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蒼井優、安藤サクラ、池脇千鶴と並ぶトップ女優に…「主役を食う怪演」を連発するグラビア出身の俳優の名前

プレジデントオンライン / 2024年8月14日 17時15分

第32回日本ジュエリーベストドレッサー賞を受賞した俳優の小池栄子さん(=2021年1月14日、東京都内) - 写真=時事通信フォト

今夏、注目すべきドラマはどれか。ライターの吉田潮さんは「小池栄子が出演している『新宿野戦病院』、『地面師たち』がいい。両極端の役だが、彼女の良さが存分に出ている」という――。

■2024年の夏は「小池栄子祭り」

でーれぇ・ぼっけぇ・もんげぇ・ぶち……岡山弁の副詞を多用して感情表現する一方、日本的発音の英語で指示を飛ばしながら豪快な救急治療を施す。その女は米国籍の元軍医、ヨウコ・ニシ・フリーマン。今夏放送中のドラマ「新宿野戦病院」(フジ)の主人公だ。

腕はいいが、縫合や処置は雑。というか、いろいろと雑。豪快かつ雑。物言いも態度も横柄だが、人としてはまっとうで、偏見をもたず差別もせず常にフラット。日本の医療の非合理性や矛盾に斬り込むスーパードクターと言いたいところだが、日本では無資格・無免許である。

もう1作品。土地や家屋の所有者になりすまして不動産を勝手に売り飛ばし、巨額をせしめる詐欺師集団の暗躍を描いた「地面師たち」(Netflix)。登場する地面師はチームで動く。

「地面師たち」
「地面師たち」(Netflixホームページより)

計画を指揮するリーダー・ハリソン山中(豊川悦司)、契約や取引の際に表に出る「交渉役」の辻本(綾野剛)、法律に詳しい元司法書士で「法律屋」の後藤(ピエール瀧)、身分証などを偽造する「ニンベン師」の長井(染谷将太)、詐欺に適した物件をリサーチする「情報屋」の竹下(北村一輝)。

■地上波と配信で真逆の役柄

そして、なりすましに適した人物をキャスティングする「手配師」の麗子。常に人材を確保し、「社会常識はあるが目先の金に困っている老人」や「多額の借金を抱える、あるいは早急に大金が必要な薄幸そうな女」などを言葉巧みに誘って説得する。

適した人材を見つけるために時間をかけて調べあげたり、決まったキャストが完璧になりすますための教育も担う。人の経済状況を聞き出し、弱みを握り、金で釣って犯罪に加担させるという難易度の高い役割だ。聞く力や懐に入り込む力、詐欺師としての総合力が必要で、麗子という人物には相応の説得力が問われる。

このヨウコと麗子を演じるのが、女優・小池栄子。地上波では豪快で雑で裏表がない人格者、配信では裏稼業で暗躍する犯罪者。ひと夏に二度おいしい、小池栄子祭りである。この10年の女優としての躍進を振り返ってみる。

■バラエティで見せた「名誉男性」

バラエティ番組に出演する小池は、テレビ的に完璧であまり興味がなかった。空気を読み、その場の支配者に従順、長いものに巻かれる印象も強い。本当は冷静に真価を見極めているはずだが、テレビの中で男性大物芸能人の代弁者になりさがった姿を観て残念に思ったことが一度ある。俗にいう「名誉男性」というやつだ。

あるトーク番組にゲスト出演した小池。小池自身が仲良くなりたいという大女優をゲストに呼んでおきながら、質問内容はゲスいものばかり。

「恋愛は面倒くさい」「男は人生に必要ない」ときっぱり断言したゲストに対して執拗に食い下がり、しまいには鼻毛や乳首の色など下卑た質問をぶつける小池。そして、それをせせら笑う男性陣の構図に辟易した。悲しかったし、そんな小池は見たくなかった。

