1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

これで上手く話さねばという強迫観念が消えた…和田秀樹が拙い英語でアメリカ人を唸らせた「会話」の中身

プレジデントオンライン / 2024年8月22日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wirestock

日本人に必要な習慣は何か。医師の和田秀樹さんは「総じて知的レベルが高い日本人の弱点のひとつが、アウトプット力の低さだ。プレゼンテーションが下手、ディスカッションが下手なのは、大学を卒業するまでの学校教育で、アウトプットトレーニングを積む機会が少ないことがある。コミュニケーションに関しても、『上手に話さなければ』の強迫観念ではなく、大事なのは話の中身だ」という――。

※本稿は、和田秀樹『60歳からは勉強するのをやめなさい』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

■定年退職後の男性は自己満足型の勉強法にハマりがち

本稿では、アウトプットについて、話を進めていきます。

アウトプット。

・自分の思考を発信していく生き方。
・伝えることによって人とつながっていくこと。
・アウトプットによって前頭葉を刺激し続けること。

これは、いままでの中高年を対象とした、各種勉強法にはあまりなかった視点です。

これまで男性の勉強と言うと、どうしても知識注入型の知的(ではなくてもそう見えがちな)書斎人を理想とするようなところがありました。

仕事以外の友だちも少なく、新しい交流を開拓する方法もわからない。そのため、たったひとつの選択肢として孤高の独学者を目指すというのが、本当の理由かもしれません。

それは、人と交流せず、思考をアウトプットすることなく、たったひとりで知識注入して完結してしまう、自己満足型の勉強法です。とくに定年退職後の男性はこうしたスタイルにはまりがちです。

■人生100年時代に従来型の「独学」はいらない

しかし、ここで断言しましょう。

「『人生100年時代』とは、従来型の独学を捨て去る時代である」と。

もうそろそろ、この従来型独学はやめませんか?

「独学を捨て去る時代」宣言の理由はふたつあります。

ひとつは、知識の注入ばかりで活用しなければ、賢くなれないどころか、脳の老化が進んでしまうということ。

脳、とくに前頭葉の老化が進めば、思考の柔軟性が失われるということ――これは再三申し上げてきました。さらに、脳の老化によって感情の老化も加速します。

人生100年を意識して生きていかなければいけないいま、これでは少しも幸せになれそうにありません。

もうひとつの理由は、人との直接的・間接的交流を積極的に図っていかなければ、長い人生の時間を充実させることが難しいからです。

簡単に言えば、間がもたず意欲も湧かず、毎日を無為に過ごすヒマ老人への一途をたどるのです。

人との交流による刺激は、前頭葉の機能低下スピードを緩め、脳の若さ、感情の若さを維持するのに役立ちます。書斎とは言わずとも、自宅にこもって孤高の独学者の道を歩んだとして、それと同じ効果を期待するのは無理というものです。

カフェで笑いながら会話する3人のシニア女性
写真=iStock.com/visualspace
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/visualspace

■のびのび思考とアウトプットのセットを

これまで知識を増やすことだけを勉強と捉え、生涯その勉強スタイルは一貫していると考えていた人は、アウトプットと言われても、まだピンと来ないかもしれません。

しかし、中高年にはもう十分な知識が蓄積されています。いまこそそれをリソースとして有効活用しなければ、いつ使うのでしょうか?

もう一生使わないで終わってしまうのは明らかと言っていいでしょう。

時間と労力をかけて知識を蓄積してきたのは、いったい何のためだったのか。

この問いの答えは、もうみなさんもおわかりですね。使うためです。使うことによって、人生の充実度と幸福度を上げるためにほかなりません。

「のびのび思考とアウトプットのセット」が人生100年時代の新テーマ。

ぜひ、このことを意識してほしいと思います。

■人に伝えることが苦手ならリハーサルを積もう

リハーサルには時間をかける――アウトプット実践のヒント①

日本人の弱点のひとつが、アウトプット力の低さです。

人にものを伝えることが苦手だと認識している人は、みなさんのなかにもたくさんいると思います。だからこそ、人にものを伝える技術についてまとめた書籍が、断続的に出版されているのでしょう。

