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羽田空港の「定時運航率」は世界トップクラス…1日最大1300回以上の離着陸を捌く航空管制官の「すごい仕事」

プレジデントオンライン / 2024年8月19日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yongyuan Dai

航空機が安全かつ効率よく飛行できるよう、地上から指示しているのが航空管制官だ。一体どんな業務なのか。元航空管制官のタワーマンさんの著書『航空管制 知られざる最前線』(KAWADE夢新書)より、一部を紹介する――。

■1機の離着陸にかかる時間は約90秒

羽田空港では1日約1300回、飛行機が離着陸しています。しかし、滑走路は4本しかありません。この4本の滑走路をいかに効率よく使い、飛んでいく飛行機、降りてくる飛行機を上手に“捌く”ことができるか、そこは管制官の腕しだいだといえます。

そもそも、成田や羽田など、日々混雑している空港では発着数の上限があらかじめ決められており、それ以上増やすことはできません。これを発着枠(スロット)と呼びます。

1機の飛行機が離着陸にかかる時間(滑走路をその機のために空けておく時間)は、約90秒です。離陸であれば、滑走路手前の停止線を越えて加速、離陸していくまで、だいたい60秒から90秒。着陸であれば、着地ポイントの約2キロメートル手前から、接地、減速して、機体が完全に滑走路手前の停止線から抜けるまで約90秒。これをもとに、1時間に発着できる便数の限界が物理的に決まります。

■滑走路の「時刻表」はまさに秒単位

国土交通省では、混雑空港に発着枠を定めています。羽田は滑走路が4本で、トータルで1時間90枠。成田は滑走路が2本で基本は68枠、最大72枠。その決められた発着枠が、各航空会社の希望スケジュールに割りふられます。

あとは、その「時刻表」通りに、それぞれの飛行機が発着できるように誘導してあげるのが管制官の仕事……ではあるのですが、現実は時間通りにとはいきません。

飛行機の発着には、遅延がどうしても発生します。たとえば、飛行機Aの到着が遅れたことにより、あとから来るはずだった飛行機Bが追い越して、先に着陸するかもしれません。あるいは、飛行機Aの到着後に出る予定だった飛行機Cを先に出発させたほうが、効率がいいかもしれません。

秒単位の細かい調整を行ないながら、過密スケジュールをこなしていくのも管制官の仕事なのです。

■大空港では「自分の担当以外」も注視

地上管制の指示に従って滑走路まで移動した出発機は、無線の周波数を滑走路担当の飛行場管制に切り替えて、離陸許可を待ちます。上空から着陸態勢に入った到着機もまた、飛行場管制と交信しながら、着陸許可を待ちます。

滑走路担当の管制官は、滑走路周辺の安全を確認し、出発機と到着機の間隔を監視しながら、安全かつ効率的に離着陸できるように指示、許可、情報提供を行なうのが仕事です。

滑走路が1本しかない空港であれば、自分が担当する滑走路の“出入り”だけを見ていればよいのですが、羽田や成田のように複数の滑走路がある場合は、他者が担当する滑走路の交通状況も把握しながら調整を行なう必要があります。

たとえば、自分の担当する滑走路から先に出発機を出したほうがよいのか、それとも別の滑走路で待機中の出発機を先に出したほうが、その後の運用がスムーズにいくのか――ということを、管制官同士で調整しながら決めていきます。つまり、自分の滑走路だけを気にしていればよいというわけではないのです。

■情報を得るため2つの目と耳をフル稼働

そのため、管制官は常に右耳と左耳、両方を使って情報を得ています。片方の耳は、パイロットと交信するためのイヤホンでふさがります。

空いているもう片方の耳は、管制塔内部で聞こえる声や音の認知に使います。パイロットと交信しながら、もう片方の耳で、「今、管制塔のなかでどんなやりとりがされているのか」「ほかの管制官がどんな指示を出しているのか」を“盗み聞き”しながら、必要な情報をインプットするわけです。

耳だけではなく、もちろん目もフル稼働します。まず、いちばん大事なことは管制塔から外を見て、実機の存在を継続的に把握することです。

次に、目の前のディスプレイに表示されているレーダー画面を見ながら、管制官は空港周辺にいる航空機の便名、位置、高度、速度や動きを確認します。

さらに、別の画面には「運航票」が表示されています。運航票とは、飛行計画のうち必要最低限の情報を抽出した「各機の運航メモ」のようなもので、航空会社のコールサイン、機種、空港名、飛行経路、巡航高度などの基本情報が記載されています。

■「操縦する人と指示する人が別」という難しさ

この運航票は、以前は「ストリップ」という帯状の小さな紙片でしたが、現在では混雑空港を中心に電子化されており、手元の画面上に表示されるようになっています。管制官の手元には、常に現在交信している、あるいは、これから無線に入ってくるであろう飛行機の運航票が並んでおり、これも横目で確認しながら、パイロットと交信を行ないます。

