糖尿病のリスクが高くなるのはどっち…医師「朝ごはんは食べたほうが健康にいいのか」の最終結論【2024上半期BEST5】
プレジデントオンライン / 2024年8月14日 10時15分
※本稿は、大坂貴史『75歳の親に知ってほしい!筋トレと食事法』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■まとめてよりコツコツ運動したほうがよい理由
運動にしろなんにしろ、コツコツ続けることはとても根気のいる難しいことです。夏休みの宿題も最終日にまとめてやる人もいらっしゃったのではないでしょうか。運動に関しても毎日継続してすることが大切だという考え方があります。
実際、アメリカ糖尿病学会の運動療法のガイドライン(※1)で有酸素運動の項目には「少なくとも週3日以上、中強度(150分以上)か高強度(75分以上)の身体活動を連続して2日以上運動しない日をつくらないこと」となっています。ここではコツコツ運動について掘り下げていきます。
さて、こまめの運動のメリットはなんでしょうか。これはズバリ、血糖値です。運動することによってインスリンが効きやすくなり血糖値が下がるという効果は長続きせず、1、2日ほどでなくなってしまうため、血糖値を下げるための運動としてはまとめてやるよりもコツコツするほうがよさそうと言われています。
とくに食事との関係は重要で、糖尿病をもっている人を対象とした研究ではないですが、食前よりも食後の運動の方が血糖値を下げる効果は高かったとされています(※2)。そのため、糖尿病に限定しないWHOの身体活動に関するガイドライン(※3)ではこの「2日以上運動しない日をつくらないこと」という文言はありません。
しかし、長らくこまめに運動したほうがよいのではないかというイメージが残っていました。
それに対するひとつの答えとして報告されたのが、2022年に発表された研究です(※4)。この研究では35万978人のアメリカの成人に対して自己申告の中等度強度以上の運動の量と死亡率について1週間のうちどのようなパターンで実施されたのかも含めて検討されています。
具体的には週3回以上の運動と週2回以下の運動の2パターンに分けています。約10年間の観察の結果、運動トータルの量が変わらなければ、週3回以上の運動でも週2回以下の運動でもその効果(すべての原因による死亡率の低下、心血管病とがんによる死亡率の低下)には変わりがなかったのです。
つまり、同じ量の運動量であれば、毎日コツコツやろうが、集中してまとめて実施しようが効果が変わらない可能性があるという重要な結果です。
■「週3日以上は8000歩」で死亡率16.4%減
また、先述の研究はいわゆる中等度以上の運動の量の話ですが、もう少しライトな運動であるウォーキングについて、週末しかしなくてもメリットがあるのではないかという話があります。それは2023年に日本から発表された研究(※5)です。
アメリカの成人3101人について、週に8000歩以上を歩いた日数(0日、1~2日、3~7日)によってグループ化を行い、10年間における全ての原因による死亡率と心血管病による死亡率について評価しました。
その結果、8000歩以上歩いた日が1日も達成しなかった人に比べて、週に1〜2日でも8000歩以上を達成した日がある人で死亡リスクが14.9%低く、週3日以上で16.4%低かったということでした。
またこの8000歩という基準についてはその値を6000歩〜1万歩まで変えたとしても結果は変わらなかったということです。
普段は仕事で忙しい人、梅雨時などで雨が多くてなかなか外に行けない時、身体に少し負担がかかるような中等度以上の運動の場合は1週間分をまとめて実施しても普段と変わらない健康効果を得ることができますし、ウォーキングについては週1〜2日でも8000歩以上歩くことで大きく死亡リスクを減らすことができますので、コツコツしないと意味がない! ということはなさそうです。できる日があれば身体を動かしましょう。
■糖質制限の本当と嘘
糖質制限については多くの書籍が出版されています。そしてその多くの書籍において、糖質制限がダイエットによいと書かれています。それは事実でしょうか。
まず、糖質制限食のお話をする上で糖質制限とは何を指すのかについて確認しておきましょう。実際、「糖質制限」という言葉にはかなり幅があります。
論文では炭水化物の摂取量が総カロリーの何%なのかもしくは何グラムという記載がされていますが、研究によってそれぞれは異なります。
例えば炭水化物を総カロリーの50%以下に制限した研究で得られた結果と10%未満に制限した研究で得られた結果は、それぞれ別の解釈が必要です。つまり、実際糖質制限には明確な定義がなく、かなり幅広い概念なのです。
