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だから人間の健康にこれが欠かせない…ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の生存競争を決めた意外な食物

プレジデントオンライン / 2024年8月20日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sarsmis

私たちホモ・サピエンスはなぜネアンデルタール人との生存競争に勝てたのか。国際医療福祉大学病院予防医学センター教授の一石英一郎さんは「ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの明暗は野菜を食べるかどうかで分かれた」という――。

※本稿は、一石英一郎『予防医学の名医が教える すごい野菜の話』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

■ネアンデルタール人は滅びホモ・サピエンスは生き残った

野菜と人間の歴史は実は深い。私たち人間は、野菜の生存戦略を利用して生き延びてきた。遺伝子を研究し、予防医学に取り組んできた医師が、なぜ私たちは野菜を食べるべきなのかを科学的に解説する。ホモ・サピエンスが生き残り、ネアンデルタール人が滅んだ決め手も野菜だったという。

■長い間並行して存在していた

私たち人類、すなわち学名でいうところのホモ・サピエンスが、地球の長い歴史の中で現在に至るまで生き延びることができているのは一体どうしてか。ネアンデルタール人との生存競争に勝った理由―両者の勝敗を決した核心が、「野菜を食べていたかいなかったか」にあったとしたらどうでしょう――。

この驚きの謎を解明すべく、順を追って説明していきたいと思います。

ホモ・サピエンスは、太古にサルから進化したヒト属の中で唯一、現代まで命脈を保っている種族です。しかし太古から続く歴史の中では、ホモ・サピエンス以外にも、アウストラロピテクス、ホモ・ハビリス、ホモ・エレクトスなど、この地上で繁殖し、そして滅んでいったさまざまなヒト属がいました。ネアンデルタール人もそのひとつです。

2022年のノーベル生理学・医学賞は、ネアンデルタール人のゲノム解読に成功したグループが受賞しました。それによると、ホモ・サピエンス固有のゲノム、すなわちネアンデルタール人とは異なるゲノムは、わずか7%以下とされています。ネアンデルタール人とわれわれ人類は、驚くほど似通っているということです。

それでいて、かたや滅亡、かたや繁栄で今に至ります。この差はいったい、どこから生じたのでしょうか。

順序からいうと、ネアンデルタール人が絶滅した後に、現生人類であるホモ・サピエンスが登場したかのように捉えられがちですが、実際にはこの両者は、かなり長い期間、並行して存在していました。

■ネアンデルタール人が生存競争に負けた理由

ネアンデルタール人がヨーロッパ大陸に現れたのは、諸説ありますが、およそ40万年ほど前だと考えられています。一方、ホモ・サピエンスは、遅くとも30万年前には、「緑のサハラ」と呼ばれる現在のモロッコ周辺に登場していました。

ネアンデルタール人はやがてヨーロッパ大陸から南下していきますが、彼らがいつ、どのようにしてホモ・サピエンスと遭遇し、どのように生存競争を繰り広げたのかについては、はっきりしていません。いずれにしても、彼らネアンデルタール人は私たちホモ・サピエンスとの戦いに敗れ、絶滅しました。ただしそれは、単純に彼らが私たちよりも「劣っていた」ということを意味するのではないようです。

彼らネアンデルタール人は、少なくとも知能の面では、現在の人類とほとんど差がありませんでした。脳の容積だけを比べれば、実は人類よりも大きかったことがわかっています。つまり彼らは、われわれよりむしろ賢かった可能性すらあるのです。

事実、彼らは言語で意思疎通を図り、火を使って調理していました。衣服を身につけ、それを装飾品で飾る風習も持っていました。舟に乗って海を渡る技術もあれば、彫刻や工芸品を作ったり、フルート状の楽器を作って音楽を嗜んだりするような高度な文化もありました。葬儀の風習もあったようです。

そんな優れた種族であったネアンデルタール人が、なぜ絶滅してしまったのでしょうか。われわれ人類と、どこで明暗が分かれたのでしょうか?

