銀座ホステスの「変態的な注文」がきっかけ…「カルビとロース」だけだった焼肉の部位が118種類に爆増したワケ
プレジデントオンライン / 2024年8月18日 17時15分
※本稿は、フジテレビ「私のバカせまい史」製作委員会 監修『私のバカせまい史 公式資料集』(宝島社)の一部を再編集したものです。
■韓国39種類、アメリカ55種類、日本118種類
▼基本データ
【時期】1946年―2023年
【ジャンル】焼肉
【区分】部位の種類
【関連ワード】ロース、ハラミ、カルビ、海原雄山 ほか
▼概要
焼肉店で料理を注文する際、焼肉の部位は覚えきれないほどたくさんあることに気づく。焼肉の部位はいかにしてその種類を増やしていったのか。部位増加の歴史についてひもといていく。
焼肉店で注文したり、スーパーで牛肉を買ったりするとき、部位ごとに分けられているのが当たり前である。現在、日本の焼肉店で出される焼肉の部位が何種類あるかご存じだろうか? ちなみに韓国では39種類、アメリカでは55種類の牛肉の部位がある。そしてなんと、日本は118種類の部位が存在する。アメリカの倍以上もあるのだ。
こんなにたくさん存在する焼肉の部位だが、そもそも最初は何種類だったのかが気になるところ。
時は遡り、1945年。終戦間もない日本で、ホルモン焼きが大ブームとなる。ホルモン焼きとは、レバーやハツなど、牛の内臓肉をごちゃ混ぜにして鉄板焼きや串焼きにしたものだ。このころはまだ、部位ごとに食べる概念はなかったという。
■最初は「カルビ」と「ロース」の2種類のみ
1946年には、大阪の千日前に、元祖といわれる焼肉店「食道園」が開店する。プロレスラーの力道山や、美空ひばりといった昭和の大スターが通った名店だ。このお店では、カルビとロースの2種類のみを提供。アバラ周りの肉をカルビ、それ以外の肉はロースと呼んでいた。つまり、最初部位は2種類しかなかったのである(図表1)。
現在、サーロインやシャトーブリアン、ザブトン、ミスジ、イチボと呼ばれている部位も、当時はすべてロース(図表2)。いわば“ほぼロース時代”が幕を開けたのだ。
このほぼロース時代は30年以上も続き、カルビとロースの2種類から長らく変化はなかった。
■肉ヘンタイによって「上カルビ」誕生
月日は流れ、1970年代。東京の六本木に店を構える「叙々苑」が不動だった部位数を増やしはじめた。
今でこそ高級焼肉店の代名詞となっている叙々苑だが、開業当時は1日20人ほどしか来客がいなかった。そんな大ピンチの最中、ある肉ヘンタイが店を救うこととなる。
それが、焼肉が大好きな銀座の高級クラブで働くホステスだ。彼女が注文したのは、叙々苑自慢のカルビ。しかも、一番おいしいカルビの脂身をとるよう店側に頼んだ。その要求を受け入れたことがきっかけで、脂身の少ない「上カルビ」という部位が誕生する。
30年以上ざっくりカルビと呼ばれていた部位は、ホステスによってカルビと上カルビに細分化されたのだ(図表3)。
■タン塩をレモンで食べ出したのもホステス
さらに、叙々苑では当時マイナー部位だった「タン塩」も扱っていた。当時は肉を焼いてタレをつけずにそのまま口に運ぶスタイルが主流だったのだが、その食べ方でタン塩を注文したホステスが火傷をしそうになったという。
そこで、一旦レモン汁で冷まして食べるようになり、タン塩をレモンで食べるスタイルが誕生した。レモンのさっぱりした味が決め手というより、ただ冷ます目的で一緒に食べ出したのだ。
こうして、叙々苑を訪れた銀座のホステスのわがままから、上カルビとタンという2大部位が生まれたのである(図表3)。
■ハラミを世に広めた「グルメ漫画」とは
そして1990年代、今ではお馴染みの部位である「ハラミ」がついに定番化する。ハラミを世に広めたのは、グルメ漫画『美味しんぼ』に登場する海原雄山だ。77巻でハラミについて「私もハラミを食べて以来、ロースだのカルビだのを食べるのがバカバカしくなった」という主旨の発言をしている(図表4)。
これ以降、焼肉店ではハラミの売上が上がったようで、焼肉の名店の店主の間では「ハラミは海原雄山が広めた」という共通認識があるのだとか。
こうして安くておいしいハラミが広まり、焼肉業界はますます盛り上がりを見せていった。
■「希少部位ブーム」で細分化が促進
2005年になると、恵比寿に本店を構える「焼肉チャンピオン」がほぼロースだった部位をザブトンやトウガラシ、ミスジなどに細分化した。「希少部位」の誕生である。
当時すでに希少部位の名前は存在していたが、あくまで食肉業界の業界用語であり、焼肉店でも一部の店で裏メニューとして提供する程度だった。しかし、焼肉チャンピオンの松下社長は実家の寿司店から影響を受け、マグロのように牛肉も細かく分けて提供するという発想に至る。これがきっかけとなって希少部位ブームが巻き起こり、空前の“ロース細分化時代”へ突入することとなったのだ(図表5)。
その後さらに細分化は進み、ホルモンの部位を合わせると、その数は約170種類にものぼる。
日本では、細かく分けられたものを見つけた者こそが、ビッグビジネスをつかむ時代の寵児になれる。吉村崇(平成ノブシコブシ)
(フジテレビ「私のバカせまい史」製作委員会)
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