ただし! 役者としては実に険しくて面白い道のりを歩んできたと思っている。舞台映えする圧の強い顔、カッと見開いたときの目力、多彩な顔芸に無駄によすぎる滑舌は、数多の手練れやクセモノたち(あ、誉め言葉ね)に鍛えられた証拠だ。

というのも、小池が出演した作品をながめてみると、「ナイロン100℃」「劇団☆新感線」「大人計画」とハシゴ&おかわりされていることがわかる。つまり一度出演して、再び声をかけられたということだ。

■「演劇界に愛された女」として

作・演出や脚本の面々でいえば、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、河原雅彦、いのうえひでのり、宮藤官九郎、三谷幸喜、根本宗子など、錚々たるメンバーだ。彼らが長丁場の舞台に誘うということは協調性と表現力と信頼感がある証拠。「演劇界に愛された女」といってもいい。

映画の脚本を読むアクター
写真=iStock.com/kyonntra
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kyonntra

たとえば、「ラストフラワーズ」(2014年)は「大人の新感線」の舞台で、作は大人計画の松尾スズキ、演出は劇団☆新感線のいのうえひでのりという稀有で豪華なコラボだった。

小池が演じたのはキャバレーの歌姫……と思いきや、実は国家公安委員会直属の諜報員という役。

目まぐるしく中途半端に差し込まれるギャグも完璧にこなし(突然しゃべり方が小津安二郎映画風になる場面の小池、最高)、コケティッシュとエロティシズムとナンセンスを見事に集約して一体化させていた。

また、「陥没」(作・演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ、2017年)は昭和38年、東京五輪前の複合娯楽施設が舞台。

小池が演じるのは、この施設をつくった実業家の娘・瞳、要するにお嬢様の役だ。施設のプレオープンで呼んだ余興の奇術師やタレント、ここで婚約パーティーを開く予定の元夫(井上芳雄)やその母(犬山イヌコ)、瞳の現在の夫(生瀬勝久)など、さまざまな人が集まり、なにやら不穏な空気が漂い始める。

■インタビューでわかる彼女の性格

この舞台に挑む小池がインタビューでこう答えている。

『これまで「仕掛ける役」が多かったせいもあり、人の芝居を受ける難しさを痛感しています。でも新しいことに挑戦させていただけるのは有り難いことですし、KERAさんは、私に瞳ができると信じて書いて下さっているはず。舞台の稽古をしていると、今のように悶々とした日々の先に、バラバラだったピースが急にはまり出す瞬間があるんです。その時に備え、諦めずにもがき続けなければ。ただ、毎晩のように悪夢を見るんですよね(笑)』

つかみどころのない役へのストレスとプレッシャー。女優・小池栄子の根が真面目であり、数多の手練れからシビアに鍛えられていったことがわかる文言だし、彼女のピースがはまった舞台でもあった。

演劇人から鍛えられた芝居の筋肉を、小池はドラマではどう発揮していったか。

若い頃はステレオタイプな強気で勝気な姉御肌役をこなしていたが、そもそもの小池の特性、明瞭で知的な物言いと冷静さが映える、「やり手のインテリ女性役」が増えた。

■「カンブリア宮殿」の影響

「リーガル・ハイ」「リーガルハイ」(2012・2013年、フジ)では性悪で陰険な弁護士(生瀬勝久)の敏腕秘書役、「ヘッドハンター」(2018年、テレ東)では、少数精鋭ヘッドハンティング会社の主人公(江口洋介)を敵視する大手転職斡旋会社のシニアバイス役。慶應大卒、アメリカでMBA取得、そして最年少のシニアバイスという華々しい経歴の持ち主だ。

「競争の番人」(2022年、フジ)では、優秀で変人扱いされる主人公(坂口健太郎)が勤める公正取引委員会の主査役。人の心を開く聴取が得意だが、過去の失態に罪の意識をもっている。

クールなビジネスパーソン役が続いたのは、テレ東でビジネス番組に出演するようになったからか。

「カンブリア宮殿」番組ホームページ
「カンブリア宮殿」番組ホームページより Copyright © TV TOKYO Corporation All rights reserved.

