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10代金メダリストや大谷翔平の活躍は偶然ではない…日本で"異次元の才能"を持つ若者が増えているワケ

プレジデントオンライン / 2024年8月12日 11時15分

パリ五輪・スケートボード女子ストリート/金メダルの吉沢恋、銀メダルの 赤間凜音 - 写真=時事通信フォト

■スケートボードは日本の新たな“お家芸”に

今から32年前の1992年。バルセロナ五輪競泳女子200メートル平泳ぎで優勝した岩崎恭子は、14歳6日で日本史上最年少の五輪金メダリストとなった。中学2年で世界の頂点に立ったニューヒロインが、直後のインタビューで発した「今まで生きてきた中で、一番幸せです」の名言は、この年の流行語大賞にも選ばれるなど、社会現象を巻き起こした。

当時、ジュニアアスリートが五輪で活躍する姿は珍しかったが、今では当たり前の光景となっている。中でも、スケートボード勢の躍進が著しい。

2021年東京五輪から追加種目として採用され、13歳330日の西矢椛(もみじ)が女子ストリートで金メダルを獲得し、岩崎の記録を更新。また、12歳11カ月で日本最年少五輪メダリストになった開(ひらき)心那(ここな)は、15歳で臨んだ今回のパリ五輪女子パークで2大会連続の銀に輝き、再び表彰台に立った。

■小学生でも五輪を狙える環境が整っている

西矢が代表落選した女子ストリートでは新生が現れた。14歳の吉沢恋(ここ)が金、15歳の赤間凜音(りず)が銀とワンツー・フィニッシュの快挙を成し遂げた。経験がものをいうスポーツは数多くあるが、スケートボードは、体格や身長差、筋力がアドバンテージになるとはいえず、むしろ低年齢特有の小柄さと柔軟性が技術向上に直結することが多い。出場選手の年齢下限もないため、小学生でも五輪を狙える環境が整っている。

吉沢は、西矢が東京五輪で見せた大技「ビッグスピン・フロントサイド・ボードスライド」を、当時小5にして習得しており、テレビ観戦しながら「私にもできるんじゃないか」と思い立ったという。

それまでスケートボードが五輪競技に採用されたことすらも知らず、あくまで習い事の域を出なかったが、自分の現在地を知るために大会へと出場。パリ五輪では、その大技をさらに進化させた「ビッグスピンフリップ・ボードスライド」を成功させ、西矢に続く日本勢2連覇を達成した。西矢の「13歳、真夏の大冒険」に続く「金メダルに恋した14歳」の名実況は、日本五輪史に深く刻み込まれていくだろう。

■昔は録画したビデオでチェックしていたが…

吉沢は、中学まで親がスマホを持たせない教育方針で育ったため、テレビから情報を得たが、スケートボードのほかスポーツクライミング男子ボルダー&リードで銀メダルを掴んだ安楽宙斗(17)など10代選手の躍進と、動画技術の発達は無関係ではないだろう。

小学生からスマホを持つ選手も多く、タブレット型端末などで動画を撮影後に共有してもらえば、即座に自身のフォームを確認できる。平成初期に活躍した元プロ野球選手は「今の環境がうらやましいです」と正直に話す。

「僕らが現役の頃は動画技術も発達しておらず、自分の感覚を信じてやるしかありませんでした。試合でのフォームなども、帰宅後に録画していたビデオを見ながらチェックしていましたが、今ではほぼリアルタイムで確認しながら、微調整することができます。小さい頃からそんな環境で育っていれば、僕ももう少しいい結果が出ていたでしょうね(笑)」

2010年代からは投球や打球の詳細なデータが取得できる最新精密機器「ラプソード」や「トラックマン」が野球、ソフトボール、ゴルフ界で広く普及すると、個々の技術は飛躍的に進歩した。

写真=iStock.com/Chimperil59
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chimperil59

■高校球児の球速も“異次元”に突入している

ゴルフの松山英樹も2014年の米ツアー本格参戦後に導入し、ラウンド直前の練習でデータをチェックすることで、その日の気候や状態などによって変わるボールの初速や飛距離、スピン量などを把握。2021年にアジア勢初のマスターズ制覇、そしてパリ五輪では日本男子ゴルフ初の銅メダル獲得につなげた。

