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通勤時はスマホでSNS見て、夜はYouTubeを眺めてしまう…残業時間の短い人が「本を読みたいのに読めない」の謎

プレジデントオンライン / 2024年8月27日 9時15分

全く時間がないわけではないのに本が読めない。働きながら読書を続けるのは、なぜこれほど難しいのだろうか。仕事と読書の両立方法や本との向き合い方、そして現代における読書の価値を、2人の多読家が語り合う。

■「読みたいのに読めない」で、みんな困っていた

古市 『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は発行部数が15万部を超えたそうですね。近年、新書でそれだけ売れるのは珍しい。三宅さんはなぜあの本を書こうと思ったのですか。

三宅 私自身が切実に悩んだテーマだったからです。もともと私は本が好きでした。文学部に進学して、『万葉集』を研究していたくらいです。ところが就職した途端に本が読めなくなった。読もうと思えば読める時間はあったんです。でも、電車に乗ればなんとなくスマホでSNSを見て、夜も本を開くよりYouTubeを眺めてしまう。

古市 読めなかったのは、三宅さんの勤務先のせいですか。長時間労働を強いるような会社だった?

三宅 いえ、残業は20時過ぎまででしたし、仕事もやりがいを感じていました。ただ、本が読めなくなってしまったんです。

それに、働くことで本を読めなくなったのは私だけじゃありませんでした。2021年に『花束みたいな恋をした』という映画が流行りましたよね。文学や映画、音楽などの趣味がぴったり合ったカップルのラブストーリーで、彼氏の麦くんは就職すると本が読めなくなり、スマホゲームのパズドラしかできなくなります。

一方、親が裕福な彼女の絹は就職しても趣味を楽しみ続け、文化から離れた麦くんに失望するようになる。二人のすれ違いを描いた映画ですが、私のまわりでは「麦くんは自分だ」と、本が読めなくなる彼氏に共感する友達が多かったのです。

どんな本を読むといいとか、こういう読み方をすればいいという指南本は、これまでもたくさんありました。

でも、本を読みたいのに読めないという問題には、あまり関心を払われてこなかった。みんながこんなに困っているんだったら、きちんと論じたほうがいいんじゃないかと思って、この本を書き始めたんです。

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三宅 古市さんは読書エリートだったのでしょうか。子どものころはどんな本で育ったのですか。

古市 僕は趣味のための読書はしたことがないんです。子どものころから世界名作文学集などには全く縁がなくて、手に取っていたのは絵でわかる図鑑ばかり。いわゆる本好きとか読書家の類いではありませんでした。

三宅 でも本はたくさん読んでいそうなイメージです。

古市 目的のある読書はよくしています。原稿を書くために調べるとか、テレビでコメントするために予備知識が欲しいとか。何かしらのアウトプットありきの読書です。

先日はテレビでパリ五輪について何か話さなければいけないことになり、佐々木夏子『パリと五輪 空転するメガイベントの「レガシー」』を読みました。パリ在住の翻訳家の方が書いた本で、長年にわたる現地の反対運動の様子が生々しく書かれていました。最終的にテレビでその話をするかはわかりませんが、仕事がきっかけになって読んだ本が面白かったことは多いですね。

三宅 テレビの場合、向こうから「これについて話してください」と依頼がありますよね。そういうときは本選びもしやすいですが、自分でテーマを設定するときはどうしていますか?

古市 なるべくその場所に行くことを意識しています。僕は今万博について調べていて、実際に過去の万博開催地に足を運んでいます。行けば疑問が湧いてきて、頭の中に浮かぶ検索ワードも変わってくる。すると、手に取る本も自然と変わっていきます。

三宅 社会学はフィールドワークと文献の両方がある世界。古市さんはやっぱり社会学の方ですね。私は文学研究だったせいか、テキストと向かい合うのが好きなんです。過去の歴史を調べるときも、その場所に行くより、本に書かれたその時代の人の言葉の中に知りたいことが潜んでいる気がして、ひたすら読んでいます。

古市 三宅さんはいわゆる読書好きですよね。僕のように目的が先にあるわけじゃないとしたら、どうやって本を選ぶんですか。

三宅 自分で考えたいことがいつもぼんやりとあるんです。必ずしも仕事とは関係ないことも多いんですが、考えていることの周辺を埋めるように本を読んでいます。

例えば今流行っているものを見て「なぜこれが流行っているのか」と疑問が湧いたら、背景も含めていろいろ知りたくなる。そこで本を読む。知る行為を楽しんでいるというより、未読のメールが残っていて、処理しないのは気持ち悪いという感覚に近いです。

■名作はまずあらすじを読んだほうがいい

古市 ずっと追いかけているテーマはありますか。一生かけてこの大陸の地図を明らかにするんだというような。

三宅 家族とか戦後とかぼんやりしたものはありますが、具体的に決めているものはないです。気になっている範囲の地図を埋め終わったら、そのとき気になっている次のテーマにいく感じですね。

古市 テーマが内面から次々に湧き上がってくるんでしょうね。僕は「これが今必要とされている」とか「これはまだ誰も取り組んでいない」という視点でテーマを選ぶから、その感覚がよくわからない。

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三宅 古市さんは、小説は読まれますか。目的ありきの読書だと、フィクションはあまり選択肢に入ってこない気がします。