三谷幸喜の映画「記憶にございません!」(2019年)では総理大臣の事務秘書官役、無駄に色っぽいが、たとえセクハラをされても拒まず、逆にその相手に無言の圧をかけて虚無を感じさせる女。全身どこもかしこも立体的な小池が圧をかける構図は面白い。

また、「罪を抱える女」としての説得力もある。湊かなえ原作の「贖罪」(2012年、WOWOW)では、幼い頃に少女殺害事件を目の当たりにして、被害者の母親(小泉今日子)から贖罪の意識を強く植え付けられた小学校教師の役。

四角四面で他人にも自分にも厳しく、1ミリも笑わない鉄仮面ぶりだが、あまりにも悲しい結末を迎える不運な女だった。蒼井優、安藤サクラ、池脇千鶴と並んでもひけをとらない、確固たる女優の地位を築いた印象が残った。

■主役を食う怪演

「5人のジュンコ」(2015年、WOWOW)では後妻業風味の殺人犯を威風堂々&鉄面皮に演じた。麻生祐未と杉田かおるがおぞましい怪演っぷりで、小池が演じた佐竹純子は俯瞰の立場だったが、胡乱で邪悪な女を温度低めで魅せた。

ここ数年で秀逸だったのは「家族観に囚われる女」の役かな。沢尻エリカ主演「母になる」(2017年、日テレ)では歪んだ母性が生まれた背景と哀しき女の行方を体現。男に何度も裏切られて失意の中、誘拐された子供を助けたが、誰にも知らせずに7年間育ててしまう女の役。ドラマ中盤から登場、主役を食う怪演だった。

厄介な弟に振り回されつつ振り回しもする“姉の苦悩”という共通項があるのは、「俺の話は長い」(2019年、日テレ)と大河「鎌倉殿の13人」(2022年、NHK)だ。「姉ちゃん!」と思わずつっこみたくなるような茶目っ気と図々しさは言わずもがなの名演だったよね。

■「世の中で一番自分を信じている女」役は最強

いけすかないインテリ役も非道に躊躇のないサイコパス役もいいけれど、やはり地に足のついたその辺のおばちゃん感がほしい。空気を読まず、権力や権威になびかず(金にはなびくが)、世の中で自分を一番信じている女。そう考えると、個人的にドンピシャだったのは舞台と映画の両方で小池がキヌ子役を演じた「グッドバイ」だ。

太宰治の未完の遺作「グッド・バイ」をケラリーノ・サンドロヴィッチが再構築した舞台劇で、映画版は大泉洋が主演。

大勢の愛人たちに別れを告げるために、絶世の美女を妻になりすませて、穏便に縁を切ろうと画策する文芸誌編集長。なりすます絶世の美女として白羽の矢を当てたのは闇商売の女・キヌ子。すこぶる美人なのにダミ声で訛りもあり、著しく品性に欠けた銭ゲバのキヌ子を、小池はのびのびと演じていたからだ。

小池がのびのびと気持ちよく演じているのは、冒頭の「新宿野戦病院」のヨウコも同じ。

セレブ気取りの叔父(生瀬勝久)に蔑まれても、「バカはおめえじゃ。ビッチはハッテンカのねえちゃんゆう意味じゃけぇ。ビッチにねえちゃんは含まれるけぇ。ビッチのねえちゃんはポルシェの車みたいなもんじゃ!」と返したヨウコ。

そうそう、その勢いが欲しかったんだよなと思った。耐える強さや飲み込む強さではなく、ぶち壊す強さや変える強さ。宮藤官九郎作品の中でも賛否が分かれるドラマだが、小池栄子が開放感が心地よいことは書き残しておきたい。

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吉田 潮(よしだ・うしお)
ライター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News イット!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。

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(ライター 吉田 潮)

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