ただ、それをいくら読んでも、本当に実践しなければ意味がありません。

また、自分は人に伝える力はあると単に思い込んでいるだけで、アウトプット力を正しく理解していない人も少なからずいます。こうしたことを念頭に、アウトプット実践のヒントをいくつかピックアップしていきたいと思います。

まずひとつめは、発信力をアップする方法です。

もし、自分は言葉や文字で人に考えを伝えるのが苦手だと思うなら、アウトプットのリハーサルを積んでください。これがいちばん発信力を習得できる方法です。

日本人は総じて知的レベルは高いにもかかわらず、プレゼンテーションが下手、ディスカッションが下手なのは、大学を卒業するまでの学校教育で、アウトプットトレーニングを積む機会が少ないからです。

もちろんかつての日本の学校教育には評価すべき点もあります。しかし、これに関しては残念というほかありません。

■原稿をつくるまでは長けている日本人のもったいなさ

日本の国語教育は小説などの心情理解に重きを置く。それをどのような表現形式にすれば、聞く人にもっとも効果的に伝わるかは考慮しない。

それに対し、欧米では、論説文を読んで論点を整理し、自らの見解を述べるという、アウトプットまでを範疇に入れたトレーニングを徹底する。

クラスメイトの前で発表する女子学生
写真=iStock.com/monkeybusinessimages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monkeybusinessimages

こうした教育方針の違いが大きな差をつくっているのです。アメリカの大学生と比べたとき、日本の大学生のアウトプット力の貧弱さは際立ちます。

たとえばみなさんはアメリカのジョン・F・ケネディ大統領(在位1961〜63年)が、演説の名人と言われていたことをご存じでしょう。

しかし、演説をするにあたっては、行きあたりばったりで本番に臨むのではなく、毎回リハーサルを丹念に行いました。アウトプット力の高いアメリカ人でさえ、伝えることに関しては準備を怠らず取り組んでいたのです。

わたしは結婚式をはじめ、さまざまなイベントでのスピーチを耳にするたびに、「もっとリハーサルをしっかりやればいいのに」と思うことは少なくありません。

日本人は、原稿をつくるところまでは非常に真面目に一生懸命取り組みます。しかし、リハーサルが決定的に足りないのです。

だから抑揚のない棒読みで、どこが面白さの山場なのかわからないスピーチになってしまう。原稿がいくらよくできていても、本番でスベる。聞いているほうも困惑する。

こういったことが非常に多いと感じています。

■話力は天性の素質ではない

せめて、家族や友人に何度かリハーサルにつき合ってもらえば、そこで「もっとこういうふうに話したほうがいいよ」とか、「固すぎるから棒読みになってしまってつまらない」「何が言いたいのかわからない」など、適切なアドバイスをもらえるはずなのに、そこができないのです。

友人のなかで自分の考えを話すのも結構難しいなと思うなら、その前にひとりでいるときに、自分の考えを声に出してしゃべってみる。自分の考えを声に乗せることに慣れる。

それを録音して聞いてみる。何を伝えたいのか、要旨を意識してリハーサルをする。それだけでもずいぶん違うはずです。

鏡の前でスピーチのリハーサルをするビジネスウーマン
写真=iStock.com/ChayTee
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ChayTee

わたしもラジオに出るようになって、ときどき自分のしゃべりの録音をradikoのアプリなどで聞くのですが、表現力や論旨などの点で反省させられることが多く、次回からの教訓にしています。

・話力は天性の素質ではない。
・人前で話すことに対する苦手意識を取り払うには、リハーサルを惜しまない。

大手予備校の人気講師たちも、生まれながらにして生徒を引きつける話力をもっていたわけではありません。多くは、アウトプット力を磨くための努力を陰でしているのです。

■表面的な上手さよりも、大事なのは「相手にきちんと伝わるか」

「うまく話さなければ」の強迫観念を捨てる――アウトプット実践のヒント②

アウトプットに関するリハーサルの大切さは、前述したとおりです。しかし、その一方で、これまた日本人の傾向として、「上手に話さなければ」という強迫観念が強いことも指摘したいと思います。