つまり、聴覚、視覚をフルに使い、リアルタイムで移り変わる情報をインプットし、得られた情報から適切な判断をくだすことが求められる過酷な業務なのです。

これは、飛行場管制だけでなく、すべての管制業務においても同様です。

管制の難しさを考えるとき、「自分で操縦しているわけではない」ということは、やはり重要なポイントの1つだと思います。操縦するのはパイロット、指示を出すのは管制官――両者がこの関係である以上、どうしても、どのような指示を管制官が出し、その指示を受けたパイロットがどう操縦を行なうかが、運航に影響を及ぼすことになります。

飛行機を操縦するパイロット
写真=iStock.com/ViktorCap
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ViktorCap

■パイロットや機体の「個性」はさまざま

たとえば、管制官が離陸にかかる時間をどのくらいと見るか。仮に90秒と見積もれば、到着機Aと次の到着機Bのあいだに90秒の間隔があれば、出発機Cを出すことができます。この間隔が100秒あれば余裕ですが、80秒ならあきらめて出発機Cを到着機Bのあとに回さざるを得ません。

しかし、実際に離陸にかかる時間は、さまざまな要因で異なります。航空機の重量や天候などの環境にもよりますし、パイロットがテキパキと動いてくれて最短時間で離陸してくれるタイプなのか、慎重なタイプなのかでも、かかる時間は違ってきます。

航空会社や国籍でも異なります。日本の航空会社のパイロットは、ある程度、空港の事情を理解しているのでキビキビと動いてくれますが、外国の航空会社には「急ぐ意味がわからない」といわんばかりのマイペースなパイロットもいます。それもまた、運航の最高責任者としては正しいのですが……。

飛行機のパフォーマンスによっても、離陸の所要時間は異なります。飛行機の大きさ、重さ、乗客の数、燃料の量、そんなことも計算に入れながら、管制官は離陸所要時間を予測します。「この便は長距離国際線だし、地上走行の動きを見るに“ゆっくり系のパイロット”。ふだんより離陸には時間がかかるだろう」などと判断するわけです。

■場面によって離陸方法を使い分けている

ちなみに、飛行機の離陸方法は2つあり、それによっても所要時間は異なります。

「スタンディングテイクオフ」は、滑走路のスタート位置で一度停止し、そこでブレーキを踏みながらエンジンの回転数を上げ、推進力が上がったところでブレーキ解除、一気に加速するという方法。

滑走路が雨や雪で濡れているときなどは、滑走距離が短く済むこの方法で出ることが多くあります。到着機の離脱を待って離陸する場合も、待ち時間が生じるので自然と「スタンディングテイクオフ」になります。

「ローリングテイクオフ」は、誘導路から滑走路に入ると、停止せずにそのまま機首を滑走方向に向け、加速して滑走に入るという方法です。一時停止を行なわないので、離陸にかかる時間は少なくて済みます。

羽田空港を飛び立つ飛行機
写真=iStock.com/Yobab
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yobab

■羽田の定時運航率はトップクラス、一方成田は…

飛行機の発着が、あらかじめ決められた発着枠(スロット)通りに進行していけば、すべての便が遅延なく、定時に離着陸できるはずです。しかし、実際は遅延がしばしば起きることは誰もが経験している通り。飛行機が遅れる理由の代表格は悪天候ですが、実際には、天候以外の理由で遅延することも頻繁にあります。

飛行機が予定した時刻通りに発着する度合いを「定時運航率」といいます。出発予定時刻の15分以内に出発した実績から測られますが、羽田は世界でもトップクラスの定時運航率を誇ります。一方、成田や那覇は定時運航率が低いことで知られています。

出発遅延の理由や性質によってデータの取り方も異なるようですが、成田の定時運航率が低い理由の1つは、過密スケジュールです。

タワーマン『航空管制 知られざる最前線』(KAWADE夢新書)
タワーマン『航空管制 知られざる最前線』(KAWADE夢新書)

もちろん、羽田も過密といえますが、発着枠でいえば、羽田は滑走路4本で1時間90機、成田は滑走路2本で最大72機。いかにタイトであるかがわかるでしょう。そのゆえに、到着便が少しでも遅れると全体のやりくりに影響して、遅延が起こりがちになるのです。また、発着枠はあくまで理論値での計算なので、運航実態と合っていないのかもしれません。

もっとも、発着枠はすべての時間帯でギリギリまで埋まっているわけではなく、成田のピークは10時台と18時台。この時間帯の遅延を最小限に食い止め、その後の比較的空(す)いた時間帯で遅延の連鎖を解消することで、何とかやりくりしているという現実もあります。一方、羽田はそんな回復を行なう隙間もないほど、全時間帯に便が埋まっているのです。

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タワーマン(タワーマン)
元航空管制官、航空専門家
管制官時代は成田国際空港で業務に従事する。退職後、航空系ブロガー兼航空管制ゲームの実況YouTuberに。飛行機の知識ゼロから管制塔で奮闘して得た経験をもとに、現在は専門家として「空の世界」をわかりやすく発信している。テレビ出演や交通系ニュースサイトへの寄稿も精力的に行なう。

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(元航空管制官、航空専門家 タワーマン)

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