進化
写真=iStock.com/altmodern
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/altmodern

■ウィルスに感染しやすいネアンデルタール人

ネアンデルタール人については、現在では遺伝子も採取でき、かなりのことがわかってきています。その中には、彼らがウィルスに感染しやすい遺伝子を持っていたとする研究もあります。

世界中で猛威を振るった新型コロナウィルスに関しても、人種の違いによって感染しやすさに差が生じていることを証拠立てる調査結果が出てきていますが、それを思えば、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの間でそういう違いが生じていたとしても、まったく不思議ではありません。

■集団の規模の違い

また、ネアンデルタール人は私たち人類と違って、脳梁が発達していなかったという研究結果もあります。脳梁とは、右脳と左脳とをつなぐ神経線維の束のことです。つまり、左右の脳の連携がうまく働かなかったことが、生存競争において不利になったのです。

一般に、左脳はもっぱら言語や論理的思考を、右脳は直感やイメージなどを司ると言われています。この二つを結びつける脳梁が発達している方が、コミュニケーション能力が高く、集団生活に適しているという説があります。

ネアンデルタール人は、家族単位の小さな集団で生活していたと思われる一方、ホモ・サピエンスは、複数の家族が寄り集まり、150人規模の大集団で行動していたというのです。集団の規模が大きくなればなるほど、コミュニケーションは盛んになります。

たとえば石槍などの道具ひとつ取っても、そのアイデアや、それを作り出す技術などが、世代を超えて継承されやすくなり、大勢が知恵を持ち寄ることによって、方法がさらに改善されていくことにもつながるでしょう。家族単位の集団では、その家族が死に絶えた時点で技術も途絶えてしまいます。

脳
写真=iStock.com/Jolygon
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jolygon

■決定的な違いは食生活

集団の規模を大きくすることで技術革新が加速していく過程を、“集団脳”の獲得と呼ぶのですが、その“集団脳”を獲得できたかどうかが、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの運命の分かれ目だったということです。そこには、脳梁の太さの違いが関係していたはずです。

そうした要因もさることながら、両者の命運を分かつ最大の決め手となったのは、食生活の違いだったのではないかと私は考えています。

ネアンデルタール人が登場した時代のヨーロッパは寒冷な気候で、荒れ地が広がっていたため、彼らの食生活は、肉食に偏る傾向が強かったと考えられています。彼らが口にする食物の80%は、マンモス、サイ、ヒツジ、イルカ、ハトなどの動物で、残り20%が野菜でした。特にタンパク質に関しては、摂取したもののほとんどすべてが動物由来であったことがわかっています。

■肉食に偏っていたネアンデルタール人

一方、ホモ・サピエンスは雑食性であり、口にするものは野菜、果物、貝類、狩猟肉、乳製品、穀物と非常に多彩でした。食べるものの三分の二は野菜だったといいます。

肉が手に入るうちは、ネアンデルタール人も安泰でした。ところが、彼らが狩猟していた動物の多くは、気候変動や乱獲が原因で激減していき、旧石器時代の末期には、肉がほとんど手に入らなくなっていました。肉食に依存していたネアンデルタール人にとっては、致命的な事態だったわけです。

もっとも、彼らが結果として絶滅に追いやられたのは、単に肉食に偏っていたという理由のみによるものではないと思います。彼らと違って生き延びたホモ・サピエンスは、植物成分を摂取することによって、免疫力を高めていたと考えられます。つまり、先に述べた遺伝子上の違いとも相まって、ホモ・サピエンスの方がネアンデルタール人よりも、疫病等に強かったのではないかと私は考えています。

マンモス
写真=iStock.com/JoeLena
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JoeLena

■植物成分が免疫力を高めた

植物は逃げも隠れもできず、自分から獲物を取りに行くこともできません。そのため、どこであれ生育した場所で、土中の病原菌や、降り注ぐ有害な紫外線、食害しようとする昆虫や動物などから、自らの身を守らなければならない。そのために植物は、実に多様な成分を産生しています。その中には、人体にとって有用なものもたくさん含まれています。

特にポリフェノール、ビタミンC、ビタミンE、カロテンといった栄養素は、植物からしか摂取することができません。

ポリフェノールなどは免疫力を高めることが現在では知られていますが、野菜や果物等を通じてそうした成分を摂取していた人類は、そのおかげで数々のウィルスなどに打ち勝つことができたわけです。

