「簡単な言葉を使うとバカにされる」は大間違い…医師・和田秀樹「本当に頭のいい人の言葉の使い方」
プレジデントオンライン / 2024年8月23日 15時15分
※本稿は、和田秀樹『60歳からは勉強するのをやめなさい』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■自分の専門外でも会話の輪に入ってみる
何か人としゃべっていても、話題が自分の専門外だったり、相手がひとかどの権威だったりすると、どうも気おくれしてしまうということは、しばしば起こります。日本人には珍しいことではありません。
しかし、わたしはたとえ自分が門外漢であっても、しり込みせずにどんどん輪のなかに入っていってほしいと考えます。そうしないと、いつまでも自分の既知の世界から外に出て行くことができないからです。
わたしは、とにかく世の中のありとあらゆることが気になって仕方がない性分です。ですから、自分の専門外の世界についても好奇心を抑えることができません。
心理学がわたしの専門ですが、その知識を応用して、経済学を考えてみたりすることも多いのです。
しかし、この国の経済学者たちは、素人や門外漢のユニークな発想を見下すという、いやな傾向があるのもたしかです。閉鎖的な学者バカ、専門バカと言うべき人がとても多いのです。
そういう人に「あなたは素人なのに」と否定的なことを言われるたびに、「聞く耳をもたない残念な人だな」とわたしは思うのですが。
■アメリカでは門外漢でも歓迎される
日本とは逆に門外漢を大歓迎するのは、アメリカという国の素晴らしい部分だと思います。研究者たちが、もともとの自分の専門外に踏み出して、立派な業績を挙げる例は数多くあります。
たとえば、カリフォルニア大学バークレー校で心理学の博士号を取り、プリンストン大学で心理学教授を務めていた、ダニエル・カーネマン(1934〜2024年)。
彼は経済学を心理学的に読み解き、不確実な状況下における人間の意思決定について理論化。新分野である行動経済学を開拓したことが認められ、2002年にノーベル経済学賞を受賞しています。日本ではまずこのようなことはないでしょう。
門外漢でも躊躇しない。門外漢を排除しない。
アウトプット的生き方で人生の幅を広げていくためには、門を開けて自由に思考の産物を往来させることが大切です。
■難しい言葉・専門用語の羅列が「賢さ」ではない
難しい言葉で語られる諸説をありがたがり、それを聞いたり読んだりしている自分に少しばかり陶酔する。難しい言葉は賢さの証明という勘違いがはなはだしいのは、日本人の特徴です。
しかし、本当の頭のよさとは、どんな難解なことでも、聞く人がスムーズに理解できるように話せること、書けることにあります。
あるテーマについて話すとき、相手が小首をかしげてしまうような専門用語を並び立てる人は、頭のよさという点では怪しいものがあります。
たとえば大学教授を例に取りましょう。日本の大学教授レベルの専門家たちは、一般の人にはなじみのない小難しい言葉を平気で使う人が少なくありません。
この手の日本人専門家がアメリカの大学に教えに行ったらどうなるでしょうか。日本人の聞き手のように崇(あが)めてくれるでしょうか。
残念ながら、それは100%ないでしょう。アメリカ人にとって尊敬に値するのは、話がユニークで、それを誰にでもわかりやすく説明できる人なのですから。
難しいことを難しく語る人に対しては、「そもそも語る内容についての理解が足りないから、わかりやすい言葉で語れない」「適切な語彙をもっていない」「人に伝える表現力が備わっていない」とシビアにマイナス評価を与えます。
■「これはどういう意味ですか?」と聞かれて答えられるか
「でも、やはりある程度はレベルの高そうな言葉を使ったほうが、知的に見えるのではないか」「平易な言葉を使って、人からバカにされないか」と考える人がいるかもしれません。
しかし、難しい言葉があなたの理解度とかけ離れているなら、そもそもそのような不釣り合いな言葉を使う必要はありません。
聞く側からするとむしろ、「この人、じつは何もわかっていないんじゃないの?」とすぐに見破られてしまいます。
無駄なプライドはすぐに捨てましょう。あなたの言葉を理解できない相手に、「これはどういう意味ですか?」と聞かれて適切に答えられないようでは、かえってバカにされてしまうのです。
では、話す内容について十分理解できている場合はどうでしょうか。もしその理解が本物ならば、難解な話をいくらでも嚙み砕いて、適切なレベルの言葉に置き換えて語れるはずです。
言葉の定義を理解する場合、スキーマ問題ととてもよく似た状況が起こりがちです。
■難解用語わかったつもりの意味知らず
ある概念について厳密な意味・解釈を知らなくても、理解のプロセスをショートカットして、「何となくこのようなことである」というふうに、概念を示す言葉がわかったような気になってしまう。
そしていざ、その言葉を小学生や中学生にわかるように説明しようとしても、できなかった。こんな経験は誰にでもあるでしょう。
インフレターゲットって何? 為替ヘッジプレミアムって何? 非関税障壁撤廃って何?