また、令和元年の国民健康栄養調査によると現在20歳以上の日本人における総カロリーに対する炭水化物の平均の割合は56.4%です(※6)。糖質制限食の研究において、糖質制限の効果を説明するために比較される対象の食事が高炭水化物食であることがあります。
その場合、「糖質制限食は○○というメリット/デメリットがある」というのは正確には、「高炭水化物食と比べて」という文言がつきます。
ということは今我々が食べている普段の食事との比較ではないのです。つまり、単純にいま食べている食事から、糖質制限食に変えたところで、その効果は得られるかはわかりません。
炭水化物といっても、ぶどう糖や果糖などの単糖類と呼ばれるものから、でんぷんなどの多糖類、こんにゃくや寒天に含まれるグルコマンナンやアガロースなどの食物繊維まであり、そのどれの話をしているのか、ということも重要です(※7)。
たとえば17件のコホート研究に含まれた3万8253人をまとめた報告(※8)では砂糖入り飲料の摂取量が多いほど糖尿病の発症率が高くなるとされている一方、11件のコホート研究に含まれた44万669人をまとめた研究(※9)では高炭水化物食と比べて、低炭水化物食は糖尿病の発症に差はないことが報告されています。
つまり、単糖、2糖類は糖尿病のリスクである一方、炭水化物全体で考えると糖尿病のリスクではないということです。ただ、このような複数の研究をまとめた報告では先述のように低炭水化物食・高炭水化物食の定義がそれぞれの研究でバラバラであることに注意が必要です。
■短時間で痩せたい人には低炭水化物食が他の食事よりも有利
さて、糖質制限食が痩せるのかどうかですが、まず根本的に、痩せるためには摂取エネルギーが消費エネルギーより少なくなる必要があります(※10)。現時点でこれを覆して痩せる方法を示した報告はありません。
ですので、糖質さえとらなければ他は何をどれだけ食べても太らないなどの言説がしばしば見られますが、残念ながら根拠のない言説となります。
逆に言えば、糖質制限をすることで摂取エネルギーが減り、消費エネルギーより少なくなれば体重は減るということになります。実際、多くの研究において糖質制限で体重減少が見られています。
例えば炭水化物を制限する食事の効果を検証するために複数の研究をまとめて分析された研究(※11)では炭水化物制限によって体重減少が見られています。しかし、バランスのとれた食事と比較した対照群と比べると、炭水化物制限との差はなく、どちらも体重減少の程度は同様でした。
また、肥満の成人811人にたんぱく質、脂質、炭水化物のエネルギーバランスを異なる4種類にランダムに振り分けて2年間の体重減少量を評価した研究(※12)では、結果、どのパターンの食事でも体重減少量は変わらず、食事のバランスより摂取エネルギー量を減らすことの重要性が大切であることが示されています。
ちなみに炭水化物に関しては総エネルギーの65%と35%の比較がされましたが、体重減少量は同様でした。
低炭水化物食は他の減量より短期間で結果が出やすい可能性が報告されています。63人の肥満成人を低炭水化物食もしくは従来の食事療法にランダムに振り分けて1年間追跡した研究(※13)では最初の6カ月間、普通の食事療法より大幅な体重減少をもたらしましたが、1年後にはその差がなくなっています。
逆に言えば、短時間で痩せたい人には低炭水化物食が他の食事よりも有利な可能性があります。
■低炭水化物食で大事なたんぱく質の種類
また、炭水化物を減らすということは説明がしやすいという点もメリットがあります。定食屋ではご飯の量を減らせばいいわけですし、外食でも麺類なら量を調整しやすいです。また、間食についても高カロリーなものは炭水化物が多いものが多く、その点も説明がしやすいです。
長期間、炭水化物が少ない食事をとることが健康によくないとされる研究もあります。45~64歳の成人1万5428人を食事の内容との関係について25年間観察した研究において、炭水化物の摂取量は多くても少なくてもよくないことが報告されています(※14)。
また、43万2179人をまとめて解析した結果でも低炭水化物消費(<40%)と高炭水化物消費(>70%)の両方が、適度な摂取(50~55%)よりも、死亡リスクが高いことが報告されています。
ただ、子羊、牛肉、豚肉、鶏肉などの動物性たんぱく質と脂肪を中心にした低炭水化物の食事パターンでは死亡率が高く、ナッツや野菜などの植物性由来のたんぱく質と脂肪を摂取する場合は死亡率が低い傾向にあり、低炭水化物食については炭水化物以外の食事の内容が重要であることが考えられています。
また、高コレステロール血症の人に低炭水化物食か低脂肪食を半年間続けた研究において、低脂肪食と比べて、低炭水化物食では便秘、頭痛、口臭、筋肉のけいれん、下痢、全身脱力感などが多かったということが報告されています(※15)。
体重を減らす場合は糖質制限食(低炭水化物食)のメリットとデメリットを理解してうまく使っていきましょう。
