「僕は居酒屋もやってますから、月に一度は福岡に戻って、仕入れをして、専門の業者にバンコクまで送ってもらっています。たとえばイワシ明太とかブリの刺身はこちらでは手に入らない。タイで仕入れるのはイカ、カニ、エビといったもので、これはおいしいです。魚はハタの種類が多くて、刺身にしてもおいしくはない。そこで刺身にする魚は日本から輸入しているのですけれど、足りないものは直接、自分で福岡の市場へ行って買っています。

バンコクから福岡行きの直行便に乗ると8割はタイ人が乗っていて、残りが日本人。福岡は東京へ行くよりも飛行時間が短いから、タイの人はよく行くんですよ。それもあって、バンコクには博多風の日本料理が増えています。うどん居酒屋、もつ鍋、水炊き、豚バラの串焼きとなんでもある。タイの人はとにかく福岡の味が好きなんです」

タイには福岡出身者が多く、「福岡県人会」は最大勢力を誇る。博多祇園山笠がバンコクで実現するのも夢ではないかもしれない
筆者撮影
タイには福岡出身者が多く、「福岡県人会」は最大勢力を誇る。博多祇園山笠がバンコクで実現するのも夢ではないかもしれない - 筆者撮影

バンコクには福岡出身者も多いという。福岡県人会はバンコク最大の県人会で「200人以上はいます」(内川)。

内川はいつか福岡の祭りをやりたいとも思っている。

「山笠、やりたいですね。山笠は豪快な祭りだからタイの人も喜ぶんじゃないですか。いつか、ふんどし締めてバンコクの町を走ってみたい」

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野地 秩嘉(のじ・つねよし)
ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)、『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)、『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』(ダイヤモンド社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。旅の雑誌『ノジュール』(JTBパブリッシング)にて「ゴッホを巡る旅」を連載中。

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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉)

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