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暴落主因は「新NISA民含む"弱気筋"のパニック売り」だった…後追いで株のプロが売りに売って下落させた"罪"

プレジデントオンライン / 2024年8月14日 16時15分

2024年8月5日、東京でリアルタイムの株式市場情報を表示するスクリーンを通過する歩行者。日経平均株価は12%以上下落し、下げ幅としては史上最悪となった。 - 写真提供=Xinhua/ABACA/共同通信イメージズ

■株価暴落を引き起こしたのは何(誰)だったのか

日経平均株価が8月5日月曜に4451円という過去最大の下げ幅を記録しました(5日終値は3万1458円42銭)。これは、米国株安が世界に波及した「ブラックマンデー」の翌日1987年10月20日を上回り過去最大となりました。

この日を含む8月1日からの3営業日(1、2、5日)でも7643円と実に19.5%の下げ幅でした。そして、一転、6日には前日比で3217円というこちらも過去最大の上げ幅を記録しました。乱高下したのです。

日銀の政策決定会合が7月30、31日にあり、政策金利を0.25%まで上げた直後でもありました。

乱高下の最大のきっかけはこの政策金利0.25%上げの直後、2日に発表された米国の雇用統計です。米国では通常第一金曜日に労働省より前月の雇用統計が発表されます。2日に発表された7月の数字では、失業率が前月より0.2%上昇の4.3%、世界中のエコノミストたちが注目する非農業部門の雇用増減数が、市場予想より大幅に少ない11万4000人と発表されました。この数字を受けて、米国経済は予想していたより悪いと受け止められ、その日のニューヨークダウは一時900ドルを超える下落となりました(終値は610ドル安)。

また、その日にはドル・円レートも4カ月半ぶりに146円台まで上昇しました。その後、週明け5日の東京市場でも上で述べたように日経平均株価が史上最大の下げ幅を記録し、ドルも141円台まで上昇。その翌日には史上最高の上げ幅を記録するとともに、144円台までドルが戻すという、株式、為替ともに、まれにみる乱高下を短期間で演じました。

この乱高下をどう評価するか。

私は、一時的な動きだと見ています。というのも、今回の下げは、米景気への先行き不安ということが大きいですが、2008年のリーマンショックや2020年からのコロナショックのようなはっきりとした理由がないからです。

リーマンショックの際には、その前に普段なら住宅を買えないような人に「サブプライムローン」という特殊な融資を行うことで異常な住宅バブルが起こっていましたし、コロナショックはご存じのように世界的なパンデミックによる経済停滞が原因でした。今回の株価急落はそれらと比べると先行きに対する「不安」はありますが、大きな原因がありませんでした。(8月13日の日経平均株価は1200円以上値上がりして3万6000円台を回復しました)。

今回、なぜ株式や為替市場で大きな乱高下が起こったのか。株式や為替相場の前提となる日本や米国経済を考察することで、今後の株式相場や為替相場を占いましょう。

■大幅下落の主因は「パニック売り」

株価下落、円高進行のきっかけは先ほども述べたように、2日の米雇用統計の発表ですが、弱気筋が一気に株式やドルを売りました。それが東京市場に伝播し、東京市場では2024年から新NISAを始めた“新人”を含む個人投資家などがパニック売りを受けるような形で機関投資家の一部も売りに回りました。

なぜ、“素人”の動きにプロが影響を受けたのか。実は機関投資家の中には、ある一定以上株価が下がると自動的に持ち株を売るプログラム売買を行う仕組みもあり、それも下げをより加速させました。

また、株式トレーダーの多くは米国の場合だとS&P500、日本ならTOPIXなどのインデックス(指数)と自身のパフォーマンス(実績)を比較されます。それは給料や報酬にも関連しているはずです。したがって、市場全体が大幅下落する際には、どれだけ早く持ち株を売るかが勝敗の分かれ目になりますから、それがさらに市場全体の売りを加速するという面もありました。