こうした「何?」に太刀打ちできますか? 日頃目にするさまざまな用語を、平易な言葉で説明できるかどうかは、自らの理解度を把握するバロメータにもなります。
難しい話を平易な言葉で語れることが賢さの証明。
誰かに話すというアウトプットをつねに意識していると、「難解用語わかったつもりの意味知らず」という、みっともない姿をさらさずにすみます。
自己満足型の孤独な独学者との大きな違いは、アウトプットの実践を通じて、確実にコミュニケーション能力や表現力を磨いていけるという点です。
■まずは論点を明確にする
長い時間、聞き役にさせられた挙げ句、結局何を言いたいのかさっぱりわからなかったときほど、脱力感に襲われることはありません。
頭のなかでの思考段階では、取りとめなく次から次へ考えが連鎖していきます。それは、書き言葉でもなければ話し言葉でもない。言わば流動的な状態です。
この流動的な思考を、どう人に伝える形に整えるか。ここが非常に大事なポイントになってきます。
もっとも重要なポイントは論点を明確にすること。これに尽きます。
ひとりで考えごとをしていると、ときどき「こんなことを考えつく自分はすごいんじゃないか」と悦に入ることがあります。
すると、生まれたてホヤホヤの考えを、すぐにそのまま人に話したくなる。こんなこと、みなさんにもあると思います。
しかし、書き言葉化されていない頭の中身、話し言葉化されていない頭の中身。いずれも、論点が未整理という問題を抱えています。
そういうときは、人に話す前にメモ書きにして、客観的に思考の産物を眺めてみるというのが、手軽でいい方法です。
ただし書き言葉化すると、前項で指摘した難しい言葉を使いたくなるクセが頭をもたげてくるので、ここでもあくまでも平易な言葉でメモするということにしてください。
■考えが浮かんでも少し時間を置き、もう一度見つめ直す
思考を文字化したときに着目してほしいのは、自分の話の論点が明確になっているかどうかという点です。論点がいくつも混ざっていたり、視点が定まっていなかったりということはないか、チェックしてみるといいでしょう。
論点は、アウトプットの形式を問わず、話を支える柱ということを意識して、大切にしてほしいと思います。
もうひとつの方法としては、考えが浮かんでからアウトプットするまでに、少し時間を置くというやり方です。思考の産物を寝かして熟成させると言ってもいいかもしれません。
わたしも含めものを書くことを職業としている人は、スケジュールなどが許す限り、この熟成期間中に、もう一度冷静に自分の考えを見つめ直すという段階を踏みます。すると、さらに思考が進化したり、洗練されたりということが起きます。
アウトプット重視の生き方に慣れないうちは、うまくできないこともあるでしょう。しかし、流動的で一見まとまりのない思考の産物を人に伝わる形に近づける作業は、脳の活性化にも大いに貢献します。
あるいは、それに自信がないうちは、友だちなどにゆるくアウトプットし、モニターしてもらい、よくわかるかどうかを率直に言ってもらうのもいいでしょう。
どんな話をするにしても論点重視は必須事項。
こうしたアウトプットトレーニングを積んでいくと、まわりからも「あの人の話はいつも理解しやすくて面白い」と評価され、好感度が上がっていくはずです。
効果的に人に伝えることの醍醐味がわかってくると、さらに人との交流が楽しくなること請け合いです。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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