■朝食を抜いていると糖尿病のリスクが1.2倍高い
朝ごはん、しっかり食べていますか? 「朝ごはんを食べないと健康に悪い」ということは以前からよく聞いたことがあるかと思います。これについて具体的に解説していきます。
朝食を抜くことと健康との関係に関する質の高い研究は多く存在します。まず紹介するのは40〜75歳のアメリカ成人6550人の朝食抜きと心血管病及び全ての原因による死亡についての調査について2019年に発表されました(※16)。
このうち5.1%が全く朝食を摂取せず、10.9%がほとんど朝食を摂取せず、25.0%がときどき朝食を摂取し、59.0%が毎日朝食を摂取していました。
年齢、性別、人種/民族、社会経済的地位、食事とライフスタイルの要因、BMI、心臓血管の危険因子で調整した後、朝食を全く摂取しなかった参加者は毎日朝食を摂取する参加者と比べて心血管病による死亡率は1.87倍、全ての原因に死亡については1.19倍高かったことがわかりました。
また、朝食抜きと糖尿病の関係について評価した8件の研究から10万6935人をまとめて分析した研究では、朝食を抜いていると糖尿病のリスクが1.2倍高かったと報告されており(※17)、朝食抜きと肥満について評価した45件の観察研究をまとめて分析した報告(※18)では、1週間当たりの朝食摂取頻度が低い人は高い人と比べて1.48倍肥満の頻度が高かったとされています。
他にも朝食抜きの人には高血圧症の人が多いという報告(※19)もあります。ただ、それだけでなく、朝食を抜く人は喫煙者である可能性が高く、飲酒量が多く、甘いジュースを飲む量が多く、運動量が少なく、睡眠の質が低下しており、一般的な健康認識、活力、社会的機能、感情的役割、メンタルヘルス、及び総合的な健康状態などが悪いと言われています(※20)。
朝食を抜くのが悪いのか朝食を抜いていた生活をしている人の他の生活が悪いのかがはっきりしていないのです。
■「ダイエットのために朝食をとる」は逆効果になる可能性
そして、朝食を食べるとダイエットになるかどうかについてはよくわかっていません。
肥満である23人の成人に「必ず朝食を食べる」もしくは「必ず食事を食べない」のどちらかのみを守ってもらい、他は自由に6週間生活をして体重の変化などを評価して研究(※21)では、朝食を食べた人と食べていない人で体重の変化量に違いはなく、どちらも増加していました。
また同様に肥満成人309人に対して、「一般的な食事指導」「毎日10時に朝ごはんを食べる」「毎日11時までは食事をとらない」の3つの方法を16週間過ごしていただき体重の変化を見た研究では、3つの方法で体重の変化量の違いはなかったと報告されています(※22)。
そしてこれらを含めた13の研究をまとめた報告(※23)では朝食を食べた人のほうが1日のエネルギー摂取量が多く、朝食を抜いた人の方がむしろわずかに体重が減ったとされています。これらのことから、「ダイエットのために朝食をとりましょう」というのは妥当とは言えず、逆効果になる可能性すらあると考えられます。
朝ごはんが大切な点としては、朝食を食べずにいることでたんぱく質が1食欠けてしまうデメリットがあり、筋肉にとって朝ごはんは重要である可能性があります。
また、血糖値という点において朝ごはんを抜くことで昼食後の血糖値が上がり(※24)、2型糖尿病の人の血糖変動が大きくなる可能性が指摘されています(※25)。糖尿病の人にとって、朝ごはんはより重要そうです。
朝食を食べている人は健康に繋がる可能性は高いです。ただ、それは朝食を食べるか食べないかの純粋な問題ではなさそうで、他の生活環境などの影響があるかもしれません。
その上で朝食を食べていない人が食べることは、筋肉や血糖値によい影響を与える可能性がありますが、単純に朝ごはんだけ増やせば肥満に繋がりますし、朝ごはんの習慣だけ変えても健康には繋がらないかもしれません。朝食がどのように健康につながるかはこれからの研究に期待されます。
※1 ElSayed NA, et al. 5. Facilitating Positive Health Behaviors and Well-being to Improve Health Outcomes: Standards of Care in Diabetes-2023. Diabetes Care. 2023 Jan 1;46(Supple 1):S68-S96.
※2 Solomon TPJ, et al. Immediate post-breakfast physical activity improves interstitial postprandial glycemia: a comparison of different activity-meal timings. Pflugers Arch. 2020 Feb;472(2):271-280.