逆に、6日のように市場全体が大きく上げる際には、トレーダーたちはいち早く買う傾向があります。

■株式市場を分析すると

私は株式市場を分析する際には、上場企業の全体の業績を見るとともに、PER(株価収益率)を大きな参考としています。PERは株価を一株当たりの純利益で割ったもの(株価÷一株当たり純利益)です。

今回の乱高下の直前では、日経平均採用銘柄全体で「17倍」程度でした。コロナ前はだいたい「14倍」ほどでしたから、コロナ前よりは上昇していますが、コロナ明けの景気回復を考えれば、それほど過熱した水準ではありませんでした。

それが、日経平均が大幅下落した5日の終値で13倍台まで一気に落ち込みました。これは売られ過ぎの水準です。6日には14倍台に戻しました。これでようやくコロナ前の水準です。

企業業績的には、米国はピークアウトしていますが、それでも8四半期連続で実質GDPが増加するなどまずまずの水準。日本も絶好調ではないものの、4~6月までの企業業績は全体的にはそこそこ良い水準だと私は分析しています。

米国で少し心配なのは、企業の景況感を表す米ISM景気指数が、ここ4カ月「良い、悪い」の境目を表す50を切っていることです。この数字は製造業の購買担当者など景気を敏感に感じる立場にある人を対象に調査をしているものですが、企業側からは景況感は少し厳しいものがあります。

【図表】米ISM景気指数(%)

日本では、財務省が調査する法人企業統計では、1~3月の売上高(全産業)が前期比で若干下がっているものの、経常利益では増加しています。4~6月もここまで発表されている主だった企業の業績を見る限りでは、悪くはありません。強さはそれほどありませんが、近々発表される法人企業統計の4~6月の企業全体の業績の数字に注目です。

【図表】法人企業統計

■円キャリーの巻き戻し、日米金利の見通し

ドル・円の相場も大きく動きました。一時160円程度まで売られた円ですが、今回の乱高下の際には、一時141円まで円が買われ、その後はこの原稿を書いている時点(13日朝)では147円程度となっています。

少し持ち直したのには、日米金利差による円キャリー取引とその巻き戻しが大きく影響していると言われています。キャリー取引とは、これまでもこの連載で何度か指摘してきましたが、金利の低い円を借りてそれを売ってドルを買い、現状3カ月物で5%程度の金利が付く米ドルで運用し、金利を稼ぐ取引です。

この際、円安に進めばキャリーをする人はさらに儲かりますが、逆に円高に振れると金利での儲けが一気に吹っ飛ぶことがありますから、今回もキャリー取引を解消する動き(巻き戻しが)大量に起こったと考えられます。そのため大きく円高に振れ、その後少し持ち直しているというのが現状です。

この円キャリーは日米金利差が大きな原動力となっています。日本の金利は、7月末の日銀の政策決定会合で、政策金利が0.25%にまで引き上げられました。その後の株価や円相場の乱高下を受け内田眞一日銀副総裁が「相場が落ち着くまでは利上げをしない」との発言がありました。

次の政策決定会合は9月19日、20日なので、いずれにしてもそこまでは利上げはなく、その頃には相場はもっと落ち着くと考えられます。ただ、現状2%強のインフレ率はなかなかしつこいと考えられるので、この年末までにもう一度利上げがある可能性があると私は考えています。さらに、インフレ率と賃金上昇にもよりますが、2025年も利上げが行われると見ています。

一方、米国の現状の5.25~5.50%の政策金利はかなり高いと言わざるをえず、景気拡大のスピードに懸念のあることを考えれば、9月の中央銀行の会合(FOMC)で0.25ないしは0.5%の利下げが行われる確率は高いと考えます。また、現状の景気や3%台のインフレ率を考えれば、来年も引き続き利下げが行われると考えられます。

こうしたことを考えれば、日米の短期金利の差は、現状の5%程度から4%台、場合によっては来年には3%台に縮まる可能性もあり、ドル・円相場は、円高に振れる可能性もあるでしょう。

いずれにしても、株式、為替相場ともに徐々に落ち着いていくと考えますが、しばらくは相場が大きく振れる可能性もあることに注意が必要です。

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小宮 一慶(こみや・かずよし)
小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。

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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)

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