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「熱心に支持する専門家がいる人は危ない」医師・和田秀樹が警鐘「思考停止バカ」になる人の危険な兆候

プレジデントオンライン / 2024年8月17日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/starfotograf

中高年になっても、頭を良くするにはどうすればいいか。医師の和田秀樹さんは「ものごとについての判断基準が、その説の妥当性ではなく『誰が言っているのか』という人的要素に置かれる考え方を『属人思考』というが、これはじつに危険な態度だ。自分が好意的に捉えるある特定の人物、ある特定の説ばかりを深掘りして勉強したつもりになっても、多くの場合その説をなぞっているだけで思考していないから、決して賢くならない。『60歳からは勉強するとバカになる』という現象のあらましはここにある」という――。

※本稿は、和田秀樹『60歳からは勉強するのをやめなさい』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

■「勉強するとバカになる」の真意

知識依存症候群や知識の奴隷状態の弊害として、「勉強するとバカになる」という現象があります。

これは、ひたすら知識のインプットばかりにとらわれているせいで、それが正しい知識と思っているために考えることをしないし、本人の感覚として、「やってもやっても覚えられない」という状態に陥っていくものです。

記憶力が落ちてきたのではないかと不安に駆られると、より焦って勉強をする人がいます。

たしかに中高年になれば、誰もが記憶力の低下を痛感する場面が増えていきます。

こんなとき、「昔に比べて覚えが悪くなった」「のどまで出かかっているのに、その言葉が出てこない」とため息をつくのですが、本当に脳の記憶機能が減退するのでしょうか。

じつは最近の脳科学の世界では、中高年になったからと言って記憶力が悪くなるのではなく、記憶したことは脳に残っていますが、それを記憶として呼び出す想起のはたらきが悪くなるという説が、かなり有力視されています。

たとえばこんな場面を想像してみてください。

かつて旅行したハワイを30年ぶりで訪れた人が、レンタカーでドライブしているとき、ヨットハーバー近くの老舗レストランの前を通りかかる。

目的があってそこに向かっていたわけではありませんが、変わらぬ店のたたずまいを見た瞬間、「あ、30年前、ここでランチを食べた。ビールを飲みすぎて帰りは運転を代わってもらったんだ」と思い出す。

こうして、30年間まったく思い返すこともなかった記憶が生き生きとよみがえる――こういうことはみなさんも経験したことがあるでしょう。

■中高年以降に低下を指摘される「想起」

つまり、これは過去に記憶したことは、脳から失われていないということを示しています。

ところが、再訪という機会にその景色を見なければ、おそらくこの先も、30年の間にインプットしたほかの情報に埋没して、しまい込まれたままだったはずです。

こういうことは、何も大人だけに起こるというわけではありません。大人より記憶力がいいのではないかと思わせる子どもの場合は、それを思い出すことさえできないことがあります。

「あいつが小さいとき、連れて行ってやった戦隊ショーで迷子になって大騒ぎしたのに、何にも覚えていないんだからな」

ある日ふとお父さんがぼやき始めるのですが、お父さん自身にしたところで、何も戦隊ショーの日からこの日まで、ずっとそのことを思い起こしていたわけではありません。これもよくあるパターンです。

記憶の機能は、情報を頭にインプットする「記銘」、インプットした情報を長期間、頭に貯蔵する「保持」、貯蔵した情報を頭からアウトプットする「想起」の3段階で構成されます。

中高年以降でも記銘、保持には大きな問題は生じませんが、低下が指摘されるのが想起です。

放っておけば「頭が悪くなった」と嘆き続けることになりますが、想起力を維持するためには、アウトプットを繰り返しながら記憶を定着させるのが有効な方法です。

青い背景に並ぶ白い紙飛行機と一番高い位置の赤い紙飛行機
写真=iStock.com/bo feng
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bo feng

■60歳からは「だって覚えられないんだから」と開き直る

さて、知識のインプットにばかり励んで、自分の頭で考えたり、アウトプットをおろそかにしている知識依存症候群の場合はどうでしょうか。

もともと記銘する情報量が多すぎる、言い換えると脳への上書きが過剰であるということに加え、思考やアウトプットの習慣がないわけですから、これでは知識をどんどん詰め込んだところで、使える状態で脳に定着させることはできません。

そして、知識が上書きされるほど想起はかえって悪くなるのです。

つまり記憶の出力経路(アウトプット経路)をしっかり意識してつくらなければ、知識注入型の勉強を重ねても、かえって記憶力まで悪くなっていくのです。

60歳からは、多量な情報のインプットは「だって覚えられないんだから」と開き直るくらいでちょうど良い。

むしろ、ラクして楽しくアウトプットすることに注力したほうが、前頭葉も刺激され、記憶も定着するのです。

■自分で考える習慣を奪う属人思考の罠

ここでみなさんに少しチェックテストをしてもらいましょう。いくつあてはまるでしょうか。

□経済でも政治でも歴史でも医学でも何でもいいが、誰か熱心に支持する専門家や評論家がいる
□本を読むとしたら、支持している人のものばかりを読む
□討論番組などで特定の人の意見に、つねに同意する
□支持する人の意見には間違いがないと確信している
□支持している人に批判的な対立説のほうが妥当性が高い場合でも、抵抗なく認めることはできない
□あなたの好まない人物がどのような説を唱えようが、興味がない

※YESが多い人は、属人思考傾向が強いかもしれません。

本書で、大学教育の体たらくを取り上げた際には、知識を疑うこともせず、自ら探究しようともしない「考え不精」の人について触れました。

こうした傾向のある人にとっては、自分の考えに一致していて納得しやすい説は、じつに心地よく響くものです。

また、そうしたお気に入りの説を毎度提供してくれる学者や評論家については、

「“この人”は間違ったことは言わない」「“この人”の言うことは正しい。それはいつでもだ」「“この人”の言うことは、あの有名人たちもずっと支持しているから疑う必要はない」といった具合に、ある種、奇妙な信仰をもつようになっていきます。

こうしたものごとについての判断基準が、その説の妥当性ではなく、「誰が言っているのか」という人的要素に置かれる考え方を「属人思考」と言います。

これはじつに危険な態度です。当たり前のことですが、ある人が言うことがつねに正しいということはあり得ません。あるときは至極まっとうな意見を言っていた人でも、別のテーマでは、見当はずれな意見に終始し論点がずれているということは、いくらでもあります。

■その人の説が唯一の答えになってしまう

加えて、知識や常識、定説は固定されたものではなく時代とともに動くという当たり前のことがわかっていれば、「どのような説であっても、いまのところそうかもしれないということだ」、つまり「“かも”の話は“かも”である」と冷静に判断できるはずです。

しかし、属人思考にはまってしまった場合には、残念なことにその人の説が唯一の答えであると確信してしまいます。そして、与えられた答えに従っていればいいわけですから、自らの思考活動は停止します。

また、たとえ異論反論が寄せられても、これに耳を傾けることができません。それを受け入れることは、信仰心を自ら裏切ることになるからです。

ターゲットとなる顧客のイメージ
写真=iStock.com/Jirsak
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jirsak

自分にとって好ましくない意見はノイズとなり、異論を唱える人を攻撃・差別・排除したりするということも起きます。

世の中に遍在するさまざまな説や考え方に触れることは、いい刺激にもなりますし、思考を深めるきっかけになります。

しかし、自分が好意的に捉えるある特定の人物、ある特定の説ばかりを深掘りして勉強したつもりになっても、多くの場合、その説をなぞっているだけで思考しませんから、決して賢くはならないのです。

これが、「勉強するとバカになる」という現象のあらましです。

■属人的な思考に陥りがちな理由

日本の場合、ある学者がノーベル賞を取ると、教育の経験や実績がなくても、その人の教育論や、ほかの社会批判まで何でも正しいと受け取ることがあります。そういう学者が教育関係の審議会のトップに就くことは珍しくありません。

和田秀樹『60歳からは勉強するのをやめなさい』(SBクリエイティブ)
和田秀樹『60歳からは勉強するのをやめなさい』(SBクリエイティブ)

これは欧米では考えられないことですが、それに対する批判の声もまず上がりません。

スポーツの世界では、野球がいくらすごくてもサッカーの監督になることはあり得ないでしょう。

そんなことをすると負けると考えられているからでしょうが、教育だって現場をまったく知らない不向きな人がトップになると、外国に負ける危険性は小さくありません。

スポーツでは冷静に考えられるのに、知的なものに関しては、属人的な思考になってしまう人がいかに多いかを表しているとわたしは考えます。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

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(精神科医 和田 秀樹)

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