だから伊能忠敬は20歳下の天文学者を師匠として仰いだ…一流にグッと近づく「マイ師匠」の見つけ方
プレジデントオンライン / 2024年8月21日 7時15分
※本稿は、和田秀樹『60歳からは勉強するのをやめなさい』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■特技は「知識・経験のリソース」である
自分のリソースを最大限に活用─らくらく学習のコツ①
本書が唱える「らくらく学習」では、「これまでの人生で自分が蓄積してきた知識・経験などのリソースを最大限に生かす」ことを重視しています。
こう言われたとき、みなさんはどんなものを自分のリソースと考えるでしょうか?
真っ先に浮かぶのは、「知識・経験のリソース」。現役時代の職業・職種に関連する事柄、職業人としての経験でしょう。
本書の序章でも、定年後に現役時代の経験を生かすために、大学で臨床心理学を学ぶ学生を取り上げました。また、人事・労務関係の部署ではたらいていた人が、難関の社会保険労務士を目指すなどの例があります。
このように現役時代の職業的リソースを生かすと言うと、資格取得的なものを想像する方も多いと思いますが、それだけではありません。
たとえばJICA(国際協力機構)を通じて、海外派遣されるシニア海外ボランティアなども、個人リソースを最大限活用したものです。
経験のリソースということで言えば、特技も相当します。
たとえば子ども時代、絵を描くのが好きで、コンクールにもたびたび入賞するような腕前だったのに、長いこと絵筆には触れていなかったという人も、再開してみたら新たな楽しみを発見できるかもしれません。
■定年後のプランは、自分の好き・得意に従うのが大前提
まだまだあります。
学生時代の専攻分野をリソースとして活用する。以前やりかけて中断してしまったものに再挑戦する。自分自身が受けた治療・リハビリテーションの経験をベースにして活動する。
こうしたものも知識・経験のリソースと言えるでしょう。
ふたつめのリソースは「道具としての能力リソース」です。これは、英語などをはじめとする語学力や、PCスキル、文章力など、目的のことを行うための道具として使える能力を言います。
みっつめは「人脈のリソース」です。男性の場合、定年とともにそれまで築いてきた職業関係の人脈がぷっつりと絶たれてしまうことがあります。それは仕事という利害関係によって結ばれていた関係だから、致し方がないと言えばそれまでです。
しかし、人生100年時代を生きるには、人脈は重要なリソースです。仕事の利害関係から解放されたのですから、もっと自由に人とつながり、輪を広げることを楽しみながら、上手にやっていきたいものです。
もうひとつ、「環境的リソース」を入れておきましょう。
やろうとする取り組みがあっても、地域に続けやすい環境がある程度整っていなければ困難な場合もありますので、確認しておくといいでしょう。
こうした各リソースの状況を洗い出し、ここに「これからどんな人生にしたいのか」「時間や予算はどれくらい使えるのか」「体力や健康状態はどうか」など、加味して考えていくとよいでしょう。
こうした検討は不可欠ですが、定年後どう生きるかの方向性を見定めるには、何よりも自分の好き・得意に従うのが大前提ということをお忘れなく。
■自分にとっての師匠を見つける
師匠をもつ――らくらく学習のコツ②
本書の序章で取り上げた伊能忠敬。わたしが彼の生き方のなかで強い感銘を受けるのは、自分より20も年の離れた若い天文学者を師匠としたところです。
みなさんならどうでしょうか。これから先、師匠を探す努力ができますか? 自分よりどんなに年が離れていようが、その才能と業績を認め師と仰ぐことはできますか?
「ちょっと難しいな」という声も聞こえてきそうですが、わたしはぜひ、みなさんに師匠をもってほしいと思うのです。
わたし自身、老年精神医学の分野でも精神分析の分野でもいい師匠に出会えたことで一流になれたと自負しています。精神分析の師匠はアメリカの一流の学者ですが、コロナ禍で中断していますが、長い間3カ月に一度、教えを乞いにロサンゼルスに通っていました。
これは自分が志す道について、わかりやすくガイドしてくれる人がいると、格段に進歩します。
そして師匠のもとで精進を積み習得したことが、やがて自分の一部となるとき、それは確実に自信につながります。
ここで言う師匠は、直接会って教えを乞うという関係だけに限りません。
直接会うことがかなわない場合でも、自分で「この人を師匠としよう」と決めてしまってもいいのです。著作を読んで感想を送ったり、講演会に足を運んだり、あるいはいまの時代でしたらSNSでコンタクトを取ることも可能です。
■相手の肩書や地位などで良し悪しを決めない
いずれの場合でも、「基礎的なこと、根本的なことを丁寧にわかりやすく説いてくれる人であること」「どんな意見にも耳を傾けてくれ、こちらがたとえ稚拙な意見を述べてもバカにせずに、一緒に考えてくれる人であること」「独自の視点をもっている人であること」「世間一般の常識・定説に拘泥しない人であること」を基準に探すといいでしょう。
その際に、単に相手の肩書や地位などで良し悪しを決めないことも重要です。
たとえ高名な学者であっても、一流とされる大学の教授や名誉教授であっても、見識張っているだけの質の悪い人はいくらでもいます。
また、師匠と言うと、どうしても年上のイメージがありますが、みなさんの年齢からして上の世代は、知識や考え方がすでに古びたまま、何年もバージョンアップされていないような人もいます。
ですから、有名な人で自分より年上ということにこだわらないほうが、むしろいいのです。思いきって、伊能忠敬のように自分よりずっと若い世代に師匠を求めるのも素晴らしいことです。
いままでなかなか味わうことのなかった、新しい知見に触れたいと思うなら、若い師匠を探す努力をしてみてもいいのではないでしょうか。誰を自分の師匠にするかということは、こちら側の選択眼が試される場面でもあるのです。
■人生で「目標にできる人」の存在効果は絶大である
ロールモデルを意識する――らくらく学習のコツ③
人生の充実度を上げ、楽しく生き抜くために必要なものなのに、ほとんどの人が見落としているものがあります。それが「ロールモデルの設定」です。
みなさんは、これまでの人生で自分にとってのロールモデルを意識したことはありますか?
ロールモデルとは、ある役割を担う見本や模範となる人を指します。わたしたちが人生を歩むにあたっては、こうした目標にできる人の存在効果は絶大です。
たとえば、中学生にとってのロールモデルの例ですが、参考になるので少しお話ししましょう。
わたしは、「エンジン01文化戦略会議」という団体に所属しています。これは、いま日本の各分野で活躍する表現者・思考者などが結集し、新しい文化風土を醸成するために、全国各地でさまざまな活動を展開することを目的としています。
現在は私が幹事長を、副幹事長には作家の林真理子さんや井沢元彦さんらが務めています。
このエンジン01では毎年1回、地方都市でオープンカレッジという大きなイベントを開催します。
ある年、鳥取県で開催されたオープンカレッジで、わたしは大会委員長を務めたのですが、当時、エンジン01のメンバー200人以上のなかに、鳥取県出身者はいませんでした。
しかし、鳥取県について調べてみれば、水木しげる先生をはじめ青山剛昌(あおやまごうしょう)先生など、著名な漫画家を輩出している県ではあるのです。
■ロールモデルの存在が人生を楽しく幸せなものへ導く
もちろん人口が少ない県ですから、メンバーになる人が少ないということはあるでしょう。
しかし、「それにしてもメンバー0人とはどういうわけだろうか?」「もしかしたら、鳥取の子どもたちの身近なところに、将来像を描くためのロールモデルが少なかったからではないか」と感じました。
そこで企画したのが、「中高生のためのハローワーク」でした。メンバーの小説家、作詞家、脚本家、評論家などさまざまな分野の達人をそろえ、県内中学生を対象に、無料で将来の夢を実現するための講習会=ハローワークを開催したのです。
子どもたちは、「どうやったらそういう仕事ができるようになるのか」と、興味津々で質問を浴びせていました。
子どもたちが人生で初めてロールモデルと出会う瞬間――生き生きとした嬉しそうな表情から、人生において、いかにロールモデルというものが大切なのかということを痛感した出来事でした。
その後も、オープンカレッジを行うたびに、このイベントは引き継がれています。
わたしたち大人も、あの鳥取の子どもたちと同じです。ロールモデルはさまざまな人に夢を与え、方向性を与え、才能を引き出す存在です。
生きていくうえで大いに刺激を受け、歩む道の目標や憧れの対象となる人を見つけることは、自身の充実にも幸福にもつながるのです。
■「この分野には、どんな素敵な人がいるのだろうか」
わたしにとっての大切なロールモデルは、『「甘え」の構造』(弘文堂)で有名な精神分析家の土居健郎(どいたけお)先生です。
先生は、欧米で基礎が築かれた精神分析を日本人にそのまま適用するのではなく、日本人に最適な形にアレンジするということを試み続けた偉大な学者です。
先生が活躍されていた時代の日本の精神医学界は、フロイトの学説をそのまま受け売りしているような状態でした。
それに異議を唱えたのが土居先生です。ご高齢になってもなお、意欲的に研究に邁進された先生の姿は、わたしにインパクトを与え続けました。
わたしは幸いなことに、人生の折々で重要なロールモデルに出会うことができました。学生時代に出会った小室直樹先生からは、肩書に頼らず、自分の思考で勝負するという生き方を学びました。
そのような経験からも「この分野には、どんな素敵な人がいるのだろうか」、そんなことにワクワクしながら生きるのは、とても楽しいことだと確信しています。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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