■植物をどう食べるか

ホモ・サピエンスの間で、先ほど述べた“集団脳”が発達していたことは、ここでも有利に働いたはずです。「植物をどう食べるか」という部分に、集団ならではの知恵が生かされる局面が多々あったと思われるからです。

植物は、有益な成分を多量に含んでいる一方、硬い食物繊維のために、消化されにくいという難点も抱えています。

一石英一郎『予防医学の名医が教える すごい野菜の話』(飛鳥新社)
一石英一郎『予防医学の名医が教える すごい野菜の話』(飛鳥新社)

草食動物である牛に胃が四つもあるのは、胃の中で消化酵素と生息する微生物の力を借りて「反芻」をしながら、食べたものをゆっくりと分解して、必要な栄養素をそこから無駄なく汲(く)み取る必要があるからです。

人類には胃がひとつしかないため、植物を生のままただ食べるだけでは、ほとんど消化できないまま排出されてしまいます。

しかし人類は、火を使うことを知っており、さまざまな器具を用いて食材を調理する術すべも知っていました。野菜も火を通せば、堅固な細胞壁が壊れ、セルロースなどの食物繊維が分断されて、消化しやすい状態で口に入れることができます。

おなかに野菜
写真=iStock.com/Tijana87
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tijana87

■火を使う技術を植物に応用できたか

ネアンデルタール人も火を使っていましたが、彼らはそれを、おそらくもっぱら肉を調理することにのみ利用していたはずです。もちろん、肉を火で調理することにも、多くの利点があります。殺菌効果がある上に、火を通せば長期保存も可能になります。

消化しやすくしたり、タンパク質をアミノ酸に分解してうまみ成分に変えたりすることもできます。

ただ、その技術を植物に応用できたかどうかで、道は大きく分かれたのではないでしょうか。

■「アク抜き」という技術

植物が自らの身を守るために生み出している成分の中には、ポリフェノールなどの有用な栄養素がある一方、人体にとって毒になるものも含まれています。アルカロイドと総称される成分です。その中には薬に転用されているものもあり、「毒と薬は紙一重」といったところなのですが、そのような成分を不用意に口にすれば、健康に害が及ぼされることもあります。山菜に含まれるアクなどはその代表例です。

しかし人類は、そうした毒素も、「アク抜き」という形で適切に取り除いた上で、野菜などから体にいい部分だけを摂取する知恵を身につけてきました。

そうした知恵が代々受け継がれてきたのも、ホモ・サピエンス特有の“集団脳”の賜物なのではないでしょうか。現代においても人気の「肉野菜炒め」(日本はもちろん、中国文化圏や東南アジア全域で普遍的な調理法のひとつ)なども、そんな中から生まれてきた料理なのかもしれません。

野菜
写真=iStock.com/enviromantic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/enviromantic

■植物の生存戦略を利用する

植物がそうした多様な成分を産生するのは、本来は自らが生き延びるための生存戦略であるわけですが、人類はその植物の生存戦略を上手に利用して、自らの免疫力や抵抗力を高めてきたのだということです。

そしてネアンデルタール人は、不幸にも、その術を知らずにいたのではないでしょうか。食肉が入手しづらくなったときに、野菜などで食いつないで生き延びるという知恵もなく、肉食に依存していたばかりに、疾病に対する免疫力にも乏しかった。それこそが、おそらく彼らの敗因だったのだろうと私は考えています。

野菜を食べるかどうかで明暗が分かれたネアンデルタール人とホモ・サピエンス――。それだけでも、野菜を食べることがいかに重要かということがおわかりいただけるのではないかと思います。

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一石 英一郎(いちいし・えいいちろう)
国際医療福祉大学病院内科学・予防医学センター教授
医学博士。1965年、兵庫県生まれ。京都府立医科大学卒業、同大学大学院医学研究科内科学専攻修了。アメリカがん学会(AACR)の正会員(Active Member)。DNAチップ技術を世界でほぼ初めて臨床医学に応用し、論文を発表した。人工透析患者の血液の遺伝子レベルでの評価法を開発し、国際特許を取得。著書に『日本人の遺伝子』(角川新書)など

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(国際医療福祉大学病院内科学・予防医学センター教授 一石 英一郎)

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