人にものを伝える際、大切なのは、小説家が書く文章のように流麗であることではありません。そうではなく、いかに相手が理解できるように言いたいことを自分の言葉で伝えられるか、その一点に尽きます。

表面的に上手にしゃべることと、相手が真意を理解できるように伝えることとは、似て非なるものです。

日本人はコミュニケーションに関して、平易な言葉ではなく難しい言葉で語るほうが格が上だと勘違いしています。

また、大事なのは話の中身なのに、表面的な技巧を磨くことを優先しがちです。

話し方の技巧や伝え方の技巧に関する書籍が結構売れてしまう背景には、「上手に話さなければ」の強迫観念があることは間違いないでしょう。中身に関しての検討は、たいてい置き去りにされてしまっています。

■拙い英語でも言葉の壁を越えられた留学経験

わたしの経験のなかから、ものすごく拙い英語でアメリカ人を喜ばせたエピソードを紹介しましょう。みなさんの考え方が少し変わるかもしれません。

わたしがアメリカに留学したのは、いまから25年以上前のことです。

当時、英語の文献はふつうに読めるレベルでしたが、会話となると相手が何を言っているのか、理解するのに精いっぱい。テンポのよいやり取りなどは、とてもできない状態でした。

そんなわたしがある晩、シカゴのホテルのバーで飲んでいると、ひとりのアメリカ人がやってきて、わたしに尋ねたのです。

「俺はミシガンから来たんだけど、俺たちがつくっている車が全然売れないのに、どうして日本車はこんなに売れるんだ?」と。わたしはこんなふうに返しました。

「アメリカと日本の販売体制のいちばんの違いは、ディーラーの立ち位置だ。日本ではディーラーがメーカーとくっついている。たとえばトヨタならトヨタ車のディーラー、マツダならマツダ車のディーラーがいるというように。

しかし、アメリカでは、メーカーとディーラーがまったく連関しておらず、同じオーナーのディーラーがフォードもトヨタもマツダも取り扱っている。だからメーカーが消費者のニーズをつかみきれないし、消費者動向をメーカーが十分に吸い上げられないのでは」

■「こいつの英語はまったくひどいが、話が面白い‼️」

さらに、マツダが一時期低迷したときに、社員のクビを切らずにディーラーに出向させ、そこで消費者ニーズをつかんで帰ってきたこと。それを反映させて新型ファミリアを大ヒットさせたということもつけ加えました。

すると、そのアメリカ人が膝を打って喜んだのです。奥さんらしき女性にこう言いました。「こいつの英語はまったくひどいが、話が面白い‼️」

このときわたしは、たとえしゃべる言葉が拙くても、その話が面白いか面白くないか、聞く人はそこで判断するのだという、当たり前のことを知ったのです。

わたしもずっと日本で育ち暮らしてきましたから、日本人にありがちな固定観念で「英語は上手にしゃべらなければいけないのかな」ということが気になっていました。

しかし、この一件で「うまくしゃべらなきゃ」という強迫観念は、すっかり消えてしまいました。

和田秀樹『60歳からは勉強するのをやめなさい』(SBクリエイティブ)
和田秀樹『60歳からは勉強するのをやめなさい』(SBクリエイティブ)

日本では「誰それがこんな説を言っていた」と語るとまわりは喜ぶのですが、アメリカではそんな発言は評価されません。下手でもいいから自分の独創的な考え方を示すほうが価値があるのです。

下手でもいいから臆せずにアウトプット。

これこそ人生後半の世界が広がる「アウトプット的生き方」の極意です。

表現などについては、リハーサルを積んだり実践の場数を踏めば、少しずつ向上していきます。そこにこだわるよりも、重視すべきは話の中身です。

----------

和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

----------

(精神科医 和田 秀樹)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください