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「高血圧の9割以上が降圧剤を飲まなくても脳卒中にならない」和田秀樹「数学的な発想が苦手な日本人の末路」

プレジデントオンライン / 2024年8月21日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/apomares

情報に振り回されず、自分の頭で思考できる人は何をしているか。医師の和田秀樹さんは「日本のマスメディアの流す情報を鵜呑みにする習慣が染みついてしまっている人は、『まずは疑ってみる』という視点が欠落している。何となくぼんやりとした思考をだらだらとするのではなく、ふだんから情報と数字的根拠を結びつけることを習慣化するといい」という――。

※本稿は、和田秀樹『60歳からは勉強するのをやめなさい』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

■マスメディアの流す情報は絶対的真実ではない

疑って観察する習慣をつける――思考の幅を広げるコツ①

わたしたちが日常のなかで、うっかり鵜呑みにしてしまいそうになる言説には、どのようなものがあるでしょうか。

たとえば、権威者や有名人が断定的に語る説、絶対的な正義論、絶対悪を指摘する説、絶対善を主張する説、絶対的な正解だと言い募る説など、いくつも挙げることができます。

いまのこの国のマスメディアは、極度に単純化した情報を一方的に押しつける傾向が非常に強いという問題があります。

また、受け取る側にしても、「すべてのメディア情報は編集されたものである」、つまり編集サイドの意図が必ず影響しているという認識がないままに、それを偏りのない絶対的真実だと信じ込んでいるという問題があります。

あるいは、少数派、非主流派の意見は取り上げられないため、多様な捉え方があることすら伝えられないことも指摘できるでしょう。

まずわたしが言いたいのは、この世に絶対善や唯一の正解論はないということです。

しかし、マスメディアの流す情報を鵜呑みにする習慣が染みついてしまっている人は、「まずは疑ってみる」という視点が欠落しています。「これが正解」と言われればそれを信じ、多くの人がそれを支持していれば安心してしまう。

■偏見や錯覚に満ちた老人像を疑った医師が発見したもの

そして、それに反する意見をもつ人を糾弾するということは、実際たくさん起きています。

テレビやネットがスケープゴートをつくり出し、それを徹底的にたたいたとしても、何の不思議にも思わない人がこの国にはあふれています。

ソファに座ってテレビを見る中年男性
写真=iStock.com/somethingway
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/somethingway

「まず疑ってみる」という姿勢に関してひとり、わたしの大先輩を取り上げましょう。医学博士の柴田博先生です。

先生は長年、老年医学を専門に研究されてきました。この国の多くの肩書だけの権威とは違い、とにかく既存の知識を疑い、調べるということを徹底してきた方です。

老年医学は高齢化が進んだいまでこそ注目が高まっていますが、長いことその分野で使われる基礎情報は古いもので、「老人はだいたいこんなもの」的な見方をする専門家しかいなかったと言います。

先生は使いものにならない知識や統計データを疑い、偏見や錯覚に満ちた「だいたいこんなもの」的な老人像を疑い、不明点についてフィールドリサーチを行い、現実を観察するという手法を続けました。

たとえば、前述の小金井市の高齢者を15年も追跡調査した結果、コレステロール値がやや高めの人がいちばん死亡率が低かったことや、この年代の高齢者でも15年間で言語性知能は落ちないなどという発見をしているのです。

■疑うことで新しい発見に出合えるかもしれない

従来型の医学常識をまず疑ってみるという姿勢は、80歳を超えるいまも貫かれています。

先生の著書を見れば、多くの人たちが正解と考えてきた医学関連諸説も、じつは怪しいのかもしれないと気づかされるでしょう。

先生が伝えたいのは、「いまの医学常識を疑わないと長生きできません」ということ。そんな先生の研究姿勢からわたしたちが学べるのは、「疑う、そして観察する」ことの大切さです。

疑い、観察することで新しい発見に出合える。

することが見つからず、時間つぶしで漫然とテレビを見ているより、よっぽど楽しい生き方だと思いませんか?

■数学的な発想が苦手な日本人

イメージではなく数字でものを考える――思考の幅を広げるコツ②

日本人の思考に関する得意不得意には、ある特徴があります。それは、数学的な発想ができないという点です。

読み書きそろばんの読み書きまでは、だいたいの人はクリアしています。しかし、みっつめのそろばんは、単純計算はたいていの人はできますが、それが数学的発想に結びついていかないというのは、大きな弱点です。

では、思考の幅を広げる数学的発想とは、どういったものでしょうか。

まず挙げられるのが確率論的思考です。これは唯一不変の答えがない世界を生きていくうえで、判断の手がかりを得る有効な方法です。

たとえば高血圧症は、降圧剤で正常値まで下げたほうがいいと推奨されています。みなさんの多くも、高血圧は薬で治すべきだと考えているでしょう。

ここでアメリカのデータを例にしますが、高血圧とされる収縮期血圧170㎜Hgの群を見ると、降圧剤を服用しないと6年後、8.2%の人が脳卒中になり、服用しても5.2%の人が脳卒中になります。

いま医学界ではEBM(Evidence-Based Medicine=科学的根拠に基づく医療)の取り組みがさかんです。データ的根拠に基づいて、脳卒中の発症率が8%から5%に減ったのだから、効果があると考えます。これもひとつの確率論です。

■思い込みや決めつけを防ぐ有効な手段に

しかし、先ほどのデータ結果を言い換えると、そもそも降圧剤を服用しなくても90%以上の人は、服薬治療の大きな理由である脳卒中にはならないということです。

となれば、わざわざ長期にわたって薬漬けにならなくてもいいのではないか。これがもうひとつの確率論です。

病院で「薬を飲めばリスクが8%から5%に下がりますよ」などと言われれば、「はいそうですか」となりがちですが、冷静に確率論的発想をしてみれば、治療法選択の判断材料になるわけです。

少なくとも降圧剤を飲めば脳卒中にならないという話も、飲まないと脳卒中になるという話もウソだとわかります。

さらに、ここに長期服用による副作用の問題などが絡んでくれば、複数の確率論を手がかりに総合的に判断するのが妥当となります。

あるいは、いまテレビを見ていると、大事故、残虐事件、大災害などが起きると、どの局でも視聴者を洗脳せんばかりに、強烈な映像を何度も何度も流し続けます。

和田秀樹『60歳からは勉強するのをやめなさい』(SBクリエイティブ)
和田秀樹『60歳からは勉強するのをやめなさい』(SBクリエイティブ)

こういうある種、衝撃的な映像を繰り返し見せられたり、過度に不安をあおる情報にさらされ続けたりすると、人間は適正な判断力を失っていきます。確率の低いことを過度に恐れるようになるわけです。

こうしたまずい事態を回避するためには、思い込みや決めつけによって抱くイメージを、数字的データに照らし合わせて検証するという手順を踏む必要があります。

数学的発想は思い込みや決めつけを防ぐ有効な手段。

何となくぼんやりとした思考をだらだらとするのではなく、このようにふだんから情報と数字的根拠を結びつけることを習慣化するよう、意識してほしいと思います。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

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(精神科医 和田 秀樹)

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