野球においては、投手の球速アップに多大なる貢献を果たしたといっても過言ではない。以前であれば、一流投手の基準として140キロが一つの目安とされたが、今では、中学生が計測することも少なくない。大谷翔平投手(ロサンゼルス・ドジャース)は花巻東(岩手)時代、高校生史上初の160キロに到達。佐々木朗希投手(千葉ロッテマリーンズ)は大船渡(岩手)時代に163キロを叩き出すなど、考えられない次元へと突入した。

ラプソードやトラックマンの導入は、投球の計測において、球速はもちろん、ボールの回転数や回転軸、変化量などの詳細なものまで、幅広いデータをリアルタイムで習得することを可能とした。感覚と実際のフォームのギャップを知ることができる上、それまでは球の「伸び」や「切れ」といった漠然としたものが、「ホップ成分」や「変化量」として数値化され、自身の目指すべき目標が明確になったことが、数々の好投手を生んだ一因となっている。

■「昭和型指導」では子どもの可能性を潰してしまう

アマチュア選手が高額なラプソードを自費で購入することは難しいが、今は気軽に動画が視聴できる時代。YouTubeでは名選手の動きを繰り返し確認することができ、有料でもおかしくないレッスン動画が無料で配信されている。チームの指導者の教えに偏ることなく、多くの技術を目にすることができるようになった。ある中学野球の指導者はいう。

「昔は自分の指導が絶対というところがありました。でも最近では、例えばチーム内で上から叩くという打撃方針であれば、個人では下からすくい上げることも学びます。両方できたほうが、上のステージに進んだ時にケースバイケースで柔軟に対応できるからです。左で打ってみたい、投手をやりたいなど、子どもたちの意見を聞いた上で、とりあえずやらせてみるなど、可能性を潰さない指導を心がけています」

かつては、一人の指導者が定めた方針に従うことが当たり前とされた。「バテる」などの理由から水を飲ませずに千本ノックを行うなど、非科学的な練習法は日常茶飯事。大学まで野球を続けた筆者は、裸足でグラウンドを走らされ、足の裏が血だらけになったこともある。

ただ、動画で“もう一人の指導者”に出会える機会が増えた現代において、指導のあり方も変化してきた。精神論や根性論はもはや過去の遺物となり、指導者もまた、日々更新を繰り返す動画以上のアップデートが求められている。

■金メダル20個だったパリ五輪を超えるか

多くの選択肢を可能にする動画から得られるメリットは計り知れないが、デメリットもある。ある学童チームでは、大谷の打撃スタイルに影響されて、構えから左脇を大きく空けてアッパースイングをする子どもたちが多くいるという。同チームの監督が困り顔で打ち明ける。

「あの打撃フォームは、大谷選手のように体が大きく、力があって初めてできるのであって、野球を始めたばかりの子どもたちができるものではありません。ただ、保護者の意向もあって、頭ごなしに否定することもできず……。変な癖がつく前に直したいのですが、なかなか難しいという現状もあります」

押しつけない指導が求められる中で、その選手にとって合わない技術であれば、しっかりとコミュニケーションをとりながら指摘、修正できることが、令和の指導者の役割といえる。

世界中が熱狂したパリ五輪は11日に閉幕した。日本が獲得したメダルは金20、銀12、銅13。次回2028年ロサンゼルス五輪では、野球、ソフトボール競技の復活が決まっている。スターや金メダリストに触発された若き世代が4年後、どういったパフォーマンスを見せてくれるのか。楽しみはつきない。

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内田 勝治(うちだ・かつはる)
スポーツライター
1979年9月10日、福岡県生まれ。東筑高校で96年夏の甲子園出場。立教大学では00年秋の東京六大学野球リーグ打撃ランク3位。スポーツニッポン新聞社ではプロ野球担当記者(横浜、西武など)や整理記者を務めたのち独立。株式会社ウィンヒットを設立し、執筆業やスポーツビジネス全般を行う。

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(スポーツライター 内田 勝治)

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