※3 WHO 身体活動・座位行動ガイドライン
※4 Dos Santos M, et al. Association of the “Weekend Warrior” and Other Leisure-time Physical Activity Patterns With All-Cause and Cause-Specific Mortality: A Nationwide Cohort Study. JAMA Intern Med. 2022 Aug 1;182(8):840-848.
※5 Inoue K, et al. Association of Daily Step Patterns With Mortality in US Adults. JAMA Netw Open. 2023 Mar 1;6(3):e235174.
※6 令和元年 国民健康栄養調査
※7 公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット 三大栄養素の炭水化物の働きと1 日の摂取量
※8 Imamura F, et al. Consumption of sugar sweetened beverages, artificially sweetened beverages, and fruit juice and incidence of type 2 diabetes: systematic review, meta-analysis, and estimation of population attributable fraction. BMJ. 2015 Jul 21;351:h3576.
※9 Hiroshi N, et al. Long-term Low-carbohydrate Diets and Type 2 Diabetes Risk: A Systematic Review and Meta-analysis of Observational Studies. Journal of General and Family Medicine. 2016 17;1 60-70
※10 日本肥満学会 肥満症診療ガイドライン 2022
※11 Naude CE, et al. Low carbohydrate versus isoenergetic balanced diets for reducing weight and cardiovascular risk: a systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2014 Jul 9;9(7):e100652.
※12 Sacks FM, et al. Comparison of weight-loss diets with different compositions of fat, protein, and carbohydrates. N Engl J Med. 2009 Feb 26;360(9):859-73.
※13 Foster GD, et al. A randomized trial of a low-carbohydrate diet for obesity. N Engl J Med. 2003 May 22;348(21):2082-90.
※14 Seidelmann SB, et al. Dietary carbohydrate intake and mortality: a prospective cohort study and meta-analysis. Lancet Public Health. 2018 Sep;3(9):e419-e428.
※15 Yancy WS Jr, et al. A low-carbohydrate, ketogenic diet versus a low-fat diet to treat obesity and hyperlipidemia: a randomized, controlled trial. Ann Intern Med. 2004 May 18;140(10):769-77.
※16 Rong S, et al. Association of Skipping Breakfast With Cardiovascular and All-Cause Mortality. J Am Coll Cardiol. 2019 Apr 30;73(16):2025-2032.
※17 Bi H, et al. Breakfast skipping and the risk of type 2 diabetes: a meta-analysis of observational studies. Public Health Nutr. 2015 Nov;18(16):3013-9.
※18 Ma X, et al. Skipping breakfast is associated with overweight and obesity: A systematic review and meta-analysis. Obes Res Clin Pract. 2020 Jan-Feb;14(1):1-8.
※19 Li Z, et al. Skipping Breakfast Is Associated with Hypertension in Adults: A Meta-Analysis. Int J Hypertens. 2022 Mar 3;2022:7245223.
※20 Wicherski J, et al. Association between Breakfast Skipping and Body Weight-A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Longitudinal Studies. Nutrients. 2021 Jan 19;13(1):272.
※21 Chowdhury EA, et al. The causal role of breakfast in energy balance and health: a randomized controlled trial in obese adults. Am J Clin Nutr. 2016 Mar;103(3):747-56.
※22 Dhurandhar EJ, et al. The effectiveness of breakfast recommendations on weight loss: a randomized controlled trial. Am J Clin Nutr. 2014 Aug;100(2):507-13.
※23 Sievert K, et al. Effect of breakfast on weight and energy intake: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ. 2019 Jan 30;364:l42.
※24 Ogata H, et al. Association between breakfast skipping and postprandial hyperglycaemia after lunch in healthy young individuals. Br J Nutr. 2019 Aug 28;122(4):431-440.
※25 Hashimoto Y, Osaka T, et al. Skipping breakfast is associated with glycemic variability in patients with type 2 diabetes. Nutrition. 2020 Mar;71:110639.
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医師
京都府立医科大学卒業後、京都南病院で初期臨床研修を経て京都第二赤十字病院に就職。その後、京都府立医科大学大学院博士課程で医学博士を取得し、現在は綾部市立病院_内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌糖尿病代謝内科学講座客員講師。糖尿病専門医・指導医、総合内科専門医、日本医師会認定健康スポーツ医。市中病院で糖尿病をもつ患者さんを診察しながら、大学で糖尿病に対する研究を行っている。糖尿病と筋肉、糖尿病運動療法が専門。幸せになる運動の開発が現在の研究テーマ。趣味は料理とワイン。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、SAKE DIPLOMA。居合道・弓道・合気道有段者。YouTube、Xで医療情報を発信している。YouTubeの掛け声は「健康はぁ〜筋肉ぅ〜」
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(医師 大坂 貴史)
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