古市 読みますよ。ただ、小説も心で味わうというより、データ収集という感覚に近いですね。言葉遣いや小道具一つをとっても時代の雰囲気をつかむのに優れた媒体だと思います。

ただ、物語の筋書きや構造は意識しますね。この小説はあの映画と同じパターンだな、とか。どういう流れで物語が展開するのかを整理しておくと、自分の作品の参考にもなります。

三宅 古市さんは対談本『10分で名著』で、プルースト『失われた時を求めて』を紹介されていました。読了に何カ月もかかりそうな超大作ですが、ボリュームのある作品でも筋書きや構造を意識した読み方をされるんですか。

古市 確かにプルーストは物語全体の筋書きを辿るのが大変。むしろ個別のエピソードや描写が面白いと思って読んでいます。

だから筋を追って順番に読む必要もないと思っていて、適当にパッと開いたところをたまにつまみ食いするという付き合い方をしています。一生かけて結果的に全部読めればラッキーかなと。

読書好きの三宅さんからすると、あらすじだけを取り出したり、断片的につまみ食いするのは小説の読み方として邪道かもしれませんが……。

三宅 いや、私も名作文学はむしろあらすじから読んだほうがいいと思います。とくに長い小説はそう。あらすじを知らないまま長編小説を読むと、物語の展開を追うことだけに必死になって他の要素が頭に入ってこなくなるんですよね。

プルーストはもちろん、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』やデュマ『モンテ・クリスト伯』のような長い小説も、まず全体像を把握して、キャラクターについてもある程度情報を入れてから読んだほうが、「このセリフ、いいじゃん」とか「この場面は面白い」と小説の細部を楽しめるはずです。

古市 それこそ、ChatGPTに読みたい小説を伝えて、自分が読みやすい文体で要約させるのもありですね。かつて橋本治は『枕草子』を若者言葉に翻訳したり、『源氏物語』を光源氏の一人称で書き直したりしました。同じように、AIを使って古典をポップな携帯小説風にしてもいい。難解な小説でもとっつきやすくなります。

■自己啓発本が読めるのは目的が「悩み解決」だから

古市 あとは、ゆかりのある場所に行くのもおすすめです。昨年フランスに行ったとき、「そういえば『失われた時を求めて』の冒頭に登場するステンドグラスが見たいな」と思ってランスやシャルトルの大聖堂を訪れました。本当のモデルかは諸説ありますが、現地へ行けば読むきっかけができて、本を開きたくなります。

三宅 逆もありますね。本を読んでいるから、「能のこの演目は『源氏物語』にあったな」「この名所はあの作品に出てきたな」と、本で読んでいなければ通り過ぎていたようなものに気づいたりする。その意味でも古典はおすすめです。古典は時間軸が長いから、フックになるものがたくさんあります。現代小説よりお得感があります。

古市 やはり目的意識を持つことが大切そうですね。 本は最初から最後まで読まなくちゃいけないと思い込んでいる人は多いですが、ぜんぶ読む必要はまったくない。

本も検索と同じで、必要なところだけ目を通せば十分です。どこが必要なのかは、あなたの目的次第。知りたいことがあらかじめ明確になっていれば、知りたいこと以外が書かれているページは飛ばしても構いません。 目的があれば、読むペースもおのずと速くなります。

例えば、ほかの本はダメでも自己啓発本なら読めるという人もいますが、それは本のテーマが仕事や人生で悩んでいることに直結しているからですよね。目的がないなら自分でつくればいい。旅行はそのための手段になりえます。

三宅 目的といえるほど具体的じゃなくても、「読みたさ」をつくるのは重要だと思います。読みたさは何でもいい。私がおすすめしているのは、「これ、どうしてだろう?」と自分なりの謎を持つこと。

例えば同じ小説でも、ただ読むのではなくて、「なぜこれがベストセラーなの?」と謎を持つだけで読み進めやすくなります。書店に行くのも読みたさをつくる方法として効果的です。もともと本が好きだけど読めなくなったという人は、書店に行くだけでもテンションが上がるのでおすすめです。

書店に足を運ぶ時間もないなら、SNSで面白そうな本の話をつぶやいているアカウントをフォローするのもいいでしょう。自分が好きな作家や作品の名前で検索すれば、趣味嗜好が似ている読書アカウントが見つかるはずです。そのアカウントをフォローしておけば、疲れてSNSを見るだけで精一杯というときも本との縁をつないでいられます。そのときすぐ読めなくても、「次に読みたい本」候補があることは大事です。

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古市 憲寿(ふるいち・のりとし)
社会学者
1985年、東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍。慶應義塾大学SFC研究所訪問研究員(上席)。有限会社ゼント執行役。専攻は社会学。著書に『希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想』『絶望の国の幸福な若者たち』、共著に『頼れない国でどう生きようか』などがある。

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三宅 香帆(みやけ・かほ)
書評家・文筆家
1994年生まれ。高知県出身。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。著書に『人生を狂わす名著50』(ライツ社)、『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』(サンクチュアリ出版)、『副作用あります⁉ 人生おたすけ処方本』(幻冬舎)などがある。

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(社会学者 古市 憲寿、書評家・文筆家 三宅 香帆 構成=村上 敬 撮影(人物)=小田駿一 撮影(書籍)=早川智哉)

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